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竜が見た夢  作者: 無名の記録者
第2章 小さな希望
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第5話 決意の旅立ち

 翌朝。街はまだ薄い霧に包まれていた。

 石畳はしめり気を帯び、吐く息すら白く濁って見える。


 昨日の戦いで一時は晴れた空気も、ゆっくり、しかし確実に。

 再び瘴気に侵されつつあるのだろう。


 アレンたちは荷を整え、フィオナの食堂を訪れた。

 旅の道中で口にする食べ物を分けてもらうつもりだったが、そこで思いがけない言葉が投げかけられる。


「……私も、一緒に行っていいですか?」


 フィオナの声はかすかに震えていた。

 それでも瞳はまっすぐで、曇りはない。


 一瞬、言葉を失ったのはアレンだけではなかった。

 ジークが「えっ」と目を丸くし、ダリオスでさえ眉をわずかに動かした。


 両親も当然、驚きを隠せない。

 母親は慌てて娘の肩に手を置き、父親は深い皺を刻んだ顔を伏せる。

 それでも強く否定はしなかった。

 むしろ、娘の決意を受け止めようとするように、二人は静かに荷を用意し始めた。


「これくらいしか……」


 母親が布袋をいくつも抱えてきた。

 包みをほどくと、中からは干し肉、黒パン、保存のきく果実。

 それに薬草の束まで出てくる。


 申し訳なさそうに言うが、その量は「これくらい」では済まない。

 小柄なフィオナが一人で背負えば、すぐに歩けなくなるほどだった。


「……さすがに多すぎるだろ」


 アレンは一度ため息をつき、結局は袋を受け取って自分の鞄に詰め込んだ。


 ジークも苦笑混じりに肩をすくめ、同じように手を貸す。


 ダリオスは何も言わず、荷を一つずつ確かめてから自分の背袋に振り分けた。

 その無言の仕草には、妙な重みがあった。


 その中に、一本の杖があった。

 木目が磨かれ、握りやすいように細工されたそれは、明らかに誰かが時間をかけて用意したものだった。


「……お父さんが、いつか必要になるだろうって」


 フィオナの母親がそう言ったとき、父親は厨房の奥を向いたまま振り返らなかった。


「お前が信じる道なら、行け」


 ぶっきらぼうに言い捨てる声。

 その背中に、アレンは言葉にできない重さを感じた。


「必ず、帰ってきてね」


 母親はフィオナを強く抱きしめた。

 フィオナも小さく頷き、「必ず、いつもみたいに……ただいまって言うから」と囁く。


 その声が揺れていたのか、それとも自分の胸が揺れたのか、アレンには判別がつかなかった。


 *


 街の門へ向かう道。

 まだ朝の光は霧を完全に払えず、景色は白くぼやけている。


 途中、通りすがりの行商人が立ち話していた。


「最近、“救済の環”とかいう連中を見かけたぞ。竜を拝んでるって話だ」


 ジークが鼻で笑う。


「……物好きもいるもんだな」


 ダリオスは何も言わなかった。

 ただ、その横顔は霧の白さに溶けて表情が読めない。


 言葉が耳に残る。竜を信仰する――不穏な響きだけが尾を引いた。


 やがて門にたどり着くと、昨日の門番ともう一人、昨日とは別の門番が立っていた。

 フィオナは他の街へ行くこともそれなりにあるようで、門番たちと知り合いらしい。


 彼らは無言で手を振る。

 送り出すでもなく、引き止めるでもなく、ただ見守るように。


 フィオナも手を振り返し、門に背を向けて一歩を踏み出した。

 その足は、二度と振り返ることなく進んでいった。


 アレンはふと横を見る。

 銀の髪が朝日に照らされ、淡く光を帯びて揺れていた。


(……この力があれば、きっと)


 胸の奥に、初めて未来を想像する感覚が芽生える。

 それは脆く、小さな光にすぎない。

 だが、確かにそこにあった。


 四人の影が、霧の向こうへと伸びていった。

~入れそびれたフィオナの服装~

深緑の旅人用マントの下には、白を基調にした清楚な旅人服。

一見ワンピースのようにまとまって見えるが、実際は動きやすいズボンを合わせている。

首元・袖口・裾には、差し色のように鮮やかな赤のラインが走り、静かな装いにささやかな強さを添えている。

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