喜多川瑠璃×再教育×再指導
出勤してホワイトボードの自分の名前の横のメモ欄とポジションをチラッと確認する。
日勤(搬)かぁ、平穏な日でありますようにと心の中で祈っておく。
「瑠璃先輩が日勤搬送の日って、病棟平和ですよね」
「そうでしょ。平和の女神様と崇めても良いよ」
「申し送り始まりますよ」
「陽菜ちゃん、もう少しノリが良くても良くないかなぁ。そんな冷めた子に育てた覚えないよ」
「…………」
「うわっ、陽菜ちゃんスルーしたね。陽菜ちゃんの分の差し入れ食べちゃうからぁ」
「…………」
ちょっと陽菜ちゃん、スキル上げたわね!仕方ないさとるんで遊ぼう。申し送り始まっちゃう。やばいやばい。
夜勤帯からの申し送りも無事終わり、夜勤のナースが帰っていく。 さぁ、今日も1日頑張りますか。
「瑠璃先輩、おしっこパック貼りました」
なんか、悟がおしっこパック貼ってるみたいに聞こえない!?
「悟、その伝言落第だよ。正しく相手に伝わらない」
「ひぇ〜、瑠璃先輩が怖い事言いますぅ」
「伝え方が、間違ってるよ笹井君」
「前田先輩、どの辺りでしょう。ボク、瑠璃先輩に舞子ちゃんのおしっこ検査の依頼書届いたから、舞子ちゃんにおしっこパック貼ったの伝えただけですよ」
「色々と端折り過ぎてるよね」
「えぇ〜、マジですか!前田先輩!」
前田君、フォローありがとう。でも、わかってなさそうだよ悟。こうなったら、丸一日かけて徹底的に指導してあげよう。
しばらくして、陽菜ちゃんの声が聞こえてきた。
「舞子ちゃんのおしっこパック貼ったの誰ですか?」
悟が、自信満々に言ってたよね?
「陽菜ちゃん、悟が貼りましたって言ってたけど、どうかした?」
「おしっこパックがズレてておしっこ採取できてません」
「ありがとう。教えてくれて。やり直すわ」
「貼っておきましょうか?」
「悟に再指導するわ!」
「了解です。お願いします」
さぁ、悟さんは何処にいらっしゃるかしら。居た!何してるの?オムツ補充?ん?いや、違うなぁ。
「悟、何してるの?」
「あっ、瑠璃先輩。オムツ詰め放題ですよ」
はっ? 詰め放題ってなに? そんな私の様子を見て悟は更に言葉を続けた。
「えぇ〜瑠璃先輩詰め放題知らないんですか?」
いやいや、詰め放題は知ってるよ。何故ここで詰め放題というワードが出るのかって聞いてるんだけどね。
「病棟で、詰め放題って単語が出るのが不思議なんですけど悟さん。説明をお願いします」
「詰め放題というのは、一定金額を支払ったら、規定のビニール袋にどれだけ入れても良いんですよ。それはもう、パンパンになるまでどんどん詰めまくるんですよ。はじめにビニール袋を引っ張って伸ばしておくのも大事ですよ」
聞いてはいないことを、軽快に話している悟。
「悟、オムツ詰め放題って何してるの?遊んでるんじゃないの?」
「嫌だなぁ。瑠璃先輩。オムツ足らなくなったら大変でしょ。だからボクがあらかじめカゴにパンパンに詰め放題してるんですよ」
わかるような、わからないような悟の言葉にオムツを取りに来た田上さんが、カゴからオムツひとつを取り出したら
「うわっ、誰!こんなに詰めたの。詰め過ぎ」
パンパンに詰められていたオムツは、ひとつ摘み持ち上げたら、勢いで詰め放題させていたオムツが一気に散らばった。
「ああ、田上先輩散らかしたらダメですよ。ボクが直しておきますね」
「ありがとう?」
そりゃそうだ。あんなにパンパンに詰めてあったら誰が取り出してもそうなるわな。めんどくさっ。
思い出した! 舞子ちゃんのおしっこパック!
「悟さ〜ん」
「なんでしょう」
この後、延々と悟に再指導と再教育を徹底的に実施した。悟の指導看護師を担当した陽菜ちゃんが、
「指導不足で申し訳ありません。よろしくお願いします。……頑張ってくださいね」
ん? この間の後の頑張ってね。いやいや、何か意味があるの!? 陽菜ちゃんが、付け足した言葉の意味は、その日の終わりに嫌と言うほど味わった。
陽菜、よく一年頑張ったね!と心の中で労っておく。




