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贖罪  作者: 北村 達也
99/320

贖罪99

「君にはこれから祈りの崖へ行ってもらう。祈りの崖は天国であって天国ではない場所。そこでは天使たちや天国の住人が祈りを捧げているけれど、言ったように君の祈りの崖に天国の住人は存在しない。存在が見えるのは天使だけだ。さあ、僕の手を取って。」


 大天使の伸ばした手を彼女が取ると、二人は一瞬にして違うところへ移動して、そこには美しい空が見渡す限りに広がっていた。


 空が白み始めていて、遠くに目をやると太陽が少し顔を出しているのが見えた。


 足元に目をやると雲の上に立っていることに気が付いた。


 いつも見上げていた雲に乗っているのは不思議な感じで、足が抜けて下に落ちないかと不安だった。


「大丈夫だよ。生者には乗ることは出来ないけど、君なら落ちることはないよ。勿論僕もね。」


 フォスの不安を感じ取ったように大天使は言うと、ピョンとジャンプしてみせた。


「ほらね、大丈夫だろ。」


 彼女は驚いた様子で大天使を見つめた。


「どうかした?」


「いえ、あの、大天使様がジャンプするなんて思ってもみなかったので。」

 

 笑ってはいけないと思いつつも、どうにも止められずクスクス笑った。


 意地の悪さから出た笑いではなく、あまりにも可愛らしく笑うものだから、引き込まれた大天使も一緒に笑った。


 本来なら大天使を目の前にして笑うことは不適切かもしれない。 


 しかし、笑いたいと思ったら笑い、泣きたいと思ったら泣く、フォスはそういう女性だった。


 大人になることが空気を読むということであれば、思いのままに行動するフォスは子供だった。


 こうしてはいけない、ああしてはいけないという、見えない鎖にがんじがらめになった邪気にまみれた大人と違って、天真爛漫な子供には素晴らしい無邪気さがある。

 

 そしてフォスにもそんな無邪気さがあり、大天使はそれを愛した。 


「さて、今の君は生者でも死者でもない存在になっていて、人間のように眠る必要が出てくる。あそこにテントを用意しておいたから、そこで休むといい。」


 大天使が指を差すと、何も無かったところに白いテントがポツンと一つ現れた。


「これは君に与えられた試練ではないから、君の好きなように過ごすといい。囚われの思いがあるために天国に入れないだけなんだ。祈ってもいいし、休んでもいい。崖から下を見下ろすと地上が見下ろせる。そして普通なら見たいと思わない地獄でさえ見下ろせる。地上の様子が見下ろせるから、人々の様子を見てもいい。天使たちは困っている人たちのためにここによく来ては祈りを捧げているから、君もそうやってもいい。あ、そうそう、祈りの崖は幅が狭くなっていて、通る時に落ちるかもと怖い思いをするかもしれないけど、落ちないよ。というか雲の外には行けないようになってるから心配しなくていいよ。」


「はい、色々とありがとうございます。」


「うん。それじゃあ僕はこれで行くからね。さようなら、フォス。」


「さようなら、大天使様。」

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