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贖罪  作者: 北村 達也
100/320

贖罪100

 大天使がいなくなると、彼女は改めて美しい空を見渡した。


「ああ、ストローフィー。あなたはこの美しい空の下にいないのね。かわいそうなストローフィー。私のために苦しんでいると思うと胸が苦しい。」


 俯いた彼女の目からはまた涙が零れ落ちたが、直ぐに彼女は顔を上げて涙を腕で拭った。


「彼が地獄で苦しんでいるっていうのに、泣いてばっかりいられないわ。もっと強くならないと。」


 天使たちが飛び立って行ったり、降り立ったりするのを見ながら彼女は祈りの崖へ向かった。


 崖は雲から5メートルほど突き出して、横幅が大人一人分くらいあった。


 落ちてしまうのではないかという怖い思いをしたが、雲の上から手を伸ばそうとすると何か見えない壁があるようで、手は何かに当たった。


 今度ははゆっくりと足も出してみたが、やはり何かにぶつかる。


 大天使の言う通り、これなら確かに落ちることはないことが分かって彼女は安心した。


 崖は2メートルほどの間隔で連なっていて、あちこちで天使たちが祈りを捧げていた。


 彼女がいるこの崖も、もしかしたらこの瞬間にも天国の住人が祈りを捧げているのかもしれないが、彼女には見えず、向こうからも見えることはなかった。


 フォスは崖から下を見下ろした。


 地上よりもさらに下の地獄を見るとストローフィーがいるのが見えて、丸太を運んでいるようだった。


 疲れているのか、重すぎて運べないのか、彼が丸太を落としてしまうと近寄って来た鬼が彼を鞭で打った。


 彼女は眩暈がして、ふらついた。


 もし雲の外にある見えない壁がなければ落ちてしまっていたかもしれない。


「大丈夫?」


 隣の崖を見ると、そこには祈りを捧げている女の天使がいた。


 天使には、天国生まれと地上生まれの2つがあるが、この天使は生まれつきの天使ではなかった。


 生前に広い愛を示していた人間は、天国からの提案に対して、希望すれば厳しい試練を乗り越えることで天使になることが出来る。


 囚われの思いである魂の尻尾があると、そのことに心が囚われるので、みんな尻尾は取れている。


 もっとも、囚われなくなっても生きていた時に愛していた人は変わらず愛し続けるので、彼らや、地上で苦しんでいる人たちのために祈りを捧げている。


 そしてフォスの隣にいるこの天使は、天国生まれでも地上生まれでもどちらでもない、極めて特殊な例の天使であった。


「ええ。大丈夫です。ちょっとクラクラしてしまって。」


「辛いものを見たのね…。フォス。」


 目を閉じて祈りを捧げたまま、天使は話した。


「私のことをご存じなんですか?」


「ええ…。息子があなたたちにしてしまったこと、本当にごめんなさい。」


「わたしたち?息子?あなたは一体?」


 天使は祈りを捧げるのを止めて、膝をついた状態から体を起こして顔をフォスの方に向けた。


 彼女の目からは大粒の涙が流れていた。


「私はジェルアン。ストローフィーを地獄に送り込んだマリスの母、ジェルアン。」


「マリス…?」


 悪魔は死ねば魂は残らず無となるが、彼女の生前の活動などが評価されて、神が特別に魂をそのままにして天国に連れて行き、天使になりたいと願った彼女は、天使となり天国にいた。

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