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贖罪  作者: 北村 達也
96/320

贖罪96

「1つ目のプレゼントで喜ぶけど、中身を見て落胆する。

2つ目でまた喜ぶけど、中身を見てまた落胆する。例えるなら、こんなところかな。

崖にしがみついている人間を引き揚げておいて、海に突き落とす。

もうダメかと思ったところに船を出して引き上げる。あいつらは思う「助かった!』とね。

乗ったら船には穴が開いていて、僕はオサラバして人間だけ船もろとも沈んでいく。

その時の人間の顔に浮かぶ絶望の顔といったら! 1つ目を超える表情をするんだけど、

これはもう再現不能だ。その顔はね、絶望と面白さが合体したような何ともヘンテコな顔になる! 

あまりにも絶望を感じると人間はおかしくなってしまうんだろう。

絶望しながら笑ったような表情をするんだ。なんにせよ、その顔を見ると全身に震えが走るんだ!

あれをぜひ君にも体験してもらいたいし、君ならできるはずだ!」


 興奮しないように意識して静かに話そうとしたのに、どうしても興奮を抑えられないようだった。


「ええ、必ずやってみます。でもエビールさん。僕は自己犠牲のカードを人間に切らせてみたいです。」


「あれを狙う?不可能に近いよ?」


「やってみたいです。地獄労働を選んだにも関わらず、それが報われなかったら人間は絶望のどん底に行くことでしょう。それを見てみたいです。そのためなら、あいつらの靴にキスでもしてやります。」


「うん。夢は大きくなくちゃ駄目だ。やってみなよ。マリス君。応援してるよ。」


 それから200年の時が経ち、話は現在に戻る。


 マリスは客間から移動して、眼下に炎が燃え盛る大きな穴を見下ろしていた。


 物凄い熱のため何の魔法もかかっていない人間が近づけば一瞬にして溶けてしまう。


 彼はここから見下ろす景色が好きで、良い時も悪い時もここによく来ていた。


 消えることのない地獄の炎。彼の心の炎もそうだった。


 眼下の炎とマリスの中の炎は惹かれあった。


 ストローフィーとフォスが夕日を沈むのがよく見える場所を好んでいたように、悪魔にもお気に入りの場所というものはあるものだ。


 彼はポケットからタバコをおもむろに取り出した。


 上手く行かない頃はいつも吸っていたが、長いこと吸っていなかった。


 もちろん、肺がんを心配してのことじゃない。


 そんなのは悪魔には無縁の話だ。


 人間の体に毒になるものは、大抵は悪魔にとって良いものだ。


 エビールにアドバイスをもらいに行き、プレゼントの話を聞いて、自分もエビールのような感覚を絶対味わって見せると誓い、それが達成されるまではタバコを吸わないでいた。


 しかし、いつ達成されてもいいようにポケットにはいつも入れていた。


 200年の間にはタバコは数えきれないほど駄目になったので、同じ数だけ交換してきた。


 行き詰ったときには、ポケットに手を入れてタバコの箱に手が当たる度に目標を再確認することができた。


 再契約のプレゼントはしたことがあり、素晴らしい体験だった。


 しかし、自分でもどうしてか分からないが、真実の愛である自己犠牲を見たいという強い思いが常にあった。


 それまではタバコはお預けにしていた。


 そして、今日やっと念願が叶って、ストローフィーの精神を奈落の底へ突き落すことに成功した。


 エビールに相談した日から200年という節目に、何という人間に巡り合えたのだろうとしみじみ思った。


 使い魔がストローフィーを連れ去っていくときの声はまるで断末魔の叫びのようであった。


 それを思い出すと全身が震えだして、タバコに火をつけようとするが、手が震えてなかなか点かない。


「興奮冷めやらぬ、ってところか?」


 やっとのことで火を点けてタバコを吸っていると、得も言われぬ虚無感に襲われた。


「なんでだ?なんで達成感じゃなくて、虚無感なんだ?それに何で…。」


 マリスの目からは涙が零れ落ちていた。


「何でまた、俺は泣いてるんだ…?」

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