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贖罪  作者: 北村 達也
94/320

贖罪94

「本当なら人間たちを殺してやりたいところですが、

訳なくそうすれば能力を奪われて追放されるか抹殺されるので、

母と恋人を殺した人間という生き物を不幸にしてやろうと誓いました。

間違えないでいただきたいのですが、これは愛とは関係のない復讐です。

愛は僕の中で既に死に絶えています。これは、人間の分際で悪魔から奪った人間に対する復讐です。

奪うのは悪魔であって、人間ではない。そうでしょう、エビールさん?」


「その通りだ、マリス君。」


「僕のそんな過去を知っても、人間を憎むなって言うんですか?」


「いや、とんでもないよ。君が人間を憎む理由は最もだ。素晴らしいことだし、大いに憎みたまえ。

君のように人間を憎む悪魔はこの時代貴重だよ。なるほど、確かに悪魔は人間を憎んで生まれてくるけど、

君はその憎しみに理由が伴ってる点が特殊だ。君の憎しみの炎は消せといっても消せるものではないだろう。

しかしね、憎しみが表に出ているようでは今後も契約には結びつかないだろう。

人間は悪魔と契約することに及び腰だ。警戒してる。できるだけその警戒を解かなきゃきけない。

だから憎しみの炎は心の奥深くにしまっておくんだ。相手が乗ってきたところを君の炎で焼き尽くせばいい。」


「じゃあ、あいつらが偉そうな態度を取ってくるのに、ペコペコしろと言うんですか?」


「そうさ。」


「そんなこと言っても……。」


 マリスは明らかに気乗りしなかった。


「プライドが邪魔をする、かね?」


「ええ、癪にさわりますね。バカにペコペコするのは。」


「プライドを捨て去ったところに、飛躍があるんだよ。」


 言った後で、我ながら良いことを言うなとエビールは思いながら紅茶を飲んだ。


「プライドを捨て去ったところに、飛躍がある…。」


 マリスも気に入ったよう自ら口に出して言ってみた。


「そうだ。君は今日、僕のところに来るのさえプライドが邪魔をしたんじゃないかね?」


 観察するようにマリスの目をのぞき込んだ。


「その通りです。」


「でも君は来た。プライドをいくらか捨て去ってね。それだけで君はもう飛躍しているんだ。

さらに飛躍をするかは、さらにプライドを捨て去れるかだよ。」


 これは自分の名言に出来るのではないかと思うぐらいエビールはこの言葉が気に入ったので、

忘れないように報告書の裏面にメモをしておいた。


「分かりました。やってみます。」


「うん。それでいい。素直だね。素直さは成長に欠かせない。人間の言葉で臥薪嘗胆というのがある。

復讐を成功させるために苦労に耐えるということだ。人間を不幸にするという目的を達するために、

辛いだろうがバカな人間にペコペコしておくんだ。バカとやりあえば、君は相手以上のバカになるぞ。

バカとやりあうな。バカには夢を見せておけ。

人間にとって好都合な契約を提示することを心掛けなくちゃいけない。

素敵なプレゼントのように思わせて、中を見たらびっくり。

この喜びと落胆の差をいかに大きくするかが我々悪魔の腕の見せ所というわけだ。

君ならうまくやると思っている。」


 マリスの肩をポンポンと叩いて言った。


「ありがとうございます。大学では『絶望論』をゼミで学んでいたので、自信があります。」


 ニヤリとして言った。

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