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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪9

 フォスは資産家の家で何不自由なく育った。


 だが大きな家に住んで、宝石や豪華な家具に囲まれて、綺麗なドレスを何十着持っていようと、彼女は幸せではなかった。


 それでも母であるピオニーがいた頃は幸せだったが、その母は彼女が8歳の時に他界してしまい、それ以来、父ジョセフが男手ひとつで彼女を育てた。


 彼は貧しい出から必死に働いて一代で財産を築き上げた人物で、日夜働き詰めで彼女と過ごす時間はほとんどなく、ピオニーが亡くなった日も彼は働いていた。


 ピオニーは体が生まれつき弱く、子供を産むのは止めたほうがいいと医者に言われていたが、ジョセフが仕事ばかりで家にいることがほとんどなく寂しい思いをしていたため、子供が欲しかった。


 そして彼女は子供を産み、産声を聞いて涙を流した。


 他の人が聞いたら赤ん坊が泣いている声にしか聞こえなくても、彼女にはこの上なく美しい音楽のように聞こえた。


 彼女は子供を地上に送り出す単なる媒体にすぎず、生まれた子は天からの贈り物に違いないと思い、ピオニーにとっての光だけでなく、皆にとっての光であって欲しいと願いギリシャ語で「光」という意味のフォスという名前をつけた。


 母の愛情を全身に受けたフォスは快活な元気な子供に育ち、彼女がいるだけで皆が元気になれた。


 元から病弱だったピオニーは出産をしたことで更に体が弱くなり病気しがちになり、あまり外出することがなくなったが、体調のいい時には馬車で出かけて娘をお花畑へ連れて行くことがよくあった。


 成長するにつれて母の体の弱さを知ったフォスは母を気遣って自分からは一緒に出かけたいとは決して言わなかった。


 だから母が元気な時にできる外出が彼女は大好きで、花が好きであった母の影響を受けて彼女も花が好きになった。


 ジョセフは時間を見つけては彼女の部屋に来てくれたが、体調の話を少しするとすぐにいなくなってしまった。


 町一番の医者に彼女のことを頼んでいたから、医者でない彼にできることは無いと思っていたのだ。


 彼女に必要なのは優秀な医者ではなく、彼からの愛だということが彼には分からなかった。


 医者は時々来ては彼女の胸に冷たい聴診器を当てたが、医者が彼女の心に触れることはできなかった。


 もし彼が内に秘めた愛を外に現わして彼女にそれを見せることができたなら、彼女の心は一瞬にして暖かくなっただろう。


 彼が部屋を出ると彼女はいつも溜息をついた。昔の彼は思いやりのある優しい人だった。


 彼女を不幸にするまいと思って彼が仕事に打ち込めば打ち込むほど、二人で過ごす時間はなくなっていき、彼女はどんどん不幸になっていくという皮肉な結果になってしまった。


 しかしそれが彼女にとって不幸なことであっても、家族を幸せにしようと身を粉にして働いていた彼を責めることはできなかった。

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