贖罪71
「実はですね。」
ストローフィーが振り返るとマリスがいた。
マリスは最初から彼の後ろにいたのではなく歩いてきたのだが、目の前のことに夢中でそのことに全く気が付かなかった。
このとき初めてあたりを見回すと、彼らがいたのは20メートル四の部屋方で、地面は灰色の砂で埋め尽くされていた。
「最近掃除をしていないもので、部屋が汚れていて申し訳ありません。」
ストローフィーが見ていた方を見てマリスが言い、話を続けた。
「丸いものというのは、地上に残りたいと思う気持ちです。
天国へ行く前に魂はそれを切られることで地上に未練が残らないんです。
狭間の世界というところがあるんですが、そこで保管してありまして、
それをこの使い魔が持ち出しまして、奥様のものを奥様にお戻しした次第です。
次に、天国にいる人を地獄へ移すときには、魂を連れてくるわけにいきませんから、
天国にいた時の状態で連れてきます。
天国では姿が自在に変えられるので、奥様がその時にしている姿のままお連れしてきます。
大人なら大人のまま、子供なら子供のまま。
で、お連れしてくる時に、奥様が仰ったように肉体が剥がれてしまって、そのような姿になるんです。
神の目を盗んでやるわけですからね。
普通にお連れしてきたら見つかってしまいますから、そうならない様に少々手荒い方法を取らざるを得ません。」
「なんでそんな重要なことを言わなかった?それに、これのどこが少々手荒いだ。
骸骨になってしまっているじゃないか。」
「聞かれなかったものですから。それにそのことは契約書にちゃんと書いてありますよ。
ほら、契約書の6ページの66条1項に。それと同意書の注意書き欄にもちゃんと。」
マリスはそのことが書かれている箇所をそれぞれ指差した。
ストローフィーがそこを見てみると、確かにその旨が書かれていた。
「お前はさっき、大したことは書いてないと言っていたじゃないか。」
「申し上げました。が、誰にとって、とは申し上げておりません。」
「どういうことだ。」
「私は『大したことは書いてありません』と言いました。あなたにとって、とは言っておりません。」
「ふざけたことを!大体こんなに量があるのに、あんな短時間で全部目を通せる訳ないじゃないか。」
「それはあなたが急いだからでしょう?私はいくら時間を差しあげてもよかったんですよ。
同意書に関しては紙切れ1枚なのに、奥様は何も読まずに急いでサインをした。
あなたがたの落ち度を棚に上げて、責められても困ります。
それに、骸骨だからといって私は何も気になりませんよ。なかなか素敵じゃないですか。
お気に召しませんか?そもそも人間なんて骸骨が肉の洋服を着ているようなものじゃありませんか。
肉の洋服を着た上にさらに洋服を着るなんて人間は厚着が好きだなといつも思っていましたよ。
下の地獄には灼熱地獄もありますから薄着の方がいいと思いますよ。
骸骨は風通しが良いって評判ですよ。なんなら貴方も骸骨になりませんか?
バランスが取れていいと思いますよ。フフフ。」
馬鹿にしたようにマリスは笑った。
話し方はこれまで通り慇懃であるが、契約書にサインしてから彼の態度が変わったようにストローフィーは思った。




