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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪65

 フォスは天国で目を覚ました。


 一体自分はどこにいるのだろうと目をパチクリとさせて、夢うつつで考えていると、仮人格の記憶が呼び出されて、どうやってここにたどり着いたかを思い出した。


 彼女は身を起こした。


「ここは、天国ね。」


 天国に通じる川は見えなかった。


 続々とここに流れ着く魂も見えなかった。


 フォスにとっては全てが白い世界であり、いるのはフォスただ一人だけであった。


 フォスが目覚めてから身を起こす間も魂は天国に着いているが、フォスにはそれが見えない。


 見る気がないからだ。ここは全ての人がいて、誰もいない世界。


 全てがあって、何もない世界。


 空間も時間も意味を持たない。


 いくらでも狭くなるし、広くもなる。


 同じ場所に何人でも存在できる。


 時間が経つのを遅いとも速いとも感じない。


 もう忙しなく動き回らなくていい。


 もう悩んだり苦しんだりしなくていい。


 生命の死は新たな生命の始まり。


 古い命を捨てて新たな命を得る。


 地上での死亡日は天国での誕生日となる。


 そう、この日はフォスの誕生日だ。


 地上で生きていたときに行く、現実離れしたことが起こる夢の世界。


 天国とはまるでそんな夢の世界。


 何もない世界に何でも作るのは自分の想像次第。


 見たい風景を描けばそこに現れる。


 川が見たいと思えば川が現れる。


 森が見たいと思えば森が現れる。


 そうやって自分の天国を作っていく。


 鳥の囀る声がフォスの耳には聞こえてきた。


 森や山や川が見える。


 雲に乗ってお散歩にだって行ける。


 自分が死ぬ以前の姿ならいくらでも姿を変えられる。


 子供の姿になって野原を駆け回ることだってできる。


 山を登るヤギの集団を見つけて、彼らが飛び跳ねるとそれを見て楽しくなって自分も飛び跳ねるかもしれない。


 大人になると自分を抑制するようになる。


 大人になると言ってはいけないこと、してはいけないことを、社会から教え込まれて、小さな大人が完成する。


 でもここでは自由にしていい。


 大人の姿のままはしゃぐのが今は抵抗があるなら、子供の姿に戻っていくらでも馬鹿げたことをしたっていい。


 もう目を細めて見る人なんかここにはいない。


 思う存分楽しめばいい。


 ライオンに会ってみたければ会ってみるといい。


 心配しなくても彼らはもう飢えていないから、食べられる心配はない。


 仲良くなってみるとライオンのお腹に頭を乗せて眠ることだってできるかもしれない。


 地球から出て宇宙を泳いでみるのもいいかもしれない。


 星を何個集めることができるか誰かと競争してみるのも楽しいだろう。


 それに疲れたらどこか座り心地のいい星を見つけて、宇宙を見ながらお茶やお菓子を食べるのも一興だ。


 それが終わったら太陽へ行ってみよう。


 太陽は熱いから溶けるなんて心配しなくていい。


 確かに熱いけれど、溶かすほどではない。


 熱いようなら太陽の熱を下げてしまえばいい。


 そのままの温度を楽しみたいなら太陽に行ってたくさん汗をかいた後は隕石のように地球に落ちて行って、そのまま海に入って汗を流すといい。


 浮いているのは大変なら浮く体にしてしまえばいいし、そうでなければクジラの背中に乗ってゆっくり休んでみてはどうか。


 クジラの背中に乗っているのは誰だろうと海の生物たちが物珍しそうに集まってくるかもしれない。


 その中にはサメもいるけれど、ライオンと同じだ、食い殺しにきたわけではない。


 いい機会だから屈強な顎がどういう仕組みになっているか近くでよく見せてもらうといい。


 今度は陸地に行ってみよう。


 思い切り体を大きくして前を見れば自分の背中が見えることだろう。


 本当に自分だろうかと疑うのなら手を振ってみればいい。


 背中しか見えないその人も同じように手を振って答えてくれて、それでその人が自分だということが分かる。


 それが終わったらさて、どうしよう?


 もう帰らなくてはいけない、そう思って時計を見る必要なんてない。


 時間はもう無くなったのだから。

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