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贖罪  作者: 北村 達也
50/320

贖罪50

「パパ…?」


「誰だお前は?そこで何してる?」


 フォスの後ろには誰もいなかったが、ジョセフは明らかにフォスの後ろを見ていた。


 フォスは心配になって医者を見た。


「一時的な精神の錯乱かもしれません。」

そうは言ったものの、医者も困惑した表情を浮かべた。


 ジョセフは死ぬ間際とは思えない勢いで起き上がり、ヨロヨロと歩いてフォスの後ろへ回った。


「消え失せろ!娘から離れろ!」


 そう言うとジョセフは力尽きた。体は前のめりになり倒れた。


 医者はすぐに彼を元の体勢に戻して、彼の死亡を確認した。


 その顔には恐怖が刻み込まれていた。常軌を逸した最後に一同は静まり返った。


 あまりの出来事に彼女は悲しむことを忘れ、ただ茫然としていた。


「相当…精神が…錯乱されていたようです。」


 医者は先ほど同じようなことを言ったが、自信のなさがありありと感じられた。


 それもそのはずで、彼はこんな最後を目撃したのは初めてだった。


『本当に精神の錯乱なの?パパには、パパ以外には見えない何かが見えていた?』

フォスは思った。


 壮絶な死に方をした父ジョセフの葬儀は簡素に執り行われた。


 ラルフ以外の使用人や召使も最後の別れに集まってくれた。


 葬儀が終わり、ふと遠くに目をやると木にもたれて腕組みをして立っているピーターがいるのにフォスは気づいた。


 見つかってしまったのが彼は、いくらかばつが悪そうだった。


 フォスは彼の所まで行き、挨拶をした。


「色々とお世話になりました。」


「旦那さんのところに戻るのかい?」


「ええ、もう、両親はいませんから。」


「そうだな…。」


 しばしの沈黙が流れたあと、ピーターが話し出した。


「あいつとは親友だった。」


「父とですか?」


「ああ。あいつはあの町から出たくて仕方なかったんだ。ネズミに生まれたことを忘れて人間世界に紛れ込もうとしたんだ。」


「ネズミ?」


「何でもない。俺らの町って入り組んでるだろう?」


「ええ、まるで迷路のよう。」


「あいつは結局あそこから出られず仕舞いだった。

出たと思って楽しんでたようだが、結局行きついた先は俺らの町だった。

あいつは一生を迷路で過ごした可哀想な奴だったが…。」


「でも?」


「最後にあんたに救われたようだな。

最後は物凄い顔だったが、あいつと顔を突き合わせた時の、あいつの顔は凄く穏やかな顔をしてたよ。

あれはあいつがピオニーと貧乏ながらも幸せに暮らしていたときの顔だ。」


「そうですか…。父は最後…最後の方には幸せだったんですね、きっと。」


 最後、といえば恐怖に引きつった顔が頭に浮かぶため、言い方を改めた。


「ああ、それじゃあ俺は行く。もう会うことはないだろう。元気でな。」


「はい、ありがとうございました。」


 ピーターが迷路へ戻って行くのを彼が見えなくなるまで見送った後、

彼女はラルフが持ってくれていた荷物を受け取ってから皆に別れを告げて、

ストローフィーが待つ彼女の唯一の家へと帰って行った。

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