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贖罪  作者: 北村 達也
30/320

贖罪30

 フォスに出会い彼女を好きになってからというもの、ストローフィーは毎日をウキウキして過ごしていて、

人間関係も以前より楽に思えたし、世界がキラキラと輝いているようで不思議だった。


 だが輝いているのは彼の方だった。世界は心の投影に過ぎない。


 彼が輝いているからこそ、世界が輝いているのであり、ベクトルは内から外であって、その逆ではない。


 つまらない世界だと思っている人には、今日もつまらない世界が待っている。


 彼と町で会う人や仕事の客も彼の変化に気づいていた。


 彼から話しかけてくるようになったし、仕事以外の話題も話してくるようになった。


 動植物や物にだけしか関心を示してこなかったあの変わり者がと驚きをもって迎えられたが、

良い変化を遂げた人を悪く思う者はいなかった。


 フォスに傘を貸した翌日、彼は仕事をしていた。


 相変わらず機嫌が良く、この日も客との会話を楽しんでいた。


 糸紬をしている中年の女性アゼリアと話していると、フォスのことが話題に上った。


「そうそう、最近入った子でね、フォスって可愛い子がいるんだけど、あなたこの前彼女と歩いてなかった?」


「ああ、歩いてました。陽が落ちて暗かったので山からの帰りを一人じゃ危ないと思ったので。」


「やっぱりあなた達だったのね。見たときはビックリしたわ。あれ、あの子があんな人と、おや、ごめんよ。」

思わず言いすぎてしまったことを彼女は悪く思った。


「だってさ、そうじゃない。最近のあなたは明るくなったけど、前は、ねえ。」


『変わり者だったじゃない?』というのが彼女の言いたいことで、

彼女はそう言わなかったが、彼にはしっかりと伝わった。


「ええ、そうですね。それで彼女がどうかしましたか?」


「あなた達って、まさか付き合ってないわよね?」


「いや、まさか!とんでもない!友達です!」

恋人でないことは確かだったが、勝手に友達と言っていいのかも分からなかった。


「そうよね。」

まさかとは思ったが万が一ということもあると彼女は思って聞いてみたが、やはり予想通りで面白くなかった。


「それで、彼女がどうかしましたか?」

先ほどの質問をもう一度してみた。


「あ、そうそう!なんか熱を出しちゃったみたいで、寝込んでるんですって。」


 それを聞いた彼は作業していた手を止めた。


 彼女は自分が修理を依頼していた靴を受け取った後も噂話を彼にたくさんしたが、彼は殆ど聞いていなかった。


 彼は気が気ではなかった。


『熱を出したのはおそらく前日の雨に濡れたせいだろう。彼女は恋人はいるのだろうか?』


 もしいればその人が世話をしてくれるから安心だった。


 その点では確かにそうなのだが、もし恋人がいたらと思うと彼は悲しかった。


『誰か言って世話をしてくれる人はいるのだろうか?彼女はどの程度の状態なのだろうか?動けるのか?動けないのか?』


 彼は彼女のことが気になってその後の仕事にとても集中できなかった。


 フォスが寝込んでいると教えてくれた女性が帰ってから10分後、彼は店を閉めて一直線に彼女の家へ駆けて行った。


 彼女が住むのは町外れの家だがそんなに大きな町ではないので、走って10分ほどで着いた。


 ずっと走ってきたので息が上がっていたが、収まるまで待っているほど心に余裕がなかった。


 彼女の無事を確かめることが最優先だった。


 彼は家の扉をノックした。

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