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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪23

「子供が生まれたときは幸せにするために全力を尽くすわ。

清貧に甘んずるつもりはないもの。暮らしていくのに必要なお金はきちんと稼がなくてはいけない。

でも、足るを知らない限り終わりはないわ。小さな家に満足できなければ中くらいの家が欲しくなる。

それにも満足できなければ大きな家が欲しくなる。

同じ量の料理でも、お皿が不釣り合いに大きければこれしかないと思うし、

不釣り合いに小さければこんなにあると思う。要はお金がどれだけあるかじゃなくて、

足るを知ることが出来るかということ。」


「足るを知ったところで、馬小屋みたいな家は馬小屋みたいな家で、

まずい料理はまずい料理という事実は変わらん。オアシスで優雅に遊ぶ奴らを横目で見て、

自分は砂漠で砂遊びしてて満足か?お前は贅沢することに飽きた贅沢な考えを持ってる。

上の生活に慣れきってしまって下の生活ってどうなのかしらって興味本位なだけだ。

下の生活なんて味わうもんじゃない。

手を熱湯に入れれば熱くて直ぐに引っ込めるように、下から出たくなる。

貧乏なんて望めばいくらでも手に入るが、金持ちになれるのはほんの一握りだ。

みんなが望む黄金のチケットをお前は捨て去ろうとしてるんだ。」


「私は贅沢が好きだったことはないわ。

ママとパパと別々の部屋で暮らすこんな大きな家より、

いつでもママとパパが見えるような家で私は暮らしたかった。

歩くのが好きだから馬車で移動なんてしないし、自分の身を飾る宝石なんかより、

部屋を明るくしてくれるお花を置いておく方が好きだわ。

贅沢に溺れたことがないから、手放すことも惜しくないわ。」


「なあ、お前はちゃんと考えられてないんだ。冷静になって考えてみれば俺の言ってることが分かるだろう。また今度話そうじゃないか。」


 まるで小さな子供をあやすような調子だった。これ以上議論を続けるのは得策ではないと彼は感じていた。


 大切なのは愛なのか、お金なのか、議論は平行線だった。


 それもそのはずで、自分の頭の中で考え続けて導き出した正しさが、議論を少しばかりしたところで相手の信じる正しさに易々と塗り替えられる訳はない。


 愛が大切であるとのフォスの考えは、いくらジョセフがそれを否定しようとも変わることはない。


 いや、むしろ否定されればされるほど、ますます自説に固執することになるだろう。


 そして同じことはジョセフにも言えた。議論とはシーソーのようだ。


 一方が下がるともう一方が上がるこの遊具は、自分の信じる正しさを主張することが、相手の信じる正しさを否定することにつながる議論に似ている。


 議論というシーソーに乗って上下しても意見の一致は見込めない。


 大切なことは相手に自分の考えを押し付けず、自分の考えを持ちつつ、相手の考えも尊重するような、シーソーの板が平行になる位置を見つけることだ。


 攻撃に晒され続ければ、人間は感情的な生き物だから議論は過熱していく。


 そうなればこのシーソーは大きくなっていき上下する幅がどんどん広がっていく。


 そしてそれは遊具の枠を越えて一種のアトラクションと化して、いつどちらかがシーソーから振り落とされてケガをするような状況になってもおかしくなくなる。


 不毛で危険を孕むこの議論をこのまま続けていれば、いつか何かが起きて後戻りできなくなってしまうような感じがジョセフはした。


 そしてそれはまさに今起ころうとしていた。

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