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 「ミャリテャークさんは研究者なんですか?それとも会社経営?」

 ゼリーを食べながらメーラが聞く。

 「会社経営です。友人たちと魔方陣を使った商品を開発しています」

 「え?それじゃあ、クレイの特許は欲しいんじゃないの?」

 「ええ、喉から手が出るほど欲しいですね。ですが、私と私の会社には今、その鉛筆を一番いい形で世に出す力はありません。だから、全てを放棄して、クレイくんと話をしに来ました」

 「どういう意味ですか?」

 クレイとメーラはスプーンを動かす手を止めた。ミャリテャークさんはお茶を一口飲んだ。

 「私の会社はまだできたてなんです。友人たちとはじめて、まだ数年目です。取り扱っている商品は少ないですが、従業員はその商品の製造管理で手一杯。クレイくんの鉛筆を商品として世に出すには、安全の確認や、その他沢山のチェックをしなければなりません。私の会社にそれは無理です。資金も人手も足りない。その鉛筆は出きるだけ早く世に出すべきです。最速で仕事ができる会社に特許を譲るのが良いと思います」

 そう言って微笑む。

 「きっと、とても良い金額で買ってくれると思いますよ。どういう条件で売るかはじっくり考えてください」

 「・・・ミャリテャークさんは、本当にいらないんですか?」

 クレイはものすごく残念そうにそう言った。

 ミャリテャークさんは微笑んで首をふった。

 「ミャリテャークさんみたいな人に買って欲しかったです」

 「ありがとうございます。でも、私よりももっと優れた人がいます。彼らに任せれば、クレイくんの心配ごとも少なくなります。大企業ならば沢山の従業員を雇えますし、仕事を増やせますし、失業者の支援もできます。魔界の大企業でそれをやらない会社はありません」

 「そうなんですか!?」

 「はい、特に扱いが難しい商品の流通権を持つ会社は、大きな利益を得ます。そういう会社には社会をより良くする義務を持ちます。富を独占するような会社を魔界の住人は許容しません。クレイくんが特許権を売る時に、そこを手厚くするようにと条件をつければ、もっと良くなるでしょう」

 「!そうします!」

 

 

 ミャリテャークさんと別れて、クレイとメーラとケビンはホテルの自分達の部屋へ帰った。

 クレイとメーラ、ケビンとステアで二部屋取ってある。ステアはまだ帰ってきていないようだった。

 クレイはベッドに寝そべって、ミャリテャークさんと話したことを思い出していた。

 「ミャリテャークさんにやって欲しいな・・・」

 ぽつりと呟く。

 お風呂から出てきたメーラが、そんなクレイを見る。

 「特許権って、期限ないんでしょう?」

 「まあ、そうだな。でも、こういうものがあるってばらしちゃったしなあ・・・」

 「そっか・・・」

 メーラもベッドに腰かける。

 「・・・ミャリテャークさんもやりたいだろうな。こういう鉛筆が見つかることなんか、滅多にないだろうし・・・」

 「そうだよね・・・」

 しかし、ミャリテャークさんは、クレイに他の会社を勧めてきた。特に下請けや協力している企業に対して誠実な会社や、地域を良くしようと行動している会社、若手の教育を大切にしている会社を教えてくれた。クレイ自身もそういう会社に、鉛筆を販売して欲しい。特許権を高く売るよりも、人を大切にしてくれる方が嬉しい。

 ミャリテャークさんは、絶対にそれをやりとげてくれると信じられる人だったのに・・・

 「仕事や研究って勢いだけじゃできないんだな」

 メーラがぽつりと言った。

 「お金に人手、信用も必要だよな」

 「うん」

 「ミャリテャークさんだったら、そのうち集められそうな気がするけどな」

 「うん、絶対にできると思う」

 「でも、それだと遅いって思ってるんだな」

 「・・・うん。早ければ早いほど、怪我する人は少なくなるだろうね・・・うーん・・・」

 クレイはクッションを胸に抱き、うなりだす。

 メーラは少し迷い口を開き、しかし、なにも言えずに口を閉じた。

 「まあ、師匠とも話してみろよ」

 「うん、そうする」

 クレイはそう言ってお風呂へと向かった。

 メーラはクレイを見送り、「うーん・・・」と唸る。

 ミャリテャークさんが鉛筆の研究開発ができる可能性が一つある。クレイが特許権を放棄して、全ての会社に情報を公開することだ。

 そうすれば、鉛筆の研究開発はどの会社でもできるようになる。流通権は鉛筆がきちんと商品化した後の話しになるので、早い者順だ。しかし、それまではどの会社にも公平にチャンスができる。

 しかし、そうなるとクレイにはお金が入らなくなってしまう。

 (それは困る。俺が困る・・・)

 メーラが野球をやるためにも、クレイにはお金を手に入れて欲しい。でも、このままだとクレイはずっと悩んでいそうだ。

 そして、きっとその内、権利の放棄という選択肢にたどり着くはずだ。

 (権利を放棄する前に、情報料的なものを貰えないかな?いや、ちょっと待てよ。発見者はクレイだって事を魔界中に広めれば、新聞社が食いつくだろうし、そこでなんとか・・・)

 メーラはクレイがお風呂から出るまで唸り続けていた。



 それから色々な経過を経て、クレイは魔法道具の研究をしているとある大きな企業に、鉛筆の特許権を纏まった金額と引き換えに譲り渡す事になる。

 クレイは企業の弁護士と何度も話し合い、鉛筆で得られるお金の多くを、困っている人に使って貰えるように交渉した。

 企業は魔方陣における鉛筆の効果を研究し、安全性を確かめてから販売する事になる。それは、まだまだ先のお話。


 このホテルの会談が終わってから、パッパース村には鉛筆を買い求めるためにやって来るよそ者が頻出した。

 ホテルの会談にいた研究者に始まり、彼らから鉛筆の噂を聞いた魔法の研究者たちが、鉛筆の商品化を待てずに、クレイの地元を探り出したのだ。

 しかし、田舎でよそ者は目立つ。

 しかも、魚人や獣人は特に目立つ。

 吸血鬼も結構目立つ。

 研究者たちは一応人間の姿に変身はしているものの、上手い人もいれば下手な人もいて、最初にパッパース村にやって来た研究者は魚人の特徴をしっかりと残した人だったせいで、対応した商店のおかみさんであるジェナの母親の悲鳴が、村にとどろいた。

 そのおかげで、メイヤーとタロルの知るところとなり、村人全員にも鉛筆の秘密と、それを目当てに村にやって来る魔界の研究者の事が知れ渡ることとなった。

 そこで問題となったのが、村人以外の人に売るほど、鉛筆の在庫が無かったことだった。鉛筆は特に学校に通う子供たちのためにあるものなので、それが無くなるのはとても困る、と声があがった。ボータン鉛筆工場の在庫も、それほど余剰があるわけではない。贔屓にしてくれている顧客への供給を止めるわけにはいかないという問題もあった。なにより、魔界における鉛筆の特許権を持っているクレイの財産への侵害にもなりうるということで、魔界の人への鉛筆の販売は禁止とされた。

 しかし、魔方陣の研究者たちが諦める訳はないとわかっていたメイヤーとタロルは、一計を案じた。

 そこで、パッパース村には鉛筆カフェなるものができた。美味しいお茶とお菓子と、ボータン工場の鉛筆を試し書きできるカフェだ。

 人間に扮した魔界の住人たちが、こっそりとやって来て鉛筆を使った魔方陣を描き、感動して帰っていくお店の経営に、村の若者たちが奮闘することになるのは、また別のお話。


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