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09.『無理』

読む自己。

 やばかった。

 いや、普段から菫ちゃんや穂ちゃんに甘えてしまってやばくはあるけど。

 そ、それはともかく……お腹がぁ……痛い。

 私は個室をノックして、でもでてくれなくて崩れ落ちた。

 もう違う階に移動できるような余裕はないっ。

 どうしてこういうときに限って満員なんだろうって恨めしく思っていたらひとりがでてくれたものの、


「うるさいっ」


 明らかに私不機嫌なんですけど? といった感じだった。


「ご、ごめんなさい……ただぁお腹がぁ……」

「……早く入ればーか!」


 いい、全然いい、罵倒してくれたって譲ってくれたんだから構わない。

 数秒後、座れたことで私は落ち着けていた。

 相変わらずお腹が痛いけど漏らす心配はなくなって安心できる。

 でも今度は……臭わないかって……それでもでれなくて戦う羽目になった。

 なんとか腹痛も落ち着いて個室からでる。


「おい」

「あっ、先程はすみませんでしたっ」

「……お腹痛かったの?」

「はい……あ、あの……臭くてすみません!」


 ……仕方ない、うん、女の子からだって平等にでるんだし。

 横を見ると先程までは閉じられていた扉が全て開いていた。

 く、臭かったんだなと思ったら申し訳無さから涙がだばぁと溢れた。


「……いいからでるよ」

「は、はい」


 一応言っておくと全く知らない女の子である。

 きちんと手を洗ってからトイレをあとにすると、その子がジュースを買ってくれた。

 お礼を言って受け取り少し飲ませてもらう。

 ……多分可哀想だと思ってくれたんだ。


「あんた1組の大西杏でしょ?」

「はい」

「あの藤原菫と萩原穂と一緒にいられる女って、あんたも有名なんだよ」

「えっ?」


 確かにふたりは有名だけど……。


「あんたと関わればふたりと関われるかもしれないって噂がでているの、知らないの?」

「し、知りませんでした」


 近づきたい女の子がいっぱいいるってことだよねそれは。

 うん、なにもおかしなことじゃない、だってあのふたりは本当に魅力的だから。

 でも、わざわざ私を経由するという面倒くさい手段を踏まなくても、直接近づけばいいのでは?

 だってお友達になりたいから近づいて来た人を、あのふたりは拒んだりはしない。

 拒むような人たちだったら私は今頃、とっくに切られてしまっているだろう。


「……というわけで友達になれ」

「それはいいですけど、直接行ってくれれば大丈夫ですよ」


 なんならいまから連れて行くことだってできるわけで。

 ……明らかに私に興味ないのにお友達になってもらうのは申し訳ない。

 も、漏れなかったのは彼女のおかげだ、少しくらいはなにかを返したいと思う。


「文句ゆーな、助けてあげたでしょ?」

「そうは言ってもですね……」


 あと、ゆう、じゃなく、いう、ですよ!


「ちょっとあなた、杏を虐めているの?」

「……べ、べつにそんなことはないです」


 えっ? 確かに少し怖いときはあるけど、敬語にならなくてもいいのでは……。


「菫ちゃんっ、この子がお友達になりたい、んん~!?」

「よ、余計なこと言うなしっ! ひっ!?」

「……やっぱり虐めているのっ?」

「す、すみませんでした~!!」


 あ……結局あの子の名前を聞けないまま帰られてしまった。


「もうっ、菫ちゃんが怖い顔するからだよ! あの子は……助けてくれた子なのに」

「そういえばどこに行っていたの?」

「えっ!? あ、あはは~……トイレです」

「ん? そういえば……くんくん、……ま、まあ、大丈夫よ!」

「えっ、ちょ、どんな臭いしているんですか!?」

「冗談だから敬語はやめなさい、戻るわよ」

「うぅ……」


 もし臭かったらまたひとつ新しい噂ができてしまう。

 藤原菫及び萩原穂とお友達だけど“臭い”少女大西杏、と。

 教室に戻ってからすぐに周りの子に聞いてみた。


「く、臭くないですよね!?」

「うーん? すんすん、う……」

「えーと、……うわぁ」

「あー……まあ、ね」

「そ、そん……な」

「「「冗談だけど!!!」」」

「えぇ……」


 同情か本当にそうなのか分からない。

 少なくともニコニコとしてくれてはいるし大丈夫、なはずだ!




 放課後、少しだけ図書室に寄ってから下駄箱に行くと午前の子がそこにいた。

 私を見てパッと表情を輝かせるも、すぐに周囲をチェックしそれから近づいてくる。


「お、遅かったじゃん」

「本が好きなので図書室に……ところで、菫ちゃんとかは帰ってしまいましたけど」

「あ、あんたと友達にならないと……近づけないじゃん」

「だからあの人たちは大丈夫ですよ?」


 不安がられると複雑になってしまうのだ。

 あのふたりの良さを知っているのにと、べつに怖くない、優しいのにと。

 関わったことのない人には分からないかもしれないけど、1度くらい向き合ってからでもいいのではないだろうか。

 残っても仕方ないので外にでて彼女と歩いていたんだけど。


「で、どうなの?」

「どうなのって、そもそも私はあなたのお名前も知りませんけど」


 名前も知らないのにお友達になれそうにはなかった。


「あ……瀧澤……火蓮」


 瀧澤火蓮たきざわかれんさん、か。

 彼女がもうこちらの名前を知っているとしても、私も自己紹介をしておく。


「あなたのおかげで最悪な結果にならなくて済みました、なのであなたが菫ちゃんたちとお友達になれるよう、精一杯協力させていただきたいと思います」


 まあこんなのは無駄で彼女が「お友達になりたい!」と言えば終わる話なんだけどね。


「……い、家はどこら辺なの?」

「あ……菫ちゃんの家に住ませてもらっているんです、穂ちゃんも一緒に」

「は……はぁ?」


 同級生の子の家に住んでいると聞いたら私だって驚くし無理はない。

 そうでなくてもふたりと近づこうとしていた瀧澤さんなわけだし、私が近くにいたら不都合だろうけど。


「ごめんなさい、いろいろと事情がありまして……菫ちゃんに甘えてしまっているという形になります」

「事情って?」

「……兄が怖いし叩いてくるので」


 あの日は何回も頬を叩かれた。

 その全てが本気だった、なんて言うつもりはないけど、痛かったんだ。

 もう普通ではいられないから自分を守るために動いて。

 喧嘩とかもしてしまったものの仲良くしてもらっている。


「……そうなんだ、って、べつに藤原の家に住んでいるのはどうでもいいんだよ」

「え、でもお友達になりたいんですよね?」


 彼女はこちらをちらりと見て「ま、まあね」と複雑そうな表情を浮かべた。

 うーん、このままでは彼女が緊張してしまい、いつまでも平行線かもしれない!


「というわけで、瀧澤さんを連れてきたよ!」


 藤原家リビングにて彼女の腕を掴んだまま大声をあげた。

 我ながらなんていいことをしたんだと調子に乗っていると、彼女に頭を叩かれてしまう。

 優しかったから良かったものの、それでも兄のを思いだして涙が溢れた。


「ご、ごめん!」

「……いえ、私も調子に乗っていたので」


 涙をグシグシと拭って固まったままだった菫ちゃんに「おーい」と声をかける。


「あ……どうしてその子を連れてきたの?」

「菫ちゃんとお友達になりたいんだって! だから、お友達になってあげてっ?」

「嘘ね」

「えっ? 嘘じゃないよっ」

「その子は私や穂さんにだって興味を抱いていないわよ」


 さっきだってお友達になりたいと認めていたし嘘なわけがない。

 きっと彼女の前で緊張してしまっているだけだ。

 私だって急にこんな綺麗な子の家に連れて行かれたら緊張しちゃうわけだし。


「そう言わないでさ、私に優しくしてくれたみたいに優しくしてあげて?」

「……あなたもそんなこと言えるようになったのね、ここに逃げてきたのに他人の心配なんてしている場合ではないでしょう。その子は助けてくれた、それだけでいいじゃない」

「え……そ、そんなこと……言わなくても」


 迷惑なら迷惑と直接言ってくれたほうが気が楽というもの。

 それこそ瀧澤さんを使って遠回しに言いたかっただけなのではないだろうか。

 駄目だ、このままいるときっとまた喧嘩になってしまう。

 だから私は連れてきたときみたいに瀧澤さんの腕を掴んで外にでた。

 帰宅したというのに制服を着たまま荷物を持ったままで。


「ごめんなさい、普段はもっと優しい子なんですけど」


 今日は不機嫌だったのかもしれない、タイミングが悪かったのかもしれない。

 瀧澤さんが悪いわけじゃない、きっと私も悪いわけじゃない。

 でも、怖い表情の菫ちゃんを見たくなかった。

 兄なんかよりもよっぽど怖くて、今日はもう帰れない気がする。

 途中で穂ちゃんと合流すれば分からないけど、ひとりでは、うん、無理だ。


「……いーよ、私があの子の前であんたに手を上げたんだし」

「それは調子に乗ってたから仕方ないですよ」


 勝手に勘違いして連れて行ってしまったのかもしれないんだし……。


「……もう帰りなよ」

「だめそうです……怖くてひとりじゃ……」

「いや、自宅にじゃなくて藤原の家にだよ」

「それが一番怖いんです……綺麗な子が厳しい表情を浮かべると怖いですよね」


 そしてそれが自分に向けられるということに。

怖い顔されたら近づけない。

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