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イケメンほいほい  作者: いけちぃ
分岐ルート(鬼畜弁護士様)
32/32

弁護士様ルート2




「楓さん」

ああ、また来た。

現在週2での出勤となっている弁護士様の登場である。

「今晩のご予定は?」

社長に付いて回って直帰です。

打ち合わせ後に徘徊する社長を送り届けるまでがお仕事なので、定時に帰れた事なんて数えるくらいしかありません。

故に予定なんて無い。

無いのに空いてないとは矛盾もいいとこだ。

「仕事です」

「またですか」

またですよ。

お互い忙しい身の上で擦れ違ってばかり。

ありがとうございます。

餌付け後に寝込みを襲われる機会は無くなったし、あの日の逃走に関しても有耶無耶だ。

ありがとうございます!

脳内変換機能誤作動中の弁護士様が接触して来なければより良いが、現実は厳しい。

「いつも何をしているんです」

仕事だよ。他にあるのか。

いやいや、解ってますよ、無能呼ばわりされてますよねー。

「社長の管理ですけど」

弁護士様が無表情になった。

「僕を怒らせたいのですか」

微塵も思ってない。

何が地雷だったのか教えて頂きたい。

「手を切れと言ったでしょう」

「秘書なので」

「貴女は・・・いつまで淫らな関係を続けるつもりです」

いや、だーかーらー、秘書だって言ってるだろ。

思わず机に突っ伏して唸ってしまった。

無意味な問答がこの先続くかと思うとゾッとする。

未だ始業前とはいえ出勤して来た人もいる。

舌打ちして弁護士様の手首を掴むと彼の個室へ移動した。

早々に手を離せば振り向く前に拘束された。

左腕は腰に、右手は脇から伸びて左肩をがっつり固定されている。

傾げて顕になった左首元に噛み付かれたと判ったのは一拍後。

悲鳴を噛み殺した己を褒めるべきか、貶すべきか。

ぬるりと蠢く舌の感触に鳥肌が立つ。

「い、飯沼さんっ、止めて下さい!」

執拗に嘗める弁護士様のさらっさらな髪が顔に当たって擽ったい。

耳に近いせいで音は否応なく入ってくるしで非常に困る。

「お相手は喜んで務めますよ」

「は?いえ、ちょっと、ストップ!」

誤認訂正するはずが、まさかのお誘い認知されるとは。

肩を手で覆い隠して相手を止める。

「邪魔ですよ」

邪魔してんだよ!

僅かに身を捩るしか出来ない拘束具合に本気が窺えて怖い。

「話がしたいんです」

「聞こえています」

「会話!対話がしたいんです!」

「しているでしょう」

してますね。

いやいや、解ってて言ってるよね、この人。

「社長・・・いえ、飯沼さんとの今後についてです」

危うく強行されそうな気配がして言い直したのが良かったらしい。

解放され安堵していると弁護士様にソファへ誘導された。

隣に座った相手には・・・もう何も言うまい。

「お話を伺いましょう」

「私と社長は性的関係を持った事はありません」

「ふむ・・・幾つか確認しても?」

「どうぞ」

右中指がトントンと膝を叩いている。

伏せられた視線が上がり目が合った。

本当に透明感あふれる綺麗な人だ。

「貴女がキスしている現場を目の当たりにしましたが」

「はい、私が襲ってましたね」

「関係が無いのなら何故あんな事を?」

「うっかり欲情した結果です」

今思い出してもぷっくり唇に心揺れる。

不謹慎ながら美味しかったなぁ、と反芻してしまう。

意識が戻ったのは手を握られたからだ。

「欲情するなら誰でもいいと?」

「あぁ・・・成程、どうなんでしょう」

今の所、反応したのは犯罪誘発エロボディだけ。

免疫無し、経験不足、比較対象無しだからさっぱりだ。

「僕が相手ならどうです」

弁護士様の指に撫でられる手の甲が擽ったい。

誘惑されてんだろうなぁと認識しつつ、他人事みたいに指先を見つめる。

「理性ぶっ飛びはしないです」

「ふむ・・・それでも、上司に特別な感情は無いと言うのですか」

いや、分かりません。

襲う程度には嫌悪を抱いてない事と弁護士様には反応しないって事しか判明してない。

「社長を好きだと思った事は無いです」

糞社長、滅べばいいのにとは常々思うけれど。

「まあ、いいでしょう」

いいんだ。

「随分と献身的に尽くしてられますが、自覚はおありですか」

「ゾッとする事言うの止めて下さい」

おや?と言いたげに片眉を上げた弁護士様。

流石、お美しいです!

人を小馬鹿にしたような蔑む瞳じゃなければテンション爆アゲでしたよ。

「巡って自分が大変なので対処してるんです」

「環境改善をお望みなら手を貸しますよ」

己で対処出来る旨を伝えたら凄い目で見られた。

正直者め。

物言わす目は是非に封印して頂きたい。

「色々な要因が重なってるので、まあ、削ぎ落とせばいいだけです」

不満はあれど不都合は無かったから放置してただけ。

流され体質を遺憾なく発揮してた結果だと告げると心底呆れた溜息で返された。

「現状放置は何時まで続くんですか?」

「状況が変わるまでじゃないですか?」

「質問に質問で応えるのは止めなさい」

こわっ!

絶対零度の瞳で睨まれても背筋が凍るだけなので止めて下さい。

「貴女の言う状況を具体的に述べなさい」

「仕事より優先する事柄が発生した状況です」

「これまでは無かったと言う事ですか」

竜崎が真っ先に過ぎった。

天秤にかける事柄は無かったので頷いた。

「僕と仕事では仕事が優先されるんですか」

あっぶない、頷くとこだった。

何言ってんの、YES一択だよ。

「同僚に比重傾かないです」

「ただの同僚ではないでしょう」

いえ、ただの同僚です。

いや、待て。

それにしては色々踏み込み過ぎだ。

「どんな関係ですか」

本気で真面目に聞けば沈黙が返ってきた。

是非是非、教えて欲しい。

「・・・恋人にしましょう」

「恋人」

「貴女と僕はこの瞬間から恋人です」

何でそうなった?!

待て待て、まさか、交際催促とでも思ったのか。

だからの恋人宣言とか?

いやいや、いやいや、そんな流れでした?

そんな解釈される会話してないでしょ。

適切な関係を示す言葉を知りたかっただけだ。

「私は、飯沼さんに興味がありません」

「知ってますよ」

「いやいや、だったら恋人成り立たないでしょ」

内心突っ込みが声に出てしまった。

弁護士様は片眉をピクリと動かしただけ。

口撃されなくて良かった。

「僕がそう決めました」

「いや、ですから、同意してませんて」

「構いませんよ」

構えよ!

「貴女に合わせていたら他人のまま進展しませんから」

正しく理解してるのに何故だ。

何故、この人とは噛み合わないのか。

「恋人とは双方合意でなるものでは?」

「そうですよ。けれど、貴女は同意されないでしょう?」

されませんよ。

「ですから多少強引に進める他ないでしょう」

いやいや、進めちゃダメでしょ。

あと、多少じゃなく多大に強引です。

「・・・私に拒否権はあるんですか」

「何故解りきった事を聞くんです?貴女の意思は尊重されるべきです」

「微塵も尊重されてませんけど」

「しています。その上で関係を築きたい僕の我を通します」

「左様で」

弁護士様は過程をふっ飛ばして結果だけを告げるスタンスらしい。

こちらの意思は理解してると知れただけマシか。

意思疎通が難しいだろう今後を憂うべきか。

「弁護士様との会話は疲れます」

「僕は非常に愉しいですよ」

微笑と共にのお言葉は少しも嬉しくない。

気力体力奪われるとは、流石、弁護士様。

時計を確認したのは立ち去る理由欲しさにだ。

「戻りますか?」

勿論ですとも。

麗しい顔が迫る前に疑念を抱くべきだった。

察しの良い弁護士様などあり得ませんよと。

慌てて身を仰け反ったら伸びた腕に抱き止められた。

「何故避けるんです」

何故避けないと思った!

言いながら迫る飯沼の肩を押し戻すがビクともしない。

「し、仕事!仕事が始まりますので!」

「ええ、ですから早く済ませましょう」

ナニを?!

「キスを」

「大丈夫です、結構です、間に合ってます」

「そうですか。大人しくして下さい」

あぁ・・・面倒臭い。

顔面偏差値最強王子とのキス。

有り難く頂戴しよう。

この御褒美の為に耐えたのだと己に言い聞かせよう。

そうでもしないとやってられない。






最近、事ある毎にキスされる。

遭遇率が上がったのではなく、遭遇したら必ずされる。

人目が無いと出合い頭に。

人目があれば連れ出され、当然の権利と貪られる。

抵抗するとねちっこくしつこくなるから早々に諦めた。

諦めたら舌が入れられるようになった。

抵抗したら腰が抜けるまで腔内蹂躪されて唖然とした。

仕事だからと名残惜しんで左耳を舐め回して去った弁護士様を見送ってデスクに突っ伏す。

ここ、会社ですけど!

ランチで社員出払ってても、普通に人の出入りありますけど!

だから止めろと抗えばこの有様か。

「アレと付き合ってたの?」

頭上でした声に慌てて身を起こす。

「お戻りでしたか」

「返事」

不在予定の社長が判りやすくムッとして横に立っている。

年上とは思えない幼っぷり。

「弁護士様とは恋人らしいです」

「聞いてない!」

言ってない。

「いつから?どうしてそんな事になってるの」

煩えなぁ、せめて熱量下げて欲しい。

スルーしよう。

「明らかに苦手だったでしょ!無視しないで!」

首がイカれるので両肩掴んで揺するのを止めて欲しい。

「社長との目眩く淫らな性生活を否定してたら、こうなりました」

「端折り過ぎ!意味が分からない」

目眩く淫らな性生活って何?

との呟きは黙殺した。

「面倒なんで」

「そんな理由でアレと付き合ってるの?」

そうですけど何か。

「・・・納得してるなら反対しない」

ブスくれた顔で言われても説得力ゼロ。

笑かしに来てるなら大成功だ、笑わないけど。

自分の椅子を社長に差し出し、近くの椅子を移動させ座り直す。

ご機嫌斜めを放置すると陰険ジメジメ糞社長が出来上がる。

相手をするのが最善だ。

「力技で押し切られてる所です」

「抵抗しなさい」

「しました。我を通すと宣言されたのでお手上げです」

そんなで身体を差し出すなと怒られた。

御尤もだ。

ならば対弁護士様防御法を授けて頂きたい。

「面倒くさがるのやめて」

「気力体力奪われて今に至ってます」

「流されていい事じゃないでしょ」

「美人とキス出来てラッキーと言い聞かせてます」

「何、その自己暗示。だったら最後まで抵抗して!」

事態悪化が加速するだけなのに?

しなくても悪化してるから、打つ手無しですけど。

「放置するので心配しないで下さい」

「心配しかない!」

「仕事はセーブするので宜しくお願いします」

「休日呼び出しは止めるけど、本当に大丈夫?」

全然これっぽっちも大丈夫じゃないです。

「ガンバリマス」

助けてくれと言えば泥沼愛憎劇が繰り広げられる予感しかない。

今は社長のご機嫌取りに心砕こう。












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