第55話 満腹ドラゴン
結局、幼女グラトニーはバターボール・ターキーを丸鳥で七つ、ステーキ肉を20キロほど食べた。加えて副菜というのか口直しというのか、チーズやらハムやらチキンやらの調理済食品を10キロほど。
トータルだと、たぶん100キログラムを超える。そんな量が身長1メートルそこそこ、体重など20キロあるかないかな幼女のどこにどうやって入ったんだと驚く反面、“街の食料を丸ごと食い尽くす恐怖の暴食異龍”、みたいなイメージからすると意外に小食と感じなくもない。
ちなみに、途中で試しに野菜や果物を差し出してみたが、ブンブンと首を振られた。暴食にして偏食なドラゴンである。
「……カロリー、こんなに喰わせて大丈夫なのか」
リールルが心配そうに訊いてくる。ドラゴンの習性やら食嗜好やら健康やらについての質問であれば知らんとしかいいようがないものの、心情的には本人が食べたいというなら与えてもいいと思ってる。ただ、経済的な問題であれば……どうだろ。開封と給餌に忙しくて、値段をちゃんと見てはなかったけど、たしかターキーはひとつ60ドル前後だった気がする。サイズの割に安いとはいえ、七つだと420ドル、七万円弱か。そこそこお高いステーキ肉の金額を加えると、一食で10万円超えるな。
うん、あんまり大丈夫じゃない。
「ねえ、グラトニーちゃん」
「キュル?」
「今後もお肉をお腹いっぱい食べたければ、キミにも働いてもらわなくちゃいけなくなるよ?」
わたしの声に振り返ったグラトニーは、“よくわからんけど、お腹いっぱいで幸せ!”みたいな顔でニーッとご機嫌に笑った。うん、かわいい。
わたしには、この子に好きなだけ食べさせられる能力はある。条件付きだけど環境もある。問題は、予算が無限ではないこと。支えようとしてる相手はグラトニーだけじゃない。愛情に順位はつけたくないけど、孤児院の子たちだって大事なんだ。だったら、みんなが幸せに暮らすために、そのコストをどう調達するかだ。
「ああ、リールル。すっかり忘れてたんだけど、外のエルフたちはどうなったの?」
「どうにもなってないな。撤収後にしばらく見ていたが、倒れたまま動けない怪我人と、隠れたまま動かない腰抜けと、攻め込めと叫ぶだけの無能のどれかだ」
「じゃあ、いいや放っといて」
コハクの背中に幼女グラトニーを乗せて、いったん孤児院に戻る。急ぎではないので、ポテポテとゆっくり歩く。
「ねえリールル、まさかだけど、この子いきなりドラゴンに戻ったりしないよね?」
「さあな。そもそもドラゴンが人化するなんて、あたしはお伽話でしか聞いたことがない」
「古い伝承や記録にはある」
リールルも博識ではあるけど、その知識は現世代を中心とした経験と伝聞がベースのものだ。それに対して長命種であるエルフのアリベリーテは、数世代前に遡ったアーカイブ的な知識も持っているみたい。
「それを読んだ限りでは、だが。人化は多くの場合、龍としての力が極端に弱ったとき起こる。力を蓄え魔力を取り戻したとき、龍の姿に戻ると」
「え」
もしかしてグラトニーに、あんまり際限なく食べさせちゃダメだったりする? いや、ドラゴンの姿に戻ったところで災厄をもたらすとかではない……こともないか。街の食料を食い尽くすんだもんね。
「食べさせるのは、ほどほどにしようか」
「だな」
「それがいいと思う」
当のグラトニーはコハクの背で揺られながら、“なんの話してるの?”って無邪気な顔で見つめてくる。
うん。いま話しているのは、キミの長期ダイエット計画についてだよ。
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