第二百十三話 ゲーム中毒
結局、朝までゲームをやり続けていた。
眠いから途中で止めればいいが止められない。
オンラインゲームでないので誰からも文句は言われない。
けれど、ゲームの持つ魔力が私を引き離さなかったのだ。
「うぅ……だるい」
私はゲームをやりながら心の声を呟く。
体はだるくて仕方ないのにゲームをやめられない。
休んでからまたやればいいのだけれどそれができない。
とことんまでやり切るまで止められない衝動に駆られていた。
「レベルはカンストしているのにスキルのレベルがまだ上がらない」
いろんな種類のスキルがあるから全てマックスまで上げるまで終われないのだ。
「うぇっ、気持ち悪い……」
重力に引かれて瞼が下に落ちて来る。
だけど、私の意識が邪魔をして瞼は閉じない。
すごく眠いのに眠ることができない。
今、ゲームを止めれば、もう二度と同じプレイができないのだ。
「これは使命よ。ゲームをクリアして最高の喜びを得るための試練なのよ」
昔のゲームじゃあるまいし、いくらでもセーブできる。
ゲームの途中でもセーブをしておけば後から再開できる。
だけど――。
「どんな試練があっても私は諦めないわ」
全てのレベルをマックスにすると言う目標があるから頑張れるのだ。
すると、不意に”ミスアダ”の”終わりなき旅”BGMが私のバックで流れはじめる。
「目標が高い方が達成した時の喜びは大きいのよ。私、頑張る」
”ミスアダ”が私を勇気づけてくれたので俄然やる気が出て来た。
さっきまで重かった瞼も空へと帰って行く。
目はバッキバキになって血走っていた。
「さあ、最後までやるわよ」
私はテレビの画面にかぶりつきながらゲームを続けた。
ただ、単調な操作の繰り返しなので眠気が襲って来る。
トロンとする目をこすりながら眠気と真っ向から戦う。
時に肌を抓って痛みで目を覚まさせようとまでした。
だけど、眠気の方が勝ってしまったのでウトウトしはじめた。
「もうダメ……”アダチル”許して……」
そんな弱音を呟きながらスッと襲って来た睡魔に一瞬眠りに落ちる。
しかし、がくんと首が下がった反動で私は目を覚ました。
「うわっ、危なかったわ」
もし、あのまま眠りに落ちていたら私の負けだ。
きっと気持ちよかったかもしれないが負けは負けだ。
だけど私は負けなかった。
だから勝負は継続中だ。
そんなことを繰り返しながら10時を過ぎると様子が変わった。
急に眠気が覚めて目がギンギンになった。
恐らくアドレナリンが放出されていて元気が戻って来たのだろう。
ある意味、限界を越えて覚醒してしまったのだ。
「こうなったら私の勝ちよ。いくらでも起きていられるわ」
妙にテンションが上がって来て俄然やる気満々だ。
体は悲鳴を上げているはずなのに眠気も全くない。
諦めずにゲームを続けて来たことでスキルのレベルも上がっていた。
「あと少し。あと少しで目標を達成できるわ」
私はこれまで頑張って来た自分を褒める。
絶対的な存在である睡魔にも打ち勝って来た。
それは私が睡眠さえも凌駕したことに他ならない。
「ある意味、仙人だわ」
仙人クラスにならないと睡魔を越えられない。
普通の人だったらすぐに睡魔に負けてしまう。
だから、睡魔を越えた私は仙人になったのだ。
”ゲーム仙人”と言っても過言でない。
「あとは目標を達成して最高の喜びを味わうだけね」
ただ、飲まず食わずなのに一向にお腹が減らない。
いつもだったら腹ペコの時間帯なのに不思議だ。
もしかしたら仙人のように霞でお腹いっぱいになっているのかもしれない。
「今の私って最強ね」
向かうところ敵なしだ。
眠らなくていいし、食べたり飲んだりしなくてもいい。
ただ、ゲームをプレイするだけのロボットに覚醒したのだ。
目標を達成すると今度はどっぷりハマれるRPGにした。
最近流行り出してる”おばさんクエスト”と言うゲームだ。
主人公以外はみんなおばさんと言う設定だ。
今までありそうでなかった斬新なキャラ設定だった。
「カイトって悲惨よね」
”おばさんを惹きつける能力”を開花してしまったことでこうなった。
本来だったらカワイ子ちゃんを侍らせていたかっただろう。
これがゲームの設定だから許せるけれど現実だったら恐ろし過ぎる。
おばさんなんてゲテモノは誰も好まないのだ。
「あっはー、若くてよかった」
今はちょめ虫になっているけれどピチピチの女子中学生だ。
おばさんの年齢になるまではあと十数年もある。
だから、胡坐をかいていられる。
「ゲームの設定には描かれていないけれどカイトはおばさんに食われているんだろうな」
おばさんともなると見境なしだから自分の欲望のまま生きている。
ちょっと溜まったらカイトに夜這いをかければいいのだ。
きっとカイトの大切なはじめてもおばさんに奪われているだろう。
「おばさんに調教されておばさんしか愛せない体になっちゃうんだわ」
悲劇的過ぎる。
「カイトに同情するわ」
おばさんの若い頃はべんじょ虫だったからアーヤみたいなやつのことを指している。
アーヤも私と同じでピチピチの女子中学生だけれどすでにおばさん化している。
べんじょ虫と言う道を選んだ時点でどんな女子もおばさん化してしまう。
そして将来は周りのみんなに迷惑をかけるおばさんになるのだ。
「設定はともかくとしてゲームとしては楽しめるのよね」
RPGには定番のレベルアップもあるし、属性もある。
おまけにレベルが上がれば見た目のグラフィックも変わる設定だ。
おばさんはより露出が多くなってエロチックなビジュアルになる。
おばさんのどこに需要があるのかわからないけれどエロい。
「武器とか防具とかにもレベルが設定されているところが斬新ね」
定番のRPGだと武具を買い替えることで強くなって行くことが多い。
それはそれで楽しいのだが、やっぱり武具もレベルアップした方がより楽しめる。
レベルがアップするたびにグラフィックも変わるから見ているだけでも楽しいのだ。
「パッと見だとエレンがエロいけれど本当にエロいのはセリーヌなのよね」
現実世界でも控え目な人ほどむっつりスケベだ。
セリーヌも清楚な上品系のキャラだから一番エロい。
それを表すようにカイトに好意を抱いて行為をしようと企んでいる。
「まあ、セリーヌの巨乳にやられる男子は多そうだけどね」
結局、男子はみんなおっぱい星人だ。
おっぱいを嫌いという男子はいない。
おっぱいが大きければ喜んで小さければ興味をなくす。
中にはペタンコ好きもいるけれど一部の男子だけだ。
「私はまだ成長中だからこれから大きくなるわ」
中学生で片鱗を表す女子もいる。
発育がいいのか知らないけれど中々のものだ。
同じクラスメイトの男子もおっぱいを見て頬を赤らめるぐらい。
だけれど女子高生になってから大きくなる女子もいる。
だから、中学生で勝負が決まるわけじゃないのだ。
「それよりゲームよ」
やっぱり剣士であるエレンのレベルアップが早い。
出現するモンスターを片っ端から打ち砕くから見ていてもスカッとする。
ただ、エレンを越えるようなバトルシーンがあるアンナも捨てがたい。
魔法使いなのに剣士並みの動きをするキャラクターなのだ。
「アンナって魔法使いって言うよりマジックソルジャーよね」
バトルのグラフィックが一番派手なので見ているだけでも楽しめる。
おまけにエレン並みに強いからゲームをしていてもアンナにのめり込める。
弓使いのミゼルやプリ―ストのセリーヌは大人し目だけれどビジュアルが一番キレイに描かれている。
バトルシーンはそれほど派手ではないけれど育てがいのあるキャラクターになっている。
「けど、キレイに描き過ぎよね」
実際のおばさんはもっと汚い。
ゲームだからキレイに仕上げているけれど現実だったら目も当てられないだろう。
お腹のお肉はたるんでいるし、お尻はデカいしでゲームのビジュアルは全くない。
ゲームで描かれているおばさんはあくまで理想を追求したビジュアルになっているのだ。
「キレイなおばさんなんてこの世には存在しないのよ」
”おばさん=汚い”だから”おばさん=キレイ”は成立しない。
”おばさん”と聞いてキレイなものを想像する人はいないはずだ。
だから女子達は”おばさん”と言われることを嫌う。
それは自分たち自身が”おばさんは汚いもの”だと認識しているからだ。
「私はずっと女子でいよ~っと」
そんなことを口走りながら心行くまで”おばクエ”を楽しんだ。
「2日目の朝はグロッキーね」
アドレナリンが出ている一方で疲労感が半端ない。
今にも倒れてしまうほどではないけれどヤバいことはわかる。
このまま続けたら死んでしまう不安もあるが止めらない。
ゲームの魔力が私を支配していて離れられないのだ。
「けれど夜通しレベル上げをしたからだいぶ強くなった」
一番使えない”カイト”もそこそこ使える奴になっている。
”おばさんを惹きつける”能力以外、突出した能力はないから弱い。
それでもザコモンスターは倒せるようになった。
「カイトが役に立つのは、おばさんモンスターを魅了するときぐらいね」
カイトの前ではどんな凶悪なおばさんモンスターもメロメロだ。
それはカイトの”おばさんを惹きつける”能力が大きく影響している。
さすがはおばさんキラーと言ったところだろうか。
「他はぜんぜん使えないんだけど」
まあ、誰にでも特筆した能力はあるものだ。
それが”おばさんを惹きつける”なんて悲しい限りだけど。
めっぽう戦闘に強いおばさんを惹きつけられたら御の字だ。
自分は何もせずにおばさん達が戦ってくれる。
こんなに楽なことはない。
しょせんおばさんなんて役に立たないのだからせめてバトルはしてもらいたいところだ。
おばさんを鉄砲玉に使えばモンスターと相打ちになっておばさんがなくなって行く。
そうすれば世の中にいるおばさんの絶対数が減るから世界平和につながるだろう。
「けど、ゲームのエレン達ってめっぽう強いのよね」
そんじょそこらの戦士とは話が違う。
あの魔王に匹敵するような強さを持っている。
今はまだそこまで至っていないがレベルを上げれば夢でもない。
ある意味、おばさんは魔王ですら足元にひれ伏すことができるだろう。
だから、魔王はおばさんを捕まえてモンスター化させているのだ。
おばさんとモンスターの相性がいいからなのだが、何もしなくてもおばさんはモンスターだ。
他人に迷惑をかけまくるし、自分の欲望のままに行動する。
そのうえ他人の悪口を言って和やかな雰囲気を破壊しまくるのだ。
おばさんの通った後は犬っころですらひれ伏している。
それだけおばさんの影響力はすごいのだ。
「世の中のおばさんをゲーム化したら攻撃方法はベラベラ攻撃ね」
ベラベラ喋りまくって勇者を倒して行く設定になるだろう。
どんな崇高な勇者であってもおばさんの前ではひれ伏すはずだ。
「まあでも、そんなゲームなんて流行らないけどね」
この先もそんなくだらないゲームが誕生しないことを祈りたい。
3日目の朝になるとさらにグロッキーになっていた。
頭はクラクラするし、目もしばしばしている。
だけれど、瞼が帰る場所を忘れてしまっている。
そのまま重力に任さればいいだけなのだがそれができない。
ゲームをやりたいと言う欲求の方が勝って体にブレーキをかけているのだ。
「うぇっ、何か変な嗚咽が出るわ」
出てくるものがないのにやたらと嗚咽が出て来る。
ここ3日間は飲まず食わずでいるから限界が来ているのだろう。
けれど、ここでゲームを止めてしまったら私の負けだ。
せめて魔王を倒すまではゲームを続けていたい。
「カイト達が魔王を倒せばゲームの世界も平和になるはずだ」
しかし、魔王を倒せばバッドエンディングになるかもしれない。
おばさんと言うウイルスが存続するから世の中は平和にならない。
いっそうのこと魔王に全てのおばさん達をモンスター化してもらった方が幸せかもしれない。
おばさんはモンスターとして街の人達から忌むべき存在として認識されるのだ。
そして街から追われて人里離れた荒んだ場所で暮らして行った方がみんなのためになる。
”おばすて山”なんて言葉があるけれど本当は”おばさん捨て山”なのだ。
「おばさんってほんとゴミよね」
自分もいつかはなるのだけれど他人事だ。
今はおばさんじゃないからいくらでも文句が言える。
それは常日頃からおばさんに迷惑をかけられているからだ。
私のように思っている人は世の中に多いはずだ。
そんな風に時折おばさんの文句を垂れながら1週間もの間、飲まず食わずでゲームを続けた。
「うぅ……」
さすがに1週間を迎える頃になると意識も虚ろだった。
体の力が入らないし、言葉すら出て来ない。
このまま私は死んでしまうのかとさえ思っていた。
好きなゲームをして死ぬなんて本望かもしれない。
ただ、心残りは”ななブー”の推し活をできないことだろうか。
どうせなら”ななブー”に抱かれながら死にたかった。
「……」
不意に意識が遠のいて行って私は気を失ってしまう。
すると、どこからともなく階段を駆け上がる音がして来る。
ドアを激しく叩く音が聞えたかと思うと誰かが部屋に入って来た。
「ちょめ太郎くん、大丈夫ですか。しっかりしてください」
「これは一大事だぞ。体がやせ細ってミイラみたいになっている」
「とりあえず部屋に運びましょう」
「そうだな」
そこまでの記憶が微かに残っているだけだ。
「ちょめ太郎、大丈夫かな」
「とりあえずやれることはやったさ」
「あとはちょめ太郎くんを信じるだけね」
ベッドのそばでパパやママ達が心配そうな顔をしている。
私があまりに部屋から出て来ないからママが心配していたようだ。
「でも、ちょめ太郎の顔が余計に大きくなったね」
「体が完全に干からびているからしかたないさ」
「元に戻るかな」
「意識を取り戻せば大丈夫さ」
心配しているミク達を励ますようにパパが言葉を添える。
何の根拠もないがそう言うことで不安は少しだけ拭える。
すると、私の意識が徐々に回復しはじめる。
ミク達が話している声が耳に届きはじめたのだ。
「うぅ……」
「あっ、ちょめ太郎、目を覚ましたよ」
「ちょめ太郎くん、大丈夫かい」
「こ、ここは」
「私の部屋だよ」
そう言われて辺りを見回すと見慣れた景色が飛び込んで来た。
「ちょめ太郎、3日も眠りっぱなしだったんだよ」
「そう。私は生きているのね」
「だけど、ミイラだけどね。プッ」
「ルイ、そんなこと言うものじゃありません」
ルイが私の姿を見てバカにするとママから怒られた。
「何か、食べるものをちょうだい」
「お腹が空いているの?」
「ママ、おかゆを作ってくれないかい」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
そう言うとママはドタドタと階段を降りておかゆを作りに行った。
「ちょめ太郎、部屋に籠って何をしていたの」
「ゲーム」
「ゲームでそんなにも夢中になるの」
「ミクが知っているゲームじゃないからね」
オンラインゲームと言う存在がゲーム依存を作り出したと言っても過言でない。
オンラインゲームが巷で流行り出したらゲーム依存と言う言葉も踊り出した。
ゲーム依存者にはゲームしたさに会社や学校をやめてしまう人さえいる。
それで生活が崩壊して引きこもりになってしまうのだ。
「ルイもやりたい」
「ダメだよ。そんな危ないものをルイにやらせられないわ」
「そうだな。ちょめ太郎くんをここまでにするのだから危険なものなのだろうな」
ただ、ゲームとうまく付き合えばとても楽しいものだ。
ストレスも発散できるし、他の人とコミュニケーションもとれる。
おまけにゲームにうまくなればゲーマーとしてデビューできる。
「ミク達はゲームなんて知らない方がいいわ」
「ちょめ太郎だけズルい」
「ルイ、ちょめ太郎みたいにミイラになってもいいの」
「それはヤダけど、でもゲームをしたい」
どの世界の子供でもゲームには興味を持つようだ。。
それは”ゲーム=楽しいこと”だと認識してるからだろう。
だけど、オンラインゲームに慣れていないルイにはやらせない方がいい。
あっちの世界のモノに触れさせても欲求が深まるばかりだからだ。
ちょめジイの言うようにこっちの世界に影響のあるものは触れさせない方がいいのだ。
そんな話をしているとママが鍋いっぱいのおかゆを持って戻って来た。
「お待たせ。ママが食べさせてあげるわ」
そう言うとママはテーブルに鍋をおいて私に寄り沿う。
そして私の体を抱き起すと熱々のおかゆを口の中に放り込んだ。




