16魔獣~カイウス視点
いつも通りの一日だった。夕方までは。
「リーオーン。なあなあ。お前、知ってるか?東の洞窟、一部分が崩落したらしいぞ。」
「知ってる。」
朝議の後、東洞窟へ行く魔術師の随行前に、フラリと立ち寄った宰相補佐室。
「流石。じゃあ、何で入り口が崩落した程度で騎士団が出ないといけなくなった?」
「聞いてないのか?」
呆れ顔でリオンに見られる。
「民間人が閉じ込められてるとか聞いたが。それなら、魔術師がパパッと土を避けて、終わりじゃないか。」
「カイウス。」
「何だー?」
「ったく。君はどうして、朝議に居たのに聞いていないんだ。周囲に野盗か何かがいるらしく、目的も不明。不意打ちに魔術師は弱いから、同行するようにと、言っていただろう。」
うーん?そんな事、言ってたか?
「朝議で言ってた?」
「ケストナー伯が報告し、魔術師長が騎士団に協力を要請し、騎士団長が可能と返答したため、王が裁可した。」
「そうだったか?」
「君が行くんだろうが。第4、第5団を連れて。」
「それは解ってる。朝議、眠かったんだよなあ。昨日は王都で立て続けに喧嘩や殺傷事件が相次いで、自警団からの応援要請で徹夜だったんだよ。」
「気をつけて行けよ。野盗らしい者に襲われた奴らの生き残りが、人だけでなく、魔獣を見ている。」
静かなリオンの言葉に、頷く。
「そんな事も言ってたなあ。わかった。気を付けて行ってくるよ。」
後になって思うと、何となく行くのが嫌だったんだ。
東洞窟は、その名の通り、王都東にある丘陵地帯に数個ある半分は人の手で広げられた人工の洞窟だ。
昔は希少な魔石を産出していたが、取りつくしてしまい、すでに閉山されている。
現在は東穀倉地帯からの食糧の天然倉庫として使用されている。もともと、魔石運搬用に鉄道レールも引いてあったため、利便性がよく、現在も洞窟は広く使用されていた。その一部分が崩落したらしい。
騎士団を伴う魔術師の移動は何の異常もなく、終わった。
洞窟の崩落も小規模であり、魔術師の土魔術であっけなく回復し、坑道が強化される。
騎士団を警戒してか、野盗も出ない。
魔獣も見ないし、気配すらない。
往復5時間。あっけなく終わったんだ。
夕方、騎士団への帰還後にその事件は起こった。
王城の中で、洞窟を補強した魔術師が魔獣に襲われた事に始まる。
魔術師といっても、戦闘できる者と、できない者がいる。
彼は、戦闘職ではなかった。
左肩を食い破られ、倒れたところに異常を感じた魔術師の仲間に助けられた。だが、問題はそれでは済まなかった。
魔獣は王城内を駆け回り、出会った女官や文官に怪我を負わせた。戦闘職の魔術師と居合わせた騎士で追い詰めた先は、最悪な事に、王妃の間の前室だった。
王妃の間にいる騎士団0団の女性騎士達では、戦力が足りない。
前室に控える騎士団員で、何としても食い止めたかった。
既に何人も団員が負傷している。魔術師が多重結界を展開し、魔獣を前室に捉える。
結界が持つ間に、魔獣を倒さねばならない。
狼に似た魔獣は狼より少し大きい程度で、ちょこまかと動き回る。油断をすると、牙と爪で抉られる。
「副団長!」
結界の外に騎士団長はじめ、マルルと他の仲間が集結している。
リオンもいる。
いくら魔術が得意と言え、リオン、お前が前線に出るのは感心しないな。
結界内騎士5人で魔獣を仕留める。
魔獣が崩れ落ち、カランと、灰色の魔石が転がる。
そして魔術師の多重結界が解かれる。
「お疲れ、カイウス。」
リオンが声をかけてくる。
「皆、よくやってくれた。」
騎士団長が、魔獣の残した魔石を見ながら、皆を労って声をかけたその時だった。
パリンという破裂音と共に、魔石が破裂した。
それに完全に対応できたのは、見ていた騎士団長と俺、リオンだけだった。
少し横にいたマルルを庇おうとしたが、あろうことか、マルルは俺を庇おうとした。
マルルの風の剣が魔石の欠片を吹き飛ばす。
俺も炎を纏って飛んできた魔石を燃やす。ただ1欠片だけ、間に合わなかった。
その1欠片は、マルルの右上腕を貫通した。




