14夜会
ラデン侯爵家の馬車が到着し、私がエスコートされて降りると、一瞬、周囲の空気がどよめいたのがわかる。それは、カイウスが夜会に来たからだろうか。それとも、私がエスコートされているからか。
朝から、母と姉に、うんざりするほど、夜会中は笑顔を絶やさないように言われた。そんなに言わなくても子供じゃないのに。
「行くぞ。」
「はい。」
ニコリとカイウスに笑顔を向ける。
仲が良いことはパートナーとして、必須条件。
あれ。なんか、カイウスの顔がやや赤いのは。緊張?
女性が苦手って言っても、ここでは定型文、お約束のエスコートで大丈夫だろうに。
「ラデン侯爵家カイウス様。ヤドー子爵家マルル様」
会場の入場係の声掛けに、私たちに注目が集まる。
儀礼通りに一礼して会場に入る。
ザワザワとした会場でも、目立ってはいるようだ。
さあ。良い方に目立てばいいのだが。
「カイウス。久しぶりだな。」
真っ先に声をかけてきたのは、リオン・グラート侯爵令息。
「おお。夜会では久しぶりだな。」
フッと、空気が和らぐ。幼馴染で親友の2人。王城では昨日も話してたな。夜会で会っても仲がよさそうだ。
「こんばんは。マルル嬢。2人の将来が神のご加護を受けますように。」
お披露目式での決まり口上をもらい、礼を返す。
「ありがとな。」
カイウスがリオンに言う。
「君、ねえ。なんとなくわかるけど。マルル嬢にどうしてドレスの一つでも送ってやらなかったんだ?」
「こいつが要らないって言ったし。」
そうですね。要らないって言いました。
「そうじゃないだろう。次はしっかり贈って、着てもらいなさい。」
呆れたように言われる。
「何でだ?」
憮然とした態度のカイウス。
「カイウス?見せないのがいいんじゃない。自分のだと表明したいなら、思いっきり飾り立てて見せる事も大事なんだよ。」
・・・いや。あの。それって私、似合わなさそうだし。こんな所でダメ出しされてるカイウスって・・・。
「マルル嬢。彼のわがままに付き合っていたら振り回されておかしい事になるぞ。もっと、首根っこを捕まえていてくれ。」
「おい、待て。言いたい放題だな。」
「君は、マルル嬢を壊れ物のように見すぎだ。こんなにしっかりしているのに、社交を制限してどうする。」
うっ・・・と詰まるカイウス。
「君、本当にマルル嬢に助けられているな。マルル嬢、こんなに粗雑だが根は優しい男だ。どうか、愛想をつかさないで付き合ってやってほしい。」
ニコリと笑う侯爵令息。でも、私の事は過大評価じゃないのかな?
疑問に思いながら、なんとなく理解した。 これ、わざと周囲に聞かせるように話している。
それは、カイウスの為?私の為?
でも、この話の流れだと、カイウスが私を社交に出したがらなくて甘やかしている、みたいな認識になる?
「はい。グラート様。これからもよろしくお願い致します。」
笑顔で答える。
ここは夜会。
笑顔、笑顔。呪文のように考える。
久しぶりに、カイウスが出席したことで、カイウスの周りには次々と人が訪れる。主に友人と話し、付き合いのある貴族に紹介された。
カイウスに連れまわされているため、女性と話す機会がほとんどない。社交って、女性は女性で話したりするのに、今日はカイウスに付き合って挨拶回りで終わりのようだ。
話した女性達も、婚約者に付き添われて一緒に挨拶に来た令嬢や奥様ぐらい。
友人や知り合いの関係者がほとんどとあって、皆、温かく接してくれて安心した。
そうして、何事も無く、私の社交デビューは終わったのだ。




