10人生の岐路
「ああ。やっぱ、ドレスも似合うな。」
笑顔で笑うカイウス副団長。
「軽食を用意させた。」
使用人達が、テーブルにセッティングして退出していく。
「2人で話す。サーシャも外してくれ。」
「かしこまりました。」
色々と朝から世話をしてくれたメイドもいなくなる。
2人になってしまった。
どうしよう。
「食べるぞ。」
「はい。」
促されるまま、席に着く。
カイウスが食べ始めるのを見て、食事に手をつける。
スープが美味しい。
現実逃避はすぐに終わる。
「マルル。お前、昨夜の事、覚えてないな?」
その通りです。一体、どうしてこうなったのでしょう。
「申し訳ありません。」
「いや。何となくそうなりそうな気はしてたから、それはいい。」
いや。よくないですよね。
「食べたら両親に紹介する。」
驚いて、スープが気管に入る。
必死で抑えて、コホコホ咳をしていると、カイウスがわざわざ席を立って、背中をさすってくれる。
「全く、何やってるんだ。」
はい、その通りです。
「副団長?」
「カイウスと呼べと言った筈だが。」
いつですか?昨日ですか?
「…おい、どこまで覚えている?」
「リーン先輩と3人で飲み始めて。沢山話しましたよね。えーと。何故副団長が結婚しないのかって話をしてましたよね?」
「カイウス。」
「…カイウス様」
「様はいらない。」
「はい。」
「呼んで。」
「…カイウス」
「それでいい。」
もう、どうしよう。私にわかっているのは、既成事実が作られた事と、副団長に結婚すると言われている事。
「じゃあ、全然覚えてないみたいだから教えてやる。俺の結婚に関する会話の後、リーン叔母が、俺と結婚しないかとお前に振った。お前は一度断った。断った理由は、自分が身長が高いから。それに関しては何も問題ない。むしろ、俺がデカイからちょうどいいぐらいだ。それで、俺がお前を口説いてお前が大丈夫なら、結婚する事にした。結果、そういう事になった。以上だ。」
言葉が出ない。副団長が私を口説いた??
何をやったんだ、昨日の私。
「酔って忘れるだろうと俺に言って散々煽っておきながら、綺麗さっぱり忘れたのは、マルルの方だったな。」
…返す言葉もありません。
「マルル。いい女になったんだから、自信を持って俺の横に並び立て。」
あれ?何か記憶があやふやだけど。そんな話をしたような気がする。
既成事実できてるし、もう、断りようがないじゃない。
「私でいいんですか?」
「マルルがいいんだ。」
即答された事に、少し嬉しくなるけれど。夢なのではないだろうか。
現実味のない話。
なのに、食後、すぐにカイウスの両親であるラデン侯爵夫妻と会い、すぐに婚約締結の為の使者が実家に送られた。
そして、そのままラデン家にてドレスの採寸をされたり、カイウスの兄弟と顔合わせをした。家に帰る選択肢は無く。名目上、客間が用意されたが、カイウスの部屋に泊まった。
翌日は、有休で強制的に休まされて、朝から婚約を締結した。
侯爵家に呼び出された父は、流石、ラデンの出。急な話にカイウスとラデン家当主に猛抗議したが、既成事実を作られたという事実に愕然とし、カイウスを睨みながら、婚約書類に署名した。
母は、娘が結婚出来るだけで嬉しかったようで、対照的に、ニコニコと喜んでいた。
「マルルー。いい子だわっ!見込んだ通りっ!カイウスを宜しくね。」
昼前に、リーン先輩が顔を出す。
当直明けですよね?先輩?
見込んだって。
え?
混乱する私に、カイウスがボソリと、
「リーン叔母上は、初めから俺達を結婚させたくて、一緒に飲ませたんだ。多少は酔ってたかも知れないが、あの人はザルだからな。」
「あらあら、カイウス?何だか微妙な言い方じゃなーい?」
「申し訳ありません、叔母上。叔母上のおかげで、しっかり手に入れました。感謝致します。」
「おほほほ。それでいいのよ。」
満足顔で去っていくリーン先輩。
あ。ドレスのお礼、言いそびれた。




