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30 死神の鎌




「これ、持って。あたしと接触した証拠になるから。サリエル支部長かライリって部隊長を捜して、その二人のどっちかに話せばいい」


 ドレスを脱いだあたしは、腰に結んだ上着を解いて最年長のおっさんことアルフレットに渡した。

ちょちょいと牢屋の鍵を魔術で開けて、クラウスの牢屋も開ける。クラウスの方の牢屋の方が人数が多く、三十人いた。

一度に送るのはできないので、三回に分けて送ることにした。


「あの、お名前を伺いしてもよろしいですか?」

「あ、うん」


 あ、名乗り忘れてた。

床に書いた魔法陣に手を放して、しゃがんだまま「エリ。エリ・クロキ。モントノールクリムア支部のアリエール部隊所属」とアルフレットに答えておく。


「ありがとうございます、エリさん」

「え、いやいや…あたしは脱出を手伝うだけだから…」


 アルフレットに手を握られて、他の人にも深々と頭を下げられお礼を言われた。


「サリエル支部長かライリって部隊長に、あたしはあと数時間してから戻ると伝えて。あたしの名前を出せば多分話聞いてくれるから」

「本当にありがとうございます」

「だからいって!ほら、送るぞ!」


本当にこの人達のためになるかすらわからないのに、感謝一杯の目を向けられるといたたまれない。

一回目の転送をすると、移動魔術は初めて見るのかちょっと騒がれたので静かにするよう人差し指を口の前に立てた。はい、次。


「エリさん。貴女はここに残るのですか?」

「うん、事情があってね」


 クラウスに声をかけられた。その腰には男の子と女の子がしがみついている。彼の子どもだろうか。

不安げにあたしを見ていたので、笑いかけて頭を撫でた。

「大丈夫、瞬きしたらさっと明るい場所に変わるから」と教えておく。


「…助けてくださった上に厚かましくもお願いを聞いていただけないでしょうか」

「お願い?」


 厚かましいな、まじで。

そう思ったが内容だけは聞いておくことにした。


「この家はオレの家なんです」

「へー、アンタ金持ちなんだ」

「しがない商人です…それで、その……恐らくオレの書斎にある金庫に、皆のお金があるはずなのですが」

「それをやり直す資金源にしたいから取ってほしいと?」


 ゆっくりとクラウスは頷く。

ないよりはいいが、厚かましいなぁ。でも必要だよな。

せめて金だけでも取り戻したいか。死神部隊から奪還しておこうか。ちっちゃな反撃だけしておきたいしね。


「わかった。じゃあクラウス、手伝えよ」

「オレがですか?」

「うん。場所わかんねぇしな」

「…わかった」


 クラウスが子どもを宥めて魔法陣から出たのを確認してから、魔法陣に手を置いた。


  ぴょん!


その魔法陣で送られる前に男の子が、陣から飛び出してきたからギョッとした。


「おい!危ないぞ!勝手に出るなよ!」


 下手したら真っ二つだぞ!……多分。

あたしに怒鳴られて男の子は泣きそうな顔になって、クラウスにしがみついた。離れたくないと…?

 しがみついて離れない息子にクラウスは困り果てた。父親を一人残せないのだろう。

気持ちわかる…。同じ目に遭ったら、あたしなら離れようとしないな。


「ボーズ、名前は?」

「……クリス」

「クリス、パパと離れるなよ」


クリスの頭を撫でてから、三回目の転送を行う。よし、完了。


「クラウス、背中、魔法陣書かせてもらうよ」

「?」

「保険だよ」


 いつでも転送が出来るようにクラウスの背中に魔法陣を書いておく。クリスを離すなと伝えておいてから、書斎へ行くことにした。

盗まれる心配がないため見張りはいないが、隊員が出入りする。

十分に警戒して一階に出た。

一階に書斎がありクラウスに先導させて慎重に廊下を移動する。

話し声がしたが見付からずに書斎に辿り着いた。

 あたしが警戒している最中に、クラウスは壁の金庫を開けて金を取り出す。

札束の山をクラウスとクリスは袋に詰め込んだ。あの量は十分かそれとも足りないか、あたしにはわからないがないよりはましだろう。


「ありがとうございます、エリさん」

「いいって…ほら、送る」

「気を付けてください」

「うん」


 目的を達成したからさっさと送ろうとクラウスの背中に手を置く。また礼を言われて歯痒くなった。

クラウスに抱えられたクリスと目を合わせてから、魔法陣に魔力を注いで転送。

 一人になった。

たくさんの人にお礼を言われるなんて初めてのことだったから、物凄く違和感がある。

自分の世界ではただの不良だったからな。

 感傷に浸ってる場合じゃねぇや。

牢屋が空だと遅かれ早かれバレる。それまで書斎にいるべきか、それとも移動すべきか。

窓を開けて考えてみる。

部屋の時計は九時を差していた。あれから三時間か。あと三時間は耐えないと。

迂闊に動くことはやめて、耳をすまして書斎に居座ることにした。

 朝飯食い損ねたから腹減ったわ…。

ポケーとしながら、父親のことを考えてみた。最後に連絡したのは五日前だ。そろそろ携帯電話の電池が切れてしまう。

初給料、父親に何かしたかったな。プレゼントとか…。

オニアは奪還されただろうか。帰り道の手掛かりは遠退いた。

タルドンマカールにいるのだから、襲撃して聞き出そうか。なんて一人でそんな無謀はしない。

自爆行為だ。

出来るけどね?タルドンマカールの王宮に乗り込んで暴れまくること出来るけどね?爆破とか爆破とか爆破とか?支部基地では試せない魔術をあれやこれやれるぜ?

いや、やらないけどね。うん。やらないよ?

 ちょっと無謀な計画を立てて、シュミレーションを思い浮かべる。ティズに迂闊に使うなよ、と言われた危ない魔術を使って破壊行為をして、最終的に捕まるか殺される自分。

 そんなことを考えていたら、二時間経っていた。

あと一時間だ。

一時間したら、支部基地に戻れる。

魔法陣を書類の裏に書いて用意していたら、屋敷が騒がしくなった。牢屋が空だとバレたか。

まずいな…。

 バタバタと書斎に近付く足音。机の下で息を潜めた。数人が金庫の中を確認して喚き、書斎を出ていく。見付からなかったことに胸を撫で下ろす。

ここなら見付からなそうだ。

あと一時間耐えろ。

 ダグラスはすげぇな、四六時中スパイやってんだから。あたしはこの半日だけで胃に穴が開きそうだ。

またバタバタと廊下の方が騒がしくなってきた。騒音と悲鳴が聴こえる。

 悲鳴…?なんで?

疑問に思い耳をすませば。


  コツン、コツン。


足音が聴こえてくる。異様に感じた。

禍々しい威圧感が書斎に入る。

息を止めた。身動き一つしないように停止する。

金庫を開く音がした。

早くいなくなれ!と念じたが、その威圧感はいなくなることはなかった。


「い・る・じゃないデスかぁ〜」


 振り下ろされた殺気を咄嗟に剣を抜いて受け止める。

机を真っ二つにした武器は鎌だった。死神の────鎌。

 蒼白の顔、目には隈。眉毛はなく目が見開かれた不気味な男こそ、死神という異名を持つ部隊長だ。

 背を向けている上に膝をついている体勢は分が悪かったが、電撃を流して相手の隙を作り出す。

鎌を弾いて、予め逃亡退路として開けておいた窓から外へ飛び出す。

死神は追ってきた。

 あと何十分だ!?

相変わらず人気のない街を駆ける。


「お金返してくだサイよ、泥棒は死罪デス」

「じゃあてめえの部隊は死罪だなっ!」


 いりくんだ路地を走ったが、先回りされてしまった。

細身で長身の男が持つ鎌はその男の身長分はある。赤紫のマント。まさに死神。

 視認した時点で雷剣を構えた。

死神は風を切り、鎌をあたしに振るう。剣が触れれば感電音が轟いて双方弾いた。


「成る程。貴女がピンクキャットの標的デスね。では、手足を切り落とすだけにしまショウか」

「…やってみな」


 部隊長相手だ。しかも相手は加減なんて生易しいことはしてくれない。

だから全力で行く。

無人の街中だ。暴れ放題、ひゃっほーい!

余裕ぶっこいているが、結構相手の禍々しいオーラに気圧されてる。それでも自分を守るために、剣を振る!

 魔力を剣から垂れ流して、ぐるっと回して円を作る。その円を電流に変えて放つ。


  バリリリリッ!


 大型雷撃魔動波だ。

放ってから、これ当たったら血も蒸発しちまうんじゃね?と思うくらい威力がバカでかかったが、幸い死神は避けてくれたので殺人未遂で済んだ。

 やべ。加減しなきゃだな。

考えながら次の攻撃に移る。

 ちょっと待てよ。転送魔術を四回やって、今の大技やって、雷剣二回作って、雷撃魔動波を一回放った。かなりの魔力の消費をしたと思うが、果たして移動魔術を使える魔力は残っているのか?と疑問が沸いてしまい停止してしまう。

 死神は待ってはくれず、向かってきた。

手足を切り落とすとか言っていたが、真っ直ぐ首を刈ろうと鎌がスイングしてくる。

それを雷剣で防げば弾いた。

あの死神、電流通ってるはずなのに顔色一つ変えない。不気味だな…つうかホラーだ。

 兵隊に取り囲まれる前に脱出したいが、まだタイムリミットは過ぎていないかもしれない。ポケットに魔法陣を書いた紙を入れたが、それを取り出してる間に刈られてしまう。

 迷っている間にも死神は魂を刈るべく鎌を振り上げて向かってきた。


 そこに、金色の髪が靡く。


あたしと死神の間に突如、少女が現れた。靡いた長い金髪が、ニョロリと動いたかと思えば灰色の蛇に変わり、死神に襲い掛かる。

にょろにょろと無数の蛇のようなモノに変わり、それは死神を食いちぎろうと向かっていく。目はなく口を開け牙を向けて噛み付こうとした。

それを距離を取りつつ、切り落とす死神。

 呆気に取られていたあたしの手首が、少女に握られたと認識した次の瞬間、場所が変わっていた。

 薄暗い空の下の無人の街から、青空の下のメデューサの森。魔女の城の跡地に、いた。


 そしてあたしの目の前にいる少女は────見て生還した者はいないメデューサ本体。






ついに、メデューサを直視!





お気に入り登録ありがとうございます!次回は、笑ってやってください!←

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