朝食と解体
翌朝、鳥が鳴き始めたのを聞いて目が覚める。なんだろう?小脇に何かある? 寝ぼけながらその何だか撫でやすいものを撫でると、
「ふニャァ‥?あーご主人起きたっすかー?」
チャルの頭だった。
「おわぁ!?なんで俺のベッドで寝てるんだ!?」
「あー寝ちゃったご主人を運んで寝てるの見てたらそのまま寝ちゃってたっす。」
だんだんと昨日の記憶が蘇ってきた。昨夜は飯を食べたら一気に眠気に襲われてそこで記憶が途絶えている。チャルがいなかったら追い剥ぎにでもあっていたかもしれない。そこは感謝だが昨日の内では気づいていなかった事に今気がつく。
「チャル‥その耳‥あと尻尾?」
彼女の頭とお尻あたりから生えているものに驚く。
「うにゃ?あーこれっすか?ボクは猫人族っす。昨日はマントとフードで隠れてたっすから気づかなかったっすか?メイドさんの事は見抜くのに?」
そうか、ベルレ神も色々な種族が他にもいるって言ってたな。しかしこうして見るとやはり異世界に来たんだなって思う。
「ご主人‥あんまりマジマジと見られると恥ずかしいっす‥。」
「ああすまん!やはり寝ても覚めても異世界に来たんだなと思ってさ。しかし今後はびっくりするから一緒のベッドで寝るなんて事はやめてくれな?」
「了解っす。でもあったかいものに擦り寄って行くのは本能なので、もしまたやっても許してほしいっすー。」
「こんにゃろうめ。とにかく着替えて朝食を摂るぞ。」
着替えてホールに向かうとそこには人だかりが出来ていた。
「あっ旦那様ぁーー!おはようございますー!」
俺を見つけるや否やなんだその呼び方!周りのみんなが勘違いするだろうが!
「イセ様?この人だかりは何の騒ぎでしょう?」
「様だなんて堅苦しい!どうぞイセとお呼びください!後この人だかりはいつの間にかお集まりになっただけですわ!」
そりゃあこの街の特級階級のお嬢様が宿のホールでメイド数人引き連れて紅茶かなんか啜ってたら何事かと思うだろう。
「ハルエが資料を届けに行くとのことでしたのでついでに同行したまででございますわ。朝食がまだでしたらぜひ同席させてください!」
ハルエというのは資料を運んでもらう約束の時に言っていたメイドの事だろう。落ち着いていて大量の紙の束を片手で持って微動だにしない。鍛えられたメイド集団の1人と見受けた。
「お話の途中失礼致します。ハルエと申します。普段はお嬢様の身の回りのお世話をさせて頂いております。昨日のご要望されておりました資料をお持ちいたしました。」
ハルエさんは厚さ5cmほどの紙の束を挟んだ皮のファイルを差し出し、テーブルに置く。
「こちらがガルツ神官様からお預かりしてきた資料でございます。お目通しください。」
「はい。ありがとうございます。では早速。」
案の定、異世界の文字での文書だったが全ての翻訳がその文字の上にルビのように浮かび上がり、読む事に支障はなかった。異世界転移ボーナス様様だな。議員時代の予算書、事業書に目を通す時の真剣さで臨む。
7分ほどで朝食が届くと一時中断。翻訳されているとはいえなかなか知らない単語もあり、苦労しそうだ。それでもその間3分の1ほど読み上げ、幾つかの法案や事業を思いついた。
「旦那様、もう少しゆっくりお食べになられては?」
おっと自衛隊の時みたくさっさと食べる癖が出てしまっていたようだ。アイデアが出ている時はついついこの癖が出てしまう。
「ああそうだね。気をつけるよ。どうも何か作業をしていたり策を思いつくと形にしたくて早食いの癖が抜けなくてね。」
「まぁさすが旦那様!こんな短時間の資料のお目通しでもう策を思いついていらっしゃるのですか!」
「そりゃあ事業は思いつきが重要だったり内容を混ぜる事に抵抗がないことが肝要だったりするからね。特に後者に関しては俺は得意な方で、傾向と対策を掛け合わせれば幾つかはすぐ出るもんさ。」
「すぐ出るよとすんなり言っちゃえるのがご主人のすごいところっす。」
「然りその通り!尊敬いたしますわ!」
パンとサラダを食べながら、わからない単語の内容を3人に確認しつつ思考を巡らせる。
「まずこの街には沢山の作物があるが、調理方法と名物化が出来てない。調理によって付加価値を高め、この街独自のものとして昇華出来そうなものが幾つかある。」
「確かにここベルレ・ガルアは作物の街ではありますが食の街というイメージはありませんわね。」
イセも目から鱗だったようだが昨夜食べた料理は心に響くという意味で何か一味足りない部分があると思っていた。作物の掛け合わせで新メニューを作り、売り出すことが出来れば、外交にも使える手段となり得る。『胃袋をつかんだ者勝ち』を狙って行く心づもりだ。その為にはこの後行くギルドで、解体したポガポガをどれだけ旨く調理出来るかにかかってくるだろう。
そしてもう一つ、これだけ食材がありながら食が単純ものになっている理由。その答えは食材が新鮮豊富でそのままで美味い為、調味料文化が乏しいということだ。新たな調味料が作成出来れば料理の幅が広がる。となれば、
「みんな、この街には豆類の畑はあるかな?」
「豆類ですか・・ 私の生まれた北東区に木の実を栽培している農家がございます。その辺りしか心当たりはございませんね。」
ハルエさんは即座に回答、頭の回る人はそれだけで助かる。優秀な人だな。
「まずはそこから当たってみよう。調味料作りに関して何か出来るかもしれない。」
事業主に通達するとハルエさんは言った。豆の調味料といえばあれだろう。手っ取り早く具現化も出来るがアデイで戻ってしまうのであれば、実物と作った試作品の味比べのために具現化するのがせいぜいかな。
そんなこんなで朝食を食べ終え、一行は一路ギルドの解体所へ。冒険者らしき人達が入れ替わり立ち替わりしている建物がある。目的地は意外と近かった。
「ミクニから聞いてるぜ。デカいポガポガを仕留めてくれたんだってな。捌きは俺が代わりにやってもいいが自分でやるのか?」
「そのつもりですが解体を依頼出来るなら今回は依頼します。解体料を払うことで街の経済が回りますから。また酒場に飲みに行ってやってください。」
「気前がいいというか昨日来たばっかりで先の事まで考えてくれてるんだな。よっしゃ!いい仕事して美味い酒にありつかせてもらうぜ!」
「その代わりと言っては何ですが、見学と鮮度を保つ為に捌いた部位は随時アイテムBOXに入れさせてください。一応血抜きはしてあります。」
「了解だ。早速こっちの部屋の台に乗せてくれ。」
三度、頭が頭だったものになってしまったポガポガを取り出し、台の上に載せた所でイセがその姿に慣れていないのか魂が抜けたように倒れかけ、それを受け止めたハルエさんと共に離脱した。こりゃあデケェな!と解体屋の方もその太い腕とマグロを捌く時に使うようなデカい刃物で捌き始める。足一つ一つにロープを巻いて左右に開く、そこから腹を裂き、内臓を取り出して行く、足から徐々に皮を剥いで皮が台の上のシート代わりになり、そこから内部の肉を各部位に切り分けていく。なんと大体が俺が屠殺所上がりの肉屋の社長から習った手順と変わらない方法だった。
「(初めて1人で捌いた時の獲物もデカかったなぁ‥推定7才の大物だった。6時間ぐらいかかったんだよなぁ)」
なんて昔を思い出しているうちに各部位が切り分けられてくる。肩ロース、バラ、スネ、アバラなど寄生虫がいないか見ていくが問題はなさそうだ。見た目の良い体躯から連想出来る通り、さすが解体屋と言いたくなる程のスピードで全ての部位を切り分けてくれた。
「よっしゃ。一丁上がりだ。これがどんな料理になるのか今から楽しみだぜ。」
「素材が問題なさそうなので色々思いついてます。また食べる機会にはお誘いしますよ。」
「ワシも楽しみにしとくよ。」
と後ろから引き締まった体の老人が声をかけてきて驚く。
「おお帰ってこられたんですねギルドマスター。こちらが例のベルレ神の使い、カナリ殿です。」
「加成剛志と言います。今回は作業場をお貸し下さりありがとうございます。」
「ギルドマスターのトウと申します。カナリ殿の助けにとお告げを受けておりますのでこれからもどうぞご遠慮なく申して下さい。」
ありがたい申し出だが、考えれば色々と魔獣に関してはこのギルドが関わってくるのだろう。鳥獣害の難題もここから飛んでくると言うわけだ。その分のお返しはすると暗に言っているわけだ。
「物のついでにお聞きしますが、畑を襲う害獣にはどのようなものがいるのですか?特徴を把握しておきたいのです。」
「おお対策を早速考えて下さると。では少し座ってお話を。」
という事でギルドマスターの部屋に通され、依頼書の一覧にその魔獣の挿絵もあり、その形態や特徴を知ることになった。猪に似たポガポガ、アライグマに似たマグマグ、鹿に似たヤックイ、デカい蛇スネーター、翼竜のようなランフォー、他にもドラゴンはドラゴンでいるようだ。スネーターとかランフォーとかは王騎兵団が出張る大物の事がしばしばあるようだ。
「最近では南区の方でランフォーが発見されております。奴らの好物であるペッポの実の収穫時期ですからな。」
「ペッポの実とは?」
「黒い香辛料の原料になる実ですな。肉料理に重宝する実です。」
こっちでいう胡椒か。この世界ではどうか知らないが文化レベル的に交易で役立ちそう。是非とも守りたいものだ。
「そのランフォー?ですが出没した際には連絡を頂けますか?」
「分かりました。すぐに連絡致します。」
こうして次の獲物が見つかった所でギルドを後にする。まだ日も高いし宿屋に戻る前に街を見物して行こう。
「装備も日用品も少し揃えたい。武器屋や道具屋に寄るよ。」
「了解っす。さっきハルエさんから路銀も渡されたっすから何でも買えるっすよー。」
「さっき渡されていたのはそれか。ありがたいな。」
「ポガポガを倒した討伐料って話っすから気兼ねなく使うっす!」
ドサっとお金の入った袋を俺の手に乗せてくる。結構多いけどこれは幾らなんだろう?そう言えば通貨の話をしてなかったなという事で聞いてみる。
「入ってるのは全部金貨っすね。金貨1枚で銀貨10枚分、銀貨1枚で銅貨10枚分、銅貨1枚で丸鉄貨10枚分、四角い鉄貨は丸鉄貨10枚分っす。他の国でも枚数による差額は変わらないっすけど、この国での通貨単位の名前は1ベレって呼ぶっす。」
成程、つまり1ベレ1円の感覚で良いって事だ。
「70枚ぐらい入ってるな。めちゃくちゃ討伐料高いじゃん。」
「被害の具合で考えたら安いぐらいっすよ。とりあえずお買い物しましょう。」
70万もあればひとまず食うにも困らないだろう。まずは装備品を見に行くことにした。




