討伐と突発
「ご主人‥それは?」
右手に握られた物体を見てチャルは未知のものに遭遇した顔をしている。
俺の手に握られたかつての相棒の名は、
『89式自動小銃』
武器を相棒と呼ぶ風習のある陸上自衛隊の数々の相棒と呼ばれる物の中でも最もポピュラーな物だろう。久々に握ったが何の違和感もなく、右手に持った弾倉を込め始める。
「安全装置よーし!薬室よーし!弾倉よーし!弾込めよーし!装填よーし!準備よーーーし!!!」
この弾込め動作の復命復唱を大声でやることで心の中で射撃モードへのスイッチが入る。同時にポガポガと呼ばれる魔獣もその声に驚き、動きを止めた。まずは動きを止めるという狙い通りと少ししゃがみ、中間姿勢の射撃姿勢を取り、一気に親指でレバーを回し3の位置に合わせる。
「あばよ」
ダダダン!!!
銃声が鳴り響き、ポガポガはその場にうずくまる。その顔面には3発の銃弾が三角形の形に命中していた。しかし、
「‥ありゃまだ生きてるな。トドメを刺して来るわ。」
「ふぇぇ?なんか言ってますか?ご主人〜><」
「あっやべ。」
近くで銃声を聞いてチャルの鼓膜が少し逝かれてしまったみたいだ。目を回したチャルを一旦その場に休ませ、俺はポガポガにとどめを刺しに行く。街道から分かれる農道を駆け上がり300mほどのところで奴はうずくまっている。俺が近づいても逃げる素振りは見せない。頭を撃たれて脳の運動野にでもダメージを負ったのだろう。何とか鼻と顎でその巨体を動かそうとしてるようだがこの大きさでは無理な話だ。一旦安全装置を掛けていた小銃の切り替えレバーをタの位置にし、とどめの1発を脳天にぶち込む。動かなくなったポガポガを見て、いつも猪に悩まされ、小銃の技量があるにも関わらず、家庭の事情で銃の所持使用ができなかったもどかしさを払拭出来た。長年の念願成就。頭から自動放血しているポガポガ。猪に似ているこいつは食えるかもしれないと思い、イデアと先ほど生み出したナイフを再び手にし、首元から更に血抜きをする事にした。
「うひゃぁ容赦ないっすねぇ‥。」
耳が回復したのかチャルが合流するなりそんな一言を放つ。
「農作物を荒らした奴に容赦はいらないよ。ところでさ?」
「はい?」
「こいつ食えるのかな?」
「えっ!あっはい!食べられると思うっす。そもそも子供のポガポガが岩を叩いて鼻を鍛えてる音からポガポガって名付けられてて、ここまで大きくなったのは仕留めるのに苦労するっすが子供は結構食用になってるっす。」
さっきの俺の動きや態度を見て気が動転しているのか求める質問の答え以上に詳しく説明してくれた。きっと優しい子なんだね。推せる。
「食えるのならしばらくは腹が満たせるな。今から調理が楽しみだ。」
アイテムBOXに初めて入れるには大物なポガポガを突っ込み、柵を応急処置して再び街を目指す。その途中で異変に気付いた街の人がやってきた。
「一体何があったんだ!?さっきの音は?あんたは?」
「旅の者ですが突如サーツを食い漁るポガポガに遭遇し、私の武器で不埒者を成敗いたしました。音はその武器の音です。」
日本語で通じる事に安堵したが、何だそうかとおそらくサーツの栽培者であろう男はまじまじとこちらを見てくる。風貌は問題ないと思うが何を確認したいのだろう?
「あんた‥もしかして今朝お告げが出てた神の使いじゃないかい?」
ありゃ?すでに把握されている?
「‥お告げは多分ベルレ・トーチ様が神像を通じてこの国の神官に伝えたんだと思うっす。」
なるほど。まあ知名度が最初からあるのなら願ったりと思っておこう。名が売れた時厄介な事にはなるだろうけど、最初から支援を受けやすくなる状況になるなら好都合だ。
アイテムBOXのポガポガの頭部だったものを見せ「うぇっ。」と納得してもらったあと、本日の宿への案内を頼んだ。
「俺はミクニというもんだ。ポガポガを退治してくれた事感謝するぜ。あいつらにはしょっちゅう柵や畑を荒らされて困ってたんだ。礼に飯の美味い良い宿を紹介するよ。」
「私も似たような生き物と日々戦ってましたよ。畑を荒らされたり家畜の餌を取られたり。その辺の対策については城主に謁見する時にでも尋ねてみるつもりです。」
元農業従事者としては放っては置けない案件であるし細身だが引き締まった体をしたこの壮年の男とは何だか波長が合うようだ。何か出来ればと思う。
話しているうちに街の跳ね橋までやってきた。その前に待っていたのは鍛え抜かれた体を礼服に隠す初老の男性とメイド数人だった。
「ベルレ・ガルアの街にようこそ。私、神官様からお迎えを申しつけられたフルイチと申します。ここからは私が神官様の元へご案内致します。」
どうやらお迎えがいたようだ。せっかくの紹介の宿を無下にするのも忍びないので後で向かう事を伝え、ミクニとはここで一旦別れる事にした。
「じゃあ俺はここまでだな。宿の方へは話しておくぜ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございますっすー!」
「では参りましょう。こちらにお乗りを。」
それは大きめのトカゲが引く馬車?だった。大きさ的に恐竜のフクイラプトルよりちょいと小さいぐらいか?感じた事の無い感覚、これぞ異世界。トカゲ車に乗り込み、移動を開始する。
街並みを見るに城下町と一般の2つに分かれているのか。貧富の差はあり、管理する側とされる側で分かれているのだろう。異世界だがそこは現実的だな。
ところで‥とフルイチさんが聞いてくる。
「遅れましたがお名前をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「これは失礼。カナリ・ツヨシと申します。カナリで結構です。こちらは従者のチャル・メラと言います。お見知り置きを。」
「カナリ様。チャル・メラ様。承知致しました。お告げの通りの風貌なので確認が遅れ申し訳ありません。」
「見知らぬ者を入れる時には用心した方がよろしいですね。推測恐縮ですが物見が私の行動を発見していたのでしょう。それで違いないと判断し受け入れた。用心したのはメイドさんの様ですし。」
「んにゃ?どういう事っすか?」
先程並んで立っていた時に気づいた事を話す。
「明らかに重心が訓練されているし、僧帽筋とかの膨らみ方が鍛えられすぎている。つまり、何かしたら取り押さえられる様にしてたってことさ。」
フルイチさんは一つ息を吐いて申し訳なさそうに口を開く。
「見抜かれておりましたか、申し訳ありません。このメイド達は護衛を兼ねるメイドを揃えておりました。失礼は平にご容赦を。」
「用心に越した事はありません。どうなるかも分からないのですから。」
「ご主人スゴいっす!」
チャルは目を輝かせ、メイドの方々は目を見開いている。
ほどなくして目的地に到着。
祭壇のあるデカい部屋に通される。
「ガルツ神官。例の方々をお連れしました。」
「おお来たか。」
こちらも初老の男性。いかにも西洋風の礼服という姿で丁寧に迎えてくれる。
「私はこの街の神官を務めているガルツといいます。ベルレ神の導きにより、其方を歓迎いたします。」
「ベルレ神によりこの世界に助太刀に来た加成剛志と言います。カナリで結構です。こちらは従者のチャル・メラです。以後お見知り置きを。」
「カナリ殿。早速で悪いのですが先程物見の報告で大きいポガポガを1人で倒したと報告を受けています。それは本当でしょうか?」
「はい、こちらに。」
ミクニに見せた時と同様、頭だったものをアイテムBOXから見せる。
「うおっ、確かに間違い無いですね。以前より街の者達からの手を焼いているという陳情も沢山来ていた個体でしょう。早々と討ち果たされるとは感服です。心強い。」
「恐れ入ります。たまたま到着前に農作物を荒らしていたので、元農業従事者として許せませんでした。被害はポガポガだけなのでしょうか?」
「いえ、他にも多数の魔物、幻惑の魔法を使って野菜を盗む魔族もおります。特に巨体、魔法は手を焼いている次第です。」
成る程、魔法は厄介だが獣達の知能がポガポガ程度なら対策は打てそうだ。
「では街に来た初仕事としてまずそれらの被害状況と作物の分布、食用になる魔物の資料を用意して頂けますか?対策を講じたいと思います。」
「早急に用意させます。」
「先約あって宿はこちらで確保しております。そちらに届けて頂けると助かります。」
ガルツ神官はメイドに持たせると約束して本日の会議は終了となると思ったのだが‥
「おや‥?イセ!こちらがベルレ神の使い、カナリ殿だ。こっちに来てご挨拶を!」
柱の影からこちらを伺っていた彼女はいそいそとこちらにやってきた。
「ガルツ神官の娘!イセ・シマ・スズカと申します!どうかイセとお呼びください!」
幾分緊張しているのだろうか、礼儀正しくも少し慌てて挨拶してくれた。
「よろしく。」
153cmぐらいか。年齢はおそらく中学生ぐらい。落ち着いた茶髪のセミロングのポニーテールの可愛らしい娘さんだ。
「この娘も巫女として素晴らしい魔力を秘め、日々修行に励んでおります。魔法が必要な入り用がありましたら遠慮なくお声がけ下さい。」
「わかりました。その時は是非。」
「いずれはあなたの妻にと思っております。」




