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現実世界でチートだった男が異世界に行ってもほぼチートだった件  作者: 松本隼龍


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兵士の常と3つの願い

魔人族軍は撤退を始めた。それを見て俺もメキの腕以外を解放する。

「カナリ様!」「ご主人!」とみんな駆け寄ってきた。

「ご主人大丈夫っすか!?怪我があったら治すっすよ!」

「あーなんとか大丈夫。服が何箇所か斬られただけだよ。チャルもお疲れ。イセ様もよく作戦通り動いてくれました。感謝します。」

「何をおっしゃられるのですか!私など最後は動転してしまい、足手纏いでしたわ。」

「それこそ何をおっしゃる、ですよ?」

残念がるイセの後ろから貴族的な女性が声を掛けた。

「シキブ伯母様!」

「久しぶりねイセちゃん!今回の目まぐるしい活躍見事でした!私が100点の花丸あげちゃう!」

「伯母様‥イセはもう学生じゃありませんのよ?」

イセちゃん強い!イセちゃん最高!と推し活女子みたいなノリのこの女性が話に聞くこの街の巫女であり、イセの伯母さんか。なんか快活でやはりガルツ神官の妹なんだなって感じするなぁ。

「そして初めまして、この街の巫女でイセの伯母に当たります、シキブ・ウコン・サガミでございます。この度はこの街をお救いくださり誠にありがとうございます。」

打って変わって礼儀正しい雰囲気。ギャップが激しい‥なんか親しみが湧いてくる。慕われてそうだなぁ。

「加成剛志と申します。今回はこの街を守る任を受け、それを果たせたようでなによりです。」

「その点については一生の感謝を。ですがそれは夫に任せると致しましょう。」

その後ろから先ほどの宣言を受けてくれたこの街のトップがお目見えだ。

「此度はソーアの街をお救いくださり感謝いたします。この街の神官パープル・ハイドレンジャ・サガミと申します。御使殿。」

ガルツ神官と同じ装束をした初老の男性。先程の威勢の良い宣言とは裏腹に柔和な雰囲気の御仁だ。街のトップ2人に名乗られたのだが夫婦合わせて「紫式部じゃねーか!」って所とウコン、サガミって百人一首かよ!って小学生まで競技カルタをやっていた身としては笑いとツッコミを堪えるのに必死だった。

「ベルレ神よりこの世界に遣わされました加成剛志と申します。カナリで結構です。こちらこそ先ほどの公約を受けて下さり、こちらの望む形での収束を図っていただき感謝致します。」

「元王国騎士上がりの自分から見て、お二人が一騎打ちにて事の落とし所を周知しようとしていたのは汲み取れましたので。後の展開は予想を上回っておりましたけどね。あれで民の納得が得られるならお安い御用ですよ。」

神官にしては体格が優れているなとは思ったけどそういう経歴か。軍人の心得を汲み取って貰えるとは僥倖だな。それを分かっている御仁なら‥

「そこで重ねてお願いなのですが、彼女の処遇についてです。」

後ろ手に拘束されたメキを前へ出す。

「私は2日前にお互いの立場を知らぬ状態で彼女と邂逅し、少し話をしました。兵になった経緯は数年前に人間族のドレイ商人の手下が彼女の村を襲い、その際に彼女を庇って捕まった姉がガサに売られたという情報を得て、消息を追う為、ガサの兵になったのです。」

一同は黙って2日前の出来事に耳を傾ける。

「姉はお亡くなりになっており、その復讐の対象はここソーアに奴隷制度の廃止に伴い、収監されていました。手が出せぬ状況に国から今回の侵略の命を受け、ここソーアに来る事となったのです。そこで戦闘に入って監獄が損壊した隙に対象は脱獄。その者は国境を越え、私達が泊まる街で私に絡んできた所を彼女に発見され、私は話を聞き、引き渡しました。それで復讐は完了したんだよな?」

俺はメキに確認する。

「はい、族長筋として私が一族を集め、その復讐を果たしました。この戦の後は退役し、一族の力になる心づもりでした。」

「それなら復讐を果たした際にそのまま撤退する事も出来たのではないですか?」

「「それは出来ないんだ。」」

イセの質問に、俺とパープル神官の声が重なる。王国騎士だけあってどうやら軍の役割については同じ見解らしい。

「イセ様。軍人というのは人間の手や脚のようなものなのです。頭が王で軍人が手足ならそこに感情は無く、頭の考えの下で動かねばならないのです。国が一度命令したものは遂行する義務が兵には発生するのですよ。」

パープル神官も頷きながらそれに付け加える。

「その命令に関係のない私怨は本来なら御法度だが、今回は事のついでに行えるという事で特別に許可が出たという所か。一度召喚士が引いたのにもこれで合点が入った。そして其奴はこの街で捉えたヒュウガ一党の頭領だろう。彼奴の悪事の内訳を考えれば同情の余地は余りある。そしてその入隊目的は果たせど任務の責は無くならず、私怨が済んだとはいえ戦を止める事は出来なかったという事なのだ。」

軍は王の手足。命令と思いや私情は別。それで守られる物もある。それをパープル神官も熟知しているからこその発言だ。叩き上げのめちゃ良い上官の雰囲気。2度同じ様な内容を聞き、イセも納得したようだ。

「だから神の御使の従者にするって言って兵士としての縛りからは解放したんだ。今後やってもらえそうな事はかなり考えられたからね。」

「それを感じ取った故にあそこで提案を受理したのだ。そして処遇だが、今の話を踏まえて3つの命令をそこな新たな従者に課しても良いですかな?御使殿。」

「伺いましょう。」

パープル神官はニヤリと笑い、

「では一つ目は従者の黒龍、ノクトと言いましたか、その龍の力を借りて今回の被害で出た瓦礫などの撤去と工事に充てさせて頂くこと。そして2つ目は一族の者を我が街で働く様に、または街の利益となる様に働く様に命を下してもらう事。よろしいかな?」

流石は街のトップ、街の復興を第一に考え、更にその労働力と外交の手札になり得る一族に心の安寧と族長の責任を認識させ、自ら住む場所を与える事で囲い、悪く言えば緩い人質を確保をする事にしたのか。一族は助かるならと思ったのかメキは頷いて答える。

「はい。後始末は当然の事、ノクトの力で手伝わせて頂きます。二つ目の一族移住に関しても抜けられぬ職や家族の探索に当たっている者以外はこちらにすぐ来る旨、取り計います。その際、どうか責は私にあるので一族には余計な刃が向かぬ様に寛大な対応をお願い出来ますでしょうか?」

「約束しましょう。」

その言葉を聞いてこれで思い残す事はない、今殺されても平気と安堵の一息を吐く。

そしてパープル神官は3つ目の要望を力の入った声で申し出た。


「3つ目は!これからはカナリ殿の従者としてその人生を以て全力で尽くし、生き抜きなさい。私とカナリ殿の許可なく死ぬ事を許しません!カナリ殿と苦楽を共にし、今回の責を感じながら人生を謳歌する事を命じます!」


!?  メキは驚きを隠せない。死を宣告されてもおかしくない状況でこれではほぼ咎はなく、その要望を街を戦火に巻き込まれた張本人から言い渡されたのだ。兵士は命に従うのみで善悪はその上にあり、されど誇りは失うべからず。上はその誇りを汚すべからず。兵士とトップの両方を経験した者の考えた末での決断だった。

「ド・メキ軍隊長。俺はそれで良いと思うけど返事は?」


顔を覗き込むと、メキは自然と涙を流していた。


姉を失った悲しみ、兵としての重圧、復讐に燃えた心、今回の事態に至るまでの全てを理解し、この2人は私を許す気なのだ。勿論枷はあるが今殺されるより万倍良い。まさか一族の為に動かせても貰えるなんて‥‥。


2人はその涙を見て、メキの言えるタイミングまで待つ。




「3つ目も‥喜んで‥全うさせて頂きます‥。」


頭を垂れて、メキの涙が地面にポタ‥ポタ‥と落ちる。



「チャル。」

「ハイっす。ご主人。」

「ド・メキ『元』軍隊長さんが落ち着くまでついていてあげて。俺は次の仕事に取り掛かるよ。」

そういってジャリ糸の拘束を解く。

「ええ!?カナリ様こそ少し休まれては?」

イセは昨夜の魔力切れで倒れた記憶が蘇り進言する。

「この状況下でアレに取り掛からないなんて『元いた部隊の連中』に何やってんだって怒られてしまいますよ。  パープル神官様。」

「はっはい。」

神官も面食らった様に返事をする。ここからまだ何をする気なのかこの男はと。

「しばし広場となってしまったこの場所をお借りします。あと出来るだけ皆に『皿』を用意してもらえるように伝えて頂けませんか?」


皿という一言でこの男が何をするのか一同気がついた。


「災害派遣野外炊事班の実力、特とご賞味あれ。」


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