第18話 飲んだくれ共
ハンターとしてギルド登録されてから4年がたち、私は12歳となった。
その間、別段大きな問題もない日常が続いており、私はというと……
「ようアンちゃん!遂に懸賞金が3桁の大台に乗ったな!今度は何をやったんだ?」
「いつも通り何という事はありませんよ。輸送中の商社の荷馬車を全て燃やしたら、それが王宮行の重要な積荷だった、というだけの話ですから」
「……毎度の事ながら、何でそんな事したんだ?」
「守秘義務というものがありますのでノーコメントです。そもそもで、毎度の事ですので、いいかげんに慣れてくださらないと私も面倒です」
……いい感じで腐っていた。
酔っ払い共に混じって、真昼間からギルドの酒場で飲んだくれていた。
原因はいくつかある。
第一に、この世界での飲酒に年齢制限がない事。
「酒は自分で稼げるようになってから」という、この世界での常識があるため、子供は飲んでいないというだけの話で、飲もうと思えば特に問題なく飲めてしまう。
まぁ私の場合『アサシン』のパッシブスキルである『状態異常耐性大強化』があるため、ほとんど酔う事がなく、いくら飲んでも、ちょっと気分が良くなる程度である。
第二に、仕事がない事。
ギルドへの裏依頼というものは、滅多にくるものではない。精々が2・3か月1回くらいである。
私が働くのは、その2・3か月に1回だけなので、それ以外の日は基本暇になってしまうのだ。
まぁその数が多いのか少ないのかはわからないが、冒険者ギルドクルーク王国支店に届けられる裏依頼はその程度である。
もっとも、ギルマスが受注する依頼の選別を行っているからその数なのか、私のところに回ってきていない依頼もあるのかもしれないからなのか、そのあたりはギルマス当人しかわからない話である。
そして第三。金だけはある!
リスクと難易度の高い裏依頼。その成功報酬はだいたい大金貨5~15枚である。
それを2・3か月に1回私は受けている。
つまるところ、前世の金銭価値でいうと、私は平均して年収4000万くらいもらっている。
ついでにいうと、この世界では、支払う税金はちょっとお高い住民税だけで、収入に応じて徴収される所得税が存在しないのだ。
私がこれだけ楽して生活しているのだから、他にも裏依頼をやっているハンターはいるのだから、そんな連中も裕福な暮らしをしているんじゃないか?と思うかもしれないが、コレは私がバカみたいな総合戦闘力を持っているからできる事なので、あまり推奨はできない。
たぶん、この世界ではけっこう強い部類に入るウチのギルマスでも、この裏依頼を受けたら成功率は1割未満だろう。
そして1回でも依頼失敗すれば、その結果は死か、投獄されて社会復帰不可のどちらかである。
本来なら、この成功率10%未満のカードに自らの命をBETする、超ハイリスク・ハイリターンな依頼なのだが、私の場合は成功率99%のカードに他人の命をBETしているような、超ローリスク・ハイリターンな賭けになっている。
うっかり失敗しても、ルーナ・ルイスの悪名が広まるだけで、アン・ノウンとして日常生活を送っている私には、そこまでの痛手にはならない。そもそもで、ルーナ・ルイスの悪名は既に世界中に知れ渡っている。
あ、もちろん依頼失敗しても、私が殺される事も捕まる事もたぶん無いだろうから、本当にリスクはほぼ無い依頼である。
まぁ、依頼内容は、殺しメインで、誘拐・強盗等々、やっていて気持ちの良い仕事じゃないんだけどね。
ともかく……
そんな色々な要因が合わさり、結果毎日1日中飲んだくれるという、腐った生活を送っていた。
もちろん、たまにはレベル上げをしに「古の幻林」に行ったりもしてるよ。
でもさぁ……あそこ遠いんだよ。それだけでやる気が削がれる。
「でもよぉアン嬢ちゃん。商社の荷馬車燃やしたって言ってたけど、その商人、馬車の輸送に護衛雇ってなかったのか?普通はギルドに5・6人募集で護衛依頼を出すもんだぞ」
おっと、どうやらまだ話は続いていたようで、別の酔っ払いから話しかけられる。
「20人ほどおりましたよ。『抵抗しなければ何もしない』と警告したのですが、私の顔を見るなり、よだれ垂らして襲い掛かってきたので、貞操の危機を感じ御退場いただきました」
この世から。
「20人って……よっぽど重要な荷物だったんだな……まぁ普通に考えて20人のハンターから集団リンチくらって平然としてる奴がいるなんて思わないよな」
「つうか、どこのギルドの連中だ?俺達のアン嬢に手を出そうとしやがったのは!?」
いつから私はお前等のものになったよ!?
「それはともかく、さすがは俺達のアン嬢ちゃんだな。『銀髪の堕天使』の二つ名は伊達じゃないな」
そう、何故だか最近世間ではよくわからない二つ名が出回っているようだった。
二つ名とか、中二心をくすぶる素敵ワードなのだが、何でこんな二つ名が付いたのか意味がわからない。
あ、それと……私はお前等のものになった覚えないからな。
「そう!気になっていたのですよ。何故そのような異名が私に付けられているのでしょう?」
とりあえず気になった事は質問してみる。
まぁ酔っ払いに答えなんか期待はしていないが、もしかしたら、って事もある。
「有名税みたいなもんだろ?」
「そうそう、有名人の特権だよアンちゃん。俺も二つ名とか付けられてみてぇよ……もちろんカッコいいやつな!」
やっぱ期待はずれな返答だな。
「いえ、私が知りたいのは『何故私に二つ名がついているのか?』ではなくて『何故私にそんな二つ名が付いたのか?』なのですが……ご存じあります?」
頭の弱い連中だ。もしかした質問の意味がわかってなかったのかもしれないと思い、とりあえず言い直してみる。
「ああ……そりゃ見た目の印象だな」
「そうそう、特徴的なキレイな銀髪。そして天使のような見た目とは裏腹に、出会った者を絶望に陥れる恐怖の象徴だから『堕天使』」
「で、その辺の特徴を合わせて『銀髪の堕天使』ってわけだ」
おお!?予想に反して的確な答えが返ってきた。
ってか口ぶりからすると皆知ってたの!?
「それは……初めて知りましたね……皆さんお詳しいのですね?」
素直に賞賛の言葉を送る。
「そりゃあ俺達で考えた二つ名だもんなぁ!」
……は?
今何つった?
「アン嬢ちゃんの布教活動の一環として、色々な所で言って回ってたら予想以上にヒットした感じで驚いたよな」
「アンちゃんは元々結構な有名人だったからな……広まるのは早かったよな」
自慢げ語っている酔っ払い3人。
「お前等が元凶かあぁぁ!!?」
とりあえず3人を、死なない程度に壁にぶん投げておいた。
気絶した顔が、何故か嬉しそうなのが気持ち悪かった。




