番外編 ~出席番号2番 安西良樹~
俺は、この世界でエルフとして生まれ変わった。
自分が死んだ事に関しては、特には実感がなかった。
そりゃそうだ、だって現に今、記憶を継続させたまま生きてるんだから。
両親に対しては「悪い事したな」という罪悪感が凄く強かった。
最初のうちは、その罪悪感で押しつぶされそうにもなったりもしたが、どんなに想っても泣き叫んでもどうにもならない事はある、と納得する事で少し楽になった。
想うだけで、死人が生き返ったら、世の中ゾンビだらけだ。
神様っぽいヤツが言うには、この世界は誰かが作ったゲームの世界らしい。
ただ、ゲームとは思えない人々の営みがあり、ゲームにしたらどれだけの容量食うんだ?と思うほどの広大な世界があった。
それでいて、頭の中で指示をするだけで、自分のステータス等が視界に、半透明の文字で表示されたり、表示されたメニュー画面みたいな部分を、頭の中で選択すると、それにそって情報が見れたりと、まるでゲームのような仕様になっている部分もあったりと、何ともいえない現実世界だった。
何故こんなステータス表示が見れるのか、とかはまったくわからない。
他の人も、自分の分は見れているようだったので、俺だけに備わっている能力というわけではなく、これがこの世界の常識なのだろう。
ここは前世と同じ世界ではない。
もしかしたら、身体的な見た目は同じような感じでも、中身の器官が多少違っていて、そのせいでこの様なコマンド選択ができるのかもしれない。
前世での常識は捨てるべきなのかもしれない。
そんなわけで、俺はこのゲームのような現実世界を謳歌しようと決めた。
幸いにも、この世界での俺の両親は色々と理解のある人で、俺に「自分の好きなように生きていい」と言ってくれたため、俺は10歳の時ハンターとなった。
ギルドに所属して依頼をこなし、この世界での生活基盤を築いていった。
レベルも順当に上がっていき、プリーストとしてレベルが29まで上がった16歳のある日、ある依頼を達成するためのパーティに誘われた。
リーダーは高位職のレベル31のベテランハンターで、他にも高位職のハンターが3人いた。
回復役が見つからずに困っていたため、高位職のハイプリーストを諦めて、下級職のプリーストで妥協することとなり、若くしてレベルの高い俺に話が回ってきたようだった。
この世界の人々は、あまりレベル上げという概念がないようで、普通に依頼をこなしているハンターで、高位職になれるのは30歳を越えたあたりかららしかった。
そんな連中からしたら、10代で高位職目前の俺は、だいぶ新進気鋭なんだろう。
妥協で誘われたとはいえ、あまり悪い気はしなかった。
依頼内容は『古の幻林の調査』報酬額は大金貨3枚……通常依頼にしては破格の報酬額だ。
なんでもここ数年で、今まで調査がまったく進んでいなかった未知の場所が次々と調査依頼達成されているらしく、残っている未知領域が、この『古の幻林』だけになってしまっているのだという。
報酬額を分割しなくてはならないので、本来ならパーティプレイはしたくはなかったらしいのだが、それでもこの調査依頼は、他の依頼に比べて分割しても割のいい依頼となっており、他の国のどこの馬の骨かもわからないヤツに取られるくらいなら、先にやってしまおうと動き出したのだった。
一緒に調査をするのは、この辺では有名なハンター達で、その人達に混じって行動できている自分が妙に誇らしく思えた。
この時ばかりは、前世でのゲーム知識に感謝した。
道中は、報酬を何に使うかで盛り上がりながらも、調査依頼は数週間にも及ぶため、長期依頼を受けた事がない俺にベテランハンター達は色々と冒険知識を教えてくれた。
異変はすぐに起こった。
古の幻林の入り口に、俺と同年代くらいの少女が一人立っていた。
少女は俺達の存在に気が付くと、ゆっくりと視線をこちらへと向ける。
その目は、生気のない死んだような瞳だった。
しかし、その少女は幽霊などではなく、確実に生きていた。
「職業『ソーサラー』?聞いた事ない職だな……」
リーダーが小声でつぶやく。
俺はまだ使えないが、高位職が使える『鑑定』を使っているのだろう。
それにしても『ソーサラー』?前世のゲーム知識で考えれば、魔法使い系の職業なのか?
「いや……問題はそこじゃねぇだろ?レベル84で総合戦闘力67000超えとか化物かよ……」
ベテランハンターの一人が、リーダーのつぶやきに対して小声で応える。
67000!?異常すぎだろ!?
戦闘職であるソードファイターのリーダーでも4000超えくらいだというのに、どうすればそんな戦闘力叩き出せるんだ?
うろたえている俺達を前にして、その少女は特に何をするでもなく、黙ったままコチラを見ながら立っていた。
そして、少女の後ろ……古の幻林の入り口から、唐突にもう一人別の少女が顔を出す。
その途端、ベテランハンター達の顔色が変わる。
「あの顔……気を付けろ。ルーナ・ルイスだ……」
ルーナ・ルイス!?
10年近く指名手配されている少女で、懸賞金の額は大金貨300枚を超える超極悪犯罪者。何人もの腕に覚えのあるハンターが打ち取ろうして、逆に殺されているアノ……
「冗談じゃない……アッチも聞いた事ない職業だ……それにあの総合戦闘力……どうやって倒せっていうんだよアレ?」
「倒す?バカ言うな……逃げる事を優先するべきだろう?」
「だがここにきての超大物だ……万が一倒せれば俺達遊んで暮らせるぞ……」
こちらの小声でのやり取りなど意にも介さず、少女2人もまた何やら話しているようだった。
ベテランハンター達の話を聞いていると、あのルーナ・ルイスも、もう一人の少女同様に異様な総合戦闘力があるのだろうが……
「安西……良樹、君?」
死んだような目の少女から漏れたつぶやきに言葉を失う。
何だ!?何で俺の前世の名前を知ってるんだ!?もしかして、この少女もクラスメイトの誰かなのか?いや……それ以前に、何で俺の名前がわかったんだ!?
「アナタも……アナタも私の全てを壊しに来たの?」
みるみる膨れ上がる少女の殺気。
何でだ!?俺が何をしたんだよ!!?
前世で俺はこの子の恨みを買うような事何かしたか!?身に覚えがまったくないぞ!?そもそも誰だよ、この子の前世!?
「クソ!!向こうはやる気だぞ!やるしかねぇぞ!!」
ベテランハンター達が身構える。
「ファイアボール!!」
ウィザードのハンターが先制攻撃で魔法を放つ。
いつでも動けるように、いちおう魔法をセットしていたのだろう。
「……スペルバニッシャー」
少女が一言放つと、ファイアボールは跡形もなく消滅する。
「なっ!!?……今何をしたんだ!?」
焦るウィザードハンター。
まったく同意見だ。気持ちはよくわかる。
「やっぱり……やっぱりそうなんだね……良樹君……」
だから何が!!?
「落ち着いてルカ!」
ルーナ・ルイスが叫ぶ。
ルカ?……もしかして西野琉花?
「エクストリーム・サンダーストーム!!」
聞いた事もない魔法名が西野さんの口から放たれる。
おかしいだろ!?ウェイトタイム短すぎじゃない?
全身に凄まじい痛みが走る。意識を保つ事さえできなくなるような痛みだ。
「な……んで……?西野さん……」
その一言で俺の意識は途切れる。
ほんと……何でだよ?俺、前世じゃ西野さんと結構仲良くしてた気でいたのになぁ……
………
……
…
気が付くと辺りは真っ暗だった。
西野さんとルーナ・ルイスは既にいなくなっていた。
生きてるのか?俺?
全身の激しい痛みで、まだ生きている事を実感する。
周りを見渡す。
他のベテランハンター達は事きれているようだった。
西野さんへと向かって駆けて行った前衛3人、分散して別魔法をセットしようとしたウィザード。そして、その場を動かずに、一番遠い位置にいた俺。
位置関係と、下級職とはいえパーティ内で一番魔法抵抗値が高かった事が合わさってギリギリ生きていられたようだった。
それにしても、西野さんのあの強さ……
もしかして西野さん魔法職を極めているのだろうか?誰もあの魔法の威力は越えられないだろう……
「魔法使いの王……『魔王ルカ』、か……」
何となく思った事をつぶやいてみる。
俺ももうちょっと頑張って強くなろう……
ちなみに……
後日、この事をギルドに報告したところ『魔王ルカ』の名前がルーナ・ルイスに並ぶ恐怖の代名詞として広まる事となったのだった。




