太陽の子供たち
評価、ブックマークへの感謝を込めて、短編です。
エレンディア王国の王城内を歩いている、三人の子供達がいた。
四歳くらいの二人の子供は仲良く手を繋ぎ、二人より少し大きい子供の後をついて歩いている。
手を繋いでいる子供の一人は男の子。輝くような金の髪に深い碧の瞳、上質な布に金糸の刺繍が入った上等な服を身に纏っている。
その男の子と手を繋いでいるのは女の子。柔らかな黒髪に空色と金色の二色の瞳。身に纏っているのは平民の服だが、顔立ちは美しく愛らしい。
そして二人の前を歩くのは、腰に剣を佩いた女児の兄らしき子供。女児と同じ黒髪は短く、空色の瞳はきりりと鋭い。
「アル、あそぼ。」
「おにいちゃん、あそぼー。」
金髪の子供にアルと呼ばれた子供は、困ったように眉を下げて二人に振り返った。そして、兄の表情を見た女児が憤慨し始める。
「エリーだって、いっしょがいい!」
「エリー、アルはなんだって?」
金髪の子供が女児に確認するとエリーと呼ばれた女児は、更に怒りを表情にのせて金髪の子供を見た。
「シルビスはいいけど、エリーはだめだっていうの!あぶないからって!」
「なにがぼくならいいんだい?」
「トムとおけいこ!おんなのこはダメだって!」
金髪の子供、シルビスも困った顔になってアルを見た。
「アル、じゃましないよ。エリーとぼくもみていい?」
アルは困った顔のまま少し悩む様子を見せて、こくんと頷いた。
「まぁ!おにいちゃんいじわるね!エリーだっておとなしくみるもん!」
また怒り始めた妹の頭をアルは優しく笑って撫でて、また歩き始めた。
問うように向けられたシルビスの視線を受けて、エリーは口を開く。
「エリーはおとなしくみれるのかなっていったのよ。しつれいしちゃう!」
「しかたないね。エリーはいつもぴょこぴょこしてるもん。」
「シルビスまでいじわるね!」
アルは、妹達のペースに合わせてゆっくり歩き、訓練場につくと誰かを探してキョロキョロする。
笑顔になったアルが駆け寄ったのは、短い金髪に空色の瞳のがっしりとした体格の騎士だった。その騎士は駆け寄るアルに気付くと優しく微笑み、近くまで来たアルの頭を撫でる。そして、アルの後ろについて来たエリーとシルビスを見て苦く笑う。
「エリーまで来たのか。お転婆な娘だ。」
そう言って、男はエリーを軽々と抱き上げた。
「エリーだっておにいちゃんととうさまといっしょがいいもん!」
「そうか。だが、邪魔をしたらいけないぞ。」
「ダニエル、ぼくも!」
抱き上げられたエリーを羨ましげに見たシルビスがエリーの父に手を伸ばす。優しく笑ったダニエルは、もう一方の手でシルビスを抱き上げた。
「お!アル、来たか。約束だ、稽古つけてやる!」
「はい!トムさん、よろしくお願いします!」
一人の騎士から掛けられた声に、アルは元気良く返事をして駆け出した。
二人の子供を抱き上げたダニエルは、そのままアルとトムが見える場所へと移動する。
「アディには、ちゃんと言って出て来たのか?」
ダニエルが聞くとエリーは元気良く返事をする。
「ちゃんといったよ!おにいちゃんからはなれないならいいって。」
「アディは母上といっしょにいます。」
二人の子供の返事に、ダニエルはそうかと呟いて微笑んだ。
「ねぇダニエル、ぼくもいつつになったら、アルといっしょにおしえてくれる?」
シルビスの言葉に、ダニエルは困ったように眉を下げる。先程のアルと良く似た表情だ。
「シルビス様には、来年立派な家庭教師がつくとお父上が仰っていましたよ。」
「ぼく、アルといっしょがいい!」
「シルビス、だめよ。おうじさまなんだもん。」
困った顔の父を助けるように、エリーがシルビスを嗜める。
嗜められて、シルビスはふくれっ面でエリーを見た。
「じゃあ、エリーとアルがぼくといっしょにおべんきょしよ?父上がそうしてもいいって。」
「シルビスはあまえんぼさんね。いいわよ。」
おませな娘と自国の王子の会話にダニエルは顔を綻ばせている。
そんな彼らに、二人の女性が近付いて来た。一人は、シルビスと良く似た金の髪に碧の瞳の高貴な身形の女性。ただ、訓練場の騎士達は彼女の来訪に慣れているのか、略式の礼を執ってすぐにまた訓練へと戻って行く。
「母上!」
ダニエルの肩から降ろしてもらったシルビスがその女性へと駆け寄った。
エリーも同じように、もう一人の女性に駆け寄って抱き上げられる。美しい黒髪に赤と金二色の瞳の女性は、エリーを抱いてダニエルへと歩み寄り、ダニエルの頬へキスをする。
「アディ、お茶は終わりか?」
ダニエルに愛しげな瞳で見つめられ、アディは笑顔で頷いた。
「アルは筋が良い。」
妻と娘を抱き寄せて、ダニエルは誇らしげにトムと剣を打ち合わせている息子を見やる。
そんな彼らを真っ青な空と暖かな太陽が見守っていた。




