91・アデル様の事情
問いかけた私に、アデル様はこう答えた。
「ユリアガ、コイシクナッタ」
終了。
「ええと……アデル様? 答えになっていませんよ」
「キュ?」
「目をぱちぱちしてもダメです! ちゃんと説明してください」
くっ……!! なんという事でしょう。リファのまねっこまでするとは。
しかしこれでは、アデル様がこうなった事への説明には繋がらないと思うんだ。
「フム……カンタンニイウ、オレハ、イチブヲグゲンカ」
「具現化?」
「ハナヨメへノオモイ、グゲンカシタ」
「私への想い……」
――が、まさかこれ?
ちまっとした、コロコロ可愛いこの姿が?
抱き上げたその体は、余りにも小さくて……。
「……私への想いが、小さすぎや過ぎませんか、アデル様っ!?」
今の姿は、ちまっとして可愛いとは思いますよ? 思いますけど。
幾らなんでも私への想いがこんなに小さいなんてっ! ちょっとショックです。
せめて通常のリファくらいの大きさがあってもいいと思うんだ?
いや、別に私の愛情を疑っている訳じゃない、うん、疑ってなんていないですよ?
ええ、ちっとも疑ったりなんて……疑ったりなんて、うう。
「私への愛情の大きさが、このぬいぐるみサイズとは……」
まるで舞台でのお芝居のように、その場に盛大に打ちひしがれる私。
あれ? でもこの姿って確かに私好みと言えなくもない気が……?
「まあまあ、ユリア、今はそれどころじゃ……」
「はっ!? そうでした」
ローディナに止められて我に返る。確かに今はそれどころじゃない。
それから私は小さなアデル様から少しずつ経緯を聞きだした。
これまでアデル様は魔王様(仮)のリオさんと対峙していたそうだが、
花嫁と長期に渡って離れていた影響で、別の本能がその最中に働きだした。
そう、言わずもがな龍の花嫁溺愛発作だ。そしてこれは本人の意思をも凌駕する。
『ユリアが泣いている気がする……』
アデル様は戦いながらも私の泣いている姿が脳裏を過ったらしい。
きっとそれは帰らぬアデル様を想って、泣く私を感じ取ったのだろう。
(そうか、私はアデル様によって魂自体にマーキングされていたから)
けれどここを退けば、戦況は不利になるかもしれない。
そんな訳でアデル様は花嫁を求めて暴走する前に、戦いのさなかに隙を見ては、
自分の本能の一部を魔力で粘製して具現化し、自身の分身を作ったそうだ。
花嫁を想う心の一部から生まれた分身を、私の元へ行かせようとしたのだと。
本当ならば、その僅かな魔力でさえも無駄には出来ないものだったので、
当初は分身を作るような事は考えていなかったらしい。
だが本能が暴走しては元も子もないという訳で作られて、
目の前のミニマムバージョンなアデル様が出来たのだと。
「オレノカラダ、ホンタイ、ツナガッテイル。オレカラ、ユリアノスガタ、ワカル」
しかしながら、この小さな体は少量の魔力粘製で作られた疑似体。
コンパスの小ささもあり、余り魔力を無駄に出来ないとのことで最低限で生まれた為、
この体では思ったよりも進めず、更に途中で魔物にも出くわしたりして、
余分な魔力も尽きかけ、あわや消滅しかけていたらしい。
こうして私達と出会えたのは奇跡だったのだろう、
ティアルが見つけてくれて本当に良かった。
「みい、ネエネエ、ティアル、エライ?」
「うん、アデル様を見つけてくれてありがとうねティアル」
「みい、ティアルエライノ、エッヘンナノ」
「ユリア……オレノ、ホンタイハ、イマモ、リオトイル」
「では、今もアデル様自身はリオさんと交戦中で、
どさくさに紛れて分身を使う事で、私の様子を見に行かせたと」
こっくりと頷くミニマムなアデル様。
(つまり、今いるアデル様はディータさんみたいに魔力によって動いているのかな)
では本体であるアデル様自身は、未だどこかに居るのか。
(アデル様がまだどこかに……)
ここには居ないアデル様に思いをはせる私。
そんな私に目の前の小さなアデル様は、私とやっと会えたことで機嫌がいいらしく、
喉をゴロゴロならして私を見つめていた。
「コレナラ、ユリアト、イッショデキルナ」
この時の為に、戦いの最中にも練習した甲斐があったとかなんとか、
えへんと言わんばかりに、反り返ったアデル様の分身の姿があるけれども。
あ、もしかして今度はティアルの真似っこしたのかな?
ええと、無事だったことは安堵したんですが、なんか……言っていいですかね。
「アデル様……才能の無駄遣いって言葉をご存知ですか?」
会えて嬉しかったんですが、なんか頑張る方向性が間違っている気が……。
何も戦闘中にまで練習しなくてもいいでしょうに。
大変な状況下で何をやっているんですか、あのお方は。
努力する内容がおかしいと突っ込みを入れるべきなのか?
「グ……マズイ」
しかしやはりこのままでは魔力の消耗が激しく、体の維持が大変だということで、
ティアルが持っているぬいぐるみ版アデル様の存在に目が留まると、
小さなアデル様の姿は、ぬいぐるみの中に吸い込まれるように消えて行った。
「え? うそ? ア、アデル様が……っ!」
「み?」
まさか消滅したのではと慌てた私に、応えるかのように、
ティアルが抱っこしているぬいぐるみが、突然動き始めましたよ!?
「あ、アデル様のぬいぐるみが!?」
「ココデキエル、ダメダ、オレハユリアノオモイノケッショウ。
ドレヒトツ、ムダニデキナイ、ホンタイニカエス」
「ぬいぐるみからアデル様の声が……って、想いの結晶?」
――かくしてアデル様の分身は、動くぬいぐるみ版アデル様に同化したのである。
ぴょこぴょこ動くぬいぐるみ版アデル様から、
アデル様の声が聞こえてくるんですが……。
「みい! アデル、ヌイグルミ! スゴイスゴイ」
ティアルはそんなアデル様を見て大喜びだ。
「えーと……」
なんか、変な感じだ。この可愛らしい姿にはとても似つかわしくない声。
アデル様はやむを得ないといった感じでぬいぐるみの中に入っているようだけれども、
やはりプライドがあるのか、もこもこの両前足を見て小刻みに震えていた。
「……マサカ、コノオレガ、ココマデ、オチルトハナ……」
「あの、アデル様、大丈夫ですか?」
そうですよね。アデル様は気高き龍の長の生き残り、
その龍がやむを得ないとはいえ、こんなに愛らしく弱弱しい姿になるなんて。
きっと私が思う以上にショックなことに違いないと思うんだ。
「……ハッ、ダガマテ、コレハ、オレノナリタカッタ、ケダマデハナイカ……」
「え゛っ?」
動きにくいと最初は文句があったアデル様だったけれども、
やがて何かに気付いたのか、ワキワキと、ぬいぐるみの前足が元気よく動き、
丸みを帯びた龍の尾が揺れている。
そう、まるで喜んでいる時のリファのように。
あれえ? 龍の誇り……どこに行った?
「ユリア、ヨロコンデクレ、コレデ、ユリアノスキナ、ケダマシュゾクダ」
「へ? け、毛玉?」
「ああ……そういえばこいつ、ずっと自分が毛皮持ってない事を気にしていた気が」
「え? ラミスさん今なんて?」
「オレハ、オレハ、ツイニ、ケダマニ……」
じいん……と感動した素振りを見せるアデル様。
これまで呆然と傍観していたラミスさんは、アデル様の言葉に頭を抱え、
私の思考は完全に停止した。えと、なんでこんな時に毛玉の話が出てくるの?
「ああ、それは私もラミルスから話を聞いたな。
なんでもユリア君の好みが、毛で覆われているふわふわの種族だとか何とかで。
だから毛生え薬を大量に買い占めて、全身に使って卒倒したとか?」
ルディ王子様の相槌に、私はぷるぷると小刻みに体が震える。
ええと、つまり私がふわもこを好きだったから?
「……」
そういえば、私の言動がアデル様に大きく影響するって以前に……。
「つまり、やっぱりこのちっこいのもアデルバードってことなのかよ、嘘だろ」
「ラミスさん」
「あ~あ、すっかり弱弱しくなっちまって、蒼黒龍の威厳が丸つぶれだなおい。
これじゃあユリアに守ってもらわないといけない位じゃ――」
げらげら笑いながらアデル様の頭を強くなでくり始めたラミスさんでしたが、
それまで私の腕の中で大人しくしていたアデル様は、ぎっと後ろを振り返ると、
直後、一陣の風がラミスさんを取り込み後方へと豪快に弾き飛ばす。
「のわあああっ!?」
「キヤスクサワルナ、オレニフレテイイ、ユリアダケ」
小さなぬいぐるみの前足がラミスさんへと魔法を放ったようで。
その愛らしい姿からはとてもとても似つかわしくない、
地を這うようなアデル様の声が響きました。
「ユリアハ、オレガマモル、オマエニ、イワレルマデモナイ」
「ラ、ラミスさん!? アデル様ダメですよ。
ラミスさんだって心配してくれていたんですからね」
「ユリア君、本能から生まれた彼は小さくても蒼黒龍だ。あきらめたまえ」
「ルディ王子様……でも」
「みい、ネエ~アデル、アデル、ティアルハ?
ティアルモ、アデルダッコスル、ダッコダッコ」
くるくるとアデル様と私の周りを飛んでいるティアルは、
そんなアデル様でさえも怖がらずに顔を覗き込んだりしていました。
だから、アデル様はいつも懐いてくれるティアルを、
邪険にするわけにもいかなかったのか。
「……イイダロウ」
「みい、ワーイ」
あっさりOKが出ていました。相変わらずティアルには甘いですねアデル様。
アデル様にとっては、ティアルは年の離れた弟みたいな感覚なのかな。
ティアルがみゃあみゃあ言ってアデル様に抱き着いておりますよ。
まあ、ティアルがこうしてぬいぐるみを持って付いてこなかったら、
きっとアデル様も危なかったでしょうし。結果オーライなのかしら。
「「ラミルス様大丈夫ですかっ?」」
すると、みごとなシンクロ率でハモったローディナとリーディナの声。
二人が慌てて飛ばされたラミスさんを助けに駆け寄り、
アンはそんな様子を見て、おろおろしながら此方を交互に見ていて、
王子サマーズ達は、とばっちりに巻き込まれない程度に距離を保ち、
他の騎士の人達は失言しないようにと、自身の口を両手で塞いでいた。
ええ、決してここで「可愛い」とか、
「チビ」とか言ったら逆鱗に触れるでしょうね。
あ、勿論本物の逆鱗の方じゃないですよ?
「……っ、アデルバード!! お前なあ! いきなり何す……」
ス――ハ――……。
ラミスさんが抗議を上げようとするもなんのその、
アデル様は目の前のラミスさんを無視すると、
私に抱き着き、私の匂いを嗅ぎ始めました。
えと、ぬいぐるみの姿でも嗅覚ってあるのでしょうか?
「あ、あのっ、アデル様!?」
急に甘えだしたアデル様に、わたわたと私が止めさせようとするも、
アデル様はそのぬいぐるみ特有のつぶらな瞳を向けてくるのです。
ええ、それは先ほど同じ顔で、全く違う事をしでかした方とは思えない変わりようで。
「ユリアノニオイ……ユリアノヌクモリ……オレノハナヨメ」
「……い、いつものアデル様よりも愛情表現が顕著な気が」
「ヤットアエタ」
「アデル様……」
アデル様の言葉に、私もついつい胸がじいんと切なくなってしまいます。
そうです。こんな形だけれどもアデル様は私の事を忘れずにいてくれた。
そして危険を顧みずに、会いに来ようとしてくれたんですよね。
「お前っ!! どさくさに紛れて、その姿を利用してユリアに甘えるなぁああっ!!
というかお前、弱弱しい振りして実は俺よりもずっと強いだろ!」
ええ、それは私も思いました。この姿で簡単に高等魔法ぶっ放すんですからね。
とてもとても、か弱いぬいぐるみの所業とは思えませんよ。
いえ、そもそもぬいぐるみは動いたりできませんけどね。
「……ねえ、ユリア、龍体のアデルバード様ってお屋敷ではいつもこんな感じなの?
なんか、普段のイメージとかけ離れているわね」
「ち、違いますリーディナ、これは、その……っ」
「うふふっ、仲が良くていいわね」
「ローディナまで……」
ゴーイングマイウェイなアデル様、本能の一部を切り離したものだった為、
いつもよりも本能まっしぐらな状態へと様変わりしている様子です。
そう、龍まっしぐらですよ。
でもこれを拒めるかというと……私にはとてもできませんでした。
こうして私に触れるのは、アデル様がどこかで寂しい思いをしているからでしょうから。
せめて私は、孤独なアデル様の心を少しでも、埋めてあげる事ぐらいしかできないのです。
※ ※ ※ ※
「――という訳で、改めまして新メンバーのアンにもご紹介しますね。
こちらはちょっと変わり果てたお姿ですが、私のご主人様……で、
しょ、将来を誓い合いました恋人……のアデル様です」
「は、はあ……初めまして、アンフィールです」
「そしてアデル様、こちらがアンフィール・グランフォルチェです。
この度、ご縁あって私達と旅の同行をすることになりました」
「……」
落ち着いた頃合いを見て、アンを紹介した私だったけれども、
得体のしれない動くぬいぐるみを見て、アンは戸惑っているし、
アデル様もこれまでの事をよく覚えているのか、かなり警戒していました。
一応簡単に説明はしたんですけれども、アンの素性に気づいたアデル様は、
まるで隙あらば攻撃しようと思っているのか、グルグル唸っていますし。
「……ヤハリ、オマエカラ、リオノニオイ、スル」
「あ、あのそれは……」
リオさんの心臓の半分を彼女が持っている影響でしょう。
いわばアンは、望んだわけでもないのにリオさんの半身も同然の状態。
でも、他の人の目があるこの場で、そんなことを説明できませんし。
(流石に、心臓の話は皆に話せないし)
「オマエ、ユリアヲ、オソッタヤツダナ、ナゼ、ココニイル?」
それは収穫祭の時に、ルディ王子様を狙って放たれた攻撃の件だろう。
私はルディ王子様と一緒にいたから、結果的に私は巻き込まれた形になる。
私自身が直接狙われたわけではないにせよ、命の危険に晒された事には変わらない。
(だからアデル様は、今もそれを許せていないんだ……伴侶として)
目の前で花嫁を傷つけようとすれば、龍の報復対象には十分の理由だ。
アデル様は「なぜこいつとの同行を許可したんだ」と言わんばかりに、
私の背後のルディ王子様をにらんでいます。
でも怒れるアデル様を、私の方に抱き寄せて私は首を振った。
報復を望んでいる訳じゃない、それは何も解決しない。
必要なのは救いの手と許しの心、そしてアンを信じてあげる勇気だろう。
「ユリア……コワイオモイ、サセタ」
「……っ」
アデル様の言葉に、目の前のアンがびくりと肩を揺らす。
「アデル様、もう私は怖くありません」
「ユリア二、キガイクワエル、オレハイヤダ。ヨウシャシナイ」
「アデル様……もういいんです。アンと私は和解しました。
それにあの件は彼女の意思でやったものじゃないから、
みんな、みんな不幸な連鎖によって起きた事で、彼女も被害者なんです」
大切な親友があんな状態になったアデル様なら、その気持ちを理解してくれるはず。
助けられるなら助けてあげたいって、今でも思っているだろうから、
私はそれをアデル様に伝えた。この子を助けたい、この子を守りたい、
その為には、リオさんとの決着がどうしても必要なのだと。
「この子も当事者なら、それを知る権利がある。
アンは償いの為に協力してくれることを約束してくれました」
「ユリア」
「それにもしかしたら、私やローディナがああなっていたかもしれません」
頼る者がいない、あの時の孤独と恐怖を今でも覚えている。
私はリファに見つけてもらい、アデル様に助けてもらえたけれど、
それ以上の苦しみを、この子はずっと耐えていたんだ。
それを思うと……。
「……オレハ」
「分かっています。すぐには信じられないことは……。
だから、アデル様はこれからのアンを見てあげてください」
こういう時、物語では主人公との信頼関係の深さが大きく左右されるのならば、
それを証明してあげられるのは、彼女が主人公だと知っている私だけだと思う。
だから私は彼女を信じる。信じることが出来る。彼女の味方になるって決めた。
もう一人のユリアが、大事な気持ちを私に教えてくれたから。
アデル様がリオさんを助けたいように、私も彼女を助けたい。
「……ユリア」
「私はアンを信じています。私達の本当の仲間になってくれたって」
しばし沈黙したアデル様は私に寄りかかると、
「ソレガ、ユリアノ、ノゾミナノカ……」
と呟き、
「コンドコソ、ネガイ、カナエタイ……」
渋々だけれども、この件は保留にしてくれることになった。
「……ありがとうございますアデル様」
私は目の前のアンに向けて、にっこりとほほ笑んでガッツポーズ。
アデル様から信頼を勝ち取るのは、まだまだ時間がかかる事位分かっている。
だから私はその架け橋にならなくちゃ、それがユリア本来のお役目だものね。
そんな訳で、少し機嫌の悪くなったアデル様を抱きながらふと考える。
さて、アデル様も(分身だけれども)そろった事だし、作戦会議をしなくちゃ。
「あれ? ところで私、何か今とても大事な事を忘れている気が……」
そう思って後ろを振り返れば、息も絶え絶えになり倒れているルディ王子様の姿が。
目を凝らせば、以前より呪いの鎖がうねうねと動き、
ルディ王子様を苦しめていた。やばい、進行している。
「うわあああっ! そうだった!! すっかりルディ王子様の件を忘れていた!」
「兄上っ!? く……っ、もはや兄上もここまでか。
かくなる上は、兄上がこれ以上苦しまぬように、この私がとどめをっ!!」
「わああっ!? 早まってはダメですリイ王子様!!
介錯なんてしなくていいですからっ!!」
「みい! ルディオキル! ドングリ、アルヨ!?」
「ティアル、どんぐりでは回復しませんっ!!
ちょっ!? こらっ、口の中に勝手に詰め込まないのっ!」
「クウン?」
「リファッ!? 縁起でもないからお花持ってこないのっ!!」
私は慌てて好き勝手やらかしている方達を止めた。
その間に私の腕の中から出てきて、ぽてぽてルディ王子様の傍に近づくアデル様。
じいい~と倒れこんだままのルディ王子様を見つめ、こう言った。
「……オマエカラ、ハクリュウノニオイ、スル」
そう言うや、ぽんっとルディ王子様の黒ずんだ手に触れるぬいぐるみの前足、
すると小さく何か黒い霧状の物がその場に霧散し、弾けるように透明の鎖が砕け散る。
ルディ王子様をあれほど悩ませていた腕の印がいつのまにか消えていた。
「消えた……兄上っ!?」
「間に合ったの? じゃ、じゃあこれでルディ王子様は助かったんですね!?」
「……マダ、ニオウ」
「へ?」
するとルディ王子様から突然手袋をべりっと剥がしたアデル様。
……あ、まずい。
呪いが進行した影響か、隠していた物の存在にアデル様は気づいてしまったらしい。
その手袋の下に隠されていたのは残りの白龍の鱗がある手。
それを無言でじっと見つめるアデル様と、
感情を押し殺したまま凍りつく、ルディ王子様の姿。
既に滅んだと思われていた白龍の子孫である、何よりの印がそこにあった。
呪いが解けた事を喜ぶ余韻なんて、もちろんなかった。
「ウシナワレタ、ドウホウ……ナゼ、ダマッテイタ」
一難去ってまた一難……というのでしょうか? 修羅場が再び。
残されたのは恐ろしいまでの静寂と、小さな怒りをほとばしらせるアデル様。
なぜだろう、こんなに可愛い恰好なのに周辺の木々が揺れ、
大地がひび割れてきている。
上空を見れば、大きな雨雲がまるで私達の周辺にだけ集まってきていた。
そしてその殺気に怯え、木の陰に隠れるローディナ達と、
この状況をどうにか丸く収めるために、解決策を考える私の姿。
そんな中、ティアルは持ってきたどんぐりをぽりぽり食べていた。




