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「ルディ王子様―! 生きていますか~っ!?」


「だ……大丈夫だよユリア君、まだ大事ないよ……ぐはっ!!」


「兄上!?」



 ああっ、病弱キャラは私と弟君だけで十分ですよ!?

アン達の協力が得られた今、この中で一番深刻な状況なのはルディ王子様だ。

最初は余裕の顔を見せるルディ王子様だったけれども、

なんだか徐々に顔色が悪くなっている気がするし……。



「うう……せめて果てる前に私のハーレム化計画を……っ!」


「……ルディ王子様はまだまだ大丈夫なようですね」


「どうやらそのようです」



 切実な顔をする兄王子を、一瞬にして冷めた目で見つめた私達。

即、私と弟のリイ王子様はこくりと頷きあって決めた。


 うん、まだ大丈夫そうだし放っておこう!



(これからは誠実に女性と向き合うかと思ったら、もう……っ!)



 私達はそんな訳でさくさくと徒歩での進行を進めた。



「アン、体の方は大丈夫? 辛くなったら遠慮なく言ってちょうだいね。

 うちの妹は錬金術師だから、いろいろ薬とか持っているから」


「は、はいありがとうございますローディナさん」


「ふふっ、ローディナでいいわ。あなたの事もアンって呼ばせてね」


「私もリーディナって呼んで」



 アンは仲間になる事が決まってから、皆に頭を下げて謝罪し、

償いの為にもこの旅に同行したいと言ってくれた。


 勿論、あの浄化の炎を見て、大丈夫だと言っても不安がる人もやはり居る。

ルディ殿下やラミスさんは、最初やっぱり困った顔をしていたけれども、

その真っ直ぐな眼差しをみて、これまでのことは彼女の意思に反して、

強制的に従わされていたのだと分かってくれたようだった。


 何より私やローディナ達が、彼女を労わるように傍に寄りそう姿を見て、

強張っていた表情をしていたラミスさん達は顔を緩めた。



「……やれやれ、女の子の方がこういう時は肝が据わっているもんだよな」



 ラミスさんが苦笑しながら部下の騎士の皆さんを見つめた。



「ああ、それどころか子供にすら心眼があるようだな」



 ルディ殿下はそういいながら、アンの頭の上にちょこんと居るティアルを見た。



「みい、ティアル、アンスキ」



 みゃあみゃあ言いながらアンに頬ずりをしている。

どうやらすっかり仲良しになったようだ。ティアルはあれからアンに張り付いていた。

この子は優しい子だから、不安がるアンを元気付けようとしているんだろうな。

ティアルはこういう事には、そう……とても敏感な子だから。



「まあ、警戒しすぎてもあれだな」


 ラミスさんはこちらを見て笑いかけてくれた。




 その一方で私の体調にも異変が起きていた。

神鏡の力を発動させるごとに、私の体には負荷がかかっているらしく、

また少し熱を出してしまい、悪化しないようにと熱さましの薬を飲んでいた。

けれどやはり薬でどうにかなるものではなく、私は自身の両手を見つめる。



(やっぱりなんか……おかしいな。前よりも指先の感覚が変な感じ)


 指先がしびれたり震えたりして、くらくらと眩暈めまいもしている。

たぶん、私はこれまで神器の鍵を使わずに発動させていたせいだろう。



(もう一人のユリアでさえ使いこなすことが出来なかったのだから……)



 私もこのまま不完全な状態で神鏡を使い続けるのは危険な気がした。


 あの子は一回だけ神鏡を使っただけで消滅の瀬戸際になっているし、

もっと大きな事に神鏡の力を使ったら、私にも同じことが起きてもおかしくない。


(でも……私には他に頼れる方法はないし)


 あともう少しだけ、もう少しだけでいいから力を貸してほしい……。

せめてアデル様を無事に助けられるまでは。


 そう、体の中にある神鏡に私は願う。



「……っ」


 ふと後ろを振り返れば、ルディ王子様は両腕を辛そうになでている。

見れば、昨日よりも彼の黒ずんだものは肘の方にまで広がってきており、

呪いが徐々に進行し、彼を蝕んでいるのが私の目にも分かった。


“――このままいけば私は……一週間後くらいに死ぬ運命だ”


 そう言っていたルディ王子様の言葉が脳裏に蘇る。


(早く、アデル様に合流しないと)


 ルディ王子様のタイムリミットは近い。

あの呪縛の印が心臓に達する前に、私達はケリをつけなければ。



「そうだ! ねえユリア……あのね? これ、あなたに渡しておくわね」


「リーディナ? どうしたんですか」


「あ、そうね。私達よりもユリアに持っていてもらった方がいいかも」


「ローディナ? あの……いったい何の……」



 そう言って私の手に二人が触れてきたので目を向けると、

二枚の不思議な色彩を放つ、大きめの鱗が乗せられていた。



「もしかしてこれ……龍の鱗ですか?」



  色で判断するに、緑色の鱗は緑風龍の鱗で、

 黄色の鱗は黄土龍の鱗だろうか。リーディナは私の問いにこくりと頷く。


「そう、緑は風属性、黄色は主に土属性の力があるわ。

 これだけでも高い魔力を秘めているから、何かユリアの手助けになるかもしれない」


「で、でも二人とも……いいんですか? とっても貴重な素材なのに。

 だって二人はこれまでずっと龍の素材を……」



 これまで二人と一緒にいたから、私は知っている。


 一流の錬金術師と彫金師になるためには、

龍の素材を使ったアイテムを作成出来るのが、絶対条件になる位なのに。

貴重な素材だし、思わず返そうと手を伸ばしたら、ローディナは首を振る。



「――それはもういいの、私達あれから沢山考えたのよ。

 これまでのアデルバード様やユリアと過ごして、二人を見て、

 もうとても龍の素材になんて手を出せないって思ったの。

 ……ユリアみたいに誰かが悲しむかもしれないって分かったから」


「……ローディナ」


「この欠片は、私が魔物に捕えられたあの時に拾っていたものなの。

 直接、龍を傷つけて得たものじゃないから安心してね。

 いつか一人前になったらこれを使った何かを作ろうと思っていて、

 でも……これに頼らなくてもいい方法を私達は探そうと思うの」


 そう言ってローディナは私の手を包み込み、その上からリーディナも手を重ねた。


「リファが一緒にいてくれるだろうけれど、ユリアは魔法が使えない分、

 他の選択肢を持っていた方がいいと思うの、この先の事を考えたらなおさら。

 だから、これは私達からお守りの一つとして渡すわ」


 二人の手が離れ、私はゆっくりと閉じられた掌を開く。

するとその手に乗せられた鱗の上に、さらにもう一枚緋色の鱗が乗せられた。



「え? ラミスさん?」


「……じゃあ俺の鱗もユリアに渡しておくよ。

 さすがに逆鱗は命にも関わるから渡すことはできないけどさ、

 この状況じゃあ、本当に何が起こるか分からないからな。

 紅炎龍の鱗は火属性が強い。何かに役立つといいんだが」


「……ラミスさん、でも」


「あいつが出立する日、俺はあいつに頼まれていたんだ。

 ユリアがどんな選択をするにせよ。見守ってやってほしいって。

 本当は君をこんな所に連れてきたくはなかったんだが。

 ……ユリアはやっぱりあいつの半身だから、これ位は手伝わせてくれ」


 集まった龍の鱗、これで何枚目になるのだろうか。

でも、これは私がこの世界で築いてきた縁の証でもあるのかな。


 その時、もう一人の……金の髪のユリアの言葉が頭の中をよぎった。


”絆を束ねて”


(……もしかして、あの時の言葉はこれの事? これが何かに役立てられるのかな)



「ありがとう……ございます」



 私は両手でそれを大事に包み込むと、静かに頷いて巾着袋にしまった。

金の髪のユリアが託してくれた水神の鱗、ルディ王子様から貰った白龍の鱗、

ローディナから貰った緑風龍の鱗、リーディナから貰った黄土龍の鱗、

ラミスさんから貰った紅炎龍の鱗……これで5枚の龍の鱗が揃ったことになる。


 これが一体何に役立つかは、まだ分からないけれども。

託してくれたみんなの想い……大事にしたいと思った。


 どうか、この先に待ち受ける私達の運命が切り開けますように。



※  ※  ※  ※




「みいみい~みいみい~みい、コッチ」



 その後、私達は半ばグロッキーになりかかっているルディ王子様を労わりつつ、

ティアルの指し示す「どっちから行こうかな」作戦で、魔王の居るであろう場所まで歩く。

ええ、いつもの通りにティアルのお腹に紐を結んで木の枝からバンジーなことをして、

ぷらぷらとやっていただきましたよ。緊張なさすぎだろっていうご指摘はごもっともですが。


 でもね? よく考えてみて? 


 このティアルが泣き出した方が、危険がさし迫っているって事になるんじゃないかな?

……と思うんですよ。だからティアルがおやつ片手に選んだってことは、

目をつぶって下さいな、みなさま。



「あの……これで本当にたどり着けるの?」



 ああっ!? アンが不安そうな顔で見つめてるっ!?

そっか、貴女はティアルの能力を知らないですものね!



「だっ、大丈夫ですよ。これはケットシー族に伝わる伝統的な占い方法でっ!」



 たぶん。うん、そういうことにしておいてください。

普段からこんな方法で旅をしているレギュラーメンバーはそろって頷いてますが、

そうでない他の騎士の皆様は「本当に大丈夫か?」という顔でこちらを見てきます。


 がっ、だからと言ってね。息もたえだえなルディ王子様の棒倒しよりはましだよっ!



「みい、ティアル、サキイクネ~」


「あっ、ちょっ、待ってくださいティアル、離れたら危ないですよ!」


「クウンッ!!」



 じれたティアルは結んでいた紐から抜け出てくると、

ぱたぱたと翼を動かして、自分が選んだ方向へと飛んで行った……かに見えて、

くるっとなぜか方向転換し、私達の方へ戻ってきたではないか。



「ティアル?」


「みい、アソコ、ナニカアルノ」


「え? 何かって何?」



 思わずトラップかと身構えながら数歩先に進むと、

地面に黒い何かの物体を発見した。もしかして何かの獣の死骸だろうか? 


 倒れているままぴくりとも動かない。

ティアルは何を思ったか、私のリュックから蒼黒龍のぬいぐるみを取り出すと。


「みい、オナジ?」


 ぽてっと何かの物体のとなりに、ぬいぐるみを並べて置いて見せた。


「え゛っ!?」



 そう、言われてみれば大きさと言い、身体的な特徴と言い、

遠目からでもなんとなく分かる……その姿は蒼黒龍にそっくりだった。


「なんで、こんな所に蒼黒龍が……」


 私の知る蒼黒龍はもっと遥かに大きい体だったので、

こんなに小さな物体の小ささから見るに、蒼黒龍の子供のようだが。



「ユリア君、どうした?」


「あのっ、ルディ殿下、あそこにぬいぐるみサイズの蒼黒龍の子供が……」


「蒼黒龍?」


「生き残りが他にもいたのかな……あれ? リファ!?」



 リファは突然ぱっと私の横から飛び出ていき、その蒼黒龍へと飛び付いた。

何度もクウンクウン、キュウンキュウンと鳴きながら顔を舐める仕草、

時折、私の方を振り返っては何かを必死に訴えているように見える。


 その意味が、何を、指すのかなんて――たった1つしかない。



「……っ、うそ……うそ、もしかして……」


 私ははっとその意図に気が付き、傍に駆け寄ると、

リファに続いてその小さな体に触れて両腕で抱き上げる。



「アデル様、アデル様?」


 そう、リファがこんなに反応するってことは、アデル様だとしか思えないっ!!

リファは誰よりもアデル様の傍にいた。あの人の匂いを知っているはずだから。


 どうして? とか、なぜ? とかいう言葉が何度も出てきては、

私は抱き上げた小さな体を何度も何度もさすった。

それは私が知っているアデル様とは、到底思えない小さな姿だった。



「一体何が……ああ、でも息はしている。小さいけど……」



「ユリア、ちょ、ちょっと待ってよ。それがアデルバード様なの?」



 困惑したリーディナは私をなだめつつも、回復の魔法を掛けてくれた。



「……確かにそいつからアデルバードと同じ匂いがするが」


「ラミスさん」



 衰弱したアデル様に回復をすると、すぐに鼻がひくひくと動いて、

やがて私達の声に反応したのか、うっすらと目を開ける。重なる視線。

その紫の瞳は、ずっとずっと私が見たかったものだった。



「アデル……さま……」


 ――生きて……いた。


 涙があふれた。もう二度と会えないかもしれないとも思っていた。

声がもう二度と聞けないかもしれないと、それでも会いたくて、ただ会いたくて。

ここまでやってきた私の決断は、少なくとも間違ってはいなかったんだと思った。



「ハナヨメ……? ユリア? カ……?」


「――っ!? はい、はいっ! 私です。ユリアですよアデル様」



 顔を近づけて頬ずりする。いつもとは違う姿だけれども……でも。

やっぱりその声を聞いて、アデル様だったんだと分かる自分がいる。



「ユリア……アイタカッタ……」


「はい、私もです。アデル様」


 静かに抱擁を繰り返す私達……だったのだが、

突然アデル様は何かを思い出したように、はっと顔を動かした。



「ユリア、ナゼオマエガ? ココニ?」


「アデル様が期日を過ぎても帰ってこないので、お迎えに来たんですよ」


「……ムカエ? アレカラ、ドノクライ、タッテイル?」


「え? ええと……アデル様が出立されてから三か月はとうにですが」


「……ス! スギタノカ!?」


「え? ええ、いつまで待っていてもお戻りにならないようなので、

 この際ですから私の方からお迎えに行こうかと……って」


 私が話している最中に、腕の中のアデル様の頭がぐるぐると不規則に動きだし、

ぶつぶつと何かを呟きだしたので、心配になってそっと耳を傾けてみると。



「ハナヨメ……オレノ、ハナヨメ……ヤクソクゼッタイ。

 ヤクソク、マモレナカッタ……ハナヨメトノ、ヤクソク、グハッ!?」


 その瞬間、アデル様の口からぼわっと白い煙が出てきた。

って、なにこれっ!? まさか魂とかじゃないよね!?


「ええっ!? ちょっ、ちょっと待ってアデル様っ!? アデル様~っ!!」



 どうしたことだろう、回復したと思ったのに今度はアデル様の口から血が!?

なんか、今自分からダメージ受けるような事をしませんでしたか?

まさか自分自身にクリティカルヒットしたの!?


 しかも、そのままぷるぷる小刻みに体を震わせながら、

小さな両手で何かをしきりに作っ……って!?

ちょっ、こんな息もたえだえになって何をやっているんですか!



「アデル様!! こんな瀕死の状態で薔薇の花を贈らなくていいですから!!

 魔力が尽きて死んでしまいますよ!! 止めてください!!」


「!? ユリアニ、キョ、キョゼツサレタ……」


 私が叫んだ途端に、

手に作りかけていた花を地面にぽとり……と落とすアデル様の姿。

そうとうショックを受けたのか、そのまま固まってしまった。



「い、いえそういう意味じゃなくてですね?」


「オレガ、オレガ……ヤクソクヲ、マモレナカッタカラ……キライニナッタカ?

 ユリア……ハナヨメニキラワレタ……イキテイケナイ」


 がっくりと項垂れたかと思ったアデル様は、だらーんと力尽き、

そのまま目を見開いたまま、ピクリとも動かなくなってしまった。


「いやああっ! 誰か、誰か、アデル様があああっ!!」


「ええっと……とりあえず鎮静剤を飲ませたら? ねえ? ローディナ」


「そ、そうね。お願いできる? リーディナ」



 その時、龍の弱点は花嫁だというのが証明された瞬間だったとか。



「……蒼黒龍の花嫁は言葉一つで伴侶を瞬殺できるのか、すごいな流石はユリア様だ」


「ちょっ!? 真に受けないでくださいリイ王子様! あと敬語!」



 ……その後、放心状態で小さく体を丸めたアデル様を腕に抱きながら、

私はラミスさんからアデル様が暴走した理由を聞いた。



 龍は自分の花嫁との約束は、その命をかけてでも絶対に守るものであり、

もしも守れない場合は万死に値し、伴侶に嫌われても仕方のない行為なのだと。


 ああ……だから猶更アデル様は、私との約束を守ろうとしてくれていたんですね。

言われてみれば、ささいな約束でもアデル様は守ってくれようと、

いつも一生懸命だったもの。


……って、命かけて償うと言って、今も自滅しそうなアデル様を誰か止めてっ!!

腕の中から出て行ったと思ったら、今度は傍の木に頭を打ち付け始めたよ!!



「ユリアナカセタ……オレハ、ワルイハンリョ……バツ、ウケル」


 せっかく再会できたんだから、ちょっと約束が遅れた事ぐらいは目をつむるから!!



「わあああっ! やめて下さいアデル様っ! その事はもういいですから」


「ユリア……コンナオレヲ、ユルシテ、クレル……ノカ……?」


「怒るも何も……もう過ぎた事ですし、アデル様が無事だっただけで」



 ちらりとローディナの方を見て、私は困った顔をしてみせた。

ローディナは私を泣かせたからってアデル様に対して怒ってくれていたけれども、

流石にここまで落ち込んでいるアデル様を誰が責められようか。

そんな意図を彼女も汲み取ってくれて私に静かに頷いてくれた。


「龍体のアデルバード様って可愛いのね」


 ローディナは普段と違いすぎるアデル様を見て、こう呟いていた。



「アデル様、私を花嫁にしてくれるって約束は守ってくれないんですか?」


「ユリア……」


「だから、ご自分をもう責めないでください。おかえりなさい、アデル様」


「アア、タダイマ……ユリア」



 両腕を広げるとアデル様は嬉しそうに、

とててと私の方へと駆け寄って、私に抱き着いてくる。


(こうして見ると本当に子供の龍みたい。ふふ、可愛い)


 アデル様の額に自分の額をこつん重ねると、

離れていた時間を埋めるように触れ合った。

私がアデル様を見下ろすなんて変な気分だ。でも落ち着いてくれたようですし、

衰弱はしているようだけれども、アデル様が生きていてくれてよかった。



 さて、再会もなんとか果たせたようですし……。



「なんでそんなに小さくなっているのか教えてくれますか? アデル様」



 そう、そもそもなんで、このミニマムサイズなのか知っておかないとね。



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