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88・運命改変


 まあ、そんな訳で特に有効な作戦がないままという、

かなり無謀極まりない、私達の即席パーティだったのですが。



「まさか、ユリアちゃんが巫女さんで、その上団長の正体も知っていたなんて」


「どうりで俺たち見ても、ローディナちゃん達より驚いていないなって思ったよ!!


「知っていた上で恋人同士だったとか、団長羨ましい!!」


「完全に勝ち組じゃねえか!! アデルバード団長!!」


「ここにはいないけどな!!」


「うえーい! 団長よりも先にユリアちゃんの巫女姿拝んじゃったぜ!」


「殺されるな俺たち!!」



 朝、私が「アデル様」と名付けた蒼黒龍のぬいぐるみを所持していたので、

アデル様が蒼黒龍だったという事を、知っていた上で恋人同士だったと、

ラミスさんを除く、他の紅炎龍の皆様に言わずとも知られることになりました。


 結果、色々な感情が爆発したのか、異様に士気が高くなり、

押し寄せてくる魔物の群れなんてなんのその。


「「「「俺らなんか、女の子と手をつないだ事もないのにいい――っ!!」」」」


 なんか泣き叫びながら、龍体で暴れ回る皆さんの姿があります。

ああ、これじゃ目立ってしょうがないと思うんですが、

幸いにも魔王様にはこちらの存在を気づかれてはいないようですね。

……もしかして私の存在が効いているのでしょうか?



「でも、わ、私の出番がやっぱりない」


 そう、私の肝心の活躍の出番は、戦闘経験が豊富な皆様によって瞬殺です。

未開の場所へと通じる道も、ばっさばっさと切り開いてくれていますよ。


 え? 回復? だって皆様は龍体になると治癒能力がより向上するからね。

そもそもこの状態じゃあ、その辺の魔物相手じゃ傷つけるのも難しいでしょうし。

皆さんの勢いが凄すぎて、余り寄ってこない状態でした。


 ただでさえこれなんだから、アデル様が本気出したらもっとすごいって事ですよね。

そんな訳で私の後方支援、全く出番がありません。


 いつものように木の根元に腰かけて、お菓子を食べながら観戦する私が居たり。




「せっかく巫女服に着替えて、気合も入れたんだけれどな。

 ……って、どのみち後方支援タイプですが」



 そう、皆様のご要望もあり、巫女の衣装に身を纏った私。

蝶をモチーフにした白いドレスに、金色の腕輪には小さな鈴が何個もついており、

金の飾りのついた靴までそろっていて、いかにもな格好でした。


 薄着だから、この時期に着たらさぞ寒かろうと思っていたこの白い服装。

いざ着てみれば、私の想像の斜め上をいき、シルクのような柔らかな肌触りに、

装飾や衣装に補正がかかっているのか、全身を包み込むようにとても暖かく、

それまで着ていた物よりも、俊敏に動きやすくなったから不思議だ。


 私の周りに何か不思議な膜のようなものができていて、

守られているような感じがするから、効果をもう少し確認したいのだけれど。



「まあまあ、この先の事を考えれば私達は体力を温存しておいた方がいいわ」


「リーディナ、ですが……」


「そうね。ユリアはまだ本調子ではないようだし、

 体力がないから私達は消耗しないように気を付けないと」


「ローディナも……」



 私の無鉄砲な行動につき合わせているのにいいのだろうか?

そう思いつつ、ローディナがにっこりと背後を指さすので振り向けば、

キラキラした目で大鎌を振っているリイ王子様が居た。



「ね? 少なくともその恰好をしているだけで役目を果たしていると思うわ」


「です……ね」


 試しに私はリイ王子様に向かって、

金色の腕輪に付いている鈴をシャラシャラ鳴らし、


「がんばってー」



と思いっきり“棒読み”で声援を送ってみると。



「はっ! お任せを! やりますよー私はああああっ!!」



 アイテムや魔法を使わずに、本人のやる気アップなんてことも。



 リイ王子様、隣で戦っていたルディ王子様の出番を完全に奪い去り、

大型の魔物の目の前に単身飛び込むや大技を連発、もう許してあげようよとまでに、

恐れをなして逃げようとする魔物を執拗に追いかけ回し、敵を容赦なく背後から一掃。

聖職者様の温情はどこへ行ったの状態になっておりました。



「じ、慈悲の心はいずこに……」



 そんなことをつぶやく、私の目の前にいたルディ王子様が一言。



「……愚弟が余計に壊れたな。これだからユリア君を王都に呼び寄せる時から、

 弟を近づかせたくなかったんだが……」



 ああ……それで私とリイ王子様が知り合うのが遅かったんですね。



 弟の暴走に、ルディ王子様が口元をひくひくさせてそれを傍観しているんですが。

なんか、変なフィルターだか掛かっているのでしょうか、あの弟王子様は。



「……ねえ、あれ誰?」


 だから思わず、リーディナが私達に確認を取るほどでした。


「一応、リイ王子様……だと思います」


「人が変わってない?」


「ええと、私が知る限り元からあんな感じでしたよ」



 そっか、二人はあそこまではっちゃけ過ぎた王子様は見たことなかったのね。

時々、その片鱗は見せていたはずなんだけれども。


 まあ、そんな訳で当面の戦闘は皆様にお任せしつつ、

私達は大人しく付いて行くだけ。


 でも余りに出番がないから、ティアルなんてリュックから顔を出して、

リュックの縁に前足をちょこんとのせながら、


「みい、チョウチョイナイノ~」


……とのん気な声で空を見ています。そりゃあティアル、今は冬だからね?

ルディ王子様の体調もあるので、昼は上空から飛び、

夕方から夜になるまで徒歩で進むという強行軍の中、

皆さんの顔に疲労の色が出始めた3日目、事態は大きく動く事になった。



 ある地点まで辿り着いた時、私は違和感にふと足を止めた。



(あれ……なんだろう……?)



 ざあ……と通り過ぎる風が木々を揺らす中、立ち止まった私は目を見開いた。


 私は歩いている途中で、不意に何か胸騒ぎと共に不思議な感覚がした。

この辺にある草木は、とても特徴があるものだった事もあり、

私はそれらを見て、何かこの光景に見覚えがある気がした。


 そして何となく……当たりに張りつめた空気が広がっていくような。



「ユリア、どうかしたの?」


「ここ……なんとなく前に来た覚えがあるような気がして」


 立ち止まる私に気づき、話しかけてくるローディナ。

そのままふらりと歩き出そうとした私の肩を、ラミスさんに止められた。



「待ってユリア、誰かが集団で来る足音がする。皆すぐに隠れるんだ。急いで」



 ラミスさんの言葉に、慌てて周辺の魔物を一掃した私達は、

その場の草木に一斉に身を屈めて隠れた。


 直後、複数の慌ただしくこちらへと駆けてくる靴音と、

武器や装備がぶつかり、がちゃがちゃと鳴り響く音が聞こえ始め、

その殺気立っている異常で異様な気配に、何事かと私達は顔を見合わせていると、

やがて一人の焦った顔の強面の男性が現れて声を荒げた。



「くそっ、見失ったか、どこ行ったんだ。居たかっ!?」


「いやっ、だがそう遠くないはずだ」


「逃がすなよ。あいつをやれば手柄は俺達のもんだ」


「おおっ!!」



 見ればその数は、数十人にも人数が膨れあがっている気がした。

不穏な言葉を吐く男達に、ただならぬ何かを感じて息をのみ、声を押し殺す。

そして彼らが通り過ぎた姿を慎重に確認すると、

ラミスさんはほっと息を吐いて私達に静かに合図した。



「……行ったようだな。よし、皆出てきていいぞ」


「今の……何だったんでしょうか? 何かを追っていたようですが。

 普通の冒険者の類ではないように見えました」


 ローディナが不安げに去った男達の向かった先を見つめていた。

そう、皆いかにもガラの悪そうな人達だったよね。



「何人かは見覚えがある顔だったよ……騎士崩れでクビになった奴らだな。

 それとギルドで問題を起こしていた冒険者も数人紛れていたみたいだ。

 どちらも素行が悪いので、王都じゃあ要注意の扱いをされていた奴らだが……。

 あの様子を見ると、何かまた良からぬ事をやっているようだな」



 ラミスさんは苦々しい顔で、男達の素性を私達に話してくれた。



――追っている……複数の男達に、無数の足音、見覚えのある景色?




(あれ、待って、この状況……私どこかで――……)




 一瞬、私の視界が歪み、びりっと辺りに電流の走る音がする。


 私はそこで肩が震え、ある事を思い出した。



(そうだこの状況に似たものを私は知っている……っ!)



 気付いた瞬間に、全身から血の気がざああーっと引いていくような感覚がした。


……まさか……でも、そうとしか……。




「ティアル! 今一番嫌な感じのする方向はどっち!?」


「みい? コッチ」



 ティアルが前足でちょんと一方を指し示すと、

私はその方向を目指して迷わず駆け出した。




「ちょっ!? ユリア何処へ行くのよ!!」


「一人で行ったら危ない!! 戻ってくるんだユリア君!!」



 私はリーディナとルディ王子様の制止の声も聞かず、

ティアルが教えてくれた方向へと駆け出した。

さっきの状況から見て、皆に説明している余裕なんてなかった。



「リファッ!!」


 私は勢いよく大きくなったリファの背に飛び乗る。

早く、早くしなきゃ。これは私が以前見た状況と同じものだとしたら。



「リファ、あっちの方角に向かって急いで!!

 今の人達が見つける前に、あの子を先に見つけないとっ!!」



 そう、これはユリアが教えてくれた過去に起きた出来事に酷似した状況。

だとするのなら、彼らの狙いはアンである可能性が高い。

危険であるのは百も承知だったが、迷っている暇なんてなかった。

皆に説明して同意を得る時間もない、早くしないと手遅れになってしまう。



(大丈夫、あの時と違って私は一人じゃない)



 ”絆を束ねる”それがユリアが教えてくれた解決策へのヒントだ。

つまり、これは私以外に協力者がいる事が絶対条件になる。



 私が見た夢では、ユリア達は夜の森の中を走っていたが今は昼間、

あの時と違う運命の巡り合わせといい、一緒にいるリファとティアルといい、

事態は既に別の方向へと進んでいる気がした。



 リファの背にしがみ付き、疾走して進んでいると風が舞う、

急ぎたい私達の前に草木の枝が進行を邪魔してくるので、

すかさず私は背に乗ったままでティアルに頼む。



「ティアル、あれお願い!!」


「みい、ハーイ」



 ティアルが前足をぽんぽんと叩き、小さな風の魔法を次々と作り出してくれる。

援護魔法で、行く手を阻む草木の枝を刈り取って行ってくれている間、

私は意識を集中して前方に広がる地面に意識を集中した。


 どくどくと緊張で鼓動が高くなる。この後の選択を間違えばきっと後はない。

迷っている時間はなく、気持ちばかりが焦ってしまう。



(大丈夫、きっと大丈夫……落ち着いて)



 朝になって視界がより鮮明になったことで分かったこの不思議な感覚、

私の目には、普通の人には見えない筈のものが見えていた。

きっと私の必要性に応じて目覚めた祝福の恩恵なのだろう。



(どこ……どこにいるの?)



 森に住む精霊をはじめ、魔力の根源となる気の流れまで今の私には見えていて、

意識を集中することで、自分でも驚くほど感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。

ここら一帯に広がる地脈を辿たどり、その変化のある部分を探していると、

一部、この先によどんだ何かを感じ取った。見つけた瞬間にどくりと感じる強い波動。


 それは紫色に光る魔力の痕跡。これがアンの残したものだとしたら……。




「リファ! その先を右に行って!」


「ガウ!!」



 獣道を右へと曲がり、何度かそうやって進むと、

前方にフードをかぶる怪しげな人影が突然現れ、こちらに背を向け立っていた。


 現れた人物に警戒した私がリファを立ち止まらせると、

静かに目の前の人物は私達に気づいてこちらを振り返る。



「……っ!?」


 

 その顔を見て、私は驚きで一瞬言葉を失った。


「貴方は……」


 その人は、行方の分からないままだった神様……川元利也かわもととしやさんだった。




「探しものはこっちだ。気配を消すから俺の背に隠れながら付いておいで、急いで」




 私を見て初めて話したその男性は、

まるで私の目的を分かっているかのように一方を指さしていた。

この世界にはそぐわぬ格好を久しぶりに見た私だが、今はそれどころじゃない。


 なぜここにいるのか、なぜ私を手助けしてくれるのかは分からないけれど、

今は一刻を争う。私は素直に従い、指さされた方向へとついて行く事にした。



「彼女はあそこだ」



 その先には、木々の根元の傍で倒れているアンの姿を見つけた。

けれど既に、数名の鎧姿の男達が彼女の周りを取り囲んでおり、

私はその状況に最悪の事態を想定し、息をのんだ。



(うそ……間に合わなかったの?)


 しかし、よく見ると彼らの持つ剣先はまだ血で汚れてはいない。

……という事は、まだ彼女は無事なのか。


 てっきりディータさんがアンと一緒だと思っていたが、傍に彼の姿はいない。



 男達は各々剣先を振り上げ、今にでも殺そうとしているその様子を見て、

私は思わず腰元にある短剣を両手に取り、その中に飛び込んだ。




「その子から離れなさい!!」



 アンに意識を向けていた男達が、こちらを振り返るよりも早く、

私は彼らの武器を持つ手にめがけて、短剣を次々に投げつけると、

慌てて離れた男達からアンを少しだけ引き離すことに成功する。

その隙に私は間に滑り込み、アンを背に庇うように立ち塞がった。




「……っう、なっ、なんだこの女!!」


「こいつの仲間か!?」


「いや待て、この女、聖職者じゃないか……どこかで見たような?」


「はっ!? なんで巫女様がこんな所に居るんだよ!!」


「まて! この女、白いのを連れているぞ」




 男達の目には、神の使いとされる白き獣を従える私の姿が映っていた。

格好だけ言えば聖職者の姿だけに、彼らは戸惑い、こちらへの攻撃の手が緩む。

その隙を逃さず。私は次の合図を送る事にした。

既に話し合いが通じるような相手ではないと予習済みだからね。




「先手必勝! ティアル!」


「みい! オホシサマ、ピーカピカ!」



 ほっかむりしたティアルがぴょんっと勢いよく飛び出し、

前足を合わせて「オネガイ」と、顔をこてっと傾げながらお祈りすると、

大気から光る星の大群が出現し、彼らの視界を一斉に阻んでくれた。



(これで、他の皆に私達の現在位置が知らせられるはず)




 私はそれに合わせて、持っていた卵煙幕を懐から取り出すと、

男達の顔目がけて投げつけてやりました。


 はい、これは以前リイ王子様と対戦した時と全く同じ戦法。

戦闘経験のある人程、こういう単純なのに反射的に動いてしまうものです。

その為、私の予測通り自ら中身の香辛料をぶちまけてしまう人達がおりました。



 よし! 計画通り。




「ぶわっ!? な゛っ、何だよこれ!?」


「てめえっ、いきなり何しやがる!! ぶはっ!」


「痛てええっ! 目が、目がああっ!!」


「それはこっちの台詞です!! この子に何をするつもりですか!!

 女の子に大の男がそろいもそろって、武器を持って追いかけ回すなんて!

 あと、個人的に貴方達には相当むかついていたんですよ!!」



 私の中では、ふつふつとこれまでの鬱憤がこみ上げていた。

よく考えればさ、この人達はユリアをあんな目に遭わせた張本人じゃないか。



――つまり、私にとっては諸悪の根源。許すまじ。



(よくも、よくもユリアにあんな事をしてくれやがりましたね)



 貴方達のせいで、アデル様もユリアもあんなに苦しむ事になった。

こちらの出来事では未遂の事とされているけれども、

既に私の中では、貴方達のした事は前科として認識している。


 なぜならば――……。



(そのせいで、今もあの子は消滅の危機に陥っているんだからねっ!!)



 それに女の子に刃物を向ける男は容赦しちゃだめだって、

前にローディナ達も言ってましたからね。


 二代目ユリアさんは、先代の為にも頑張らせていただきますよ!




「というわけで個人的にちょっと仇討ちさせていただきます!

 運命改変どんとこーい! リファ! お願いします! GO!」


「ウオオオオンッ!!」



 私が合図するなり、リファは待ってましたとばかりに巨大化した。

ええ、彼らの動きを鈍らせた私達に「敗北」なんてありません。


 怪獣映画さながらに、圧倒的な物理なども交えたリファの攻撃は、

動くたびに地面を揺らし、風圧で反撃しようとした彼らを吹き飛ばし、

次々と武器を破壊したり奪ったり、とどめにリファの放つ光線で溶かしていくと、

やがて丸腰で逃げる者も出てきました。


……が、やっぱり目の前に獲物アンがいることで、諦めきれない者もいて、




「おい、あの女が操ってけしかけてるんだ。あの女を先にやっちまえ」


「だっ、だが相手は聖職者だぞ! それも神の使いを従えた!!

 後でお咎めがあったらどうする気だよ。下手したら極刑だぞ!?」


「ここで始末しちまえばバレねえよ!! こっちの方が人数は上なんだ」



 ここまでは想定内の反応、うん、やっぱりそう出ますか。

先手打っておいて正解でしたね。これは……。




「よーし、そっちがその気なら……リファ、遠慮なく行くよ」


「ウオオオン!!」




 言われなくともという感じで、リファの中で怒りのスイッチが押されました。

我が子を思うママン。頼りになります。というわけで私もリファの攻撃に合わせ、

連撃の攻撃を仕掛けて追い払う事にしました。後方支援もばっちりですとも。

ええ、これまでの出番のなさが嘘のようですね!



 まあ、そんな騒ぎをやっていれば、かなり目立つ訳で……。


 私とリファが応戦という名の攻防を続けているうちに、

ティアルは更に大きな星を上空へと飛ばすと、私達の上に掛かる影があった。




「な、なんだあれ?」


「今度は何だっ!?」


「う、うそだろ……こんな所に龍が出るなんて聞いてねえよ」




 上空が一気に曇ったので、男達が不審に思って顔を見上げてみれば、

そこには無数の紅炎龍が現れ、時折火を噴きながら辺りを旋回して飛行しており、

男達が私に近づこうとすれば、けたたましく吠えて威嚇を始めた。

その声だけで男達は風圧を受け、後方へと数歩押される形となっていた。




「りゅ、龍まで現れやがったぞ、どうするよ」



 腕を押さえた男の一人が、周りの仲間に血相を変えて聞いていた。




「こ、こんな数を相手にしていたら、勝てる気がしねえよ」


「なんなんだよ。この女、まさかアレも呼び出したっていうのか!?」


「逃げろ!!」




……いや、私は殆ど大きな事はしていないんだけれど。

流石にこれだけ集まってくると。事情を知らない人ならそう思うよね。

彼らの目には、私が次から次に獣を呼び寄せていると思ったらしく。

分が悪いと判断した彼らは、アンを諦め慌てて逃げ去っていきました。


 息を切らせた私は背後のアンを振り返り安堵する。



(はあ……これで最悪の事態だけは回避できたのかな。よかった)




 辺りを見回すと、私を見つめる川元さんの姿を見つけた。

彼は私と目が合うと、満足そうに微笑んでいる。




「……ありがとう、その子を頼むよミカミ・ユリアちゃん」


「えっ?」



 今……私のフルネームを言った?


 名前を呼ばれた瞬間、脳裏によぎった光景は……この人と誰かが一緒にいる姿で。



「おにい……ちゃん?」



 見えたのは白昼夢というものだったのか、それとも幻か何かなのか、

私の兄、水上律みかみりつお兄ちゃんと、目の前の青年、

川元さんが楽しげに話している光景が一瞬浮かんでは消えた。



「い、今の……何?」


「じゃあ、またね」


「まっ、待って下さい。私、貴方に聞きたい事が……っ!」


「あ、そうそう。”木の葉を隠すなら森”だよ? 覚えておいてね」


「え?」




 今度こそ背を向けて、歩いて行こうとする彼を追いかけようとしたが、

すぐ傍で倒れているアンの存在に気づき、私は足を止める。

再び顔を上げた時には、既に川元さんの姿はその場から消えてしまっていた。




「行っちゃった……せっかく会えたのに」




 一体、あの人の目的は何だったんだろう。私とこの子を引き合わせる為?

それにしても今のヒントって意味が分からないんですが。 


 ただ一つ分かった事、さっき私が見た光景は、

きっとユリアが本来持つ能力なのかもしれない。

ならば、兄と川元さんは顔見知りだったという事だろう。

そこまで考えると頭がずきりと痛み出した。



「……っ、やっぱりこの痛み、私の記憶と関係あるのかな」



 どうやら私が記憶を失っているというのは、本当の事のようだ。




「ユリア大丈夫!?」


「もう! 急に飛び出して行くからびっくりしたじゃない、怪我はない?」




 皆さんの背に乗っていたローディナとリーディナがその場に降りてくると、

二人は私の両腕をがっしりと掴んで、怪我がないか確認をしてきた。




「ローディナ、リーディナもごめんなさい心配かけて、

 私は大丈夫です。それよりこの子が……」


「え? あの人達、こんな女の子を大勢で追いかけていたの?」



 リーディナの言葉に私は頷き、すぐに回復アイテムの小瓶をだし、

アンの体に付いた怪我を治してあげた。幸いにも深い傷にはなっていないらしい。



「ユリア、大丈夫だったか?」



 次々に人型になり、私達の元へ駆け寄ってきたラミスさん達は、

私の腕の中に居た女の子の存在に気づくと、一斉に顔を強張らせた。




「……ユリア、その女の子って」


「うそだろ。まじかよ」


「もしかしてあの時の……」




 再び張り詰める空気にごくりと息をのむ音、中には剣の柄に手をかけ、

私達に向かって、すぐにアンから離れるようにと言う人までいた。


 その様子を見て、このままではまずいと判断した私は、

アンをその場に寝かせると、皆さんの前に立ち塞がり両腕を広げる。

殺したりしないで、この子は、この子は私の大切な友達なの。

もう一人のユリアが私に託してくれた大事な。




「……ユリア、その娘をこちらに引き渡してくれ」



 いつになく険しい顔のラミスさんに、私は怯まずに顔を振って拒否した。



「できません。この子に危害を加える気ならできません。

 お願いします……剣をどうか収めてくれませんか?

 どうかこの子を助けてあげて下さい」


「ユリア、分かっているのか? その娘のした事は君も目の前で見ただろう?」


「分かっています。でも、彼女は魔王の手先なんかじゃありません。

 私にはこの子が敵じゃない、被害者だって分かるんです。

 上手く説明は出来ないんですけれど、敵じゃないです。信じて下さい」



 それどころか、この子を失ったら私達は最大の切り札を失う事になる。



(彼女は物語を書き換えられる存在なんだ)



 私ともう一人のユリアの運命が違ったのは、それもあると思う。


 ユリアは「アンと離れる事」を選んでしまった。


 けれど私は「アンと一緒にいる事」を選んだ。


 主人公と行動を共にする事が、重要な条件の一つである事は間違いない。



 この先の未来を乗り越える為には、きっと彼女の存在が必要になるだろう。

けれど他の人達にはそんな私の心情なんて分かる訳ない。

この事を他の人に話す事で、余計に事態がおかしくなる可能性も考え、

私はもどかしくも、この状況を別で乗り切ろうと必死に彼らからアンをかばった。




「殿下……どうされますか」


「……まさか、ユリア君が手配中の娘を見つけるとはな、

 さて、これはどうしたものか」


「兄上」




 蒼黒龍に操られた娘と、蒼黒龍に見初められた娘。

何か通じるものがあるのかもしれないと、ルディ王子様はしばし無言になった。

ティアルとリファは、離れた所で震えながら意識のない彼女を見ているし、

ラミスさん達は先日の一件もあるから、かなり警戒している。



「あの……一体この子がどうかしたんですか?」


「リーディナ君達は知らなかったか。先日の収穫祭で城に魔物が侵入したのだが、

 それを手引きしたのがこの娘、魔力を媒介に結界を潜り抜け、

 その際に私達を襲ってきたんだよ。幸い、大事には至らずに済んだが」


「「えっ!?」」


「その時に従えていた魔物がモータル、以前ローディナ君達を襲ったあの魔物だ」


「私を……?」


「じゃあ、あの時の件と関わっている子なの!?」


「……っ」



 私はぎゅっと唇を噛んで皆を見つめた。ここに居る皆は一度襲われた側だ。

だから彼女を怖れて嫌がるのも分かる。分かるけれど、



(今度こそ、この娘を助けるって誓ったの)



 私はローディナ達と同じ位この子が大切だったし、

友達だから見捨てたくはなかった。本来の彼女を私は知っているから。



(私にはアデル様やリファやティアルが……皆が傍に居てくれたけれど、

 この娘はずっと、これまで誰にも頼れずに一人ぼっちだったんだ)



 ずっと怖かったよね、心細かったよね?

味方が他に誰も居ないのなら……私がなってあげるんだ。



「皆さんがこのを保護するのをだめだと仰るのならば、

 私はここで皆さんとお別れして、別行動を取ります」



 戦力が殆どない私だけでは心もとないが、今彼女を失う訳にはいかないんだ。

せっかく見つけられたんだ。きっとそれには意味がある。

するとローディナが逡巡した後に私の隣に立ち、ルディ王子様に顔を向けた。



「……あの、ルディ王子様、ユリアがそこまで言うのならば、

 私もユリアの言葉を信じたいです。ダメですか?」


「ローディナ君?」


「ローディナちゃん!?」


「この子がモータルと関わっていると聞きましたが、

 もしも彼女の存在が危険だと言うのならば、

 魔物に捕えられた私にも、同じ事が言えると思います。

 こうなっていたのは、本当は私だったかもしれないんですから……」



 ローディナの言葉に、私も含めて一同がはっと息をのんだ。

言われてみて改めて気づいたのだ。その可能性は確かにあったのだと。



「私はユリアや皆様が居てくれたから助けられた。でもこの子は誰にも助けてもらえず、

 これまでずっと一人で苦しんできたのなら……助けてあげたいと私も思います」



 ルディ王子様は私達の意思表示に、やれやれとため息を吐いた。




「……仕方ない、危険だと思うが彼女の処遇はいったん保留にしよう。

 蒼黒龍の花嫁となる君を、ここで失う訳にはいかないからな。

 見た所、神気を纏う君が触れても何の反応も示さない所を見ると、

 今は君の言葉を信じてもいいのかもしれない……」


「じゃあ……」


「ただし、少しでも不穏な行動をその娘が今度した時には……」


「……わかりました。ありがとうございます」


 とりあえず、当面の安全は確保できたようだ。私はほっと安堵の息を吐く。


 こうして私は女主人公アンとの合流と危険な運命回避に成功し、

次なる試練へと立ち向かう事になったのだった。




 これで必要最低限の条件はそろった。



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