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68・収穫祭1

 待ちに待った収穫祭当日、別名、女神の祭典がやってまいりました!

その初日と言う事もあって、お屋敷の中でも浮き足立っておりますよ。

おじ様達は後で飲みに行こうと口々に話しているし、

ユーディとイーアは一緒に蚤の市でお店を見に行く事になっているらしい。


 ティアルは待ちきれないと、早朝、まだ眠っていた私とリファに、

まだ? まだ? と前足でぺちぺちして起こしてきた位だ。


 アデル様? それはもう正反対で……合掌です。

人間酔い……しなければ良いんですが心配ですね?



 そんな中、ユーディとイーアは人一倍うきうきしておりました。



「今日は、私の弟と妹達も来る事になっているんです」


「あ、そう言えば今日は、ユーディのご家族が王都にいらっしゃるんですよね」


「はい! 出稼ぎに来てから初めてなんです。家族に会うのは。

 私もやっとお姉ちゃんらしい事がしてあげられそうです」



 長女のユーディは、お給金の残りで弟と妹達に何か買ってあげたいらしい。

大家族の生活を支えるべく、出稼ぎにここで働き始めたユーディは、

仕送り以外の給金をせっせと将来の為に貯金している。

そのお金で少しだけ、本日は贅沢をするようだ。



「イーアも今日は、孤児院の子達が会いに来るんですよね?」


「ええ、私の場合は同じ王都に居るので、皆とは時々会えるのですが、

 たまにはあの子達にも、お祭り気分を味わわせてあげたくて。

 孤児院では、日々の生活だけで精一杯ですから」



 王都の孤児院出身のイーアは、家族同然の孤児院の子供達が居る。

ここへ来るまで幼い子達の面倒を見てきた彼女は、ユーディ程ではないにしろ、

仕送りや余った布で玩具や髪飾りを作っては、孤児院に送っているらしいです。


 二人とも面倒見がいいですよね。


 ちなみにユーディの弟と妹さん……正確にはご家族一同様なのですが、

アデル様のご厚意により、収穫祭期間の滞在場所を、

このお屋敷の空いている部屋を使ってはどうかと言って下さいました。



『普段、俺のユリアが世話になっているからな。

 ユーディの家族さえ“我慢できるのなら”この屋敷での滞在を許そう』



 それは、蒼黒龍であるアデル様の成長でした。


 このお屋敷でそれが分かるのは、きっと私とリファ位だったかと思います。

あの人間嫌いで警戒心の強いアデル様が、人間の、それも面識も無い方々を、

自身の自宅、テリトリーに招き入れても良いと仰ったのですよ!?



(ロ、ローディナ達やルディ王子様達は知り合いだから、

 なんだかんだ言ってもアデル様は許してくれていましたが……)



 まさか……ご自分からお誘いのお言葉を仰る様になるとはっ!?


 私、余りの変化に動揺の余り、大変失礼な事を考えてしまいました。



(――天変地異の前触れかっ!?)



 素で思いましたよ。ええ、何かのフラグが立ったんじゃないかとかね。

あ、でも考えてみれば良いことなんですよね実は。

人間と歩み寄りを見せてくれたという事ですから。



 ――そんな事を思っていたのですが……。



『ユリアが寂しくないように、同性の話し相手は大切だ。

 彼女達には普段、“よく耐えてくれている”だけあって、根性がある。

 その礼をこめて、俺も何かしてやりたいと思った』


『アデル様……』



 どうやら、求愛した娘基準で考えてくれたようです。


 ただ、“我慢が出来るのなら”とか言っている辺り、

肝試しレベルの感覚で言っているのでしょうか? このお屋敷の事を……。



(そうですよね。元は若い人が逃げ出すお屋敷でしたものね。今まで……)



 一応、現在は制御用のカフスでアデル様の念は抑えているので、

大丈夫だとは思うのですが……相手は小さい子供達だしなあ。

見えざる感性で、何か感じ取る可能性がある気もします。

まま、このお屋敷には愛らしいマスコットのティアルも居ますので、

気を紛らわせる方法は色々あるかとは思いますが。



(まあ、アデル様がこうして歩み寄りを見せ始めてくれたのは、

 良い兆候なのかもしれませんよね。今まで余り無かったですから。

 街の皆さんとも世間話が出来るようになってきましたし)



 少しずつですがアデル様も、人間としての暮らしに馴染もうとしているのでしょう。

こればっかりは、私がどんなに心を砕いたとしても、

アデル様が心から思わない事には難しい事だと思います。



 そんな訳で、ユーディのご家族がこのお屋敷で滞在する事が決まりました。

最初、ユーディは遠慮していたんですが、殆どの宿はもう予約でいっぱいだし、

予約が取れたとしても、この時期は何処も料金が値上がりする為、

どうしようって事になって、アデル様が提案をして下さったという訳です。



『よ、宜しいのでしょうか……? ユリアさん、使用人の家族が利用するなんて』


『アデル様が良いと仰るのでしたら、良いのではないでしょうか』



 折角、ご家族が来るのに、ゆっくり出来ないんじゃ可哀そうですよね。

何より、生活が困窮しているご家庭なのに、余所で滞在費を使うとなると……。

アデル様が、「私の世話になっている人」を中心に考えているのは引っかかりますが、

まま、これはこれ、少しだけ前進したと見て喜ぼうと思います。


 人間にも家族を思い、恋しくなる思いがあるのをユリアから学んだと、

アデル様はそう言って今回の件を譲歩してくれたらしいです。

そして、私の家族を呼んでやれない事を謝るアデル様が居ました。



『本当は、ユリアの家族もここへ招待してやりたかったのだが、すまないユリア』


『い、いえ、お気持ちだけで十分ですよ。ありがとうございます。アデル様』



 彼は私を通して、人間との接し方を学んでくれているようです。

それは人と龍が共存する為に必要な工程だと思います。

真実を話せない事に胸が痛みつつも、アデル様は変わろうとしている事を、

いつも傍にいた私は感じ取っていた



※  ※  ※  ※





「――さて……リネンも全て取り替えた事だし、

 来客部屋のお掃除は、この辺でいいでしょうかね?」



 部屋数は結構あるのですが、掃除をする人手が足りないんですよね。

普通のお屋敷だと、管理をするのに最低でも50人、余裕を持たせるともっと必要です。

……で、うちのお屋敷はメイド隊を含めて13人なので、まあお察しです。

その大多数を占めるおじサマーズも、体力が落ちてきているのもありますし。


 一部屋でも規模が大きくてですね。気力がないと新規開拓するのは大変、

開拓出来ても、それを維持する事もしないといけませんから、余裕が無いわけで。

その為の若手人材の急募をしている訳ですが、今回は私達メイド隊だけでの作業となりました。



(正直、庶民育ちの私としては、この無駄にでかいお部屋をもう少し縮小できれば、

 管理するのも楽なんですけれども……無理ですよね~……)



 使える客室は私が使っていますし、家族全員が寝る分のベッド数は足りない。

たまにルディ王子様が「無断で」宿泊する際のお部屋を貸すのは、

後で身分がどうの、警備がどうのと言われた場合に困るので使えない。

……となれば、普段の仕事の合間に、他の来客用の部屋を掃除しなければならず。

大慌てで準備に取り掛かった次第ですよ。



「お疲れ様です。間に合ってよかったですね、ユーディさん」


「はい! ありがとうございますイーアさん、ユリアさんも!」


「みいみい、ティアルハ?」


「クウン?」


 ユーディの足元を前足でぽんぽんと叩いて、

ティアル達も頑張ったよ? と意思表示して顔を見上げている二匹が居た。



「勿論、ティアル様とリファ様も、ありがとうございました。

 私一人じゃ、こんなに出来なかったと思いますし。

 きっとみんな大喜びすると思います。お屋敷に泊まれるなんて初めての事ですから」



 本来、住み込みの使用人である私達は、王都へ来るお客様の接待や、

通常のお仕事がある為に、お祭りには参加できない身分なんです。

でも、アデル様のご厚意により、全員が丸一日のお休みは頂けませんが、

お祭り期間は当番制にして、各自、お祭り見学に行く時間を頂きました。



(お屋敷を使用人全員で空ける訳にはいきませんからね)



 つまり、私達メイド隊とおじ様数名は昼の部、残りのおじサマーズは夜の部。

おじいちゃマーズは……足腰が痛いのでお屋敷でゆっくりするとの事で、

各自、自己申告制で自由時間を利用する事にしました。

今日はその為に、少しでも余裕が出来る様に早く起きて作業に取り掛かり、

ご主人様のお食事以外は各自で用意して頂く事になりましたよ。


 みんな、お祭りで飲み食いする気満々ですからね。

収穫祭は、それこそ、旬の食材を使った料理の宝庫ですし。



「でも……残念ですね。ユリアさんともご一緒したかったのに」


「そうですよね。イーアさん」


「あはは……すみません。イーア、ユーディ。

 大人数で移動すると、どうしても目立ってしまいますし。

 今日は出来るだけ目立たないようにするのが、収穫祭に行く条件なので、

 それに私はアデル様の側近ですから、後でお手伝いもしませんと」



 さあさあ、お二人は待ち合わせがあるのですから、と背中を押して、

一足先に彼女達を見送りました。此処から私達は別行動です。



 そう私は本日、アデル様との約束で空気ガヤになりきらないと。

大魔神、いえ、魔王? そう! 魔王アデル様を降臨させない為にも!



「ふう……普段とは逆行動しないといけませんよね」



 ヒロインはある意味、誰よりも目立ってなんぼって奴ですが今回は別。


 声質だけでも、その他大勢のガヤになりきる為には、

目立つ行動をしないように、普段のしゃべりも気をつけないといけないんですよね。

つまり……間違っても声音を高めにしてはいけないと。


 これ……新人には結構難しいんですよね。

自前の声質によっては、「わざとらしい声」しか出来ないですし。

隠密行動をするメイドその1として、なりきって過ごそうかな~と。

そう、以前のティアルのように頭からスカーフを被って……不審者になりますか、そうですか。



(アデル様が怒るのは……嫌ですし、彼を暴走させないようにしないと)



 ある程度、私はユリアの事が分かったから良いものの、

アデル様は、未だ私が事件の被害者だと思っているんですよね。

もしも事情を話せば、アデル様とルディ王子様の関係に亀裂が入りそうですし、

余計な事をして、のちのち取り返しのつかない事態になると怖い。


 ならば、本来のユリアのように「何も知らない」フリをして、

アデル様を安心させた方がいいと思います。



「……さて、道具を片付けて私達もそろそろ行かないと、

 アデル様に軽食を持って行かないといけませんし」



 本日、騎士団は警備やらで余り楽しむ事は出来ないだろう。

治安が一気に悪くなる可能性もあるので、油断は出来ないと思うし、

部下である彼らを束ねて指揮するアデル様も、本日は当然忙しいと思われる。

だから、軽食や飲み物をこまめに差し入れしてあげたい。


 

 道具をしまい、布のバッグにお財布を入れる。



「クウン~」


「それじゃあリファ、お着替えして行きましょうか?

 あれ……ティアルは? 知っていますかリファ?」


「クウン?」



 小さくなったリファを抱き上げると、リファは前足で庭へと続く窓を指差した。

其処ではティアルがうさぎのぬいぐるみを抱えて、窓ガラスに顔を近づけている。


 窓の外には、うさぎやら犬、猫、子狐、小鳥、小鹿などなど、

普段使い魔として、このお屋敷に来る子達が沢山集まっていました……。

あそこだけメルヘンな空間ですな。見ていて微笑ましいです。


 は……っ!? 思わず悦に入ってしまいましたよ。



「みいみい、ゴメンネ?」


「ぷ? キュウ?」


「ワン、ワンワン」


「みにゃあ~」



 どうやらティアルはお友達のお誘いを断っているらしい。

うん? もしかして私達と行くからと言っているのかな?

私は使い魔さん達を怖がらせないように、そ~っと近づいてしゃがみ込む。



「ティアル? 私達の事なら気にしないでお友達と行ってもいいですよ?」


「みい、ティアル、ユリアトイッショ」


「いいのですか? 折角のお誘いですよ?」



 見たところ、使い魔さん達も自由時間が貰えた子が多いらしい。

今日は王都に行くと、動物好きな人達から食べ物とかを分けて貰えるとのこと。

だから一緒におやつを貰いに行こうよという、お誘いだったそうだ。


 ティアルが断ったら、「(じゃあユリアはどうする?)」 といった顔で、

使い魔さん達が一斉に私の方を、じいい~っと見てくるんですが……。



「そっ、そんなつぶらな瞳で見つめられると誘惑に……っ」



 ……って、いかんいかん。脳裏にぬいぐるみ版アデル様を思い出した。

今日もアデル様の世話があるので、駄目なんですよ。うう、ごめんよ~みんな。

私はガラス窓を開けて、みんなのふわふわな頭をなでた。



「とても素敵なお誘いなのですが、今日はご一緒できそうにありません。

 せっかく誘いに来てくれたのに、本当にごめんね?

 これ、少ないけれどみんなでお菓子でも買って下さい」



 そう言って私は、自分のお財布から銅のコインを数枚、

子犬が首から下げているお財布にまとめて入れてあげる。



「ワン!」


「いえいえ、どういたしまして。じゃあ、また遊びに来てね?」


「みいみい、マタネ~バイバーイ」



 私がいつもお使いのお駄賃にと、お水とビスケットをご馳走しているせいか、

使い魔の子達とも仲良くして貰っているんですよね。

というのも、私……どうやらあの子達に「白猫」の使い魔と思われているようで、

今の姿は、人型を取った仮の姿だと勘違いされているようなんですよ。


 で……まあ、普段から人型が取れる事で、

上級のあにまる=アデル様と同等と思われているのでした。



「猫姿で、お仲間に入れて貰った弊害が起きようとは……」



 以前、猫姿でティアル達とスキンシップをして癒された後、

あの子達が来た時にも、「(い~れ~て~)」と混ぜて貰ったりもしたんですね。


 でもそのお陰で仲良くして貰っているので、今後も黙っておきましょう。

あにまるスキンシップは、地域の使い魔さん達にも有効なので、

私の癒しタイムを失くすわけにはいきませんからね~。



(まあ、私はアデル様に所有の印を付けられていますから、

 使い魔という意味は間違ってはいませんし……魔法とかは使えないけど)



「クウン?」


 リファはいいの? とティアルに聞いているんでしょうか?

それにティアルは、こくりと頷いて応えます。



「みいみい、ルディ、アソビ、オイデ、イワレタノ」


「ああ、それでですか」


「みにゃあ、ティアル、ルディ、アイタイ」



 実は使い魔さんでも、あにまるフリーパスが使えない領域があります。

そう、それはお城の中。リファのように特別な使い魔でない限り、

一般の使い魔の出入りは本来出来ないんだそう。


 確かに、お城の前でお友達を追い返したら、可哀そうですものね。

アカデミーは簡単に入れたのですが、やはりお城の中は機密情報が飛び交いますし、

そういう所だと警備が厳しいのは当然でしょうね。



「ティアルはルディ王子様に遊びにおいでと言われていたから、

 お友達と一緒に遊びに行かなかったという訳ですか」


「みにゃあ、ルディ“デ”アソブノ」


「……えーと、ルディ王子様“と”遊ぶですよティアル?

 王子様で遊んだら大変です。怒られてしまいます」


「み? チガウ?」



 みゃあみゃあ言って、小さなしっぽが揺れる。

この嬉しそうなティアルの姿を見ていると、

とてもじゃないけれど、「私は会いたくないなあ」とは言えないのが辛いですね。



(――ちゃんとルディ王子様のお部屋まで、送ってあげたいけれど……)



 まだね~? 気持ち的にも落ち着いていないわけで、

ほら、リイ王子様と密談した話がちらほら浮かんで、

今会ったら、かなり動揺するんじゃないかなと思うんですよ。


 一応、裏事情は把握したけれども、

相手は「ユリアを利用しようとした人」ですし。

リイ王子様には、もう大丈夫だとは言われているけれど、

まだ私的には、アデル様の事が気になっているわけで……。

私が知らない領域の話だったから、自然と警戒してしまうんです。



 ――アデル様が魔王になる可能性があると知ったら……。


 ――ルディ王子様は……アデル様をどうするのかな? とも思うし。



「み? ユリア?」



 でも……ティアルを通したルディ王子様を私は見ている。

この子は今も彼をこうして慕っているし、彼もティアルを可愛がってくれていたし。

だからルディ王子様を信じたいと、今でも私は思っていた。



「え、ええ。そうですね。それならば私と一緒に行った方がいいですね。

 私も騎士団本部に用がありますし、あ、でもお城に行く前に、

 先にローディナ達に会いに行く事になりますが、いいですか? 

 今日は二人が女神の祭典のコンテストに参加しますから、応援に行かないと、 

 リーディナも気合入れていましたからね」


「みい! リーディナ、メガミサマ~」


「ふふ、そうですね。仕立てが無事に済んで良かったですよ」



 ヒラヒラする衣装に、仮縫いの時からティアルは大喜びだった。

なんて言うか……子猫になったりする私には、その心境が分かるんですが、

こう、猫の本能を刺激するんですよね。あの衣装は……じゃれ付き易そうで。

勿論、衣装を駄目にするわけには行かないので、毛糸玉を傍で転がして、

ティアルの気を別の方向へ持って行きましたけどね?


 その時に小さくなったリファも混ざっていたのは、此処だけの話です。



 今日は目立つ必要が無いし、仕事の片手間で様子を見に行くので、

制服の上から上着を羽織り、帽子を目深に被り、中に後ろ髪を詰め込む。

これだけしていれば、人通りが多い為に個人をいちいち見てくる者はいないだろう。

色とりどりの衣装や出店にかき消され、私という存在は目立たなくなる筈。


 ティアルとリファにおそろいのずきんを被せた後、二匹を両腕に抱えて肩に乗せた。



「ではいざ! お祭り会場へ!」


「みいみい」


「クウン!」




※  ※  ※  ※




 いつも見学に行かせて貰っている人形劇の劇団員の人に挨拶を交わし、

私達はローディナ達が居る。女神の祭典コンテストの控え室用テントへと向かった。



「あっ! ユリア、こっちよ」


「おそーい! もしかして抜け出すの大変だったの?」


「ああ、居た居た。いえ、仕事があったので遅れました。

 こんにちはローディナ、リーディナ」



 人探しをしている私に気づいて、ローディナが手を振り、

リーディナは私が来ないので、しびれを切らしていたようだった。


 ごめんなさいと両手を合わせて謝り、私は二人の着飾った姿を見る。

ローディナは緑と水色、リーディナは黄色とオレンジ色をベースとした衣装に、

フルーツを模した形のアクセサリーを装飾に付けていた。


 実はこれ、私のアイディアだったりします。

私の世界で流行っていたスイーツデコの知識が多少あったので、

応用すれば、豊穣の女神様らしく表現できないかと思ったんですね。


 ただ、此方の世界の道具と材料で作るので、製作は本当に試行錯誤だったりしましたが。



「二人ともよく似合ってますね。素敵です」


 美人双子姉妹ですからね。衣装も良く映えて似合っていました。

ちゃんとお二人のイメージカラーが取り入れられていますし。


「果物を模した装飾なんて、面白い発想よね。

 ありがとうユリア、お陰で斬新な女神様が出来そうよ」


「ふふ、お役に立てて良かったです。ローディナ。

 間に合って良かったですね。お互いやる事も多いですから」



 そう、衣装の製作はは本当に大変でした。

何せローディナは、この女神の祭典の為に一年も準備していたんですよ。

素材集めから、効果から、生地まで試行錯誤で織り上げて、

かなり張り切って用意しておりましたからね。


 実は少しだけ、お裁縫上手なユーディ達のお世話にもなっていたんですよ。

来年はあの子達も、この中に入っているんだろうなあ。



「本当に大変だったわよね。私、これだけ気合入れてお裁縫した事無かったわ」


「リーディナ、お疲れ様です」



 そう、お裁縫が得意なローディナはともかく、

その片割れであるリーディナの方が、苦手なのに本気で取り組んでおりまして、

リーディナスイッチと言うのでしょうか、それが入ってしまったらしく、

妥協など一切許されない状況で、衣装作りが進行したのです。


 ええ、ここでも「暴走しないように」私達が始終張り付いて、

リーディナが才能の無駄遣いをしないようにと、

各自、阻止していたのは言うまでもありません。



「みにゃあん! リーディナ、メガミサマ、カワイイ! ヒラヒラ~」



 後ろ足で立って、傍で嬉しそうに見上げているティアル。

目を輝かせて、前足でパチパチと拍手をしていた。

そう……全てはこの子の「おねがい」の効果によるものだった。

ティアル、君はある意味無敵かもしれませんよ?



「ティアル! 見て見て、頑張ったわよ私! 似合う?」


「みい! カワイイ、リーディナ、ダッコダッコ」


「~~っ!! なんてかわいい子なんでしょう、

 この子をティアルと名づけましょう!」


「いえ、既にその子の名前はティアルなのですが?」



 リーディナのボケ? も絶好調ですよ。最早、今のリーディナは無敵です。

小さな子の全幅の信頼を得られているのですからね。

この姿をティアルに見せる為「だけ」に頑張ったと言っても過言ではない。

むしろ、「それしかない」のでしょう。


 いやでも、ドレス姿で子猫を抱き上げて、

うふふ、あははと言いながら、くるくる回っている彼女を見ていると……。



「壊れた?」


「ええ、壊れたわね。今まで鬼気迫るものがあったもの。

 リーディナは今日まで本当に試練に耐えてくれたわ」



 聞けば姉のローディナによる、レディ養成講座の特訓まで受けていたそうだ。

……って、こんな所で大騒ぎしている時点で、努力が泡になっている気が?

まあ、いいか、黙っておこう。うん。



「疲れているんでしょうね」


「本番はこれからなのに……困ったわ。倒れないかしら」


「大丈夫だと思います。むしろ、ティアルをもふもふ出来て、

 リーディナはすこぶる絶好調だと思いますよ?」



 ティアルのお願いによる報酬は、ティアルのお腹を触る事でしたし。

願いが叶ってリーディナ嬉しそうですもの。


 さて、私はローディナの目の前に立って、リボンの位置を直したり、

ドレスの裾にシワが寄ってないかを確認する。さあここからは女の戦場です。

私は友人を送り出す者として、出来るだけのアドバイスをする事にしました。

形態は若干違いますが、私もオーディション経験のある身ですから、

きっと何か役に立てる事はある筈ですね!


 リーディナは……うん、今お取り込み中なので放っておこう。



「あら……? ユリア、首元が……」


「え?」



 かがんだ私に対し、ローディナは顔を赤くして言葉に詰まりながら話しかけてくる。



「その、赤い痕が……もしかしてそれって……」


「え!?」



 はっと指で指摘された場所を手で覆い、近くにあったローディナの手鏡を借りた。

其処には赤い痕が首筋に残っており……もしかして、もしかしなくても、

アデル様が人間式のマーキング方法を試したのでは?



(こ、これ、お、お見送りの時だ……っ!!)



 今朝、何時もよりも早めに出勤したアデル様を見送る時に、

恋人らしい朝の挨拶がどうのと言っていた彼、

私が戸惑っていると、アデル様が私を抱きしめた時に、

なんと首元に顔を埋めてきたんですよ。


 その時アデル様は言っていた。「男除け」のまじないらしいと。


 どうやらまた、アデル様は何かの本の影響を受けているのか、

これが男避けのまじないだと、本気で思っているようだった。


 龍の威嚇いかく方法が、人間には効かないとか何とか言っていましたが、

痕に残るとは思ってませんでしたよ。



(あ……アデル様~~っ!!)



 恋人の通過儀礼、恐るべし!


 顔を真っ赤にしてうつむく。上手いごまかし方法が分からない。

恋人と言う立場になってから、アデル様は何かとこういう事をするのが多くなった。

ただ、アデル様の場合は、その意味を深く理解していないでやる事が良くあるので、

後でよく話さないといけないだろう。うん。



「あ……あのこれは……ですね……」


「う、ううん、いいのよ。私に無理に話さなくても!

 ……でも良かった。恋人同士になれたと言うのは本当なのよね。

 最初はどうなる事かと心配したけれど、ユリアを大事にして貰えているのなら、

 私はそれで十分よ……本当に良かった」


「ローディナ……」



 ふ、ふふふ……良かった……のかな? 

ユリアって、本来はアデル様と恋愛する立場の役ではないのに。


 私、世界の破壊者ルートブレイカーになっている気がするんですが?

本物のユリアは未だ不在だし、代理の恋人関係で後ろめたいんですけど……。

でも、世間的に見られたら色々と複雑な関係に見られていたんでしょうね。


 私がローディナ達にアデル様の子供を身ごもっていると勘違いされて、

慌てて『違いますよ!」と誤解を解いたのは、つい先日の事でしたし。

もしかしたら、他にもそう勘違いされた方が居るかもしれませんよね。

地位の低いメイドとご主人様の恋愛なんて、禁忌としても考えられるだろうから、

確かに世間的に見られても、余り良い印象を得られないんじゃないかと思います。


 だから、予想外にも非難されず、周りに好意的に思われて応援されたのは、

とても幸運だったのではないでしょうか?



「本当は、一緒にユリアをここで着飾らせて、

 アデルバード様に、ユリアの姿を見せてさしあげたかったのだけれど」



 ――そんな事を考えていたのですか?!



「ふふふ、残念がらなくても大丈夫よ、ローディナ!

 こんな事もあろうかと、私は嵐のような製作準備の傍ら、

 画期的なアイテムを用意したんだから!!」


「え?」


「はい?」



 片腕でティアルを抱っこしたリーディナは、

いそいそと、腰元のポケットからある物を取り出した。

以前貰った【リビアの指輪】とそっくりな形状のそれ。

違いがあるとすれば、それに嵌められた石の色が白い位だ。


 ……えーと? なんだか嫌な予感がします。はい。



「じゃじゃん! 新作【アンナの指輪】よ。これでユリアはローディナになれるわ!」


「「……は?」」


「みい?」


「クウン?」



 えと……頭大丈夫? と、私とローディナはそろってリーディナの額に手を添える。

熱無いよね? ええ、無いわよねと二人で顔を見合わせて相談する。

どうしよう、疲労マックスでリーディナは壊れてしまったらしい。

他の方にご迷惑を掛けない内に、此処は棄権させるべきでしょうか?


 大丈夫! ローディナだけでも十分やっていけると思うんですよ。

リーディナが欠けた分も健闘してくれるんじゃないでしょうか?

元々、彼女は前回の優勝者ですからね!



「ちょ、ちょちょっと違うわよ! 私は至って健康体だから!

 だからね? ……いい? ちょっと耳を貸して」


「?」


 私とローディナは勿論、ティアルも前足で口を塞ぎ、聞き耳を立てて顔を近づける。

足元に居たリファがアタシもー! と、ぴょんぴょん飛び跳ねて意思表示をしていたので、

リファを抱き上げて再び聞き耳を立てる仕草をした。


「前のリビアの指輪の効果は分かっているでしょ? 動物の姿に変身が出来るの。

 でもこれは、相性のいい人の姿に一時的に変わる事が出来るのよ」


「つ、つまり……?」


「!? という事は、私の努力が無駄にならなかったと言う事よね?

 そうでしょう? リーディナ!」


「ええそうよ。良かったわねローディナ。それで貴方の姿を借りるけれど良いわよね?

 ……と言っても、私と代わり映えは殆どないんだけれど。双子だし」


「勿論よ! 貴方なら何とかしてくれると私、信じていたわ!!

 うふふふ、良かったわねユリア!! 天は私達の味方よ!

 これで貴方も参加できるわ。コンテストに!!」



 そう言ってローディナは、持参したかごをがしりとつかむと、

ピンク色と若草色の生地で出来た衣装を取り出した。

色違いですが、ローディナ達の今着ている衣装と全く同じデザインです。


 ……え? もしかして、もしかしなくても、これを想定していたと言う事ですか?



「じゅ、準備が良すぎる……まさか、私の分まで作っていたと?」


「そう! もしかしたらユリアも、参加の機会があるかも知れないじゃない?

 ふふふ、うふふふふ! 用意して置いて良かった。ユリア私とっても嬉しいわ!

 これで三人おそろいの服を着ると言う、私の野望がついに叶うのね!!」


「野望だったんですか!」



 アデル様は以前、言っておりましたよね? 

ユリアは何かの被害者かもしれないから、

人目に多くつく可能性のあるコンテスト参加は絶対に駄目だと。


 で、リーディナはその言葉の裏を突いた訳です。


 つまり、「ユリアじゃない」のなら、参加OKって事じゃない?

だから、別人になってしまえば、大丈夫でしょうと。


 動揺する私の両腕をローディナとリーディナが、そろってがしりとつかんだ。

はっ!? 捕獲されたっ!! なんと言う息の合った行動だ。一瞬のブレも無い、

流石は双子スキル!! ……って、そんなのん気な事を言っている場合じゃなかった。



「あ、あの……?」


「さあさあ、ユリア、あなたは今日からうちの子になるのよ。

 じゃあ、支度を手伝ってもらえるかしら? ローディナ」


「ふふふ~楽しみね。双子じゃなくて三つ子になればいいのね。

 その発想は考えて無かったわ。流石はリーディナね!」


「いえ、あの、私アデル様のお手伝いにですね……?」


「大丈夫よ! アデルバード様には私から断りの手紙を出しておくから!」



 手紙? そういうリーディナの方を振り返ると、

彼女は美しい微笑を私に向けてきました。



「“ユリアは預かった。返して欲しくば、女神の祭典会場に来られたし“って」


「それ脅迫ですから!! まんま誘拐した時の文例じゃないですか!」



 何より、別人になっているんじゃアデル様でも気づかないですよ!!



「大丈夫よ。元に戻した時に、着飾ったユリアの姿になるんだから、

 せめてその姿だけでも、ひと目、アデルバード様に見て頂きましょう?

 女の子なんだもの、やっぱり着飾った姿は好きな人に見せなきゃね。ローディナ」


「ええ、お化粧もしてアデルバード様に惚れ直させるのよ!

 来年になったら、ユリアは参加出来ないかもしれないだろうし、

 今年は絶対にパレードには参加させてあげたかったの、一生の思い出になるから」


「え? 参加出来ないかも……って?」


「「その頃にはユリア、お嫁さんになっているでしょ?」」


「!?」


 ――お、お嫁さんになっている事前提ですかっ!?


 そのお相手はいわずもがなという奴ですよね?!



「「と、言う訳で! お着替えしましょう!」」


「えええ~ちょ、ちょっと待ってええ~っ!?」


「みいみい、ティアルモ、オテツダイ、スル~」


「クウン! キュイイ~」


 私の悲鳴もむなしく、二人によって物陰に引きずり込まれた私。

一応、仕事を抜けてきたので余り時間が無いのですよ?

そう、口実をつけて断ろうとしたら……。


 流石はローディナです。その口実を笑顔でみごと打ち砕いてきました。

既にお屋敷の先輩方である、おじサマーズ、おじいちゃマーズ達と、

後輩であり同僚のユーディ、イーアのお許しの署名も既に頂いておりました。

ちょっ!? いつの間に貰っていたんですか? 用意周到なんですけど!?



「皆さん、ユリアを参加させてあげられないのが不憫ふびんだって仰っていたから、

 もしも、“急用”が出来た場合はって、快く応じて下さったわ。

 良かったわね! ユリア!! みんなあなたの味方よ!」



 署名の下には、私を推薦するという文字も書かれておりました。

用意周到ですね……お二人とも。こういう時二人のシンクロ率は半端ないです。

言葉を交わした訳でもないのに、何でしょうこの連携プレー。



「は……はははは」


 いえ、あの……肝心の「ご主人様の許可」が後回しになっているんですが?

後でバレたらとても反応が怖いんですよ。それは一体どうする気なのですかね? 二人とも。



「大丈夫、それはユリアの頑張り次第よね。ローディナ?」


「そうね。愛の力でなんとかなるわよね。リーディナ?」


「へ?」


「「アデルバード様、ああ見えてユリアのお願いには弱いから大丈夫よ」」

 

 

 それ、まるっと丸投げですよ!! それって私がどうにかしろと?

かなり強引じゃないですか~っ!?


 怒られる時は三人一緒ですよ……? と念押ししたら、

二人は笑いながら、こくこくと頷いて了承してくれました。



(あ……ああ、ど、どうしよう、大丈夫かなあ……?)



 一応、ローディナの姿をお借りすると言うので、

ユリアが目立って、何かに巻き込まれる可能性は無いかもしれませんが、

これは想定外ですよ。こんなの予測もできないですよ。


 別人の次は猫、その次は無機物。

そしてその次は、知り合いの友人になるとは……私の人生ハードモード過ぎますわ。



(中の人、メインヒロインに昇格……って、これは違うか)



 そんなわけで私は双子姉妹の陰謀? により、

急遽、コンテスト参加が(強制的に)決まったのでした。


 ガヤどころじゃなくなって来ましたよ?!




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