57・水面の少女
「――……あれ……?」
ふと気が付くと、私は白いシンプルなワンピースを着ていて、
何処までも果てしなく続く、水面の上を裸足で歩いていた。
一瞬、体が沈んで溺れてしまうのではと慌てたが、
どれだけ待っても体が水の底へ沈むような事は無かった。
私の足元から波紋が広がっていくのに、
自分の体は、水面の上に安定しているようだ。
「大丈夫そう……?」
ほっと安堵の息を吐いた後、私は辺りを見渡した。
ここへ来るまでの記憶が自分には全く無いのだ。
それはまるで、ローザンレイツに来た時と同じような感覚で。
「どうやって来たんだろう……?」
緩やかな風も吹いていて、頬を優しくなでて行く。
鳥もいない、静寂だけがその場に広がっていた。
水の底はエメラルドグリーンとマリンブルーが混ざり合い、
淡い色彩を放っており、何やらキラキラと光の粒が輝いている。
水面は水平線まで続いていて、湖なのかそれとも海なのかも分からない。
「ここは……何処?」
一瞬、またも異世界に放置プレイその2なのではないかと思った。
でも、以前のような動揺はない。これは慣れというものだろうか?
私の記憶には無い場所だ。けれどなぜか怖いとも思えなかった。
「それよりも何だか、すがすがしい気分だ」
澄んだ場所だからだろうか?
見えるのは流れる雲に青い空、何処までも広がる水面があるだけで。
自分には魔法の類は使えないから、このような芸当は出来ない筈だ。
だとしたら……これは一体……?
「……っ、え?」
もう一度、こわごわと足元を覗いて見れば、
波紋が無くなった代わりに、水面に何かが映し出されている。
よく見ると、それはセミロングの黒髪をした少女だった。
「私……?」
それは久しぶりに見る自分の本当の姿、「水上結理亜」の姿だった。
足元を見下ろした時に、視界に黒い髪が揺れた事に気付き、
私は直ぐに自分の髪を触り、毛先をつまんで目の前に持って行って確かめる。
……なぜか髪は黒い色に戻っていた。
「え? え? ……と、言う事は……っ?!」
慌てて足元の水面を再び見ると、自分と同じ動きをする姿が映る。
つまり、映っていたのは自分の姿らしい。
「うそ……それじゃあ私……元の姿に戻っているの?」
顔を何度も触って確かめる。一体何が……どうして?
ユリアは? アデル様は何処に行ったの? 疑問ばかりを浮かべて困惑する私は、
突然、背後に誰かが立っている気配に気が付いた。
はっと振り返ると、其処には――私がずっと会いたがっていた人の存在が。
「うそっ!? ユリア……?」
「……」
静かに目の前の少女は私に頷く。
目の前には、今まで私が演じていた筈のユリア・ハーシェスが立っていた。
「ど、どうして……?」
「……」
私が今まで会いたくて仕方がなかった。本物のユリア・ハーシェス。
緩やかなハニーブロンドにすみれ色の瞳をしたその少女。
私が長い間、過ごして来たその姿で、彼女が目の前に存在しているではないか。
(なんだか不思議な感じだ……私がこうして、ユリアと会う事になるなんて……)
ずっと自分が同じ姿で過ごしていたからか、
彼女の姿を見ていると、私自身のように感じてしまう。
それはまるで……自身の姿を鏡で映し見る時と同じ感覚だ。
(私……ずっとユリアとして過ごして来たからかな……?)
柔らかな風を受けて、揺れる金色の髪、透き通る白い肌に大きな紫の瞳、
彼女の表情は、とても落ち着いていて優しげで、
そして、儚げな印象が私には感じ取れた。
それだけで私とはやはり、印象が全然違うなと言うのはよく分かった。
「やっと、あなたに会えた……本当に……本物のユリアなんだよね?」
彼女は驚く私に微笑み、もう一度頷いてくれる。
「ごめんなさい……あなたの声……ずっと聞こえていたのだけれど、
私には応えるだけの力が……残っていなくて……」
その声は予想した通り、「私の声」だった。
勿論、素で話している私の声質とは若干違うのだけれど……。
これまで何度も演じて作り上げた。私の声がベースになったユリアの声。
それもまた不思議な感じがする。
「一体どうして……ううん、そんな事より!
今まで何処に居たの? ずっとずっと探していたんだよ?!」
こうして会えたという事は、もしかして戻って来られるのだろうか?
みんなとの別れは勿論、アデル様の今後が心にとても引っかかっていて、
突然の別れの予感に私は戸惑っていた。
最後だって分かっていたのなら、事前にみんなに会っておきたかったとは思ったが、
その時が来たのなら仕方ない……んだよね。心残りは尽きないけれど、
代役としての引き際は分かっている。ここは素直に彼女に残りの事を託せば良いんだ。
あちらの世界の家族も、友人も……好きになった人、アデル様の事も……。
――きっとあなたなら……彼を幸せにしてくれるよね?
(アデル様……)
こんな事なら……最後にもう少しだけ、彼に甘えておくんだったかな?
とは思ったけれど、大人しく諦めよう……そう思っていた。
(まだ……気持ちの整理は出来ていないし、
みんなにさよならする事も、出来なかったけれど……)
本物が戻って来るのならば、イレギュラーは必要ない。
きっとそれが一番良い事なのだと自分に言い聞かせて、
私は彼女の手を両手で包み込んだ。
「――お帰りなさい……ユリア……ずっと待っていたよ」
良かった。これで良かったんだと必死に思おうとする一方で、
私は色々と彼女に話さなければいけない事を思い出した。
それこそ、もう……スライディング土下座級の……。
「そうだっ! わ、私ね? あなたにかーなーり謝らなければいけなくて……っ、
なんて言ったら良いのか……本当にごめんなさいっ!
私の行動であなたの人格とかを変えてしまったり、
その、同じ人を想うようになってしまったりして……」
私はこの世界について、少しだけ知識があったから良かったものの、
本物のユリアは記憶が無く、とても苦労した事だろう。
そんな中でユリアがアデル様を慕い、懸命に彼の為に生きてきたことを思うと、
もう、自分が情けなくて仕方がなかった。
苦しんできた子なのに、誰よりも彼女の気持ちを知っていた私が、
同じ立場になって、同じ人を好きになるなんて思ってもみなかった。
だから申し訳なくて、私は深々と頭を下げた。
「ごめんなさい……私の存在で、私の行動で、
あなたの意に沿わない事になったかもしれない……」
ユリアとアデル様が結ばれれば、二人とも幸せになれる。
でもそれは私の間違いかもしれないと、最近では思うようになった。
本当に彼女がアデル様を求めたなら、誰よりも一番近くに居た子だから、
やろうと思えば、アデル様との未来も望めたのではないか?
――でも、あえてそれをしなかったのは……。
(きっと……アデル様との恋を叶えるよりも、アデル様の意思を尊重したんだろうな……)
……好きな人の本当の幸せを望んだからだろう。
彼が想いに応えてくれたら、アデル様自身の意思を歪めてしまうかもしれないから。
(龍は身内になった者を大切にする……)
私は彼女の意思に背いた道を選んでしまったのではないか。
アデル様はユリアを伴侶として求め始めた。
これは既に決定事項となりつつある。
「で、でもね? これはアデル様に無理強いした訳じゃないんだ。
あなたとアデル様の未来を守りたかった。それだけだったの……。
本当にごめんなさい……」
私が謝ると、ユリアは静かに首を振った。
「あ、あと……私の事、あなたは全然知らないと思うけれど、
私はあなたのこと良く知っているの……おかしなこと言っていると思うけど、
ユリアのお陰で、私は沢山の幸せと出会いとチャンスをもらえた。
……言い表せない位、とてもあなたに感謝しているの」
――だから……本当にありがとう……。
「アデル様は、自分の意思であなたとの未来を選んでくれたよ。
だから、ユリアの想いに全て反した結果にはならないと思う。
あなたがアデル様と一緒なら、きっとあの人も幸せになれるから、
だから……どうかあの人と幸せになって?」
やり残した事もあり、途中放棄して丸投げのようで申し訳ない。
色々と思うことはあるけれど、ユリアとこうして会えたのは素直にとても嬉しいと思う。
もう会えない可能性が高かったから、会えて希望が持てた。
(アデル様の今後の事を思うのならば、ユリアの存在は欠かせない、
本物が帰って来ない限り、本当の幸せにはなれないもの)
ユリアと会うのが、これで最初で最後になるならば、
私はこれまでの事を謝って、そして感謝したかった。
あなたが居たお陰で、私は異世界で放り出されても基盤があったから助かった。
ユリアの行動を見習って過ごした日々を思い、私はまぶたを閉じる。
私の姿のままだったら、この世界で馴染む事も出来ず、
こうも上手くは行かなかったと思う。
そんな私の様子に、ユリアは静かな声でこう語りかけて来る。
「――いいえ……感謝したいのは私、
そして謝らなければいけないのも、きっと私の方……」
「え?」
「お願い……アデル様を……助けて……」
ぎゅっとユリアに握り返された手、彼女の目には涙が浮んでいた。
そして、徐々に彼女の体は透明になって透けていき……。
光の粒となって消えていく――。
「――……の……あなた……なら……」
「え? ユリア待って、何処へ行くの!? 行っちゃだめ、行かないで!!」
ユリアの流した涙が水面に一粒落ち、
それは突如、大きな光を生み出した。
「!?」
一瞬にして辺りは真っ白な光に包まれ、私はその渦の中に巻き込まれた。
消えてしまったユリアを呼びながら目の前に手を伸ばす。
けれど、どんなに呼んでも、ユリアはもう私の前に姿を現さなかった。
光の勢いはどんどん増していき、今自分が何処にいるのかさえも分からない。
「ユリア――ッ!?」
ああ、これは夢なのだろう……そう気づいたのは、この時だった。
私は光に飲まれながらも、ここへ来た時に聞いた、あの不思議な音色を聞き……。
突然表れた白い二匹の小さな獣が、私を光の渦から助け出してくれた。
「あっ、あなた達は……?!」
「「クウン」」
私が最後に見たのは――……以前会った、リファの子供達だった……。
※ ※ ※ ※
「――……せ……目を覚ませユリア!!」
「……えっ?!」
アデル様の声に驚いて目を覚ますと、
其処は私の部屋の中で、私はベッドの上にいた。
「!? ……何これっ!?」
そしてなぜかその時の私の全身は光に包まれており、
なんと、ベッドの上で宙に浮んでいたのである。
一瞬、寝起きドッキリ作戦かと思ったけれど違うようだ。
(眠っていた筈なのに、目が覚めたら浮かんでいるってなぜに!?)
背後には何も無く、横たわったままの格好で私は浮んでいる。
はい、種も仕掛けもありませんでした。
わたわたと暴れるけれど、微動だにしませんよ!?
その姿を、動揺したリファとアデル様が見上げていた。
ティアルはハンカチを広げて、私を救助してくれようとしていますが、
それ、小さすぎて流石に無理だからね? 君は危ないから離れておくれ!
「あ、ああああのアデル様、な、なんで私こんな事に!?」
「いや、俺も分からん! 部屋に寄ったら既にこうなっていたんだ!
君が何かやっているのではないのか?」
「こんな事出来る訳ありません~!!」
こんな事が出来たのなら、私、オーディションの自己PRで喜んで使いますよ!!
ええ、間違いなくインパクト勝負には良いかと思います。
……なんて、のん気に考える所か、思考は既にパニック状態です。
半泣き状態で助けを求めました。
「た、助けて下さい~~っ!!」
「ユリア、こっちに手を……っ!」
アデル様が慌てて、私に向かって両腕を伸ばし受け取ろうとしていて、
私の体は一向に安定せず、今もふよふよと宙に浮いている。
部屋の中は私を中心にして、眩しい位の光が溢れており、
私の動揺に比例するように、光は威力を増したようだ。
「落ち着けユリア、君に反応しているようだ」
「い、一体何が……? 魔法とかではないのですか?」
「魔力は感じられないが……」
「みいい~ユリア、ピカピカナノ~」
「クウウウンッキュイイッ!」
ティアルは目を開けていられないようで、前足で目を覆い隠し、
リファは目を瞑りながら、必死に私を呼んでいるように聞こえた。
光はより輝きを増して辺りを照らし出している。
魔法も使えない私が、こんな芸当が出来る訳無い。
――と言う事はつまり……。
「ユリア、鏡だ!! 鏡を探せ!!」
「は、はい!」
光は私の上から強く発しているように感じた。
目を凝らして手を伸ばすと、ひやりと何か固い物質に触れたのを感じる。
やはり神鏡のせいらしい。私は両手を伸ばしてそれをぐっと引き寄せ。
自身の体で覆うように押さえつける。
「お願い……収まって!!」
その瞬間、光を発するのがぴたりと収まった。
代わりに宙に浮んでいた私の体は、そのまま支えをなくした事で、
ぱっと糸が切れたようにベッドへと急降下する。
「へ……? !? うわああ――っ!?」
「……くっ!!」
私の体がベッドに思いっきりぶつかる前に、
アデル様が近寄って私の体をどさりと受け止めてくれた。
お陰で衝撃は免れたようである。
「は……っ」
心臓がばくばくと早まり、動揺する私に、
アデル様はそっとベッドの上に下ろしてくれる。そしてそろって安堵の息を吐いた。
「ユリア、怪我は無いか……?」
アデル様は私の頬に手を添える……私は静かに何度か頷いた。
腕の中には神鏡ハーシェスがある。
まだ、消えていないと言う事は、手を離した瞬間、暴走するかもしれない。
その鏡をアデル様は無言で掴んで来たので、
私は慌てて彼から離そうととした。何かあってはまずいではないか!
「……」
「あ、あの、アデル様?! 危ないですから……っ」
もしも鏡の暴走ならば、不用意に刺激するのは危険。そう言って彼を見上げると、
いつの間にかアデル様の瞳は紫から金色へと変わっていて、
アデル様は静かに手の触れた鏡に話しかけた。
「……鎮まれ……神気を纏う鏡よ。
何を持ってユリアに宿ったかは知らんが、この娘に手出しをする事は俺が許さん。
ユリアは俺の女だ。お前の贄になどさせない。
その時は、この俺が貴様を叩き割ると覚えておけ」
「あっ、アデル様っ!?」
「だから鎮まれ……大人しく眠るがいい……」
鏡に触れるアデルの手からは、しゅうしゅうと音を立てて紫色の闇が発せられていた。
アデル様が魔法を使ったのだろう。鎮まれと言うアデル様の声に呼応するかのように、
闇は鏡を覆っていく。
「あ……蝶に……」
鏡はアデル様の力に包まれ、暴走を止めた。そのまま金色の蝶の姿に形を変えると、
私の胸元へとすう……と吸い込まれて行く。
どうやら問題はアデル様が解決してくれたらしい……。
(そうか……闇の魔法は鎮め……安らぎをもたらすのもあるって、
前にリーディナが言っていたな)
属性には二面性があり、攻撃的なものもあれば、回復や補助的な役割もあると聞く。
一瞬、アデル様が鏡を燃やそうとしているのではと思ったが違ったらしい。
お陰で暴走は鎮まったようで、私は助かったようだ。
ほっと息を吐くと、アデル様に私はお礼を言う。
「あ、ありがとうございました……アデル様」
「ああ……しかし、なぜいきなり予兆もなく出て来たんだ?
ここが危険だとでもいうのだろうか?」
「さ、さあ……どうなのでしょうか?」
思い出して見ても、原因となる事をした覚えはない。
私は連日のアデル様の接触による寝不足の解消にと、
休憩時間を利用して少し仮眠を取る事にしただけなのだが。
そんな時、私はある事を思い出した。
(そうだ……っ、夢の中にユリアが現れた。それに、あの子達も……)
ただの夢と言うだけで片付けられない、不思議な夢。
あの時、ユリアは言っていた……”アデル様を助けて欲しい”と。
鏡の本来の持ち主はユリアなのだ。
彼女の想いに反応して、この鏡が反応したのだとしたら。
(この鏡は……持ち主の強い想いに応えているんじゃ……)
思い出すのは、リファの故郷を訪れた時だ。
リイ王子様の前で、必死に鏡を操ろうとした時とは違い、
私の願いにすんなりと応えてくれたかに見えた。
その違いという物があるのならば、必要性に駆られた強い願いとしか思えない。
――だとしたら、あの子は……ユリアは、この鏡で何を願ったの?
(助けてと言っていた……アデル様の事を……)
思い出すのは、以前見たユリアの最後を迎える夢だ。
そして夢の中で彼女と繋いだ手の感触。その温もりを私は覚えている。
あれがただの夢だったとは、とても思えない。
肝心な事を聞きそびれてしまったし、結局彼女は戻って来なかった。
「俺の力が及ぶ範囲で良かった。ユリアにもしもの事があれば……俺は……」
「……ん?」
気が付けば、私はアデル様の腕の中に居たままだったのを思い出す。
こちらが考え事をしている間に、彼は私が怯えていると思ったのだろうか?
彼に頭と腰を引き寄せられ、ぎゅうっと抱きしめられていて……。
人の頭の上で顔を埋めていたり、こめかみにキスまでされていました。
「~~っ!!」
――頼みますから、私に考える時間くらい与えて下さい!!
(そういう事を平然とやって来ないで~っ!!
こっちは、そういう事に免疫が無いんですから~っ!!)
わたわたと彼の腕の中から脱走を試みたりしたのですが、
耳元に口付けられて……私は膝から力が抜け、腰が抜けた……。
(うわあああっ! 誰か! 誰か助けてええ~っ!!)
アデル様の腕の中で、私は本物のユリアに対して何度もぺこぺこ頭を下げる。
もしかして彼女は、私の置かれている状況を見て身を引いたのではないか?
――彼女の性格ならありうる!
(いや違う、違うんだ!! これは私の意志でしていることじゃないんだ。
だから出てきて! お願いだから今すぐ交代して助けて!!)
龍にハグされると万事休す。
暫くはアデル様が落ち着くまで、これに堪えなければいけませんか!?
その前に、私が忍耐不足で気絶するかもしれません。
……というか、本当に気絶しましたよ。がっくりと。
※ ※ ※ ※
それから数日後……私は自身のもう一つの変化に気が付いた。
「みいい~ユリア、イツ、カケルヨウニナッタノ~?」
「え……ええと……?」
「みいみい、スゴイスゴイ、ティアルモ、ガンバルノ~」
ティアルが手をパチパチと叩いて褒めてくれる。
いや……だが、待って下さいな? 私、こんなに書けなかった筈ですよ?
私が「ユリアじゃない」証拠でもあったこの世界の字が、
いつの間にかスラスラと書けるようになっていた。
これまでは、みんなに字を教わったりと色々と苦労していたのに、
今ではスペル間違いも無くなり、読み書きが完全に出来るようになっていたのである。
普通、語学留学でも、短期間でこれ程の成長は出来ないだろう。
ヒアリングは出来る様になっても、単語を知らないと言うのは良く聞く話だし。
「……どうなっているの?」
思い返せば、先日もユーディに書き置きをした際に、
他の人に一度も聞かずに書いていたではないか……。
何かがあるとするならば、やはりユリアの夢である。
一度目はユリアの体の中で最後を迎え、二度目はユリアと会って話した。
それから自身の能力が格段に上がっているようだ。
夢の中で手を繋いだ私達、あの時ユリアも手を握り返して……。
(……って、これはもしかしてユリアが……?)
まるで、私が”ユリアで無いこと”を埋めるかのような……。
互いの境界線が無くなっていく感覚。そんな状況に、私はなりつつあるような気がした。




