第21話 アレスでサンタ? サンタでアレス?
ダッシャーとキューピッドは、一歩も動くことが出来ずにいた。
悍ましい邪気を全身に帯びたアレスと魔神級のノウエーが争う光景を目の当たりにしている。
レッドチームの仲間が倒れ、絶望の闇に覆われているが、それでもこの状況に一縷の望みを見出すべく思考を巡らした。しかし、この空間にはアレスの強力な結界が張られており、離脱することが出来ない。当然、救援も来ない。
二人の目の前の圧倒的な闇の存在が、圧倒的パワーでノウエーの盾と化したサンタに怒涛の一撃を放った。
それは一瞬の出来事であった。
アレスの漆黒の拳がノウエーの盾を穿つと同時に盾の内部から光の波動が外部へ拡散され、漆黒のアレスの全身を覆い尽くしたのである。
光に覆われたアレスの邪気が、もがくようにそれを振り払おうと激しく絡み合ったことで、周囲一帯が真っ白に染まる。
「なんと、凄まじい・・・」
「・・・・・サンタは?」
一部始終を目撃したダッシャーとキューピッドは、白い爆煙が晴れてゆくのを見守る。
やがて、爆煙が消え、ひとりの男の姿が浮かび上がった。
「あれは・・・」
「まさか! サンタ・・・なの?」
その男の姿形はサンタに見える。
しかし、以前のサンタとは何かが違っている。
「良かった・・・」
「サンターーーっ!! お前、よく無事で、もうダメかと思っちまったけど、お前はすげえ奴だな!」
サンタの姿を確認した二人は歓喜の声を上げた。
その声に反応したサンタは、二人の方へ振り返る。
「あれ? あいつよく見るとなんか変わってねえか?」
「何か妙な気配がするわね・・・そういえば、あの魔神はどうなったの?」
「あの悍ましい黒い奴だよな。どこかへ吹き飛んだのか?」
異変を察知したキューピッドが、神気功を練って気配を探知する。
「待って! あの凄まじい邪気がまだ残っているわ! それに強力な結界はまだ張られたままよ」
「マジかよ! 結界があるってことは、まだ生きてるってことかよ! よく考えれば、あんな圧倒的な奴がそう簡単にくたばる訳がねえよな・・・くそっ、まだ安心できねえのかよ」
サンタは一喜一憂する二人に近づいて来る。
「おーい、サンター! あの黒い魔神はどうなったん・・・だ・・んっ?」
近づいて来るサンタに声を掛けたダッシャーがサンタの姿に異変を感じ取った。
よく見ると、サンタの髪の色が金髪と黒髪のツートンカラーに変化している。更に瞳の色も片方が黒、もう片方が金色に輝いている。そして、先頭スーツまで赤と黒のツートンカラーに変色している。
「おい、お前は本当にサンタなのか・・・」
「ダッシャー待って! あのサンタだけど、魔神の邪気が充満しているわ」
ダッシャーの言葉を遮るようにキューピッドが声を荒げた。
二人に近づいてくるサンタが口を開ける。
「ダッシャー、キューピッド、お前ら無事だったのか!? あれっ、ダンサーはどうした?」
声を掛けられた二人は困惑する。
「やっぱりサンタじゃねえか!? なんで、あいつから魔神の気配がするんだよ」
「私にもわけがわからないのよ、でも、あの能天気な声はサンタ、しかも私たちの名前を呼んでくれているし・・・」
困惑する二人に近づいて来るサンタの足が止まった。
と、そのまま踵を返して二人に背を向ける。
サンタは、自身の意識の中に何者かの存在を感じ取った。
(小僧、どこへ行く! 俺はあのカスをぶちのめすのだ。何故、俺がお前に取り込まれてるのかは知らんが、とにかく急ぐぞ!)
「くそっ、お前はなんだよ! なんで俺の中にお前がいるんだよ!」
(小童のくせに俺に向かってお前呼ばわりとはな! 後でお前など瞬殺してやっても良いが、先ずはあの裏切り者を跡形もなく消滅させるのが先だ)
「勝手なことを言うなよ! だいたい誰だよ、お前は!」
(小童ごときが俺に対してそんな台詞は百万年早いわ! いいから殴りに行くぞ!)
「何言ってんだ、俺の身体を勝手に操るんじゃねえよ!」
(そっちではない! あのカスは逆の方向だぞ!)
急にサンタが一人芝居をしているような動きになって、こちらを向いたり、後を向いたりとグルグルと回っている様を見ていたキューピッドがダッシャーに告げる。
「もしかしたら、サンタは融合・・・しちゃってる・・・のかも?」
「えっ!? おいおい、それってまさか・・・あの黒い魔神と・・ってことなのかよ」
二人は顔を見合わせてから、慌てて後退りする。
「あっ、お前らー、なんで後へ下がってるんだよ!」
サンタは大声で呼び掛けるが、二人は焦りの表情を隠せずに尚も後退を続けている。
「サンタ、こっちへ来るなよ、こっちは間に合っているからよぉ」
ダッシャーは焦る余りに意味不明なことを口走ってしまう。
「なんだよダッシャー、冷たい野郎だなぁ、ダッシャーのくせにさー」
サンタは全く聞く耳を持たずに、なおも近づいてくる。
「違うの、サンタ! 私たちはダンサーの様子を見に行くのよ」
キューピッドは咄嗟の言い訳をした。
「なんだ、そうなのか。ダンサーは頑丈だから大丈夫だと思うけど、助けてやってくれよな!」
言い終えた瞬間に突然、百八十度ターンを決めるサンタ。サンタではない内側の誰かの意思によるターンであったが、当然ダッシャーとキューピッドには、妙な動きにしか見えなかった。
(おい、童ーーっ! そっちではないと言ってるだろうがぁ!)
「誰だかわかんねえけど、俺の意識に直接喋ってくるんじゃあねえよ! っつうか俺を操ろうとするなよ、マジで!」
(小童がー! お前、俺を封じ込めたつもりだろうが、こんなものは貴様の存在ごと破壊して外に出てやるぞ!)
「それはこっちの台詞だぜ! なんで知らないオッサンがいつの間にか俺の中に侵入してるんだよ!」
(クソーっ! ここはどうなっている。全く抜け出せる気がしないぞ。おい、童ーーっ! 俺を今すぐにここから解放しろ!)
「勝手に入ってきて何を偉そうに言ってやがる。俺がそんなもん知るわけがねえっつうの」
(なんだと・・・・・このアレスともあろう者が、まさか・・・取り込まれたのか?
否、そんなはずはなかろう! 俺はアレスだぞ・・・こんなチンケなサルのような小童に取り込まれるわけがなかろうがー!)
「大声出すなよ、うるせえなあ! 俺だって、お前みたいなオッサンなんかに意識の中に入って欲しくないんだぞ!」
(誰がオッサンだ!! 俺は魔神だぞ! サル小童があー!)
「わかったよ! うるさいからオッサンの用件を優先してやるからさー、もう少し静かに語ってくれないかなあ」
(なんか、言い方がムカつくが、とにかくわかったのならそれで善いわ!)
「で、オッサンは、あのスカした野郎をぶっ飛ばしたいんだろう? 俺もあのスカした奴には一発入れたいと思っていたところなんだよ」
(ほぅ、ならば彼奴に怒りの鉄拳を喰らわしてやろうぞ!)
どういう訳か、サンタとアレスは、サンタの身体の中に同居しているような状態となってしまった。
ただの偶然とは思えないのだが、互いの全身全霊を込めた気力と気力のぶつかり合いが創った喜劇・・・ではなく悲劇であった。
しかし、本人達も自分の置かれている状況をほとんど理解できていなかった。
むしろ、外部からサンタの独り言を聞いていたキューピッドの方が、この状況をいち早く理解していた。
そして、キューピッドはそのことをダッシャーに告げる。
「詳しい原因はわからないけど、やはりサンタはあの魔神と融合しているみたいね」
「やっぱり、そうなのかよ」
「でも、これは嬉しい誤算よ。うまくいけばこの状況を乗り切れるかも」
その言葉を聞いたダッシャーは、今日イチ明るく希望に満ちているキューピッドの表情を見て、間違いないと思えた。
「よし、とにかく俺たちはダンサーのところへ向かおうぜ!」
「えっ、本当に行くの?」
「当たり前だろう! ダンサーが心配じゃあないのかよ!」
「彼女は大丈夫よ。彼女の気はまだまだハッキリと感じられているから」
「そうだろうけどよ、今のうちに応急手当てくらいしてやらねえとよぉ」
「わかっているわよ」
一方、サンタ&アレスは、必死に逃亡を企てようとするノウエーの前に立った。
「コラ、逃げてんじゃあねえぞ! てめえ、ダンサーをあんなにしやがったくせにコソコソしやがってよー!」
「おいおい、サルの分際で、この私に随分と偉そうなことを述べますね」
「うるせー、スカしやがってよ! てめえは、俺が木っ端微塵に打ち砕いてやるぜ!」
「サルが、偉そうに述べるなと言っているんですよ!」ノウエーが声を荒げる。
荒げたノウエーの声が引き金となってサンタの内側から悍ましい邪気が溢れ出る。
「(おい! 貴様も随分と偉そうじゃねえか、ノウエー!)」
「ーーー!! ま、まさか、その声は・・・」
「(貴様、俺が消滅したとか、思ってんじゃあねえだろうな!)」
ノウエーは戦慄した。
姿こそ確認は出来ないものの、アレスの圧倒的なプレッシャーが押し寄せる。つまり、アレスがこの近くにいるということ。
そして、絶対的な自信を持ってクリエイトした魔導の盾を破壊された事実が、ノウエーの恐怖心を更に煽る。
「クソッ! どこにいる? どこから狙っているんだ!?」
恐怖のあまり、キョロキョロと辺りを見回すノウエー。その姿は、つい先ほどまで見せていたクールを気取った姿の欠片も感じられない弱者に見える。
「(おい、どこを見ている。俺は貴様の目の前にいるぞ!)」
「はあ?・・・今、なんて言ったんだ? 目の前に・・・」
ノウエーが改めて、目の前に立つサンタを凝視する。
そこには不敵な面構えのサンタが立つのみ。
しかし、目の前にある肉体から溢れ出る超絶な邪気をノウエーは感じ取った。
「ヒィッ! こいつ、なんだ・・・まさか、このサルがアレス様を封じ込めたとでも言うのか、否、封じ込めたのであれば、このような強大な邪気が漏れることはない」
ことの顛末を推測したノウエーにアレスが告げる。
「(裏切りの代償は、貴様の存在を差し出すことで償え)」
サンタ&アレスがドラゴンフィストの構えを見せる。
左手の龍の爪から溢れる白銀の闘気を右手の宝玉を形取った漆黒の拳に流し込むことで黒と白銀のスクリュー状になったエネルギーの塊を生み出している。
「ちょ、ちょっと、お待ちください。誤解です。私の話をお聞・・・」
この後に及んで言い訳を述べようとするノウエー。だが、そんな憐れな台詞が終わりきらないうちに、サンタの姿をしたアレスは腕を大きく振りかぶっていた。
黒と白銀のエネルギーの塊を纏った右拳がノウエーの顔面に炸裂!
――――クラッシュ・アウト。
幻魔衆副官ノウエーの存在は木っ端微塵に消滅した。
サンタの精神内に封じ込まれた魔神アレス。
いったい、何故、どのようにして、こんな現象が起こってしまったのか?
そして、キューピッドが語ったように、サンタとアレスは融合、つまりは一心同体ならぬ二心同体状態になってしまった。
サンタは、この先も二重人格者のような状態で生きてゆくことになるのであろうか?




