第20話 隣のお姉さん的女神の加護
ノウエーをアレスの攻撃から守るための魔導の盾と化したサンタは、絶体絶命的な状況に追い詰められていた。
ノウエーの挑発によって魔神アレスが盾と化したサンタを木っ端微塵に打ち砕くべく、邪悪なパワーを漲らせ、そして狙いを定める。
サンタの意識は、魔導力に身体を支配され闇の中にあった。それは辺り一面、黒いモヤに包まれた空間のようだ。
「ここはどこだ。俺はいつこんなところに閉じ込められたんだよ。全く覚えてねえぞ」
グルリと三百六十度見渡すが、妙な静けさと黒いモヤだけが漂う“無”の空間。
「クッソ! なんか不思議だけど、この空間には出口が見えないっつうか、そんなもんは無いってことが直感でわかっちまう。逃げても無駄・・・俺の頭の中で勝手にそう考えてるような、何か嫌な感じだ」
サンタの直感というより、別のサンタの思考がそう思わせているような不思議な感覚。
やみくもに動いても無駄だと判断し、その場に座り込もうとしたとき、何者かの声が聞こえてくる。
その声は、サンタの心の中に語りかけているように思える。
「おい、半神野郎! 聞こえているのか?」
「なんだ!? この声は・・・っつうか、誰が半神野郎だっつーの!」
「お前は、半分天界人で、半分は下界人(人間)だったんだから事実じゃあねえか、本当のことを言って何が悪い」
「何を勝手なことを言ってやがる! 確かに俺は“ダブル”ってやつだけどよお、別に他人にどうのこうの言われる筋合いはねえんだよ!」
「こっちもそんなくだらないことでお前を蔑むようなカスみたいな真似はしねえよ! お前が俺だから、呼び方がややこしいから半神野郎って呼んでるだけなんだよ」
「お前が俺だあ?? てめえは何を言ってやがんだよ、俺は俺だぞ! てめえみたいな姿も見せねえような奴が俺なわけがねえだろう! 訳わかんねえこと言ってんなよ!」
「訳がわかんねえのは仕方ねえけど、お互い様なんだよ! お前は俺なんだから仕方ねえんだよ」
「はあ? だから、てめえは何を意味不明なことを吐かしてやがんだよ! お前が俺な訳ねえって言ってんだろうが! いい加減にしろよ!」
「まあ、お前は俺だから、頭が悪いのは仕方ねえんだけど、ちょっと言い方を変えるわ」
「なんだとお! 俺が頭悪いのは認めてやるが、見ず知らずの奴に言われる筋合いはねえぞ!」
「まあ、そうカリカリすんなよ。俺は“もう一人のお前”なんだよ! お前が弱っちいせいで消滅させられた方のな!」
「ん? あっ、そういえば・・・って、ええーーっ!? 消滅した方だとぉーっ!?」
激しく驚いた後、自分の存在が半分になっていたことをようやく思い出したサンタは頭を抱えて何やらブツブツと呟く。
「おいおい、そういえば俺って存在が半分になったと大隊長に言われていたよな、っつうか、そんな自覚が全くなかったから忘れていたぞ。で、なんだこいつは、この声は!? 本当だとしても消滅したくせに俺の半分が何を言ってるんだ?」
「今、お前はあの魔神のせいで神気功がダダ漏れしてんだよ。だけど、そのおかげで消滅した方の俺の意識が薄らとだが、戻ることが出来ているらしい! 俺にもハッキリとした理由はわからんがな」
「もしかしたら、てめえは俺を乗っ取るつもりなのかあ〜!? 消滅して声だけになっちまったから肉体のある俺が羨ましいっつうことなんじゃねえのか?」
「お前って、同じ俺だけど、ホント頭が悪いなあ、マジで! そんなことするわけがないだろうが、お前に教えてやりたいことがあるんだよ」
「てめえ、そんなこと言って俺を騙そうとしてんじゃあねえのか?」
「バカなお前にもわかるように教えてやるよ。半分残ったお前は天界人の方で、消滅したのは下界人(人間)の方だったんだよ。だからお前は、天界人のみが入隊できる夢幻戦士になれただろうが。で、お前という存在は半分だってことは理解しているだろ?」
「半分になっていることは言われなくてもわかってんだよ! でも残った方が天界人だったってのは知らなかった・・・」
「お前はバカだから仕方ない・・・っつうか俺は自分自身にバカって言っているようで、なんか嫌だな。・・・そんなことよりも時間がないから、よく聞いてくれ! これから話すことは超絶に重要なことだからよ!」
「わかった、俺的なお前がそう言うなら聞いてやるぜ! その前に教えてくれよ、ここはどうなってんだよ!」
「ここはどうって・・・思い出せないのかよ。お前はあのスカした魔神野郎の魔導力に囚われてるんだよ。どうも、俺というかお前は魔導の力と相性が良過ぎるみたいでな、俺というか、お前の持っている底無しの神気功量があの野郎の魔導力に変換されてしまって、ただ同然で使われ放題に使われているってことだ」
「まあ、俺の力はハンパじゃあねえから仕方ないけど、見返りもなく勝手に俺の力を使いやがって、あのスカした野郎はただじゃあおかねえぞ!」
能天気なサンタは置かれている状況を全く理解していない発言をするが、もうひとりのサンタは淡々と続ける。
「それから、もう一匹厄介な野郎が登場しちゃったのは覚えてるか? お前を超速で
ぶっ飛ばしたやっべえ魔神のことだが・・・」
サンタは腕を組みながら、首を左に右にと捻り捻り、思い出してみる。
「あっ! そういやあ、なんか黒い超速の波動みたいなのにぶっ飛ばされたんだよな。ありゃあもう避けきれねえ攻撃だったぜ。おまけにクソ重い塊にぶち当たったような衝撃で・・・それで意識が飛んだのかぁ、俺は・・」
「やっと思い出したな・・・そうだよ、そいつだよ! で、ここからが大事な話になるんだが、そのやべえ魔神野郎がフルパワーでお前を盾もろともぶち壊すためにスーパーな上に更にハイパーな一撃を喰らわせるつもりらしい」
「はあ? 気絶してる俺にかよ! 大人げねえな。そこまでするのかよ!」
「違うっつうの! 今のお前は、あのスカした野郎の盾と一体になっちまってるんだよ! スカした奴の魔導力でクリエイトした盾にお前を取り込んだから、あのやべえ奴は、単に盾を破壊しようとしてるだけなんだが、それはつまり、お前を木っ端微塵に粉砕しようとしてるっつーことだぞ!」
「そんな状況なのかよ。俺、マジで大ピンチじゃあねえか! もっと早く言ってくれよー!」
「お前が頭悪いせいで、こんなに時間かけてクドクドと説明してるんじゃあねえか! お前は俺のくせに腹たつなあ、マジで」
「まあ、そうカリカリすんな、落ち着けよ」
飲み込みの悪いサンタは空気も読めないセリフを口にするが、消滅サンタは「それはお前の方だろ」という言葉を飲みこんで続ける。
「・・・で、もう一度言ってやるが、お前のダダ漏れする神気功を盾が吸収しまくっているせいで、あのクソやべえ魔神が一撃必殺の何かで、お前もろとも木っ端微塵に砕くつもりだってことは理解したな」
「それで、その超絶な一撃を回避する良い方法はないのかよ! そんなもの喰らったら、さすがの俺も秒で消滅しちゃうぜー、マジで」
「方法はあるにはあるんだよ。だから話し掛けてるんだから、よく聞けよ! お前に提案なんだが、あのやべえ魔神の次の攻撃がくる刹那のタイミングでお前は俺と入れ替わるんだよ」
「なーあにーぃ!! やっちまったじゃあなくて、やっぱりお前は俺を乗っ取ろうってことなんじゃねかよ」
「だから、お前も俺も同体なんだって! 一か八かの賭けなんだが、俺たちの“空っぽの方”、つまり俺の方の半分を使うんだよ!」
「・・・・・? 何を言ってるんだ?」
「もう時間がない! いいか、お前は今から速攻で神気功を練るんだ。大きなネットを張るイメージだ! 入れ替わりのタイミングは俺の方でとる。お前は必死にドデカく、強力なネットを張るイメージをしろよ!」
「わかったぜ! 超強力なやつを一気に張り巡らせてやるぜ!」
「もうひとつ、大事なことがある! 思い出せ! あの隣のお姉さんから受け取ったやつを使えよ!」
「思い出したぜ! あのエッチなお姉さんのアレを使うんだな」
「「頼んだぜ相棒!」」
二つの意識がいっときだけ重なった。
一方、魔神アレスは右の拳に魔導力を集中させながらノウエーを真っ直ぐに見据えている。
「ノウエー、貴様に俺の全力をくれてやる。その盾をしっかりと構えていろよ」
「もちろん、しっかりと構えさせていただきますよ。いつでもどうぞ」
「まあ構えたところで、俺のこいつは受け止められねえぞ!! 砕け散れーー!!」
そのセリフが耳に届いたと同時に、ノウエーの眼前に飛び込んだアレスの右の拳が盾の中央にヒット――――その瞬間。
アレスの言葉が終わる頃、暗いモヤの空間内に囚われていたサンタの意識は遠のいていた。消滅した方のサンタの意識だけが前面に押し出された格好になると、あらかじめ練っておいた神気功でイメージしたネットを空間全体に幾重にも張り巡らした。
「あとは運を天に任せるだけだ!頼むぜ、隣のお姉さん」
二つのサンタの意識は、隣のお姉さん的女神アンドロメダの加護をネットに流し込むようにして祈った。
女神の加護が四方八方、全方位に放たれ、黒いモヤの空間は、眩しい光に包まれていく。
それと同時に、アレスの強大な魔の力が宿った拳がノウエーの盾に炸裂―――。
ノウエーの自慢の盾が内側と外側から同時に光と影のインパクトを受ける。
バッゴォォォォーーン!!
ノウエーの盾は木っ端微塵に消滅した。
打ち砕かれた爆音と共に、あたりは白い煙に包まれてゆく。
「なっ、そんな・・・バカな・・・私の魔導の盾が・・・」
ノウエーは神と魔の混合インパクトによって、後方へ弾き飛ばされた。
盾を支えていた両腕は骨が砕かれて機能していない。
「俺の腕が・・・そうだ、アレス様はどうなったのだ! これだけのインパクトだ。こちらと同様、いやそれ以上のダメージを受けているはずだ」
ノウエーはそう言い聞かせて、目の前を覆う白い煙が晴れてくるのを待った。
徐々に視界が広がり、薄らと人影が見えだす。
――――そこには、ひとりの男が立っている。
「そ、そんなバカな・・・あれはなんだ・・・アレス様・・ではないぞ」
ノウエーの眼に映し出されたのは、赤と黒のドリームクラッシャーだった。




