64.ダンジョン最下層にて
タイガさんたちがダンジョンを踏破してからしばらくして。
最初の挑戦でのダンジョン内の地図化、罠などを発見できる「察知の種」、気配や存在感を消せる「隠密の種」などの入手により、2回目以降の探索はかなり時間を短縮できた。
これにより、回数を重ねていき、徐々にレアドロップも集まりつつあったが……。
「今回も呪いに関するアイテムはなし、でしたか……」
「うむ。強力な装備やBランクのアイテムはあったが、状態異常を治すようなものはなかったのう」
「呪いを解くものはそんなにレアなものなんですか……呪いが状態異常として強すぎませんか?」
「いや、普通はこのような強力な呪いはかけられないし、術者を倒せば解けるものなんじゃが」
ツバキさんが言うには、魔王相手のための特別な術式が、対象が存在しないせいで人間に向けられたこと、術者の行方が分からないことなど、複数の要因が重なって今の状況があるらしい。
そして気になることがもう一つ。
「それと、最下層にあるという魔力反応が気になりますね」
「そうじゃのう……何度行っても反応だけで正体が分からずじゃしのう。……シゲルよ、お主も同行してみたらどうじゃ?」
「確かに僕自身の目で見てみたいとは思いますが……僕が行っても足を引っ張るだけではないですか?」
「なーに、初回の探索でもほぼディーヴェル一人で突破できたのじゃろう? 今なら察知、隠密の種で楽になっておるし大丈夫じゃろう」
確かに、戦力はディーヴェルさんがいれば大丈夫だし、罠の発見は察知の種を使ったフォウさんにお願いすれば問題なさそうだ。
……そうだね、待ってるだけというのも歯がゆいし、みんなと相談してみよう。
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「そ、それでは今回はよろしくお願いします!」
「ああ、シゲルのことは私が守ろう。妻の恩人だからな」
後日、僕はイベリスさんと交代してパーティーに入り、ダンジョンに潜ることになる。
役割としては主に荷物持ちとして。
「シゲルさん……気をつけてくださいね?」
「ありがとうイベリスさん、でもタイガさんやディーヴェルさん、フォウさんがいるから……」
「フォウに浮気とかしたら嫌ですからね!?」
「しませんというか、そもそもイベリスさんとそういう関係でもありませんからね!?」
……相変わらずのイベリスさん節である。
むしろイベリスさんとダンジョンに潜るのが一番危険なのでは? イベリスさんと交代で正解だったのでは? となってしまっている思考がある。
「ふっ……相変わらずシゲルは好かれているな。まあ、分からんでもないが」
「フォウじゃなくてディーヴェルさんがライバル!?」
「いや、私は妻一筋だ」
「ディーヴェルさん、それはイベリスさんの冗談ですのでスルーしておいて大丈夫ですよ」
「ひどーい!」
……などとダンジョン前でやっていたらいつの間にかギャラリーが集まってきていた。
実際、タイガさんのパーティーは元々注目されていたししょうがないんだけど。
「……では行こうか」
「そうですね、お店のこともあるから早く帰りたいですし」
「今回は最短距離で潜るとしよう。長期滞在だとシゲルの体力も持たないだろうしな」
確かに慣れない環境で、常に周りに注意を払いながら過ごさないといけないなんて、体力どころか精神すら摩耗してしまいそうだ。
お店の方はしばらくの間の在庫は作っておいたけど、やっぱり気になってしまう。
それに、アイリスたちにもしばらく会えなくなるしね……。
「……足を引っ張らないようにがんばります。それでは行きましょう!」
こうして、僕たちはダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
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「……ここがダンジョンの最深部……」
道中のほとんどのモンスターをスルーし、なんと1日かからずに最下層までたどり着いてしまった。
途中にあるモンスターの出現しない階層……いわゆる安全地帯と呼ばれている場所で休憩は取ったのに、だ。
「さて、魔力反応のある場所に案内しよう。こちらだ」
「分かりました、お願いします」
ディーヴェルさんに案内されてたどり着いた先には、祭壇のようなものがあった。
しかしそれは既に倒壊していて、見た感じ何もないように思えるのだが……。
「この辺りから魔力反応があるのだが、探しても何もなくてな……」
「そうなんですか……僕は魔力がそんなにないからか、何も感じな……」
『……けて…………して……』
「え?」
頭の中に誰かの声が響いてきた。
これは……アイリスの時にもあったような……?
僕はその声がする方に歩み寄ってみる。
「僕に呼びかけてるのは……誰?」
『助けて……ここから……出して……』
更に近寄ってみようとするも、そこにあるのは瓦礫の山。
もしかしてこの下に……?
「ディーヴェルさん、この瓦礫をどかすことはできますか?」
「ふむ……この下に何かがあるということか。分かった、後ろに下がってて欲しい」
ディーヴェルさんはそう言うと、軽々と瓦礫を持ち上げては別の場所に放り投げる。
……それ、数十キロ以上ありそうなんだけど。
もし自分が勇者だったらこんな強さの人と戦わないといけなかったのか……改めて戦闘系のスキルじゃないものを与えてくれた土の精霊様に感謝しなきゃ。
「これでいいか?」
その数分後には祭壇周りは綺麗さっぱり瓦礫がなくなっていた。
そして、露出した土の周りがうっすらと光っている。
「ここかな?」
僕はその光っている地面を手で掘り起こすと、土の中から小さな種が姿を現した。
これは……。
『……ありが……と……』
種の声? がそこで途切れる。
もしかして、早く魔力を分けてあげないとまずいのだろうか。
でも、ここで『成長促進』を使うとここに根差してしまうし、早く地上に帰った方がよさそうだ。
「すいません、帰りもできるだけ早く帰りたいのですが……大丈夫でしょうか?」
「分かった。シゲルのことだ、その種だろう?」
「そうですね……早く『成長促進』を使わないといけない……そんな気がします」
「それなら帰り道は最短距離での方がよさそうだな。ディーヴェル、頼めるか?」
「ああ、全力を以って邪魔者を排除しよう」
その後の帰り道は行きよりも早く、約半日でダンジョンから脱出することができた。
休息は取らずにポーションで体力を回復し、最短距離で階段を目指したからこそできたことなんだけど、それができてしまうディーヴェルさんの強さを改めて実感する。
……それはさておき、早くこの子に魔力を分けてあげなきゃ。
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「……ふう、これでいいかな」
僕は持ち帰った種を、三つの聖樹の傍に植えて『成長促進』で魔力を分け与える。
他の三人の反応を見る限り、かなり弱っているそうなので自分たちよりもこの子に魔力を分けて欲しいとのことだ。……みんないい子だなあ。
ちなみにタイガさんたちは帰り道にドロップした槍の試し斬りに郊外に出て行った。
かなり興奮していたので、見た事のないような強い武器なんだろうな……。
「よし、僕もそろそろ……おっと」
僕は立ち上がろうとすると、少し立ち眩みを起こしてしまい、よろけてしまう。
ポーションのおかげで体力的には大丈夫なのかもしれないけど、精神的に疲れているのかもしれない。
「パパ、だいじょうぶ?」
「シゲル様、少し休まれてはいかがですか?」
「そうそう、ダンジョンのことも聞きたいしさ……な、兄貴?」
「……そうだね、みんなの言う通り、もうちょっとここにいさせてもらおうかな」
「でしたら! わたくしが膝枕を!」
「ひざまくらー? なにそれ、ぼくもやりたいやりたいー!」
「相変わらず兄貴はモテモテだなあ、ははっ」
……その後、僕は二人に交互に膝枕をしてもらいながら、ダンジョンでの話をしてのんびりと過ごしたのだった。




