22.成果
「シゲルさん、お久しぶりです。あのポーションのことなのですが……」
「お久しぶりですウルさん。使ってみた感想はいかがでしたか?」
道具屋を訪れてきたのは、戦闘中の破壊衝動に悩まされている狼の獣人のウルさん。
以前渡した3種類のポーションの効果の報告に来られたのだろう。
「はい、どれも効果はあり、解熱草の含有量が多い方が効き目が強かったです。ただ、含有量が多くなるほど苦くなって飲みづらく、バランスがいいのは解熱草が2つ入っているポーションでしたね」
「なるほど……となると、味付きポーションのように果汁を混ぜたものも検討した方がよさそうですね」
「ですが、そうするとその分だけ値段も上がると思いますので、自分としては解熱草2つ入りのポーションを希望したいところですね」
「分かりました、それではその調合での商品を取り扱うことにしましょう」
味も大事だけど、消耗品なのでコストパフォーマンスがいい方が好まれるのも確かだ。
実際、僕もここに来る前の高校生だった時は自由に使えるお金が少なくて、安さで選んだりもしてたしなあ……。
「それと、提案があるのですが……」
「何でしょうか?」
「これを使ってみて欲しいんです」
「これは……木でできた入れ物……ですか?」
僕がウルさんに渡したのは、ポーションを入れるための木でできた筒。
ウルさんはそれを不思議がっているようだ。
「はい。ウルさんは前衛職なので、ポーションを持っていると衝撃で壊れてしまいそうですし、耐久力を上げて前衛職でも持てるポーションの入れ物があった方が便利と思いまして」
そう、普通のポーションの入れ物は試験管のようなガラスの入れ物。
前衛職は激しい動きをするため、そういった道具を持つのは魔法使いなどの後衛職だ。
しかし、興奮を解消して破壊衝動を抑えるポーションは、それを使うウルさん自身が持っていた方がいいと考えた。
もし後衛職にポーションをもらう時に、万が一彼女を傷つけてもいけないし。
「特注品ということはお高いのでは……?」
「いえ、壊れるまでは繰り返し使えますし、その分入れ物の値段はポーションの値段から引くことができます。大事に使えば普通にポーションを買うよりもお得になると思いますよ」
どうもこの世界では使い終わったポーションの入れ物は邪魔になるせいか、破棄される傾向にあるらしい。
それだともったいないので、詰め替えをすることで再利用して、その分値段を下げれば自分も冒険者の人もどちらも得をすると考えたのだ。
「そこまで考えて頂けるとは……ありがとうございます。ぜひ、今後もよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ新しい商品のヒントをありがとうございました」
「この入れ物を使った感想はまた報告させて頂きます、重ねてありがとうございました」
ウルさんは笑顔で僕に一礼すると、外で待っているパーティーメンバーの元へと戻って行った。
……しかし、あんな礼儀正しい人が戦闘では破壊衝動に駆られるなんて……狼の獣人の本能って怖いんだなあ。
でも、味方としてはとても頼りになる存在なんだろう。ウルさんがポーションを見せている仲間たちも喜んでいるようだし、パーティーメンバーとの仲もよさそうだ。
この商品が彼らの力になれるのなら幸いだな。
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「シゲルや、儂はしばらく留守にするぞ」
「どこかおでかけですか?」
「うむ、タイガの依頼に同行するのじゃ。王都からこちらへの引っ越し依頼で、家も移動したいという依頼があっての……タイガのやつが儂に同行して欲しいと頼み込んできたのじゃ」
「そういえば収納魔法でガーベラさんとツバキさんの家をそっくりそのまま引っ越してましたしね……」
何度思い出しても魔法の規格外っぷりを見せつけられる話だ。
しかしそういう条件があるということは、普通の収納魔法でも家は移動できるようなものなのかな。
いや、タイガさんがツバキさんを指名するぐらいだから、ツバキさんレベルはそうそういないのかもしれない。
「しばらくは味付きポーションなどの販売は停止になりますね」
「うむ、ある程度の作り置きはあるが……良い機会じゃ、他の錬金術師にも依頼してみたらどうじゃ?」
「いいのですか?」
「そうじゃの、儂がこの町に来て見つけた錬金術師で、良い腕をしているやつがおるから、そやつに頼むとよい。レシピと工房への地図も渡しておこう」
「何から何までありがとうございます」
「ま、特に解熱草入りのポーションは品切れにはできないしのう」
ウルさんの解熱草入りのポーションは、ウルさんだけでなく、ウルさんが紹介してくれた他の狼の獣人たちにも人気で、今一番の売れ筋になっている。
人気であるということだけでなく、彼らの悩みを解決できるアイテムとして、できるだけ在庫切れにはしたくないというのが心情だ。
「ということで、あとは頼んだぞ」
「分かりました、お気を付けて」
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その後、ツバキさんに紹介された錬金術師に会い、レシピや材料を渡してとりあえず一息といったところだ。
帰り道にある商店街で何か買って帰ろうかなと思い商品を見ていると、偶然ガーベラさんに出会った。
「あらシゲルくん、珍しいわねここで会うなんて」
「ええ、ちょっと向こうの錬金工房に行ってまして。ツバキさんが留守の間お世話になります」
「そういえばタイガくんの手伝いをするって言ってたわね。ここから王都の往復だとかなり時間もかかるし大変そうねぇ……」
僕たちもその道を通ってきたので分かるが、馬車でもかなりの日数がかかる。
最近は引っ越しも多いらしいし、連続での依頼になることも考えておかないと。
「そういえばガーベラさんはここには夕食の材料を買いに?」
「ええ、流石にうちでもお肉は取れないからね。お肉が畑で取れたら便利なんだけど」
「ははは……そうですね」
大豆は畑の肉とは言われるけど、流石に肉そのものは取れないからなあ。
……いや、でもここが異世界なら。
「ガーベラさん、お肉に似た食感や味の植物ってありませんか?」
「そういえば、そんな植物の話を聞いたことがあったような……今度、図書館に行って調べてみるわ。シゲルくんはまだ文字のお勉強の途中だし」
「そうですね、お願いします。もしそれがこの近くで採れるようなら、うちの畑で作ればいつでも肉っぽいものが食べられるようになりますし」
……あるものなんだなあ。さすが異世界。
完全に肉! という感じではないんだろうけど、味がそれっぽければある程度は満足できそうだし、出費も抑えられるからね。
それとは別に、新しい商品開発のため、採取のために外に出てみたいなと思ってはいる。
リリーの弓の腕の上達も見てみたいし……でも、そうしたらアイリスも一緒に来たいと言いだしそうだな。
そうなるとある程度の力量があるパーティーに依頼することになるだろう。
タイガさんは今引っ越し依頼をやってるから、他に知っている人だと、ウルさんのパーティーか、イベリスさんのパーティーか……。
「もし採取に行くときはガーベラさんの弓、頼りにしてますね」
「あらあら、頼りにされるなんて嬉しいわね。その時は声をかけてちょうだいね」
「分かりました。おそらくアイリスも行きたいって言い出すと思うので、ある程度腕の立つパーティーにお願いしようと思ってます」
「そうね、うちの常連さんに頼むのもいいと思うわ。知った人なら安心できると思うわ」
「もちろんそのつもりで、2つまで絞っています。あとは向こうの都合次第ですね」
「わかったわ。それじゃあ楽しみにしてるわね」
実は僕も楽しみにしている。
ここに来る途中の採取、結構楽しかったんだよね。
でも、あの時に採取した爆裂草、まだ使ってないんだよね……用途が限られ過ぎるし、欲しがる人もいないしで。
さておき、採取で新しいものを見つけて、新しい商品を開発するのも楽しみだ。
あとは高ランクの草や果物を見つけて種も採取したいな……そう考えてきたらワクワクが止まらない。
こうして、僕は頭の中で採取計画を立てながら帰路につくのだった。




