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【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


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23.採取

「ここから先の森はモンスターが出ます。シゲルさんは私がピッタリくっついてしっかり護衛しますので!」

「イベリス、あんたは耳で索敵だよ。依頼人が歩きにくいだろ」

「はーい……」


 イベリスさんの兎耳がシュンとうなだれ、とぼとぼと先頭に立つ。

 ……ふう、助かった。


 今回の採取はイベリスさんのパーティーに護衛を依頼している。

 彼女たちのパーティーは全員が女性で構成されていて、かつ全員が獣人だ。

 イベリスさんが剣士の兎、リーダーは戦士の犬、他のメンバーは盗賊の猫と僧侶の狐という構成になっている。

 僕たちは非戦闘員の僕とアイリス、射手のガーベラさんとリリーだ。

 僕たちのせいで前衛と後衛のバランスがちょっと悪いけど、この森ではそれほど大したモンスターは出ないため問題はないと判断した。

 イベリスさんが先頭に立ち索敵、リーダーが殿(しんがり)でバックアタックに備え、その間に後衛職が入る陣形で森へと入っていく。


「うう……緊張してきた……」

「大丈夫よリリー。わたしがサポートするから、まずは訓練と実戦の違いを覚えればいいわ」


 訓練では動かない的を狙うが、実戦では相手は仁王立ちをしてくれるわけではない。

 相手の動く先を予測しながら矢を放たないといけないから、当てるだけでも一苦労だろう。

 でも、ガーベラさんがサポートに入るなら撃ち損じても安心だし、気を張らずに感覚を掴んで欲しいところだ。


「……来ます! 前方から2匹!」


 イベリスさんの耳がピンと立ち、盾と剣を構える。

 リーダーも前衛に並び、襲撃に備える。

 リリーとガーベラさんも弦を引き絞っていつでも発射できる態勢だ。


 こちらの態勢が整ったところで、敵が見えてきた。


「ラッシュボアね。突進しかしないから直線的な動きなので、充分に狙って」

「う、うんっ。私は左のを……!」


 リリーはしっかりと正面を見据え、盾を構える前衛の頭上を超えるように、矢を放つ。


『グギャァァァァ!?』


 矢はラッシュボアの眉間あたりに命中し、地面を転げまわる。


「ふふ、上出来よリリー。わたしも負けてられないわね」


 ガーベラさんも同じように矢を放ち、こちらも見事に命中する。


「では動けないようにしてこよう。血の臭いで他のモンスターが集まるから、囮に使うとしよう」


 犬の獣人のリーダーはラッシュボアの足を斬り落とし、走れないようにする。

 なるほど、あえて血の臭いを残してここに他のモンスターを留めておくのか。


「終わったぞ。他のモンスターが来る前に探索を進めよう」


 リーダーは慣れた手際で剣の血を拭い、それを鞘に納める。

 僕たちは足早にその場を去り、森の奥へと入っていく。


「リリー、練習の成果が出てよかったね」

「えっ、も、もしかして見ていたんですか……?」

「うん、夕日に照らされたリリーが綺麗でちょっとね」

「は、恥ずかしいです……。で、でもお役に立てたなら嬉しいですね」

「ふふふ、初めての実戦は緊張してなかなかうまくいかないものだけど、これなら大丈夫そうね」


 ガーベラさんはそう言ってリリーの頭を撫でる。

 リリーは少し顔を赤らめながらも、それを受け入れていた。




**********




「……ふう、結構収穫があったなあ」


 その後も探索を続け、Cランクでは解毒草、解熱草と爆裂草が手に入った。

 これらは家で肥料を使ってCランクの種を採取することにした。……爆裂草だけは前の種も今のところ使ってないんだけどね。


 新規の収穫ではDランクの硬化草という、食べると身体が硬化する草が手に入った。

 防御力を上げて万が一の被弾に備えるほか、素手で戦う獣人の人が攻撃力を上げるために使うとか。

 錬金に使うことでものの強度を上げることもできるらしいし、これは量産していきたいな。


「パパ、うれしそう」

「そうだね、ランクの高い草が手に入ったからね。これでもっとお客さんに喜んでもらえるよ」

「ランクがたかいのがいいの? ふーん……」


 アイリスはそう言うと、狐耳をぴょこぴょこ動かす。

 何をやっているのかと思っていると、アイリスは耳を動かすのを止め、僕の方に向いて手を伸ばしてきた。


「パパ、おんぶして?」

「あ、長く歩いて疲れたのかな? いいよ、ほら」


 僕はしゃがんでアイリスに背中を向ける。

 アイリスは後ろから僕に抱きつき、僕はアイリスの足を持つ。


 ……むにっ、と柔らかい双丘が僕の背中に押し付けられる。

 忘れてた。アイリスはガーベラさん並みの大きさだったんだ。

 か、帰るまで耐えられるかなあ!?


「それじゃあ帰りましょう。今日はいい採取ができましたので」

「あの、シゲルさん……」


 イベリスさんが僕の方を見てもじもじしている。

 ……なんか嫌な予感がするけれど。


「何でしょうか?」

「帰ったら私もおんぶしてくださ……痛たたたた!?」

「イベリス。冗談はいいからさっさと行くぞ」

「はーい……」


 イベリスさんのことをよく分かっているリーダーでよかった……。

 まったく、イベリスさんは隙あらばそういうことを言うから大変だ。


 またしてもシュンとうなだれたイベリスさんを先頭に、僕たちは帰路へとついた。




**********




「……! パパ、ここ、ひだり」

「え……? そっちは帰り道から外れてるけど……」

「パパのほしいもの、あるの。おねがい……」


 僕が欲しいもの……? なんだろうか。そしてそれがなぜ分かるんだろう?

 もしかしてアイリスが土の精霊というのも関係している……?


「すみませんイベリスさん、ここを左に行きたいのですが」

「そっちは帰り道ではないですが……はっ、もしかして私と2人きりで……」

「違います」

「ふむ……まだ日暮れまでには時間があるし、依頼者の希望だから行ってみようか」


 またしても変なことを言いだすイベリスさんをシャットアウトしながら、リーダーは僕の願いを受け入れてくれた。

 何かあるといいんだけど……。



 道を逸れて5分程度経っただろうか。

 草をかき分けて進むと、その先には小さな泉があった。


「こんなところに泉が……初めて知ったぞ」

「パパ、あれ」


 アイリスが指し示したのは、泉のすぐ傍に生えている草。形はただの薬草に見えるけど……。


「リリー、あの草を鑑定してもらえる?」

「分かりました……こ、これは……!?」

「リリー、どうしたの?」

「び、Bランクです、この薬草……」

「Bランクだって!?」


 イベリスさんたちも僕たちも皆が驚く中、アイリスは一人ドヤ顔をしていた。

 もしかして、アイリスはこの薬草がここにあるのを知っていて……?


『ほう、まだここにたどり着ける人間がいたとはな……』


 突然の声に振り替えると、泉の中からドラゴンのような生き物が首だけを出していた。

 しかし、こちらへの敵意は感じない。襲うなら声をかける前に奇襲をするだろうし。


「あなたは……?」

『ふむ、我の姿を見ても動じずに話しかけるか、面白い。我はこの場の守護者のようなものだ、しばらくここを訪れる者がおらず、暇を持て余していたがな』

「なるほど、この高ランクの薬草を悪用されないようにと……」

『それだけではない、ここで育つものは全て効能が高くなる。ここは特別な場所だからな。そのためここには選ばれた者しか来られぬものだが……』


 ドラゴンの視線がアイリスの方へと向く。

 そして、何かを感じたのか、ゆっくりと頷いた。


『まあよい。我は久しぶりに人間に会えて気分が良い。その薬草は持って帰るがよい』

「いいんですか?」

『その代わり……その爆裂草の種を置いていけ。我はそれが好物でな』


 ……いたんだ、爆裂草が好きな人……いや、人じゃないけど。


「それなら少々お待ちください」


 僕はCランクの爆裂草の種を植えると、『成長促進』をかけてその場で育てる。

 リリーに鑑定してもらうと、なんとランクがBに上がっていた。どうやらこの場で育てた物は本当に高ランクになるようだ。


『なるほどな……』

「……どうしました?」

『いや、何でもない。では交換で薬草は持ち帰るがよい』

「それ、食べたら爆発するんですけど、本当にいいんですか?」

『うむ、我はその程度では死なぬ。むしろその爆発が刺激的で癖になってな……』

「は、はあ……」


 爆発しない調理方法もあるらしいのだが、逆に爆発させてその刺激がいいとか……。

 ドラゴンの考えていることはよく分からない。まあ種族も違うからね……。


「では今ある種、僕の魔力が続く限り成長させておきましょうか」

『おお、やってくれるか! ならば持ち帰る薬草の量も増やすがよいぞ!』


 ……こうして、爆裂草と引き換えにBランクの薬草を20個もらって僕たちは改めて帰路につくのだった。

 そしていたく気に入られたらしく、定期的にここに来て爆裂草を育てて欲しいとまで言われてしまった。

 断ったらあとが怖いので二つ返事をしたけど……まあ命が無事だからいっか。




**********




「すみません、まさかあのような場所があるとは思わず……」

「本当ですよ。お詫びに私をぎゅってしてください」

「……分かりました」


 僕は言われた通りにイベリスさんを正面からぎゅっと抱きしめる。

 もしかしたら命がなかったかもしれないんだ。これぐらいは……。


「ふにゃぁぁぁぁぁあぁぁあぁ……」

「い、イベリスさん!?」


 抱きしめた瞬間、変な声を発しながらスライムのように溶け、腕の中から崩れ落ちるイベリスさん。

 その表情はとても恍惚としている。

 そして、こちらから話しかけても何も答えられず、ただただ床で遠い目をしている。


「パパ! ぼくも! ぼくもー!」


 あの場所を見つけてくれたアイリスも同じようにねだってくる。

 僕はアイリスも同じように抱きしめたあと、イベリスさんのパーティーには追加報酬を払う事にした。

 リーダーの犬の獣人の人は万が一の時のためにとBランクの薬草を、盗賊と僧侶の人は報酬の増加をそれぞれ希望。

 それらを渡すと、「いい経験ができた」と溶けたイベリスさんを抱き抱え、宿へと戻って行ったのだった。

 イベリスさん、元に戻るのかなあ……ポーションでも使ってあげた方がよかったかも……。


 ……さておき。

 Bランクの薬草が手に入ったので庭に植え替えて、Bランクの種が採取できるか試してみよう。

 それとツバキさんにポーションを作ってもらうためにある程度の数も残しておいて……。

 それに、今度行く時のために爆裂草の種もある程度育てておかないと。


 こうして、フリーデンでの初めての採取活動は無事に終わったのだった。

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