↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/40

七話 少年と街

続きの投稿です。更新ペースの調整は難しいですね。

 それから七日ほど街道を歩いた俺達は、特に大きなトラブルも無く周囲を壁で囲われた街に辿り着いた。

 開け放たれた門に近付いて行くと、その前には槍を手にした屈強な守衛が二人左右に分かれて立っている。


 こちらの世界に来た当初はこの手の街に入る際、身分などを確かめる厳しい検問があるのでは、と酷く警戒したものだ。

 基本的にこの周辺でそういった検問が必要なのは、関税の掛かる商人だとか戦時中もしくは大きなお祭りの時だけなのだとか。


 よほど怪しい風体の者は守衛に止められてしまうそうだが、普通の旅行者などは素通りで問題無いらしい。


「まあ、ロバに跨った子どもと成人してるかも分からない男の二人連れが、怪しく無いのか? と問われたら微妙な所だけどな」



 俺はこちらの世界ではかなりの童顔らしく、年齢を告げると大抵驚かれるしニドに至ってはどう見ても十代前半も良い所だ。

 いつもは主人の傍に一人居るはずの従者は街の様子が少し気になるらしく、その確認と宿の確保をする為に街に先行しており別行動中だ。


  なんでも、俺が旅に加わる事で主人を一人にする事が無くなり、そういった事前準備が可能になったのだとか。

 なので現在の俺達は保護者の居ない状態で旅をする幼兄弟である。


「この辺りの地域は比較的情勢が安定しておるし、まったく居ないとは言えないが賊や獣も少なく治安も悪くない」


「それにお主の世界ではどうか知らないが、歩いて半日程度の村から街へ子どもが社会勉強ついでにお使いに出されるのは間々ある事なのだ」


 そんなニドの話しに耳を傾けながら、そう言えば今までは必ず従者達の誰かが側にいて気にもしていなかったなと思い至った。

 なるほどこの辺りではわりと普通の光景なのだろう、よく見ればちらほらと子どもの姿を見掛ける。


「この街は特に雰囲気が良い、恐らく街を収める領主が優秀なのだろうな」


 どこか嬉し気な声色で語るニドの横を歩きながら門を潜ると、街の中へと進んだ。


 門を抜けて街の大通りを少し進んだ先で、中へ先行していたニドの従者で老齢の執事さんが俺達を見事な一礼と共に出迎えた。


 この老執事さんは中肉中背で白髪まじりの黒髪をオールバックに撫で付け、上品な執事服を身に着けた物腰が穏やかな紳士然とした男性だ。

 この人も他の従者達と同じで、顔の上半分を鳥の仮面で隠しているが、その仮面の上に小さな老眼鏡を引っ掛ける様にして付けている。

 俺の戦闘訓練は主にこの老執事さんの指導の下で行われ、四人の従者の中でも何かと目を掛けてくれる人だ。


「お待ちしておりました主様、本日の宿の確保と街の調査を済ませております」

「ご苦労、何か変わった事はあったか?」

「どうやら周辺国でも名の知れた吟遊詩人を擁する楽団がこの街を訪れ、連日酒場で演奏会を行っている様です。その酒場の場所も調べておりますが、足をお運びになられますか?」

「それは良い、勿論行くぞ! 運が良ければ何か聞いた事の無い詩に巡り合えるかもしれんからな!」


 ニドがまるで子どもの様に目を輝かせ、異常な食いつきを見せた。


 まあ……こいつの見た目からしたら相応の態度といった所なのだが、普段の妙に落ち着いた様子からしたら珍しく燥(はしゃ)いでいる。


「お前は本当に歌とか物語が好きだな」

「うむ! 人は大昔から歌を歌いその想いや知識を伝え、物語を語る事で夢を紡ぎ歴史を築いて来た。これほど素晴らしい物は無いであろう?」


 うん、まあ、何だかよく分からないが、ニドがそれらをとても好きだという情熱は伝わって来た。

 俺もそこまでの熱意は無いが、吟遊詩人の流れる様な演奏や美しい歌声は聞いていて気分が良いので楽しみである。


 恐らく老執事さんは主人のそういった趣味を理解した上で今回の提案を行ったのだろう。


「はい、ではその様に。演奏会は夜からだそうですので、一旦お取りしました宿屋で休息いたしましょう」

「それもそうだな、酒場とはいえ演奏会に行くのに旅装というのもちと味気無い」

「それではご案内いたします。ツカサ様も長旅お疲れでしょうから、本日の鍛錬は軽めに致しましょう」


 そうか……やっぱり今日もあるのか。

 老執事さんは優しいが、決して甘くは無い人だ。


 今日は軽めだと言ってたし演奏会に行くのだ、まさか何時もみたいに動けなくなるまで、という事は無いだろう。


 多分。


 戦々恐々とする俺を余所に、一行は宿に辿り着き俺はようやく自分の荷物を置く事が出来た。

 ここで疲れを癒すためにひと眠り、といきたい所だが、生憎この後すぐに老執事さんの訓練が待っている。


 ふと気になり目をやると、どうやらニドの奴は風呂に行くようだ。


「私は着替えの前に風呂に入ってこようか」

「俺は訓練の後に入りに行くよ」

「この宿は浴場が売りの一つらしくてな、大きな湯舟でうんと足を延ばせるらしいぞ」

「それは良いな、楽しみにしておこう」


 このヨルガント大陸では、宿屋に限らず各家庭でも風呂はわりと一般的だ。

 天然資源が豊富という理由もあるらしいが、やはり一番大きな要因は魔術の存在だという。


 この世界の住人は物心が付いた頃から周りの大人達に教えられ、魔術の扱いを覚えるそうだ。

 教えるといっても、誰もが呼吸をしたり歩いたりする様に自然と魔術が使えてしまうので、専門的な指導というよりは倫理教育の一環という面が大きいらしい。


 なんでも、この世界の人間は血管の様に身体に張り巡らされた魔力器官を持っており、外部の魔力を取り込み巡らす事で魔力の質を変化させ、脳でその変化した魔力に指令を与る事で望む魔術を使用しているのだとか。


 昔の偉い魔術研究者が発表した内容との事だが、その研究者はかなり過激な発表と人体実験を繰り返していた様で、最後は当時の所属国にも見放され逮捕拘束されて地下牢で謎の自殺を遂げたそうだ。

 それ以来、魔術研究は忌避されており遅々として成果を上げていないのだとか。


 まあもっともこの世界の魔術というのは


「指先に火を灯して火種にする」

「蛇口を捻った程度の水が出せる」

「風を起こして洗濯物を乾かす」

「地面を少し掘り返して畑を作る」


 といった程度の代物であり、これは誰でも同じだという。


 以前見せられた短剣や各国の王族などが持つとされる、特別な魔術が使用できる道具なども存在するそうだが、基本的に魔術というのは人々の生活の為の物である。


 通常サイズの湯舟程度であれば、子どもがお手伝いと魔術の練習代わりに沸かしてお終いだが、大きな浴場を維持する為には掃除や相応の湯量の為に専用の従業員が必要だろう。

 いくら魔術で簡単にお湯が沸かせると言っても、当然薪もそれなりに使用するし大きな風呂というのは贅沢な事なのだ。


「それではツカサ様、主様の湯浴みの後に参ります。先に裏庭の方で、いつもと同じ準備運動をしてお待ちください」

「お手柔らかにお願いします」


 心からの願いを口にする俺に老執事さんは穏やかに微笑み、ニドと共に浴場の方へ消えていった。


 少し憂鬱な気分になりながら旅装から訓練用の服装に着替えて部屋を出ると、部屋を出て直ぐの廊下からも覗ける様になっている裏庭を目指して歩き出す。


(あの人は準備運動なんて言ってるけど、俺からしたら結構な量なんだよな)


 こちらに来てからしばらくしたある日、武器すら満足に振れない自分に危機感を覚え老執事さんに訓練を付けてくれる様にお願いすると


『軽く汗をかく程度の準備運動から始めましょう』


 そんな前置きと共に言い渡された運動の内容は、筋金入りの帰宅部にとっては準備などでは無い、一日掛かった上でなお消化しきれない物だった。 


 今でこそ何とかこなせる様になり、武器の振り方や身のこなしの指導もしてもらえる様になったが、正直今でも準備運動の時点で倒れてしまいそうだ。


(まあそれでも続けられるのは、訓練が四日に一度なのと絶対に出来ない事は言われないからだろうな)


 老執事さんは決して甘くは無いが優しい人だ。

 手を抜いたり楽をしようすると容赦無く指導され、泣き言を言っても流されるが、無理をしていたり本当に体調が悪ければ気付いて考慮してくれる。


(それに、この訓練のおかげで何度も命拾いしているのも事実だし)


 そんな事を考えながら宿の庭に向かって歩いていると、廊下の隅に何やら発光する不思議な物体が置いてあるのを見付けた。

 照明器具にしては場所が不自然だし、そもそも今はまだ明るい時間だ。


 好奇心に負けその光る物体に徐々に近付いてみると、それは膝を抱えて座り込み丸くなっている人型の何かであると分かった。


(人形……では無いか。生きてるみたいだし、これも人なのか? 何かぶつぶつ言ってるな)


 この世界に来てしばらく経つが、この手の人種にはまだ出会った事が無い。

 大きさ的にはよく見るフランス人形等と同じくらいで、ショートカットの髪の毛が淡い緑色をしている。顔立ちがとても整っており、美しいと言うより愛らしい感じだ。


「お~い、こんな所で何してるんだ~?」

「……」


 一先ず疑問を置いておき取り敢えず話し掛けてみたが、一向にこちらを気にする様子が見られない。

 余りに反応が無いので不安になり顔を覗き込んでみるが、体はこんなに眩しく発光しているにも関わらず、眼は虚ろである。


 これはもしかして見えてはいけない類の物だったのでは、等と半ば本気で考え始めた直後に発光が収まる。

 代わりにその髪色と同じ薄緑の瞳が光を灯すとその小さな人型が突然動き出した。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。