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十五話 ある吟遊詩人の回顧⑥

次話投稿です。

 しばらくはこの国を留守にする事が多くなるので、お世話になった城の各所に挨拶回りをして歩いていた。

 その途中、運が悪い事に廊下で待ち伏せていた騎士団長に捕まってしまう。


「やっと見付けたぞ! 詳しく事情を話してもらおうか!」

「何ですか藪から棒に」

「この国を離れるという話だ! あんな話は某は聞いていないぞ!」


 そりゃ話して無いからな。

 こいつに話したら絶対面倒な事になる、今みたいに。


「某達の子どもは一体どうするつもりだ!?」

「いや、どうするも何も元々貴女が預かった子でしょう。あとその言い方止めてもらえますか、誤解されますので」

「某と閨を朝まで共にしておいて今更言い訳か! あれが初めてだったのだぞ」

「ああ、以前貴女が坊主の世話を私に丸投げして、夜の酒場に繰り出した時の話しですか。酒場で酔い潰れて眠ってしまった貴女を何故か私が迎えに行かされた挙句、寝具まで運んだ私に抱き着いて朝まで解放してもらえませんでしたね」


 あの時は物凄く酒臭かった上に凄い力で締め付けられて、危うく主神様の所へ召される所だった。


「ええい! ごちゃごちゃと細かい事を言いおって! 兎に角、某は認めんぞ!」

「認めるも何も、貴女にそんな権限は無いでしょうに」

「それならば某も着いて行く! 勿論あの子も一緒だ!」


 そんな無茶な事を言い出した騎士団長に、私は諭すように語り掛ける。


「良いですか、貴女はこの国の騎士団長であり最強の剣士でもあります。そんな方が自分の役目を放り出して突然国を出てしまったら、一体誰が若い国王様を支えるのですか」

「それは。だが、お前の弟子も居るし」

「彼女は優秀だと胸を張って言えますが、まだ若い上に実績も功績もありません。勿論そんな物は直ぐにでも上げるでしょうが、成り上がりには敵が付き物。貴女には、それらから若い我が弟子を護ってもらいたいのです」

「うぅむ……」


 これはもう一押しで行けそうだな、と更に続ける。


「それに騎士団の可愛い部下達はどうされるのですか」

「あいつ等なら私が居なくても」

「そんな事はありません。先ほど副団長にも挨拶に行ったのですが、貴女が着いて行く等と言い出したら強く止める様にとお願いされました」

「副団長が……」

「この国に絶対に必要な方だから、と」


 まあ、実際は逆なのだが。


 冗談っぽく「いっそ団長も連れて行ってください」と言っていたが、その目は全然笑っていなかった。

 あれは半分以上は本気であったし、恐らく騎士団長に着いて行くと言う様に唆したのも副団長だ。


 副団長は顔や雰囲気こそ恐ろしいが、話してみると非常に温厚で仕事と気遣いの出来る四十男だ。

 騎士団長が多少いい加減でもこの国の騎士団が成り立っているのは、あの人の能力と人望のおかげと言っても過言ではない。

 実際に彼を団長に据えようとする動きも一部ではあるらしいが、本人が乗り気で無いのと現団長が群を抜いて強いので、今の所そういった意見は抑えられている。


 彼が騎士団長を唆したのは、単に私がこの国から離れる事で彼女の世話役が自分に回って来るのを危惧してだろう。

 そしてあわよくば、新たな任務として本当に着いて行ってくれたりしたら儲けもの、といった所であろうか。

 意地っ張りな彼女なら、言い出した事を引っ込められない可能性が高いと踏んだのかもしれない。


「そうか、あの副団長がそこまで某の事を。もしかして厄介払いされているのでは、などと疑念を持った自分が恥ずかしい」

「……そ、そんな訳が無いでしょう」

「先程は着いて行くと言ったが、あれは無かった事にしてくれ。すまない、些か軽率であった」


 悪いな副団長、また今度帰って来た時には忘れず土産を持って帰るからな。

 

「しかし、本当に一人で大丈夫なのか? お前は剣を振るう事すら満足に出来ないのに」

「片手で自分の身長を越える剣を、軽々振り回す人の基準で考えられても困りますよ」


 色々と言っている事は可笑しな人だが、真剣に私の事を心配してくれているのは分かる。


「謁見の時にも言いましたが、偶には帰って来て顔を出しますよ。半年に一回くらいですかね」

「本当か?」

「ええ、色々と確認しないといけませんから」


 いざその時になって国が無くなっていました、というのは洒落にならない。

 冗談を抜きにして、彼女は残りこの国を護ってもらはねば。


「その時には絶対にうちにも顔を出してくれ」

「分かってますよ」

「約束だぞ」


 あの家は放っておいたら、また室内嵐に見舞われていそうだからな。




 それから私は、長い時間を掛けて近隣の国々を回り歌を歌い歩いた。


 旅を始めた当初は右も左も分からず、何度も能力で他の者達に泣き付いては笑われていた。

 何せ他の者達からすれば、私は聞く内容の順番がでたらめだ。

 大抵の者はまず最初に旅の常識を得ようとするそうで、私くらいの年齢で初めての旅というのは珍しいのだとか。

 一切旅をした事無い者も居なくは無いが、大抵はそのまま一生を終えるか自力で解決しているので、やはり私は非常に稀な部類みたいだ。


 旅の途中では様々な出来事や人々に出会い、当然だが危険にも晒された事は一度や二度では無かった。

 時には敵国の間諜と間違われ、投獄されたり一時は拷問を受けそうになった事もある。

 その時は私が吟遊詩人であると分かると、皆が手の平を返した様に丁寧に扱ったのには少々面を食らったものだ。


 宣言通り半年に一度は様子を見に帰っていたが、何年も旅をしていると当然ではあるが帰れない時もある。

 そうなると大抵の場合、騎士団長の機嫌が悪いらしく副団長にちゃんと帰って来る様にお願いされた。

 帰れない時や事故があった場合は、必ず手紙や人伝で知らせているはずなのだが。


 何が気に入らないのだろうかと一人悩んでいると、坊主が「父ちゃんは賢いけど馬鹿だよな」などと言ってきた。

 それに腹を立て持って帰った土産を没収すると、何故かため息を吐きながら謝って来たので心の広い私はそれで許してやる事にした、体格と口ばっかり大きくなって年長者を尊ぶ気持ちが足りていない。

 最近は騎士団長について行き、大人に混じって騎士団の訓練に参加しているみたいだが、そんな事では立派な大人には成れないぞ。


 後で自分の屋敷に帰りその話をしたのだが、使用人のおばちゃんにも似た事を言われて少々落ち込む事になったが。


 私の屋敷に住み城仕えをしている弟子は、順調にその才能を発揮して功績をあげているそうだ。

 何でも今手を付けている事業が成功すれば、国力が三割も上がるとかで大変気合が入っている。

 前国王の残した資料や私の考案も有効活用しているし、推敲の後も見える。

 どうやら彼女に国王の補佐を任せたのは間違っていなかったが、遅く帰る事が多くなったそうなので体調に気を付けてもらいたいものだ。


 もちろん国王への挨拶も毎回行っており、いつも執務室へと通されてそこで約束通り仕入れた歌を披露している。

 最初の頃は酒を片手に聞いていたのだが、ある時から書類を持ち出して何やら熱心に書き込みながら聞き出した。

 折角私が直々に、周辺国から仕入れて来た歌だというのに失礼な事だ。

 まあ何事にも熱心なのは悪い事では無いから良しとしよう。


 それから更に数年が経つと、大小の国家が乱立していた大陸東部に大きな動きが生まれた。


 大陸北部に巨大な勢力を持つ帝国が、何やら不穏な動きを見せているらしく、その動きを警戒した帝国領に隣接する国が次々と同盟を結び東部連合が誕生したのだ。


 この連合が成立した事により、無秩序にも見えていた東部の国々の動きに統一感が生まれる。

 如何にしてこの連合に加わるか、もしくは参加国と友好を結べるかだ。


 この動きに対応して、これまで各国が独自に作成していた文書の書式やその内容が、連合で使用されている物を基準として作成されだした。

 この「連合規格」と呼ばれる書類基準は、それまで頻繁に起こっていた書面に起因する外交の問題を大幅に減らす事に成功する。

 また以前から頻繁に起こっていた小国同士の小競り合いも、連合の動きを警戒してか目に見えて減少する事になった。


 現国王の即位から統一した書式を採用し、それが連合規格と極めて似たものであった我が国は、大した混乱も手間も無く自然と国内全ての書類を連合規格に移行出来た。

 全く不思議な偶然がある物だと国王に話しをすると、随分と面白そうに笑っていたが。


 この流れを受けた国王は、これを好機とみて国の内外を一気に固めに動き出した。


 国内では我が弟子を今までの功績を持って宰相に任命し、国政を一任。

 外交では、成人した同盟国の王女を王妃として迎え入れる際に反対する声が多く上がったそうだが、国王の強い希望で無事正式に王妃として迎え入れた。


 連合への参加も打診しており、何年掛かろうと必ず勝ち取ると私の前で意気込んでいた。

 私は一介の吟遊詩人に過ぎないので詳しい事は分からないが、あと数年くらいすれば連合内も落ち着いて、我が国も加入出来る状態になるんじゃないかな。


 騎士団長は何年経っても相変わらず掃除も料理も出来ないみたいだ。

 訓練の一環という名目で、結構前から坊主に家事をやらせているらしい。


 心労からか、最近薄毛が気になって来たという副団長から教えてもらったが、実は騎士団長には昔から数多くの見合いの話しが来ているのだとか。

 年齢を重ねた現在もその人気は健在らしく、いまだに見合い話が舞い込んで来るのだそうだ。


 確かに何年経っても若々しく訓練によって引き締まった体は見事なものだが、あの性格はいただけない。

 全く興味は無いが、流れで「騎士団長はなぜ結婚しないのでしょうか」と私が口にした時の副団長は、まるで信じられない物を見た様な顔をしていた。


 坊主も随分と大きくなり、生意気にも見習いとして騎士団入りを果たしたらしい。

 見習いという身分でありながらその強さは騎士団でもかなり上位に入るそうで、入団早々に先輩騎士達を相手に大立ち回りを繰り広げたのだとか。

 騎士団長流の訓練にも涼しい顔で着いて来るらしく、将来の団長候補として期待されている様だ。


 私からすればまだまだ鼻垂れ坊主だが、まあ頑張っているみたいなので今度帝国製の良い武具でも買って帰ってやろう。




 そこから更に十数年の時が経つと、国王を中心として纏まったこの国は大いに発展し、東部でも有数の国として知られる様になった。

 東部連合に入る手続きを行う為に国を出た国王の表情は、これまでの苦労を感じさせない程に生き生きとした物だったそうだ。


 宰相となった我が弟子は、国王が不在の間に何かあってはいけないと益々張り切っている。

 今は近隣諸国の街々を騒がしている殺人鬼が、この国に入ったとの情報を得て腕利きを集め絶対に捕えるのだと息巻いていた。


 王妃は国王との間に二人の子どもを儲け、わりと充実した日々を送っているそうだ。

 祖国の事でこの国に迷惑を掛けている負い目があるのか、我が侭などは一切言わないそうだが、私としては子を成す仕事を十分に果たしている以上ある程度は評価して良いと思っている。


 騎士団長はつい最近まで現役だったが、団長の座を賭けた試合で坊主に敗れ、引退を決意したそうだ。


「実は騎士団を辞めてから料理に目覚めてな、是非ともお前に食べて感想を聞かせてほしい!」

「まさかその料理というのは、その皿の上にある黒焦げの物体ですか?」

「多少は火を通し過ぎたかもしれないが、味には自信がある。さあ食べてみてくれ!」

「あぁ、そういえば坊主はどこへ」

「あの子なら某が料理を始めると、いつも何故か用事を思い出して飛び出して行くんだ」

「私もたった今用事を」

「食べてくれるよな?」

「……」

「食べて、くれるよな?」

「はい」


 鞄の奥に仕舞って長い間忘れていた安物の干し肉を、雨の日にびしょ濡れになりながら食べた時の味がした。

 それはさて置き、彼女にも宰相から殺人鬼捕縛の協力が要請されているそうで、喜んで参加するそうだ。

 その殺人鬼の噂なら私も知っているが、やり口がとても残忍で凶悪な上に途轍もなく強いらしいので、無茶だけはしないでほしい。

 私がいつも気休め程度に持って歩いている、吟遊詩人のお守りでも渡しておこう。


 新しく騎士団長になった坊主には、褒美に昔からの秘密を教えてやる事にした。

 それが褒美になるかは分からないが、後は坊主次第だ。

 聞いた本人は随分とあっさりしたもので、前々から不思議には思っていたが特に気にしてはいなかったんだとか。


「本当の両親が別に居ようと、二人に育ててもらった恩は無くならないよ」

「生意気な事を言うなこの坊主が」

「そこは感動して抱き締める所じゃないのかよ」

「そういうのは母親の役目だからな」


 本当に生意気な坊主だ。

 これだから子どもとは一生関わり合いになりたく無かった。

 今度帰った時に酒でも飲みに連れて行ってやるか。


 次帰って来るのは国王がこの国の連合入りを決め、帰国する時にしよう。

 あいつの事だ間違いなく上手くやってくれるだろう、それでようやく私も長い旅も終える事が出来る。

 随分と長く掛かってしまったが、やっとここまで辿り着けた。

お読み頂きありがとうございます。

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