第35話 前に進む力
「俺をアンタの部下にしてくんねーか?」
そんな炎拳の要望を聞いて一瞬が空白になったが
新見さんは冷静だった。
大吾さんだってちょっと動揺してたぞ。
体がビクッて動いてたし。
「部下ですか?」
「おう、俺がここまで全力で戦えたのは
姉ちゃんが初めてだ
しかも最後の攻撃だ
ありゃ俺の全力なんて軽く超えた出力だろ?」
「・・・・そうですね、色々と条件はありますが」
「ハハ、条件があろうがなかろうが
最大出力を出さなくても互角なんだ
結局は俺の負けは変わらんさ」
「で?どうなんだい?」
新見さんが腕組みをしてしばし考えてるのを横目に
疑問に思ったことを大吾さんに質問してみる。
「大吾さん、炎拳の要望って通るはずないですよね?
なんで新見さんは悩んでいるんでしょう」
「いや、実はそうでもないんだ
認可される方法はあるんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、幾つか方法はあるんだが
今の状況で一番可能性があると思われるのが
罪を認めて協力する事により償うって方法だな
色々と制限は掛けられるがな」
なるほど、そんな方法もあるのか。
優秀な人材を現場スカウトするようなもんか。
問題は相手の立場とか行動とかだという事ね。
「う~ん、確かに貴方を私の権限において
管理下に置き協力して頂く事を罰則とする事は出来ます
但しそれには幾つもの条件があり
今回は該当するかは直ぐにはお答え出来ません」
「そりゃそうだろうな
アンタ達が許してくれるなら
姉ちゃんが俺を使って貰えないか?
駄目なら諦めるから
とりあえず検討してみてくれ」
そう言い切っていきなり寝だす。
まぁ本調子じゃないだろうし仕方がない。
三人で会議室に移動し炎拳の要望を検討する。
新見さんが問合せをしたところ今回の被害で言えば
物損的にも人員的にも想定よりはずっと低い。
その為、最重要ポイントの罪の重さという点ではクリアしている。
いくら協力して罪を償うと言っても
建物や人員への被害が大きかった場合
被害者や世間が納得しないだろう。
その点で行けば今回は迷惑は被ったものの
物理的な被害は低かったので軽いと言えるだろう。
次の問題点としては身元保証となるのだが
メディカルルームでの検診の際に採取した細胞から
DNA判定を行い確認をした結果
本名:酒守 将兵
年齢:28
住所:不明
経歴:A県の地元高校を卒業後を最後に不明
特段の目立った履歴は無い。
高校卒業してからの約10年の消息は不明。
何と言うか怪しさ爆発だな。
もう怪しさしかないな。
犯罪歴等が無いのであれば経歴という点では
問題ないと言えるが・・・。
後はメリット、デメリットか。
デメリットとしては金銭面がまず挙げられる。
少ないとはいえ雇用賃金が発生するし
用意しなくてはいけない物は多い。
そして生活面で言えば管理下に置くため
司令部に部屋を用意するか
別途住居を用意するかという問題もある。
それ以前に炎拳が必要か?役に立つのか?
というのが大前提だ。
本人の言い分では視力が極端に低いとある。
矯正視力かどうかは不明だが
性格を含めて考えると事務作業は無理。
書類関係では正規ヒーロー以外は閲覧禁止も多い。
かといって喫茶勤務というのも問題がある。
上部の喫茶は仮の姿でありヒーローとは無縁という事になっている。
そこに配置したところで身バレの危険が高まるだけだ。
では戦闘要員ではどうか?
あれだけの能力があれば大幅に戦力としては高まる。
確かにそれは有りがたい事だし
前衛が増えればそれだけ選択肢が増えるしな。
しかしそれも問題がある。
そもそも戦闘がそんなにないんだ。
あっても対応が追い付かなかったのは今回が初めてだ。
あーでもない。
こーでもない。
と三人で話しながら模索していくが
中々に決まらず時間だけが過ぎていった。
◇◇◇
あれから1ヵ月後の運動室にて。
「ウゲェッ」
俺は涎を吐き出しながら吹き飛び
背中から壁に激突していた。
「ハハ、相変わらず撃たれ弱いな
そんなに力は入れてないぜ」
ハァハァハァ
ウグゥ
何かが込上げてくるものの
これは我慢しなくては。
「よ~し、立て!
もう一本だ」
炎拳は協力者として正式に契約する事となった。
立場的には準ヒーローとして作戦行動時の補助者としてだ。
契約条件は以下のようになった。
・契約期間は罪状を考慮し3年とする
・住居は司令部内に用意し24時間の監視体制に置かれる為
監視装置を常時装着するがプライベートまでは関与しない
・戦闘補助を主業務とし戦闘訓練の指導員を兼任する
・司令部内の掃除等の雑用業務を行う
賃金については最低限ギリギリで
生活が出来るレベルで良いとの事。
但し新見さんとの実戦式の戦闘訓練を
定期的に設ける事を条件とする。
そんな訳で俺は戦闘訓練を受けている。
攻撃力だけを見れば突出しているが
全体の戦闘力をみると低すぎる。
以前から気にしてはいたが炎拳との戦闘で
手も足も出ない事もあり限界を感じた。
今よりも強くなりたいと言った炎拳の言葉に
感化されたのかもしれないな。
空いている時間に指導をお願いしているって訳だ。
幾度となく吹き飛ばされ叩きつきられた。
それでも諦めない。
はずだった。
やべ、俺無理かも。
なんか強くなれる気がしねぇ。
1ヶ月の間、諦めずに頑張ったものの一向に良くならない。
まぁ、炎拳との戦闘力の差が大きすぎて
実感できてないだけかもしれないが。
「はぁはぁ、俺って強く馴れてるのかな?」
「ん?技術的なもんなら少しは上手くなったぞ」
「全然実感できないんだが」
「まぁそうだろうな
そんなに急には強くはなれんさ」
「確かに武芸なんてものは
地道にやっていくしかないんでしょうけどね」
「ん?お前は違うだろ?」
「え?!」
「体動かす時に無駄に《ギフト》使ってるから
スムーズに体が動かないんだろ?」
「普段時に《ギフト》なんて使ってませんよ」
「そうなのか?お前の力の流れは変だぞ
てっきり《ギフト》の訓練をしてるものだと思っていたが」
「え?
はい?
なんですって?」
明人、ついに覚醒する!
といいな。




