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タイトル未定2026/04/05 09:57

主人公、坐間冥加のセリフの終わりに句点がついているのは人造人間ゆえの発話の不自然さを表現している意図的なものです。訂正の必要はございません。

 駅からの登校路には参勤交代の大名行列のように同じ標準服を着用した生徒がぞろぞろと力なく歩いていた。


 朝だから仕方ないとは言え、ちょっとしたゾンビパニックのようだった。


『よっ、坐間』


 背後から声をかけられた。声の主は米尾流。

 昨日もパンパンの通学カバンを担いで、妹と共鳴リンクしているはずだ。


  余談だが、俺は昨日の深夜二時くらいまで梶上と共鳴リンクしていた。ただ、今は接続が切れている。


「流か……。おはよう。」


『そんな他人行儀じゃ寂しいぜ? もっと仲良くしようぜ』


 こちらに歩み寄ってくる。


 この学園の生徒はもしかした全員が全員他人のパーソナルスペースを推し量るのが苦手なのかもしれない。


 卜部でも、いや卜部は“距離”に関しては専門家なのか。


 そこらは置いておくとして奴は馴れ馴れしくはあっても、決して距離感を間違えることはなかった。


 そこらの感覚をこいつらは卜部から学んでこい。


 ──無駄話だ。つまりは逡巡だ。


「ああ、そうだな。仲良くしよう。」


「けっ、堅い男だねえ」


 流は得意のまぜっ返しで会話をリセットした。

 巧妙な話術だ。是非とも今後の参考にしたいものである。


 流は八つ当たりのように通学カバンを蹴った。


 蹴られた通学カバンはやけに揺れている。


 ゆらゆら、ぷるぷる……。


 俺はそれを眺めて振り子の法則というやつを実感している。

 

 すると話題は切り替えられた。


『坐間、知ってるか? 今この学校で流れてる噂』


「友達がいないもんでそういうのには疎いんだ。」


『……オレがいるじゃねえかよお……。それに梶上さんだっているだろ? あ、でも梶上さんとはデキてるからもう《《友達》》じゃないのか』


 下衆ゲスの勘繰りだった。


「……それは悪かった。」


わーってくりゃ、それでいいのよ!』


 俺たちは何よりも熱く手を取りあった。


 真の友情がここに芽生えたのだ────というわけではなく、求められたからやったにすぎない。

 

『それで、噂なんだけどよ。最近、この学校で行方不明者が多発しているのは知ってるな』


 知らなかった。俺のデータにはそんなこと、みじんも登録されていない。


 つまり、俺が卜部と関わり合った時からメグレズとフェクダを狩るまでの数日間で起こったことなのだろう。


 あるいは、このクラスの情報網から孤立している俺と梶上だけが知らないだけで、広くこの学校では知られていることなのかもしれなかった。


 ──まあ逡巡だ。思考を石と一緒に蹴り飛ばす。


「そうなのか」


『その感じだと知らなかったみたいだな、まあいいけど』


『それで、その行方不明事件、ここいらに逃げ込んだっていうか人造人間レプリカントが絡んでんじゃねえかって噂がある』


 その噂は先日卜部から聞いた情報、つまるところこの私立才奇学園に“六機”のうちの二機潜伏しているという情報に符合する。


「そいつは……プロに任せといた方がいいんじゃないのか? 俺たちはいくら異能についての研鑽を日々積んでいるかといって、実際凶悪なそいつらと戦うには役不足だろう?」


『一理ある意見だ。あ、あとその役不足は誤用だね。気をつけといた方がいいぜ』


 言語野を修正しながら、流の話に耳を傾ける。


『その被害者に、ダチがいるんだ。黙って指咥えてる訳にはいかないだろ? だから部活のメンバーで探すことにしたんだ、もちろん討伐も視野に入れてだけど』


 芝居めいた口調で演説した。


 一対一で演説は普通しないだろう。


 もっと盛り上がるように部活のメンバー揃い踏みとかでやれよと茶々を入れたかったが、流の双眸そうぼうはまっすぐ真剣だった。


『そこでだ、坐間。お前も協力してくれないか?』


「は?」


 唐突な申し出に困惑したのではなく、あくまでポーズとして困ったような声色で言う。


 任務遂行に都合がいい話が転がっている。


 乗っかりたいところだが米尾流が人造人間レプリカントであると言う可能性を捨てることができない。 


 俺は顎に手を当てて考えるフリをする。

 そして切り出す。


「仲間になる」


『おお! 心強い限りだ。何せあの梶上と仲良くやれている奴だ、相当の手練れなのだろうからな』


「ただし、血を見せてくれ」


『……そいつは、俺を疑ってるってことかい? 用心深いもんだ。…………いいぜ、やってやるよ』


 流は通学カバンにつけられていたバッチを取り外して安全ピンで指を刺した。


 ほんの少し血が滴る。


 その早朝の草木に着いたつゆのような血は……人間らしい色をしていた。

 

 朱い。


 朱くて暖かい。


 トリックが仕込まれている可能性もあるが、概ね信用していいのだろう、彼は。


 始業の前にメンバーを紹介してやると言われ、俺は荷物を置いて社会科教室というところに連れて行かれた。


『いやはや諸君、おはよう!』


 元気がいいのは米尾流だけだった。


 他のメンバーである二人の女子生徒と一人の男子生徒は若干怠そうにしていた。


 朝から呼び出されたらこうなるかと納得した。


『朝からすまない。新入部員……ではなくて、体験入部かつ助っ人を紹介しようと思ってな。坐間冥加くんだ』


『彼はあの梶上礼佳のPRISMで彼氏さんだ』


ご紹介に預かったので、適当に自己紹介をして開いているパイプ椅子に座った。 

 

 よくよく考えたらこれは流用の椅子だったのだろうが、そんなこと知ったことではない。


 椅子がキシキシと軋んでいた。


 俺は座った刹那気づいた、彼ら彼女らの視線に。


 全身から化け物か何かを見つめるような目でジロジロと舐め回される。


 彼らの目の中は好奇と恐怖で潤んでいる。


 ……あまりいい気分ではない。



 悪名は無名に勝るみたいなことだろう、梶上の認知度は高い。


 梶上、絶対俺に話していないやらかしがあと五個くらいありそうだと思った。


 また、彼氏という点は否定するべきだった。しかし、彼らとはこの事件以外で関わることはないだろう。


──無駄な逡巡、と言えば過剰修飾だろうがこの思考は相応しい。


 俺はこの腐りかけの熟考を投棄した。


 ただ、この状況は考えずとも沈黙が正解なことくらいすぐに弾き出せる。


「…………。」

 

「おい、米尾! そいつはマジなのか。あんな女を同行できる男なんて……いや人間なんてこの世にいるのか?」


 鋭い目つきの女子高生が流に訊いた。いや……詰問していた。


『マジですよ志島先輩。オレが保証します。彼とオレはクラスメイトなんだ』


 こいつは馴れ馴れしく肩を組んできた。

 うざったいと思いつつも渋々受け入れる。

 任務遂行のための必要コストだ。


 しばらく三人で耳打ちしていたが、議論は終了したらしく部屋に静寂が帰ってきた。


…………。


 沈黙に耐えかねたのか先ほど詰問していた女子高生が咳払いした。


「志島しじみ、高等部二年。よろしく」


 警戒心が声に滲んでいた。


 友好関係を結べるか怪しい最低限の情報だけを与えられた。


 分析のしようがない。


 外見だけでいうと、銀髪ロングの容姿の整った美しい陶器人形フィギュリンのような女子だ。


 それにつられて他の二人もそれぞれ自己紹介を始めた。


「キノキノ、喋っていいよ」


「……うちは中等部二年、羽曳野はびきのきの、PRISM能力者や。よろしくお願いします」


 恭しく頭を下げたこの女子中学生、羽曳野きのはあどけなさを仄かに残した、ザ・女子中学生らしい子だった。


 断じて貶しているわけではない、褒めているのだ。


 羽曳野という名字と訛りから関西出身なのだろうかと推測した。


「僕は中等部二年、鋏路はさみじ沙慈さじ、PSIです。よろしくです」


 にこやかに愛想よく中性的に笑った。


 先ほど羽曳野さんに発言許可を凄みながら言っていた男と同一人物には到底見えなかった。


「坐間先輩、教えてくださいよ。どうやってあの……あの、梶上礼佳を捕まえたんですか」


 目を輝かせて鋏路が言った。

 さながら憧れの先輩に初めて話しかけれたときのように。


「人間関係ってのはそんな昆虫採集みたいなものではない。」


 俺が人間を語るなんて欺瞞だが、ガツンと言った。


「……なるほど。企業秘密ってわけですか。はあ…………まったく勉強になりますよ……」


 鋏路は明らかに態度悪くして舌打ちした。


 空気が悪い。




気まずい沈黙を破ったのは社会科教室の扉だった。


 ガラガラ


 音を立てて俺たちの静寂は壊された。


 全員の視線が入ってきた人間に釘付けになる。


 俺は入ってきた人間を見てカパッと目を見開いた。


 知っている、忘れるはずのないあの男が軽薄そうに口角を上げていたのだ。


「卜部……影……」

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