3話
辺境伯様に嫁ぐ日の朝、とっても立派な馬車が迎えに来て下さいました。
それも我が家にはとても不釣り合いな馬車が。
それなのに私の荷物は二つだけ。
それでも伯爵家に嫁いだお姉様がもしもの時にはと素敵なドレスを下さいました。
多分着る機会はないと思うのですが、それでも私の事を気に掛けてくださるだけでも温かい気持ちになります。
お父様、お母様、そしてお姉様達が、今迄忘れられていた存在の私を、最後は皆で送り出してくださいました。
これってもう二度と、何があっても帰ってこれないということなのでしょう。
私も覚悟を決めて嫁ぎます。
皆は揃って笑顔です。
「アンジュ、幸せにねー」
そう言って、手を振って下さっていますが幸せとはどういうものなのでしょうか? こちらでの生活はたとえ貧乏でもそれなりに満足はしていました。
皆から忘れられている存在でも虐げられていたわけではありません。
大好きなお料理だって作ることができていたのですから。
これからはどんな人生が待っているのか? 考えれば考えるほど不安な気持ちに襲われます。そんな気持ちのまま私は今日、嫁いでいきます。
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ついに、辺境伯様のお屋敷に着きました。
とっても大きなお屋敷です。
馬車を降りると執事のランカスターさんと名乗る方がご挨拶をしてくれました。
「遠いところ、よくぞお越し下さいました」
私は緊張しながらも軽く一礼をした。
「これから お世話になります、アンジュと申します。どうぞ宜しくお願いします」
すると少し困ったような? そんなお顔で申し訳なさそうにお話しされた。
「実は、旦那様は今、国境付近で小さな小競り合いがありまして、暫くは砦の方に留まる事になりました。なので顔合わせは落ち着いた頃となります」
要するにご本人はいらっしゃらないのですね。もっとも何の期待もしていなかったので構いませんが。
「そうですか、承知しました」
そんな私に、更に言いにくそうにランカスターさんは言われました。
「本宅はひとりものの騎士達が沢山住んでおりますので、奥様のお住まいはあちらの離れにご用意させて頂きました」
私は思わず変な声を出してしまった。
「は、離れですか?」
そう口にすると申し訳なさそうに下を向かれました。そして、『自分も砦での仕事がありますので旦那様の元に向かいます』そう言われ、去っていきました。
そんな様子を見て、とても嫌な予感しかいたしません。
まあ、覚悟はしていたのでよいのですが、それでも『やはりこんなものなのですか』とため息が出てしまいました。
やはり私はここでも影の薄い存在になるのですね。




