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剣は勇者に渡しません



「おおっ。

 大聖女となって戻られた、我らが王妃っ」


 いや、大魔王になって帰ってきましたけど。


 一応事情を説明しようとトレラントに帰ってくると、街の人々も城のみんなも一行を大歓声で迎えてくれた。


「フェリシア様っ。

 神々しさが増しておられる!」


 ……いや、そんな莫迦な。


 でもまあ、確かに。

 今の自分はもう魔王のチカラは使えないから。

 私からその手のチカラを感じることはないだろう。


 そう。

 この命懸けで自分を退治した勇者のおかげで――。


 フェリシアは魔王……

 いや、ここでは大魔導士様であるアルバトロスを見上げた。


 きっと彼は私を闇のチカラから解放してくれ。

 自らがそのせいで、魔王となってしまった善良な人なんだろう。


 今は何故だかそう思う。

 魔王の顔を見ながら笑ったフェリシアに、魔王が赤くなる。


「な、なんなのだ、お前は突然……っ。

 そんな可愛らしい顔をしてっ」


 動揺している魔王に、いえ、別に、とだけ言い、案内人について城の中を進む。

 トレラント王に謁見した。




 王は相変わらず、美しく、憂いを帯びた表情をしていた。


「――こういう事情なので、私は王妃にはなれません」


 フェリシアの説明に王は更に憂いて――

 そのせいで美貌が増し、城の女たちを狂乱させながら、言った。


「あなたとなら、ともに国を盛り立てていけると思ったのに」


「王様。

 私は旅をしていても、縁あるこのトレラントをともに盛り立てていくつもりです」


「……フェリシア殿」


 フェリシアは相変わらず侍女の格好をしているララサンダーを振り返って言う。


「ララサンダー、王妃の座は空きましたよ」


 そう微笑んだが、ララサンダーは、

「いいえっ」

と言う。


 いいえ? と全員がララサンダーを見た。


 あんなに王様を追っかけ回していたのに?

 公爵令嬢が侍女の格好をしてまで、王様に近づき、王妃になろうとしてたのに?


 だが、ララサンダーは、チラ、と恥ずかしそうにサミュエルを見て言った。


「私は今まで狭い世界しか知らなかったのですわ。

 人は、より美しいモノを、より愛するわけではないと知りました」


 まあ、人にはそれぞれ好みというものがありますからね。

 でも、サミュエルはちょっと小うるさいですが、もともと顔だけは王様に負けないくらいいいですよ。


「王様すみません。

 私、この人と一緒になります」


 いきなり、ララサンダーに腕をとられ、


「は?」

とサミュエルの顔が無になる。


 彼の頭脳をもってしても、突然すぎるこの展開が理解できないようだった。


「何故、私は謝られているのかな?」

 相変わらず、ぼんやりしている王様が呟く。


 さあ? とかつての王妃、フェリシアは笑った。


 だが、

「ちょっと待ったーっ!」

 フェリシアが送った民族衣装風のドレスで着飾っているウィリカが人々の中から飛び出してきた。


「サミュエルは私と結婚するのよっ」


「は?」

とまたサミュエルが言う。


「あなた、王様と結婚するんじゃなかったのっ?」

「私は人が欲しいと言うものが欲しいのよっ」


「では、私、いっとき、そこのダニエルと付き合いますから。

 それをあなたが奪ってですね」


「いらないわよっ」


 ……いらないでください、と言う顔でダニエルが青ざめていた。




 王様は旅の資金までくれ、フェリシアたちを送り出してくれた。

 ふたたび修行の旅に出る大聖女たち一行を民たちが見送ってくれる。


 大歓声に応えながら、みなちょっと嬉しそうだった。


「……初めてお前に会ったときは、こんなことになるとは思ってもみなかったな」

と魔王が言う。


 初めて会ったときとは、かつての私を倒しに現れたときですか?

 フェリシアは震える手で剣を自分に向けてきた美しい人間の青年の姿を思い出す。


 この人にならやられてもいいかなとちょっと思った気がする。

 だが、彼が語っているのは、過去の話ではなかった。


「森で神と出会い、その導きでお前と出会った――」


 ……神の導きで?

 魔王なのに?


「神は私を改心させようとしたのだろうか。

 新しい出会いによって」


「新しい出会いって。

 ピザとですか?」


「お前とだと言っただろう」

と魔王は赤くなる。


 ふふ、とフェリシアは笑って言った。


「冗談です。

 ちょっと恥ずかしかったので」

と言うと、


「……だから、そんな可愛らしい顔で笑うでないっ」

と魔王は視線をそらして言った。


「じゃあ、それ、恋愛成就の神様だったんじゃないですか?」

と後ろから声が聞こえてきた。


 息を切らしたサミュエルだった。

 二人の美女から逃げてきたようだ。


「あのまま幸せに暮らせばよかったのに」


「……あの二人ですよ?」

 私、地獄の底に突き通される未来しか見えませんけど、とサミュエルは言う。


 街の出口の門まで来た。

 振り返り、遠く城のバルコニーにいる王様たちに、そして、見送ってくれている民たちに向かい、手を振る。


「大聖女様っ」

「我らが大聖女様っ」


「大魔導士様っ」

 みんなにも声がかかり、全員恥ずかしそうに手を振っていた。




「さて、何処に行きます?」

 今度こそ、当てのない旅路だ。


 もう勇者に剣は渡さない。


 ……二人そろって滅ぼされそうだからな、とフェリシアは思う。


「アーローとやらに出会わないところに行こう」

と魔王が言った。


 やられそうだからかと思ったが、そうではなかった。


「凛々しく成長した勇者にお前が惚れたら困る」


 フェリシアはちょっと笑って言う。


「そう何度も惚れませんよ」

「……今、なんと?」


 フェリシアは二度は言わずに歩き出す。


「なにか美味しいもの食べたいですねえ」

とファルコが言い、


「甘いものっ、甘いものっ」

と体力のありあまっているスライムが一行の周りを駆け巡る。


「ともかく、ここから遠い場所に行きたいです……」

 あのわずかな間になにがあったのか、憔悴しきったサミュエルが言った。


「じゃあ、とりあえず、美味しいものを探しに行きましょうか」


 この旅の途中、チカラに目覚めて、大魔王に戻るかもしれないし。

 魔王様と恋に落ちるかもしれないし。


 勇者となったアーローとその仲間となったドワーフのおじいさんに倒されるかもしれないし。


 世界中の美味しいものをまとめた本でも出すかもしれない――。


 でもまあ――

 それもまた、別の物語だ。


「行こうっ!」

 フェリシアは自らを滅ぼす伝説の勇者の剣と肉切りの剣を背に、みなを振り返り笑った。


 街の向こう。

 眩しい光の下、トレラントの城が遠く霞んで見えた。




                        完




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