姫さん……エルレイシアが幸せなようで、本当によかったぜ。
そして、今日。城から姫さんを火竜の監視係に任命するって書状が届いた。
多分、姫さんとおっさんには俺とフラン様がなにしたか気付かれてないと思うんだけど・・・やっぱ、アリシアさんには気付かれてたか。惚けても無駄な気はするけど、あんまり深くは詮索されないだろう。
あらあらうふふと笑っているアリシアさんに、俺も笑顔を返しておく。
「ま、ヴァーグ君は姫様のためにならないことはしないわよね♪」
うん? なんか俺、結構信頼されてる感じ?
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そんなこんなで――――三年程が経った。
なにやら、姫さんを虐げていた第二、第三王子、第一王女の三人が精神耗弱で療養……という名の幽閉生活を送ることになったと風の噂が流れて来た。
夜毎悪夢に魘され、夢と現実の境が付かなくなり――――特に鏡や水、ガラスなど自身の姿が映る物を見てしまうとパニックを起こして大変……なのだとか。悪夢を見続けての心労か、容色が衰え髪は真っ白。嘗ての美貌も、年よりも大分老けて見えて残念なことになってるらしい。
ふ~ん……やっぱ、自分が耐えられない程のことを姫さんにしてたんかよ。マジでクソだわ。つか、三年も毎日悪夢を見るって、それだけ奴らが姫さんを虐げてたってことだよな? マジ最低だぜ。
んで、そろそろ国王夫妻も引退して、第一王子に国王を譲るそうだ。
どうやら国王夫妻も、王子や王女が自分本人を痛め付けているのをただ見ていることしかできかったり、周囲の人間にひたすら罵倒され捲るという悪夢を見ているらしい。ま、国王も王妃も姫さんが虐げられてんのを見て見ぬ振りをし続けてたって話だからなー。そういう風な悪夢を見るのも道理か。
第一王子だけは姫さんを虐げはしなかったそうだけど・・・国王、王妃、第二、第三王子、第一王女が精神を病んで、ほぼ一人で城を回して行かないといけなくなったのが自分への罰、だと思っているらしい。
なんで俺がそんなこと知ってるかって? そんなの勿論……俺をスカウトした魔術学院講師が、実は第一王子こと王太子殿下の側近の人だったからです。
つまり、俺の雇い主はなんと王太子殿下だったというワケだ。なんでそんな人が学院にいたかというと、ほら? 第二、第三王子が学院に通っていたからだそうで。連中がやらかさないように。もしくは、やらかしても直ぐに対処できるようにという後始末要員だったらしい。
そして、俺がした闇属性の精神魔術は確りバレてた。ヤだ、思ったより優秀ー。本来なら王族を害したと極刑相当だそうだが……それらも不問にしてくださるそうで、俺が姫さんの味方であるうちは捕まえないでやるってさ。ありがたくって涙がでるぜ。王太子殿下とは直接会ったことないけど、こんな風に手を回すくらいなら、もっと早く姫さんを守ってやりゃよかったのにさー?
ま、俺は王族どころか一般平民なんで、上のお偉い連中の考えなんか全く知らんから言えることかもしれないけどさ?
ちなみに、おっさんも実は王太子殿下の部下なのだそうだ。
姫さんは家族に恵まれないと思ってたけど、影で守ろうとしてた奴が一人でもいたってのは良い事だよなー。でもさー? 王太子殿下、これどういうことよ?
俺に、『妹に手を出したら殺すっ!!』的な殺意高い手紙が来たんだけど?
なに? あの人、実は隠れシスコンだったりするん? つか、なんで俺に?
なーんて、思っていたら――――
「ヴァーグさんっ!!」
「はいはーい、なんすか? 姫さん」
「そ、その、あの、そろそろ姫じゃなくて、わたしのこと……エルレイシアって、名前で呼んでくれませんかっ!?」
「へ?」
「わ、わたし、その、ずっと、わたしに優しくしてくれたヴァーグさんのことが好きなんです!」
「え? ええっ!? はあっ? 姫さんっ?」
「男の人が苦手で、誰かに触られるのが怖かったわたくしに、いつも根気強く話し掛けてくれて。いつもわたしの怪我の心配をしてくれて。魔術が使えないことも、全然気にしなくていいって言ってくれて。兄様や姉様達のことも、わたくしはなんにも悪くないって言ってくれて。むしろ、兄様や姉様、お父様やお母様達に怒ってくれて。わたしには、強くなる才能があるって誉めてくれて。わたしが怪我しないようにって、フラン様もびっくりするくらいにすっごくすっごく頑丈な鎧を作ってくれて。わたくしは……わたしは、アリシアさんとヴァーグさん、レベックさんに救われたんです!」
ぎゅっと、強く握り締められた手。真っ赤な顔で、じっと俺を見据える瞳。
「・・・俺、平民なんだけど? しかも、その中でも最底辺なスラム出の孤児だぜ? どこの馬の骨とも判らないような素性不明な男なんだけど? 姫さんには、全く釣り合わないと思うんだけどなー?」
「ヴァーグさんが、わたしのことを妹のようにしか思っていないことはわかってます! でも、わたしがヴァーグさんを好きになったんです! というか、あれだけ大事にされて、たくさんたくさん優しくされていたら、好きにならない方が難しいです!」
「えぇ~?」
「今はまだ、妹でもいいです。でも、絶対ヴァーグさんに、わたしのことを好きになってもらいますから。覚悟してくださいね!」
と、姫さんは言うだけ言って走って逃げた。
ぅっわ、なにあれ・・・? 美少女に告白言い逃げされて、俺もドッキドキよ?
「あらあら、熱烈な告白ねー? それで、ヴァーグ君はどうするの?」
背後から楽しげに声を掛けられ、ビビる。
「うおっ!? アリシアさんっ!?」
「姫様に手を出すこと、罷りならんぞ」
今度は低い、じっとりとした声。
「って、おっさんまでっ!?」
「あら、どうして? 姫様が、ヴァーグ君を好きになったのよ?」
「……それは、そうなのだが……」
「それじゃあ、こうしましょう♪姫様がヴァーグ君を口説き落としたら、ヴァーグ君にはお咎め無し。姫様が、ヴァーグ君以外を好きになって振られちゃったら、ヴァーグ君に残念会を開いてあげるってことで」
「ふむ……ヴァーグ殿への好意も、姫様の一時の気の迷いという可能性もあるということか。いいだろう。貴様が姫様に振られたらなら、盛大に残念会を開いてやる」
「ふふっ……よかったわね、ヴァーグ君。がんばりなさいな、男の子♪」
「アリシア殿はどちらの味方なのだっ!?」
「それは勿論、姫様の味方に決まっているじゃない。そう言うレベックさんは、一体誰の味方なのかしら? ねぇ?」
「そ、それは……くっ、わたしは姫様の味方だっ!! しかし、ヴァーグ殿に関しては認めないっ!!」
「あらあら、姫様が悲しむわよ~?」
「ぐっ……そ、それでも、認められんものは認められんのだっ!!」
「う~ん……娘をお嫁に出したくないお父さんの気持ちかしら?」
「そうではないっ!?」
ま、おっさんは隠れシスコンな王太子……いや、そろそろ国王? の手先だもんなー? 隠れシスコンなおにーさんが駄目っつったら、そりゃそれに従うっしょ。
な~んて、姫さんと俺が結ばれることは無い……と、そう思っていた時期がありました。
結果は……火竜に認められし魔導士として、『火竜の友』と『賢者』の称号を与えられ、いつの間にか外堀が埋められて行って、辺境火山の領主となった姫さんと結婚してしまうことになるなんて、全く思ってもみなかったぜ。
つか、あだ名が『伝説のクソ魔導士』ってどうなん? 旧校舎壊したのは事実だけど俺、めっちゃディスられてね? 罵倒じゃね?
ちなみに、隠れシスコンの国王とは微妙に仲が悪い。稀に顔合わせる度、ねちねち俺とおっさんにイヤミ言って来んだよなー? やめてほしいぜ。
そして、レベックのおっさんはリザードウーマンのリズリーさんに捕まって結婚。つか、リズリーさん。せっせと食料差し入れておっさんに持ってくと思ったら、美味しいごはんじゃなくて実はおっさん狙いだったのか……おっさんに公開熱烈プロポーズするまで知らなかったぜ。
で、オーガキングが熱烈にアリシアさんを口説いていたりする。戦闘民族だけあって、アリシアさんのあの人外の強さに惚れたんだそうだ。無論、アリシアさんは「わたし、神の花嫁なもので」と、つれなく袖にし続けているが、オーガキングも諦めていない。こっちはこっちでどうなることやら?
フラン様もようやく卵が孵って、ちっこくてやんちゃな火竜の面倒を見ている。
毎日ド突き合いも続いて、ギャーギャーピーピー泣き喚く声や、轟音と共にあちこち地面はボッコボッコになって地形は変わり捲っているが、概ね平和な日々を過ごしている。
姫さん……エルレイシアが幸せなようで、本当によかったぜ。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
ヴァーグ……ナチュラルに大規模殲滅魔術を考え付いちゃうハイスペック危険人物。「いやいや、俺が使いたいのはターゲットを絞った必殺だってば。使い勝手悪いから、これボツだわー」とか思いつつ、修正を加えてなんだかんだ使えるようにしてたりする。世に出さない方がいい魔術が頭の中に沢山ある。記憶は無いけど多分、何回か前の前世で魔王を経験してたりするかも。
エルレイシア、姫さん……虐げられヒロイン→ヒャッハー! する戦闘狂に変貌。闇堕ち寸前勇者。闇堕ちしてたら多分、バーサクして王城内の人間全員殺した後に王都内の人間全部殺して回ってたかも。ヴァーグ達との出逢いで色々はっちゃけて、闇堕ちが回避された感じ。
アリシアさん……慈愛溢れる笑顔の美女かと思いきや、夜な夜な犯罪者共へ私刑の誅罰食らわしてた、ちょーやべぇ拳系戦闘狂シスター。
レベック、おっさん……姫さんのお守り役兼、保護者代わり。実は第一王子である王太子の手先。料理が趣味。
火竜、フラン様……オーガやリザードマン達に崇められている、姐御肌系のドラゴン。気さくで、運動不足解消にアリシアさんや姫さんへ「あたしと軽くバトらない?」と誘うお茶目さん。
第一王子……姫さんの長兄。王太子教育が忙しく、末妹が虐げられていることに気付かなかった。気付いて止めに入ったときには、エルレイシアが気絶していたり、意識混濁状態に陥っていたりして、あまり認識されていない。間が悪い隠れシスコン。自分とエルレイシア以外の王族を全員幽閉にした後に即位して、めっちゃ忙しく働いた。




