第5話 修行と学園長
えーと…どうぞ
神域での修業は放課後に行っている。昼は普通に学園に通っているが、皆疲れが出始めたのか、一週間もしないうちに居眠りや遅刻、欠席することがしばしば。教師陣には学園長から説明(いくつかの話は省略)がされているため、お小言は免れている。生徒会役員選挙の方については、特に何をするでもなく時間が経過するのを待っているところだ。
皆の修行について少し説明しよう。
エレノアさんとティアさんはフェンリルとバハムート相手に実戦形式の修行中。
マリア様、先輩、レオニカさんは、イリスとナズチに力の使い方や魔術を教わっている。
詳しく見ていこう。まずティアさん。
魔術師であるティアさんをイリスにつけなかったのは理由がある。
ティアさんの持っている杖は、イリスより高位の神霊がその力を以て作った杖だ。そのため、イリスではティアさんに教えられることが少なすぎた。それならば、実戦を通して効率の良いいからの運用方法を学び、少しでも神の力に触れさせようとした。そんなことをせずとも、いつかは自力で辿り着けたかもしれないが。ティアさんは今、ディザスターの発動時間の短縮化と威力の強化を同時に目指している。発動時間の短縮は詠唱の省略。威力の強化は、省略詠唱を行っても本来の威力、いやそれ以上の威力で撃てるように。
エレノアさんの方は、新しい戦闘スタイルの研究に入っている。
彼女は四本の剣を入れ替えながら戦う、私に近いスタイルだったが、接戦の中で瞬時に切り替えられるほどの扱いは出来なかった。悩んだ末、残った二本を宿っている精霊たちの意思で動くようにした。エレノアが遠隔操作することも可能ではあるが、まだそこまでは至っていない。一度、新スタイルのエレノアさんと模擬戦をしたが、なかなかに厄介だった。一対一の状況で、正面の相手以外にも注意を向けなければいけない。これは思った以上に集中力を奪う。フウちゃんがいなかったら、勝てなかったかもしれない。
戦い方を詳しく説明すると、エレノア自身は二本の剣を振るい、残りの二本はこちらの死角から属性を纏いながら飛来する。剣の属性によって飛来するときの速度も威力も異なってくる。さらには戦闘中に剣の切り替えも行うため、つかんだはずの感覚を狂わされる。一騎打ちの場で持久戦に持ち込まれれば、エレノア以外にも意識を向けなければならないから先に限界が来るのは相手だろう。今はまだ遠隔操作ができないことから、そこまでのことはできないが、いずれそれが可能になれば…
マリア様はイリスから神の魔術を教わっている。神の魔術、具体的な例を挙げるなら、ディザスターがある。あれにはいくつかの種類が存在している。ティアさんが使うドラゴディザスター、メテオバレットをそのままに放つメテオディザスター、装填する属性によって変わるディザスター、自身が受けたダメージをそのままに返すカウンターディザスター、威力を重視しないならほかにも多様な使い方のできるがディザスターだ。それより上も存在するが、ティアさんもまだそこが限界。マリア様もそれ以上を習得するには実力が足りない。
今マリア様が教わっているのは、イリスが編み出したディザスター戦法。
ディザスターは技を放つのに、メテオバレットという前の技を使う必要がある。このバレットは使う技の威力によって消費する数が変わる。ディザスター系統なら一発で行える。威力を重視しなければ、一発で複数の技を放てる。ディザスター戦法は、それを利用したもので、威力を重視せず手数で攻める。パーティー戦闘では、相手の攻撃のタイミングに的確に打ち込むことで、相手の攻撃を妨害することができる。マリア様オリジナルの術式も考えているそうなので、楽しみだ。
レオニカさんとシルヴェルト先輩は精精霊の力をもっと使いこなせるように修行中だ。
ここでちょっとした知識だが、シルヴェルト先輩の武器に宿るオーディンは、神霊であり英霊でもある。この世界ではいくつかの神や英霊が混じって語り継がれている。オーディンの場合は、神であるオーディンと騎士王アーサーが混じっている。ただし、この混ざりは世界共通ではなく、一部の地域での話ではある。何故その二つが混じったのか分からないが、グングニルとロンゴミニアドが同一視されたのかもしれない。故にシルヴェルト先輩の武器は槍だけではない。が、その事実を知らなかったために、先輩は槍しか使ってこなかった。シルヴェルト先輩はその力を引き出すための修行中。
レオニカさんは…能力は使いどころを選べばかなり有用なのだが、一日一回という制約があるために難しい。今やっているのはその制約を取り払うために精霊の力を自身に馴染ませている。属性変換の対象は実体を持っていなければ発動できない。力の扱いに慣れれば実体がなくても発動できるだろう。
レオニカさんの力とマリア様の研究中の戦闘スタイルって相性がいいかも。あの二人いい組み合わせだよね。じゃなくて!各々がやれることを全力で取り組んでいる。
え?私?私もやってるよ?
私がやっているのは新しい型の開発。今までは抜刀術のみで戦ってきたけど、今回さらにこれからのことを考えれば抜刀術以外も欲しい。抜刀術は各刀に存在しているが、今回開発するのはどの刀でも使える型。更に、新しい型の習得と同時にもう一つやっていることがある。
外なる神を倒す力は既に持っている。倒すための準備も進んでいる。あと必要なのは、私がおこなう刀の舞。刀の精霊神となったフウちゃんでのみ発動する。
『神・精霊刀楓舞ノ型 演舞 刀爛』 概念を斬り裂く力、舞を奉納しながら高め幾重にも斬りつける。対神特攻演舞の習得。神であろうとも、存在概念を何度も斬られれば消滅させられる。習得は出来たものの、試す相手はいないし、過去存在しなかった演舞のため完成形が分からない。わからないが、この演舞を試すと、バハムート達が私から距離を取るところを見ると、現状でも効果はあるのだろう。
そんなこんなで、皆の修行は順調だ。学園長がどうしているのか気になるところだが、そっちまで気にしてるほどの余裕がない。学園長、ごめんなさい。
封印が自然に解けるのを待ってもいいが、いつ解けるかわからない状況で、常に神経を研ぎ澄ませるのは面倒だ。だから、こっちから封印を解き、勝負を仕掛ける。万全の準備を整えて、必ず倒す!
楓達が修行中の学園長
「皆集まってくれてありがとう。今回集まってもらったのは、国王の入れ替えと近いうちに起こる戦闘についての話をするためじゃ」
「それは、手紙で読んで知っているが、どういうことだ?意味が分からないぞ」
「特に国王の入れ替えな。どうするつもりなんだ?というかなんで入れ替えをするんだ?」
ここに集まったものたちは皆、儂の知人じゃ。若いのもいるが、そこはホレ、儂の偉大さ故。
手紙には今日の日時と話の大まかな内容のみ綴った。必要以上の情報はまだ与えていない。但し、過去に学園で働いていた者や通っていた者には少しだけ詳しく書いてる。故にこの質問が飛んでくる。
「その疑問はもっともじゃな。まずは王の入れ替えについてじゃ。
先王が急病で倒れた。この知らせを受けたとき、不思議ではあったが疑わなかった。主らもそうであろう?じゃが、先王は病死ではなかったんじゃ」
「病死じゃないなら何なんだ?」
「寿命による衰弱死か?」
「それはないだろう。なくなる直前まで政務で忙しくしてた人だぞ?」
「つまり…毒殺か暗殺か」
「そうじゃな、毒を用いた暗殺。現国王のたくらみじゃ」
「待て!そうだとして、何故それを知っている。知っていたならもっと早くに何かできただろう!?」
「その通りじゃな。じゃが、このことを知ったのは本当に最近なのじゃ」
「最近?どうやってしったんだ?」
「学園に編入生が来たのは知っているじゃろう?」
「あぁ」
その場の全員が頷く
「その子がな、証拠を持ってきたのじゃ。なんでも、過去にお家騒動で命を狙われたらしく、暗殺集団に狙われたとか。で、その集団を撃退、アジトも突き止め壊滅。そこで気になる文書を見つけ保管。それが、現国王が先王を暗殺するよう依頼した文書だったわけじゃ」
……
「信じられねぇ」
「その証拠は今あるのか?」
そういわれると思って、楓さんに頼んで複製をもらてきた。
「これは複製だが、本物じゃ。現国王の印と全く同じものじゃ」
複製を順番に見せていき、一周する。全員が驚きを隠せないようだが、突然の死の真相を知って、どこかすっきりとしているようだった。
「王のことは分かった。できる限り協力しよう」
その言葉の後に全員が頷き了承してくれた。
「ありがとう。では、次の話じゃ」
今回の本題はむしろこっち。そのついでに王の入れ替えを行うだけだ。
「この王都、正確には学園の地下にはとある神が封印されている」
「は?」
「最後まで聞け」
「すまん」
「続けるぞ。その神は、『最果て』を通ってこの世界に来たそうじゃ。過去の冒険者や騎士が、神の助力を受けて封印するのがやっとなほど強力。そんなものがこの土地には眠っている。その封印がもうじき解ける。その前にこちらから仕掛けることにしたのじゃ。で、その戦闘の余波が王都に及ぶかもしれんから、復興資源や資金、食料などの備蓄を頼みたい。神との戦いには、六人が参加する。その中にマリア様もおるから、それを利用してマリア様の株を上げ、国王を堕とす。それが、儂ら七人の考えた計画じゃ」
またしても沈黙。そんな馬鹿なと否定したいのだろう。しかし、この話にも楓さんが関わっているのは分かっている。だから否定できず、此方が嘘ですよ、というまで黙っているのだ。頭では本当だとわかっていても、人はいざとなったときに否定したくなる。
「まぎれもない真実じゃ」
追い打ちをかけるようだが、今ここにいる者には、ちゃんと認識してほしかった。ここにいる者の協力が必要だからだ。
「お前は昔から嘘をつくのが苦手だった。そのお前が嘘を平気で言えるようには見えん。だから信じる。信じているから聞くぞ。ここにいる者にその手助けを頼むのは、その戦い勝てるんだな?」
かつて、一緒に冒険をしたパーティーメンバーからの言葉。その返事に儂は
「当然だ。なんといっても学園最強の六人が集まるんだ。勝てぬことなどないわ!」
少し大げさに、でも確かな自信と信頼に満ちた声で返事をした。
「そうか。なら、俺は乗ろう。面白そうじゃないか。冒険者だったころの血が疼く」
「断ることなんてできないですね」
「今までの恩もあるしな」
「ここでその恩に報いましょう」
「学園長!ここにいる者の命、学園最強の六人に託します。どうか勝利を。とお伝えください」
「しかと受け取った」
その後、だれが何を集めて蓄えるかの相談をし、素早く分担、すぐさま行動に移すため、各々の店に戻っていった
「儂にできるのはこの程度か」
夜空を見上げながらつぶやいた声は誰の耳にも届かず、学園長の歩く足音にかき消された。
また遅くなりました。書き溜めたり、先の話を少し作ったりしてました。数日中に二章は完結させます!
ではまた次回!