ニッコリおくちにチョコレート
ケーキ屋さんは、家を出て大通りの路地に入ってすぐのところにあった。
「いらっしゃいませ〜。」
お店に入ると若い店員さんが元気に挨拶をしてくれた。
ケーキ屋さんに入るのなんて小学生以来かもしれない。小さな頃は、毎年お母さんと一緒にクリスマスケーキを買いに出かけていた。あの頃が少し懐かしい。
「どれにしましょうか? 何個買いますか? 妹さんとユカリちゃんとたけしさんとお父さんとお母さん。5つで大丈夫でしょうか? 」
僕の肩に乗ってキラキラしたオーラを放ち、フェアリー感丸出しでフワフワしながらケーキを眺めているかおるちゃん。
女の子って甘いものが好きなんだね。お母さんもいつも僕に隠れてどら焼き頬張ってるもん。かおるちゃんは何のケーキが好きなのかな?
「えっと……かおるちゃんは、どのケーキがいいですか?」
僕は勇気を出して聞いてみた。
すると、かおるちゃんがさらに目をキラキラさせてこっちを見てきた。
「たけしさん! よくぞ聞いてくださいました!! ありがとうございます。私はどのケーキも大好きでござる。」
ござる?
えっ、ござる?(笑)
僕はニヤけてしまった。店員さんがこっちを見て怪しい顔をしていた。
で、どれを買ったらいいのだろう。
すると、どこからともなく博士のようなメガネと帽子、そして、杖のような棒が飛んできて、かおるちゃんが装着した。
「説明いたしましょう。まず、種類についてです。ショートケーキにチョコレートケーキ、チーズケーキにロールケーキ、フルーツケーキ、パイ生地のケーキやミルフィーユ、ミルクレープ、シュークリーム、タルトやプリン、モンブランにマカロンなど様々なものがあります。あっ、抹茶を使ったものなどもありますね。この中で、どのケーキを買うべきなのか? わかりますか!? 」
かおるちゃんは、ケーキの種類をツラツラと語っているだけなのに熱気と圧がすごい。僕は圧倒されて、眉間にシワを寄せながら首を横に振った。
「ここで、私としたことが一つ失敗したことが。ユカリちゃんに好きなケーキの種類を聞いてくるのを忘れていました。本来ならば、好みを事前に調査するべきでありました。しかしながら、本日はそのような時間がありませんでしたので、限られた情報の中で全力を尽くすこととしましょう。」
僕は目が点になり、そして、かおるちゃんの力説に少しだけ飽きてきた。早く適当に買って帰りたい。
「では、本題に入りましょう。まず、スタンダードなものから選びましょう。定番のショートケーキ、そして、チョコレート系とチーズ系は外せないでしょう。あとは、季節限定などの特別感のあるものをセレクト致しましょう。」
ほうほうと僕は頷いた。面倒なので早く選んでくれと思っていた。なので、すぐにそのケーキを頼んだ。ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、あとは店員さんのオススメを二つ買った。オススメの季節系のタルトとロールケーキがとてもキラキラしていて可愛かった。
「ありがとうございました〜。」
帰る時も若い店員さんは元気良く挨拶をしてくれた。
家に帰り、すぐに買ってきたケーキを妹の部屋に持って行き、どのケーキが良いか聞いた。
「ありがとうございます〜。私、チーズケーキ、大好きなんです〜。あっ、でもこのフルーツがのっているのも可愛いですね〜。どれにしよう〜。迷う〜。」
そう言って妹のお友達のユカリちゃんは、嬉しそうに選んでいた。
その後僕は、お母さんに入れてもらった紅茶を妹たちのところに運んだ。
「お兄ちゃんありがとう〜。」
と言って、妹たちは楽しそうにケーキを食べていた。
一階に戻ると、お母さんが言った。
「お父さんは、きっとショートケーキでしょう〜。私は、チーズケーキ。たけしはチョコレートケーキよね? 」
そう、僕はチョコレートケーキが大好きだ。
僕が大きく頷くと、ポケットの中ではかおるちゃんも大きく頷いた。
ケーキを食べ終え、部屋に戻った。
あっ、もちろんかおるちゃんも僕のチョコレートケーキをつまみ食いしていた。
「たけしさんもチョコレートがお好きなのですね。私もです〜。」
かおるちゃんはチョコレートケーキを食べて、口の周りにチョコレートをたくさんつけてニッコリ笑った。とてもご機嫌だった。女の子は甘いものを食べると幸せになってご機嫌になるのか。かおるちゃんの笑顔を見て、僕もニッコリ笑った。
すると突然、
「あっ、ノート! 」
かおるちゃんが、あっ!忘れてた! というような顔をした。
「はいはい。書けばいいんでしょ。書けば。」
最近は、毎日ノートに日記のようにその日あったことを書くことが習慣化してきた。と言うのは、かおるちゃんが毎日毎晩うるさいからだ。忘れるととてもうるさい。なので適当にささっと書けば、1番面倒臭くないのだ。今日もささっと書いた。
ケーキの種類も覚えた。女の子にケーキの好みを事前に聞いておくことも。あと、かおるちゃんがチョコレートが好きなことも。