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秘密10
お袋は愛していた竹内医師を傷つけ、自分を家に閉じ込めた親父を憎んでいた。だから「いっそ死んでしまおうか」という親父の言葉に自分から一家心中を提案したんだ。決して親父の提案ではなかたのだ。お袋の目的は一家心中ではなかった。親父の命を絶つこと、それが目的だったのさ。だから本物の睡眠薬は親父だけに飲ませ、眠らせた後、お袋は親父の手首を切って、親父を殺害したのさ。そして、明朝、目を覚ましたお袋と俺だけが助かったんだ。誰もお袋の画策した一家心中の経緯を疑う人はいなかったのさ。これはお袋と俺だけの秘密ごと。
でも、この秘密を知っているのはもう一人いる。君だけさ。
「俺は竹内さんの家に養子に行くよ。そしたら元のように大学に通えるようになるさ。君の好きだった講義を聴いてきて、ここに伝えに来よう。それまで、また待っていてくれ。」
直人はうつむいていた顔を上げて、僕の目を見て言った。
僕の命はもう長くない。直人の話の結末を聞き終わっても、その後も直人の話しを聞き続けていたいと思っていた。




