表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!  作者: 宇宙のモナカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/59

第42話 強襲のオーバーチュア

それから数日は静かなものだった。

ハードスケジュールは相変わらずだが、ライブツアーの隙間を縫って精力的に活動するノアの横顔は、以前よりも活力が戻ったように見えた。


そして、今日、いよいよライブツアーの最終日を迎えることになった。

突き抜けるような青空の下、不穏な静寂を纏った車列が、湾岸エリアの高速道路を疾走して会場に向かっていた。


「……今日を乗り切れば、ツアーも終わりね」


広いリムジンの席で、ノアが窓の外を見つめながら独りごちる。

その横顔は、いつかの夜に見せた弱々しい少女のものではなく、いつもの「歌姫」としての覚悟を決めた表情だった。

だが、膝の上に置かれた手は微かに震えている。

護衛のためと強弁してリムジンに同乗していたビャッコは、そんなノアに視線を向けた。


「大丈夫だ。私たちがついている」


ビャッコが短く声を掛けると、ノアは少し驚いたように彼女を見て、小さく頷いた。


「……ふん。頼りにしてるわよ、ボディガードさん」


減らず口を叩けるなら大丈夫だろう。

ビャッコは視線を前方に戻した。


今回の移送は厳戒態勢だ。

先導車と後続車には社長が雇った私兵の車両が数台、さらにネオン達が乗った装甲車がそれに続き、長い列を作っている。

その装甲車にはアイリスも乗っているはずだ。本当はこっちに同乗したいと懇願していたが、ノアが断固として拒否したため、あちらに押し込んだ形だ。

社長自身も、装甲仕様のリムジンで同行している。

脅迫状の内容が本当なら、何かあるとすれば今日が期限だ。

ピリピリとした空気が無線越しにも伝わってくる。


(……アレス。なんか感じる?)

【私はAIなので”感じる”という機能はありません。なお、マスターの視覚情報からは特段の異常は見当たりません】

(ならいいんだけど)


この一連の事件が社長の自作自演だとすれば、また陰湿な嫌がらせが起こる程度で終わるかもしれない。

そう思いながらも、ビャッコはどこか落ち着かなさを感じていた。

彼女の直感が、チリチリと警鐘を鳴らしていたのだ。

まだ期間は短いが、そこそこの修羅場を潜ってきた小隊長の勘というべきものが。


『――アルファ1より各車。第3ポイントを通過。これよりトンネルに入る』


インカムからゴルドの私兵からの報告が入る。

前方に見える巨大な海底トンネルの入り口。

そこに入った瞬間、世界から光が遮断され、オレンジ色の照明だけが流れる空間になった。


その時だった。


ドォォォォォォォォォン!!


腹に響くような爆音と共に、先頭を走っていた護衛車両が宙を舞った。


「きゃあぁッ!?」

「伏せろッ!!」


ビャッコは咄嗟にノアの頭を抱え込み、座席の下へと押し込んだ。

急ブレーキのGで体が前のめりになる。

フロントガラスの向こうでは、横転した先導車が激しく炎上し、道を塞いでいた。


『て、敵襲! 敵襲! 対戦車ミサイルです!』

『バカな! ここは封鎖エリアだぞ! どこから撃ってきた!?』


インカムから悲鳴に近い報告が飛び交う。

ビャッコは義眼の倍率を上げ、硝煙の向こう側を凝視した。

トンネルの非常駐車帯から、黒い戦闘服に身を包んだ集団が飛び出してくるのが見えた。

手にはアサルトライフル、肩にはロケットランチャー。

動きに無駄がない。完全に統率された動きだ。


(まさか本当にテロリストが!?)


これまでとは違うプロの動きに、ビャッコの脳内で激しくアラートが鳴り響く。


「降りるぞ! 車内にいたら棺桶になる!」


ビャッコはドアを蹴り開け、ノアの手を引いて車外へと飛び出した。

その直後、彼女たちが乗っていたリムジンの後方の車両に、次弾のロケット弾が突き刺さった。


ガシャアァァァン!


爆風が頬を撫でる。

後方を見ると、社長の私兵が応戦しているようだが、敵の火力が桁違いだ。

市街地で、これほどの重火器を持ち出すなど正気の沙汰ではない。


ビャッコは自分のインカムに手を当てて叫んだ。


「ネオン! そっちは無事!?」

『――ビャッコ!? こっちはみんな無事だけど、目の前で車両が炎上していてそっちと分断された!』

「了解! 私はノアを連れてそっちに向かうから車両の除去をお願い!」


そう言って通信を切ると、ノアの手を引いて走り出す。


「な、なんなのよこれ!? どうなってるの!?」

「離れるな! 私の後ろに隠れてて!」


ノアをコンクリートの支柱の影に押し込むと、ビャッコはセラフィム()を抜いて構えた。


【モード『インパクト・キャノン』スタンバイ。照準、セット】

「いけっ!!」


透明な衝撃波が炎の中を切り裂き、走ってきたテロリスト2人を壁に叩きつける。

ナノスキンアーマーと日々の訓練のお陰でだいぶマシになってきたとはいえ、やはりこのモードは少し堪えるものがある。

だが、敵の数は多い。ざっと見て20人以上。


その時、装甲車から、慌てふためいた様子でゴルド社長が転がり出てきた。


「な、何だこれは!? 聞いていないぞ! どういうことだ!」


社長は顔を真っ赤にして、護衛の兵士たちに怒鳴り散らしている。


「おい! 何をしている! 私の『商品』を守れ! 傷一つつけたらタダじゃおかんぞ!」

「しゃ、社長! 危険です! 車内に戻ってください!」


部下が必死に止めるが、社長はパニック状態で聞き入れない。

その様子を見る限り、彼にとってもこの襲撃は想定外の事態らしい。


(とはいえ、ノアを商品扱いしているのは相変わらずか)


ビャッコは心の中で舌打ちをしつつ、ノアを庇いながら周囲を警戒した。

敵の狙いは明らかにノアだ。

だが、これだけの重火器と人員を動員できる組織など、そうそういないはずだ。


(囲まれる前に抜け出さないと――)


「――残念だが、開演時間は早まったぜ」


だがしかし、トンネル内に、不快なほど歪んだ電子音声が響き渡った。

それは拡声器を使ったものではなく、もっと直接的に、脳を揺さぶるような響きだった。


炎上する車両の残骸の上に、一人の男が立っていた。

黒いスーツの上に黒いコートを羽織り、顔の半分を覆うような異様なマスク。

そして首元には、肉に食い込むような首輪型デバイス。

その男は、マスクの奥で獰猛な獣の眼を光らせた。


「おい、そこの旦那。随分と威勢がいいな」


その顔を見た社長は一瞬、驚きと安堵がない交ぜになったような表情をした後、こちらの視線に気づいて慌てたように声を張り上げる。


「き、貴様は何者だ! どこの組織だ! 金か!? 金なら払うぞ!」


黒いコートの男はそれを鼻で笑い飛ばした。


「金? ああ、そいつはいいな。だが俺たちが欲しいのは、そこの『歌姫』だけだ」


男の視線が、ビャッコの背後にいるノアを射抜く。


「手間が省けたな。まさか向こうから出てきてくれるとは」

「……ッ!」


ビャッコは反射的にノアの前に立ち塞がった。

こいつがリーダーだ。

全身から発せられる威圧感が、他のテロリストどもとは次元が違う。

その黒スーツの男はビャッコの姿を認めると、その目がニヤリと凶悪な笑顔を作る。


「どけよ、治安維持部隊のワンちゃん。その歌姫は俺たちの獲物だ」


(俺たちのことまで知っているか)


そう思いながらも、少しでも時間を稼ぐために、ビャッコは銃を油断なく構えながら問いかけた。


「お前らは何者だ。まさか本当に反企業組織『リベリオン』なのか?」

「ん? ははは、そんな設定もあったなぁ!」


その男は顔に手を当ててひとしきり笑うと、片手をあげる。

その動作に合わせて、周囲に駆け寄ってきた黒い戦闘服の集団が銃を構える。

無数の銃口が自分とノアに向けられ、肌を刺すような殺気にビャッコは全身が粟立つのを感じた。


「おい、歌姫には当てるなよ。そこのヒューマロットだけ狙え。……おい、ワンちゃん。まさか護衛対象を盾にするようなダサい真似はしねえよな?」

「……ノア、車の陰に隠れて。すぐに終わらせる」

「ビャッコ!?」

「いいねぇいいねぇ! 勇敢だねぇ!」


ノアは無傷で確保する。

癪だが、その一点においてのみ、ビャッコと奴らの利害は一致している。

だったら、ノアを盾にする選択肢はない。彼女を隠し、ビャッコが単独で火力を引き受ける。

それが自殺行為に近い無謀な戦術だとしても、ボディガードとしては唯一の正解だ。


ビャッコは慌てるノアを装甲リムジンのドア裏へと押しやり、彼女が隠れたのを確認すると同時にセラフィムを構えた。

それを見て、ニヤリと笑った黒スーツの男が手を振り下ろす。


「――やれ」


黒い戦闘服の集団の銃が激しく鳴り響き、無慈悲な銃弾の嵐がたった一人の少女を飲み込むべく殺到した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ