DRAGON 2
「おい、籘達の試合始まるぞ」
奏多の言葉に、秋は慌ててコートに向き直る。dragonの3人を欠いても、籘達は圧倒的な強さを見せた。籘が中学生とは思えない跳躍力で舞い上がると、繰り出すそのスパイクに対戦相手は動けないままボールを見送る。卓人はどんなボールにも素早く反応し、初心者3人のチームメイトの穴を埋めた。そして本来センターの義和が、慣れないセッターの為にツーセッターとして器用に動き回る。荒削りながらに中々面白いチームにしたのだと、秋は春日の采配を流石だと頬を緩ませた。この時、秋は籘達の試合に夢中で、周りの事に気を回す余裕がなかったが、奏多は秋の体を包みながらも、秋を遠巻きに見ている男達をジロリと睨み、自分の存在を知らしめていた。
午前中の試合が終わると、昼休憩に入る。
「んじゃ、俺帰るわ。明日の決勝戦頑張れって籘に伝えといて」
「え?最後まで見て行かないの?」
秋が不思議そうに尋ねると、奏多がクックと笑う。
「今日は籘の試合っていうよりも、丈瑠に頼まれてマーキングに来ただけだから」
奏多の言葉の意味を理解した美代と斗貴子は腹を抱えて笑う。
「え?丈瑠さん?マーキングって何?」
奏多は答えないまま、背中を向けて手を振りながら帰って行ってた。
「秋、お昼行こう?さっちゃん達も待ってるし。そこで教えてあげる、マーキングの意味」
笑いすぎて涙を拭きながら美代が言ったので、秋は疑問符だけが残る頭のまま頷いた。
「こっち、こっち!」
会場の外の木陰の一角で、久し振りにママさんズが全員揃う。子供達はその隣で別のシートを広げながら既に談笑していた。美代が奏多の行動と、その言葉を他の2人に伝えると、幸子も琴美も爆笑する。
「え~、だから何~?」
「月島効果が切れて、変な男から声掛けられてたでしょ?そういうのが近付いてこない様に、奏多君が睨みを効かせたって訳。本当は自分がやりたかっただろうに、来れないもんだから仕方なく奏多君に頼んだのねぇ」
美代が噛み砕いて教えてくれると、秋は離れていても自分の事を考えてくれていた丈瑠の気持ちに顔が熱くなる。
「相変わらず、愛されてるわねぇ」
琴美がそう言って、皆がニヤニヤと頷くと、秋は赤い顔を更に赤くさせた。
「攻撃はいいんだよ。泉と康太が揃ってるからな。問題はレシーブ!卓に任せきりな部分があるって分かったわ」
「こっちは、やっぱりコンビが使えない所だな。籘任せになっちまう」
子供達がお弁当を食べながら、白熱してバレー論議をしているのが、秋達の耳に入ってくると、ママさんズは揃ってその会話を盗み聞いた。
「こうなると、丈瑠さんがポジションを入れ替えてやった試合が生きてくると思うんだよ」
「だな、俺もそう思ってた。一つのポジションを極めるのもいいけど、色んな所が出来るのは強みになると思う」
「皆、ちょっと…」
余りにも静かになったママさんズを不信に思った義和が皆の話を止めると、子供達が一斉に自分達に視線を送ったので、ママさんズは慌てて話し始める。
「ぶ…部活始まったら忙しくなったよね」
「うん、籘達は月曜以外休みないけど、そっちもそう?」
「同じ!春日先生とうちの顧問の横田先生、元チームメイトなんだって」
「部活休みの日は二人で飲みに行ったりしてるらしいよ」
琴美と幸子の話に、秋達は驚きながら ‘へぇ!’ と相槌を打つ。
「夏に新人戦もあるけど、流石にそれは1年生には出る幕ないし、私達は応援だけだから少しは楽ね」
この時の斗貴子の言葉に、ママさんズも揃って頷いたが、その予想は大きく裏切られ、ママさんズは未だかつてない悩みを抱える事になるのだった。




