episode 36
私たちの時間は穏やかに流れた。
結婚に不安を感じていた頃の理由すら思い出せなくなりそうなほど。
今日はクリスマスイブ。
街はイルミネーションに溢れ
クリスマスソングが流れ
でも、私たちは家で過ごすことを決めた
朝から少しずつ料理を作り
部屋は先月から飾っている。
圭司も約束通り、もうあと少しで家に付くよと
メールが入って来ていたので、
料理の温めに忙しくなった頃、インターフォンが鳴った。
モニターには圭司の姿があった。
鍵で玄関を開けて入る前に必ず
インターフォンを鳴らすのだ。
目的があっての事なんだけれど。
私は慌ててコンロの火を止めた。
「パパだ!!」「わたしがさき!!」
リビングで遊んでいた、双子の娘達、
藍と翠が競うように玄関へ走った。
「藍、翠。走らないのよ。」
慌てて追いかけると、圭司はすでに玄関にひざまづいて
両手に娘達を抱きしめていた。
「ただいま、二人とも。」
そう言ってぎゅっと抱きしめてから私の方を見た。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
遅くて子供たちが寝てしまっている時もあるけれど
この光景を見ると、いつも胸がキュンとする。
娘達はこぞって話をしようとするが
「さあ、パパは靴を脱ぎたいんだ、お部屋に行こうか?
ちょっと離れるよ。」
そう言って優しく娘達を腕から離した。
立ち上がり靴を脱ぐと、右手に藍、左手に翠の手を取り
引っ張られる様にリビングへ歩き出した。
玄関に置き去りのカバンを拾って、後を追った。
部屋にはクリスマスツリー。
4人で囲むちょっとがんばった食事。
最後のケーキは買って来たものだったけれど
みんなで楽しくケーキまで食べた。
娘達を圭司に任せて、後片付けをしていた。
リビングから楽しそうな声が聞こえる。
「明日はおじいちゃんの家に行くよ。」
「ほんとう?」「ほんとう?」
「本当だよ。」
「やったー」「やったー」
「じゃ早くお風呂に入ってベッドに入ろうか?
今夜はサンタさんも来るからね。」
「はーい。」「はーい。」
双子の娘達は見た目もそっくり、そして仲良し。
家の中に一番気の会う友達がいるせいか
よく二人で遊んでくれて、最近はかなり
育児が楽になってきた。
パパが大好きな娘達は甘え上手で
パパの心をがっちりつかんでいて
正直助かる部分も多いかもね。
藍と翠がニコニコ顔でキッチンへやってきた
「ママ、パパとお風呂はいる。」
「はいはい、じゃ準備しようね。」
そう答えると二人はリビングに戻った。
本当、パパっ子で助かるわ。
一人そう笑みを浮かべていた。
娘達を寝かしつけてリビングに2人で戻った。
「何か飲む?」
そう言うと圭司は、
「温かいものがいいなあ。」
そう言って目配せした。
それで理解できた。日本酒を熱燗で。
「はいはい、了解ですよ。」
徳利とおちょこを一つづつ用意して
圭司の前に並べると、圭司は私を見上げて
「奈央は一緒に飲まないのか?」
そう聞いてきた。
これはチャンスかも。そう思いながら
「体調が良くなくて。」
そう答えると、
「どうした?風邪か?毎日大変だし疲れてるんじゃないのか?」
そう言いながら私の手を取って、隣に座らせた。
「ねぇ圭司。次は男の子がいいわね。」
そう言ってウインクすると、圭司は呆気にとられていた。
「妊娠したのか?」
そう言う問いに、黙ってうなずいた。
まだ驚いた表情の圭司にそっと問いかけた。
「3人のパパになるのって気分はどう?」
そう言うと、圭司は微笑みながら私の頬にキスをした。
「悪くないね。」
そう言って肩を抱き寄せて来た。
また家族が増える。
可愛い娘たちにまたもう一人。
しばらく黙って抱かれていたら
圭司は急に手を離して
私の顔を真剣に見た
「3人だよな!4人じゃなくて!!」
「たぶんね」
2人で噴出して笑った。
可愛いけれど結構大変だもんね。
「頑張ろうな、奈央。」
仕事が忙しいはずなのに、圭司は協力を惜しまない
本当に遠回りしたけれど
あなたしかいないと思い続けて良かった。
クリスマスツリーの下のプレゼント
来年はもう一つ。
そう思うだけで、涙がこぼれるほど幸せ。
ツリーを二人で見つめていた。
いつまでもずっと、見つめていた。